〈今日のニュースです。アーキバスグループの医療部門がグループから独立を宣言しました。この決断は、コーラル獲得を目的とした事業が関係されており――〉
〈惑星封鎖機構本部前に、推定百数名によるデモ隊が勃発。ルビコン星系ルビコンⅢへの再進軍を計画していた惑星封鎖機構に対し、抗議を示すものとされ――〉
手に持つタブレット端末から情報を獲得する。コーラルを巡る企業の進軍は失敗。それは、世間を賑わせている。とはいえ、世間にとって、コーラルは企業が熱中する程の関心はない。この半世紀、惑星封鎖機構の報告を聞いた宇宙政府が教育機関にコーラルは危険なものだと取り入れた結果だ。今を生きる人々にとって、コーラルは手を出してはならないと教育されたもの。企業の争いは、勝手にやっている関係ない事業だと認識されている。つまりは、普通に生きている人々は、遠い星系で宇宙の存亡が掛かった戦いが起きていたことを、知らないのだ。
(きっと、私たちが知らないだけで、今もどこかでは――)
「アンドロイドの嬢さん、そろそろ例の惑星が見えてきたぞ」
扉が開けば、そこには輸送船の操舵手の姿。タブレット端末を鞄へと仕舞い、無重力の通路を渡る。
「全く、本当に奇特な嬢さんだ。なんで、こんな惑星に用があるんだか」
「その惑星に滞在している人物を探すためです。これで、目的への返答は三回目。これまでの航路で通算十――」
「悪かった、悪かった。こんな仕事してるんだ。疑うのはクセみてえなもんだ。そら、惑星封鎖機構サマと企業共がドンパチした惑星だ」
短い通路の先。操縦席から一望できる惑星。宇宙から見た惑星は、巨大な建造物と惑星封鎖機構の封鎖網以外は平穏そのもの。とても、先日まで硝煙と血に染まっていたとは思えない。
(……やはり)
コーラルスキャンの視界では、遠い位置だと言うのにこの惑星は多くのコーラルを保有している。正に、火を点けてしまえば星系そのものを焼き払える程に。
「そろそろ大気圏の突入準備をする。ここにいるか?」
「いいえ。貨物室で待機しています。一応、貨物扱いで搭乗をお願いしていますので」
「律儀なやつだなホント。しっかり自分を括り付けとけよ」
アンドロイドを貨物とするか、乗組員とするか。倫理的問題で騒がれそうだが、道具と言う自認がある以上、貨物として扱われても構わないと言うのが心情だ。何よりも、いくら企業と惑星封鎖機構が撤退したとしても、ルビコンⅢには大手を振って赴くことは出来ない。まだ、密航せざるを得ないのだ。たまたま、ルビコンⅢにて一稼ぎしようと言う闇商人に載せて貰っているだけ。退屈だからと、船内清掃や貨物室整理を自発的に行ったくらいだ。
「これで、ようやく……」
貨物室のバンドで身体を固定する。大気圏の突入は、振動と熱が襲ってくる。だが、それだけ。不運が起きなければ、現在の宇宙船(中古であってもだ)は突入に問題無い設計になっている。これでルビコンⅢに着陸出来れば、後はどうにでもなる。
鳴り響くアラート。大気圏突入の合図に、しばらく瞳を伏せることにした。
*
『エア、今日の予定は……』
『はい、雑用が二件ほど。また、他に手伝えるものが無いか聞いて回りましょう』
『うん』
動かしにくい四肢と慣れない衣服を纏い、今日の予定を友人と共に確認する。身を寄せることとなったルビコン解放戦線の拠点内で、依頼主を探しては仕事をこなす。と言う、簡単な手伝いをするのが、今の強化人間C4-621が出来ることだった。
あの戦いから、二週間ほどが経過しただろうか。機体を喪い、その上活動限界が近い義体では何も出来ない。レイヴンは帰還こそは果たしたが行方知れず。と言うのが、解放者となったレイヴンの現在だ。実際のところは、こうして知人たちに何か出来ないかと聞いて回っているのだが……。どうも、レイヴンは女性であることは知れ渡ってしまったらしいが、それが、裾やら袖を余らせる身の丈が合っていない衣服を纏った子供、エイヴェリーがレイヴンである。と言うことだけは、未だにバレていないらしい。この辺りは、フラットウェルが配慮して情報統制をしてくれているのだろうか。これからどうしていくのかを、考える為にも。
いや、どうしたいかは決めている。先送りにしてしまったコーラルについて。その問題をどうにかしようにも、先立つものが無ければ、稼ぐ手段も無い。この義体では、新たにACを与えられても戦うことが出来ない。修理を頼むにも、あまりの精密機械としての完成具合に、逆に手出しが出来ないというのがシュナイダーの技術者たちの見解だった。再手術を行うにも、その手筈が分からない。資金があっても、方法が分からないというお手上げの状況だった。
辺りをきょろきょろと見渡す。知っている顔を見つけ、そちらの方に近付いていく。
「ベル、モニカ。何か、ある?」
「レイヴ――、エイヴェリーちゃん。私たちの方は特に何もー」
「そうね……」
モニカが隣にいるベルタに問いかけ、聞かれたベルタは思案を始める。かつてヴェスパーだった二人も、今はシュナイダー社の一員。オペレーターとして、周辺の警備や情報収集を行っているらしい。
「また、彼の相手して貰える?」
「わかった」
要件を聞き、目的地へと向かう。簡単な荷運び、書類の受け渡し等を手伝ってきたが、一番多い手伝いは――
「あ、また姉ちゃんだ」
「エイヴェリーちゃん、今日もお見舞い?」
「うん」
簡素ながら、病院として形を保っている施設。そこに赴けば、数人の子供と(辛うじて知識を得ているだけらしい)看護師の姿があった。子供たちとは、歳の近い存在が珍しいからか声を掛けられては共に遊ぶことが多い。
「それじゃあ、元気な顔見せてきてね。部屋の番号は覚えてる?」
「大丈夫」
「姉ちゃん、本当にあの兄ちゃんのこと好きだねー」
「こら、からかうものじゃありません!」
思わず脚が止まりそうになるが、戸惑いを押し殺して施設の中を歩く。行き交う看護師や患者の人々と顔が合えば、会釈で挨拶をしていく。
「そういや、宇宙港の方もまた商人が来てくれているらしいぞ」
「この間、市場に行けなかったのよねえ。間に合うかなあ」
聞こえてくる会話は、平穏そのものだ。戦争(と言っていいのか分からないが)が終わったのだ。そんな言葉を交わす方が健全だ。
「例の集落の話、聞いたか?」
「ああ、痺れを切らして傭兵を雇ったって話だろ? 師父も師叔も、五十年前の二の舞にならないように慎重になってるっつーのに」
「バスキュラープラントは常に警備しているが、技研の遺産がまだ出てくるんだ。下手な問題が起きてたまるか」
中には、未だに燻る火種。いや、企業と言う突然の放火に隠れていた小さな火や、新たに出来た火と言うべきか。
フラットウェルが第二のアイビスの火を起こさないためにも、バスキュラープラントに貯蔵されてしまったコーラルについて、真剣に考えているのは知っている。
この惑星に生きる人々に分配するにしても、その分配量は?
平等に配布するにも、ミールワーム酪農所と言った既にコーラルが直結してしまっている施設が優先度が上がる。そこへの安全な補給ルートは? ドーザーに襲われてしまっては、意味が無い。
考えなければならないことは山積みで、考えるにも時間が必要だ。だが、それを待つ人々にも限界があるのが現実。それに、耳に入ってくる情報だけでも、フラットウェルとドルマヤンが考えの対立を起こしている。そんな二人とも違う考えをしている集落がある、とのことだ。どこまで正確かは、まだ分からないが……
『フラットウェルは、コーラルから自立するための様々な手段を講じようと模索していますが……。その変革を全ての人々が受け入れられる訳ではありません。コーラルの輸出も、それこそ問題外です』
『それこそ、企業と同じ……』
この惑星以外の外を知らない、覚えていない。そんな世界では、コーラルはどういう風に見られているのだろうか。もし、コーラルと言う資源に他の企業達が目をつけたら? あの戦争が、もう一度繰り返されるだけ。下手をすれば、あの戦い以上に苛烈なものになる可能性すらある。それだけは、フラットウェルも回避したいはずだ。
『それで、時間切れになったら……』
『……悔しいですが、今の私たちには手段がありません。私たちの言葉だけで、もう一度フラットウェルたちに協力を申し出るのも難しい状況です。納得させる状況、資料が私たちの手元にはない。金銭で雇うにしても、出費を補う収入もありません……』
「……、はぁ……」
思わずため息が零れる。行動に移さなければならない。だが、その手段がないのが現状だ。打開策が見付からないもどかしさ、無力さに苛立ちが積み重なっていく。
「そこのお嬢さん。愛らしい顔に似合わないため息をして、どうしたのかな?」
「ひゃっ!?」
聞き覚えのある声と、ドリンクの容器の冷たさに思わず声が出た。振り返って見上げれば、遥かに背が高い男性の姿――。顔半分を覆うかのような火傷跡が残りながらも、その端正な顔立ちが崩れる様子はない。こちらに差し出しているドリンクは、容器が冷たいだけで湯気が立っている。
「――ラスティ」
「今日
「起きてて、いいの?」
「ああ。体を動かす分は問題ない。むしろ、鈍ってしまう。さて、今日あったこと。話してくれないか?」
こくりと頷き、彼が利用している病室に入る。彼の立場というものは色々複雑らしい。窓枠や簡素なベッド、サイドテーブルこそはあるが、それだけの個室だ。隔離されている。というのが最初に抱いた印象だった。
置かれた椅子や、ベッドサイドに腰を落ち着かせてから今日の話をしていく。希少な文官として、事務仕事に頭からつま先まで浸かっているスウィンバーンから書類の届けを頼まれたり。逆にスウィンバーンに届けてくれというものだったり。新しくシュナイダーに合流したというルイーズと言う女性から、素人が触れても問題ない薬品や器具の運びを手伝ったりと。そういったものばかりだ。
「スウィンバーン元隊長はともかく。ルイーズという女性には、いたく気に入られているみたいだな戦友」
「そう……?」
「ああ、焼き菓子は未だにこの土地では希少なものだ。それを分け与えてくるなど、気に入った相手にしか行わないさ」
ラスティと、そういう他愛のない会話を行う。それが一日の区切りとなっていた。ベルタやモニカから頼まれているのもある。大方、ラスティが病室から抜け出さないかの監視目的もあるのだろう。あの戦いが終わった直後の様子から、ラスティも回復してきている。それでも、彼がパイロットとして復帰している様子はない。まだ、医師の判断が降りていないのだろう。
「……どうかしたか? 戦友」
「ううん……。——まだ、痛い?」
「——そうだな。まだ、ACに乗るのは無理だ。だが、それ以外のことなら問題無い。君が気にする必要はない。心配をかけさせてしまったな」
変わらない柔らかな声音と微笑み。気にするなという本心と、こちらに対する気遣いを感じた。
(ラスティも、この集落にいる人たちも優しい。だけど、このままじゃ……)
もどかしさを感じた、その時だった。
「レイヴンちゃん、まだこっちにいる!?」
ドアを乱暴に開く音。木材以外の金属が軋む音に驚きながらも振り向けば、そこには慌てている様子のモニカがいた。
「モニカ……?」
「モニカ、一体何が……」
「えっとね、ツィイーちゃんがレイヴンちゃんを知っている人に会ったんだって! 市場でお買い物してた時にレイヴンを知りませんか? って。いかにも星外から来たって雰囲気だったんだって」
「それって——」
言葉を紡ごうとして、ラスティの手が制止させる。見上げれば、穏やかな笑みを浮かべていた男性の表情が硬いものになっている。
「……その人物は今、どこに?」
「ええっと……。銀髪とか、小さい女の子ってレイヴンちゃんについて詳し過ぎるから、今は自警団に連行されて詰め所にいるよ。多分……、フラットウェルからも連絡来るんじゃないかなあ」
ラスティとモニカ、二人の間にある緊迫な雰囲気。どうして、こちらを知っている人物は訪ねて来たというだけでこれだけ警戒しているのだろうか。
『レイヴン、あなたの存在はルビコン内でも秘匿されている状態です。なのに、星外にいる人物がなぜあなたのことを知っていたのでしょうか。独立傭兵レイヴンではなく、あなた個人を知っているのです』
『なるほど……』
それが、モニカやラスティ。フラットウェルを始めとした、こちらのことを知っている人間が警戒した理由なのだろう。この惑星に降り立つ前、確かにウォルターと二人きりの旅路というものはあった。ルビコンに辿り着くまでに経験を積ませるために仕事をしたことがあった。ウォルターが注意しても、どうしても情報が漏れてしまったという可能性もある。だが、どちらにしてもこちらを訪ねて来た人物というものを知っておく必要がある。
「……モニカ、詰め所にいるんだよね」
「ダメだ、戦友。フラットウェルが安全を確認するまでは会わせる訳にはいかない。悪いな……」
『ラスティの言う通りです。ここは、フラットウェルたちの安全確認を待ちましょう。今のあなたは、抵抗する術を持ち合わせていませんから』
「……分かった」
悪意を持った存在であったら、確かに今の義体の状態では一切の抵抗が出来ない。そして、カサブランカも喪っている。アーレア海のザイレムの落下地点を、シュナイダー社を中心としてザイレムやザイレムに残った残骸機体のサルベージ調査をしているらしいが……
「……ん? あ、ベルさん。……はい、二人とも一緒です。オッケー、隊長じゃなかった。ラスティさんに言っておくねー。で、ラスティさん。ベルさんが通信と映像を繋げてくれるみたいです。尋問の同席をお願いしますって。レイヴンちゃんは……、ちょっとお仕事になっちゃうから少し離れてよっか」
「わかった」
「……うん」
モニカに連れられ、ラスティの病室から離れる。だが、数分歩いたところでモニカが止まる。そして、廊下のベンチに腰掛けた。
「おいで、レイヴンちゃん。盗み聞きしちゃダメって言われてないからさ。コネクタは首にあるよね」
「……? うん」
髪をかき分けて首筋を晒せば、カチっという音と共に信号が入り込んできた。
『あ、こんにちはエア。あなたも聞くでしょ?』
『はい、助かります』
『でも、どうして行っちゃいけないんだろう……』
こちらを訪ねて来たというのであれば、こちらから顔を出した方が色々と都合が良いはずだが……
『あー、多分ね。そのお客さんのことを聞き出せなくなるからじゃないかなあ。ほら、本当にレイヴンちゃんの知り合いだったら、事情が聞けなくなっちゃう。レイヴンちゃんが知らないって言ったら、どうしてレイヴンちゃんを狙ってきたの? ってなっちゃうし』
『先にレイヴンに事実確認をしてもらう前に、ある程度を調査したいということなのでしょうか?』
『そういうことだよエア。レイヴンちゃん、あなたが思っているよりも、ここにいる人たちはあなたを大事に思っているんだよ。最高戦力だからーとかの下心はあるかもしれないけど、一番の恩人なんだからさ』
『……』
彼らなりに、こちらを訪ねてきたという客人を見極めたいというものなのだろうか。慎重に物事を動かしていくのが、フラットウェルのやり方だ。そして、本当に案じてくれているということも……
『そろそろ始まるよ。大人の難しいお話、こっそり聞いちゃおー』
だが、こちらも見極める必要がある。尋問の内容を聞くことにした。
*
「うわあ。君、物凄い高性能なんだねえ。これだけ精巧な
「アルドリック」
「はいはい、データは出した。
シュナイダー社に所属している研究員が退出する。強化人間C4-621の足取りを追うために、ルビコンⅢへ密航することは成功した。惑星封鎖機構、アーキバスやベイラムと言った星外企業の戦いが終結し、一時の安寧を得ている大地。人々が行き交う市場で聞き込みを行っていたところ、ツィイーと呼ばれる女性と接触。レイヴンと呼ばれている独立傭兵のことを知っていると、交流を図っていたところでアーシルと呼ばれる青年が合流。そして、あまりにも、レイヴンについて詳しく把握していることに不信感を抱かれ、こうして自警団の詰め所に連行されてしまったのだ。
これで分かることはある。強化人間C4-621は、ルビコン解放戦線に身を置いている。ないしは、彼らから全幅の信頼を寄せられているということだ。疑念を向けられて拘束されるということは、そういうことだ。
「……フラットウェル。彼もオンラインで参加できるようです」
「わかった」
奥に控えている女性が、ノートパソコンを操作する。カメラを向けるように画面をこちらに向けてテーブルに置いていく。そして、眼前の男性。黒髪を束ねて眼鏡をかけた初老の男性——、ミドル・フラットウェルがこちらのアイカメラに向けて鋭い視線を向ける。
『こちら、ラスティ。聞こえるか、フラットウェル』
「ああ。では、始めようかお嬢さん。お前は——」
「ホルスと呼んでください。それが、当機に与えられた名前です」
まずは、名を述べる。それが最低限の礼儀であり挨拶であると学んでいる。
「——こちらの問いかけに答えて欲しい。だが、自己紹介感謝する。改めて、ルビコン解放戦線で師叔を務めているミドル・フラットウェルだ」
『……ラスティだ。これ以上の身分は、コメントを控えさせてくれ』
「……わかりました。では、聞きたいことを聞いてください」
相手をしにくいと言わんがばかりに、フラットウェルの眉間の皺が深くなる。だが、淡々と彼は言葉を並べていく。
「お前の目的を答えて欲しい。このルビコンⅢへと訪れた理由と、なぜレイヴンを探しているのかを」
「私の目的は、強化人間C4-621。……このルビコンⅢにて名を馳せ、最終的にはあなた方ルビコン解放戦線の一助となった少女。彼女を、迎えに来たのです」
「C4-621……。フラットウェル、あの子の強化人間としての型番と一致しています」
傍らに立つ女性が、情報精査を行っていく。こちらの目的は述べた。これに、一切の嘘偽りはない。それでも、彼らの疑念は深まるばかりのようだった。
『……では、あなたは知っているのだな。独立傭兵レイヴンが、第四世代強化人間であること。そしてそれが、あの幼い少女であるということも』
「はい。では、あの姿形は精巧な義体を用いているということ。そして、彼女本来の肉体を私が預かっている。と述べれば信憑性は増すでしょうか?」
動揺を見せる様子はない。やはり、彼らはあの少女の秘密を知っている。ウォルターが打ち明けたのか。否、それよりもC4-621本人が義体であると露見する、非常事態に巻き込まれてしまったと考えた方が自然だった。
「……分かった。お前が、あの少女について把握している。そこは認めよう。ならばなぜ、お前はここを訪れた。なぜ、迎えに来たのだ」
「……彼女は、責務を全うしました。その褒賞を授けるためです。旧世代型強化人間を、最新世代へと更新させる。再手術、の方があなたたちには馴染みがありますでしょうか?」
そう。それが、ここまで訪ねて来た理由だ。強化人間C4-621は、役割を果たした。後は、こちらが手筈を整えた再手術について同意するか否かの確認をするだけ。
「……フラットウェル。カサブランカのコクピットブロックに残されていたブラックボックスからサルベージできた情報に、ハンドラー・ウォルターとレイヴンのやり取りに、再手術を受けさせるという旨のやり取りがあったことを確認しています。我々が把握している事情と齟齬はありません」
これで、なぜ訪れたのか。あの少女を探しているのか。それを証明できたはずだ。フラットウェルと女性の表情は思い悩んでいるものだった。
『……ホルスと言ったな?』
「はい。いかがしましたか? ラスティ様」
『君の証言には嘘が混じっている』
「それはどういう——」
『我々は、バスキュラープラントへ向かった船を知っている。そして、その船にはハンドラーの関係者であるRaDのカーラ女史が搭乗していた。最終的には、あの少女は我々ルビコン解放戦線にとっての利益を齎せてくれたが……。それは、カーラ女史の意志に反したことだという証言がある。君たちオーバーシアーと呼ばれる一派にとって、責務を果たしたと言えるのだろうか』
「……」
さすがは、企業に密偵として潜入していた男性だ。まさか、組織の名前まで持ち出されるとは想定していなかった。少しだけ、警戒度を上げる必要がある。
「ラスティ、その組織の議論については——」
『フラットウェル。今、我々が選択しなければならないことは、この女性にレイヴンを託すか否かだ。ホルス、君はレイヴンについて熟知している。そして、ハンドラーとレイヴンの褒賞の密約についてもだ。ならば君もまた、オーバーシアーの一員であると考えるのが自然ではないかね?』
認めるしかないだろう。それに、こちらから否定する要素もない。
「——まさか、
『生憎だが、これは私が単独で辿り着けた事実ではない。レイヴンが危機に陥った時、
「なるほど、そうでしたか……」
相手は正に、今こうして過ごしている惑星を滅ぼされかけていた人々だ。仕方がない、聞かれたことには全て誠実に答える必要がありそうだった。
「分かりました。発言を訂正致します。強化人間C4-621は、確かに我々オーバーシアーが今作戦において定めた目標。破綻寸前のコーラルを焼却して減量させるという目標に対して責務を果たしておりません」
「……やはり、お前たちオーバーシアーの目的は……」
「あくまで、我々オーバーシアーはコーラルの
どれだけ言葉を並べても、これはただの言い訳でしかない。だが、これがこちらから語ることが出来る精一杯なのだ。それを、信用して貰えるかは分からないが……
『……君たちが恐れているその破綻というものは?』
「それは……。……結論から申しあげますと、我々も分かりません。ルビコンⅢという惑星から、コーラルが宇宙に侵犯すること。目下予測される高確率に起き得る事態です。それに伴うコーラル汚染等の災害は、あくまで予想でしかなく、どのような災禍となるのは、実際に起きなければ分かりません。ですがそれは、ルビコン星系だけでなく、全ての銀河や宇宙という現存の人類社会を淘汰するものになりかねない。それだけは、阻止しなければならないのです」
当時のルビコンⅢ調査技術研究所内でも、この破綻についての議論に決着はつかなかった。だが、どれだけの未知の現象であっても、実現してしまえば人類社会は滅亡する。それだけは、確実だった。
「我々にも分からないことのために、あなた方ルビコニアンには多量の血を流させてしまった。それは、例え真実が明かされたとしても許されるべきではありません。我々オーバーシアーが世界の終わりまで背負うべき罪業です」
『……その罪業を、彼女にも背負わせようとしていた君たちが?』
「強化人間C4-621は……。本来であれば、集積コーラルへ辿り着く。それだけで、彼女は役割を果たしていました。ですが、ハンドラーの身柄が拘束され、実行に難を生じたために彼女の手を借りなければならなかったのです。……あのようなことが無ければ、彼女はとっくにルビコンⅢを離脱し、今頃は再手術によるリハビリ生活へと移行していたはずです」
強化人間C4-621を最後まで頼るということは、ウォルターにとっても、カーラにとっても、こちらにとっても不本意であった。集積コーラルへ、ウォルターが到達する。それだけで、十分だった。だが、そこを妨害されて計画の変更をしざるを得なかったのだ。
「……お前たちの計画変更の結果、偶然にも我々にとっての利益となったのか……」
「——そうですね。なぜ、強化人間C4-621がそのような行動をしたのかは私にも分かりません。ルビコンⅢへの出立前、ハンドラーは当機にこう言い残しました。今回のことが成功しようと失敗しようとも、彼女が我々を訪ねたのなら。彼女のしたいことは、なるべくさせてやってくれ、と。私たちオーバーシアーの計画は頓挫しました。そして、強化人間C4-621が待機場所へと尋ねて来る様子がない。故に、私の方からお迎えに上がったのです」
話せる事情は話せた。あとは、彼らの判断だ。
「……どう見る、ラスティ。あの子の義体は限界だ。
『……彼女に再手術という選択肢を提示する必要があるのは分かっている。だが、それで彼女が彼らの私兵にならないとは限らないだろう。強化人間となった時点で、普通の人間に戻るという選択は存在しない。再手術による、認識改変や洗脳の類がされない保障はどこにある?』
強化人間C4-621の義体自体が限界。ならば、行動に制限があるのだろう。尚更、再手術をさせるべきだ。そして、こちらの事情を話した以上、ラスティからそのような疑念を提示されるのは然るべきことだ。
「ラスティ様。我々が提示したい再手術は、旧世代型による負荷を負い続けている強化人間C4-621を、健全な心身状態へと回復させることです。そちらの方、私のケースを開けてください。強化人間C4-621に説明を行うための再手術のプラン内容並びに、本人の記名以外は点検済みの書類が入っているはずです」
フラットウェルの傍らにいる女性が、こちらから没収した鞄を開封する。タブレット端末の電源を起動させ、該当項目の確認を行い始めた。
「ベルタ、どうだ?」
「……確かに、旧世代型強化人間のコーラル焼き付きの症状を緩和させる再手術のプランニングです。リハビリどころか、その後の生活に必要な場所や戸籍の手配まで……」
女性が更にデータを読み進めていく。
「この医療機関も、元アーキバスの医療部門の系譜です。記憶操作や精神操作の調整は一切行わないことを同意させた最上位の契約コース……。ざっと見積もっても、レイヴンちゃんくらいの傭兵がこの戦乱を最初期から最後まで稼いだ額でようやく届くものです。ここまで積まれて契約違反でもしたら、一回の訴訟で死ぬのが生ぬるいくらいの賠償を強いられるでしょうね。だから、契約違反に走るようなことはしないでしょう」
ウォルターは、その準備は丁寧に行っていた。再手術の内容、リハビリ、その後の生活を……。そのための場所の手配や偽造戸籍の用意もある。彼は最初から、あの少女を戦乱とは関係ない場所へ帰れる準備を進めていた。それだけは、信じて欲しい。
『——分かった。突っかかって申し訳なかった、レディ・ホルス』
「いいえ、ラスティ様。むしろ、あなた様はこの地に住まう人々が抱く疑念を。どちらか、はたまた双方が血を流しかねない、難しい一端を切り拓いたのです。あなたの勇気ある行動に、敬意を表します」
『——止してくれ。私は、本当にあの少女を君に託して良いのか。それが心配だっただけの小心者さ』
「そうでしたか。……強化人間C4-621。あの子は、こんなにも気にかけてくれる方と友好関係を結ぶことが出来たのですね」
『……これで、尋問の目的は果たせたはずだフラットウェル。私は失礼するよ』
すると、ノートパソコンの通話状態がオフラインへと変わっていった。
「……疑り深いヤツで申し訳が無い、お客人。いや、オーバーシアーの前身がルビコンⅢ調査技術研究所だとすれば、帰還したというべきか」
「……フラットウェル様。あなたもまた、
「それはとっくにあの馬鹿
惑星封鎖機構は今なお進軍の目論見を企てている。それを、彼らは把握しているのか……。どちらにせよ、圧政から解放された今、どの勢力が真にルビコンⅢを統治するか。そのことが、目下フラットウェルが考えるべき優先事項なのだろう。ならば確かに、外部からの来訪者であるこちらに構う時間すら惜しい。
「分かりました。こちらこそ、配慮が至りませんでした」
「お互い、お互いの都合が分からないというのが通りだ」
「では、フラットウェル。レイヴンちゃんを呼んできます。うちの悪い同僚と一緒に盗み聞きしているみたいですし」
「ついでにアルドのバカも頼む。お嬢さん方には、旅立つための足が必要だろう。アイツなら、手を貸してくれるだろうさ」
「分かりました」
その穏やかな雰囲気は一時休戦を意味していた。
*
ベルタに呼ばれ、モニカに連れられて自警団の詰め所へと向かう。ベルタに呼ばれたとモニカが話せば、中に通してくれた。案内された部屋に入れば、ベルタと、プラチナブロンドの髪に、翡翠の瞳。その左目には、独特の意匠が施された女性——
ウォルターと共に、この惑星に旅立つ前の記憶が蘇る。こちらの元の肉体は、彼女に預けているとウォルターは語っていた。あの壊れかけの身体に、そのような価値が残っているのか。そんなことをする必要はあるのか。そんな疑念と、それ以上に関心を持てなかった。故に、意識してあの女性を目にしたのは初めてだった。
「来たわね、悪い子ちゃんたち?」
「ナ、ナンノコトカナー?」
「……まあ、
生真面目なベルタが冗談から言葉を紡いだとなれば、(盗聴である程度聞いていたとはいえ)現場は穏やかなものだったのだろう。
「……えっと」
「お久しぶりです、C4-621。あなたがこちらへ来ることが困難になっていると判断し、こうしてルビコンⅢまで足を運んだ次第です」
「久しぶり……?」
機械的な雰囲気がありながら、だが、意識しなければほとんど人間に見紛う程の
「C4-621、あなたの中で、私が記憶に残っていないことは気にしないでください。当時のあなたは、本当に世俗に対して無関心でした。ですが……、今のあなたはその失礼に対する戸惑い、気遣おうとする思考——。旅立つ前と比べて、とても表情が豊かになりましたね。その変化を観測出来て、私は十分です」
「……ごめんなさい」
「はい、構いませんよ」
彼女は非礼に怒りを抱くことなく、それを変化だと受け入れた。少しだけ、気負っていたものが降りていく。
「よかったあ……。じゃあ、本当にホルスさんはレイヴンちゃんを迎えに来たんだねー」
「ごめんなさいね、レイヴンちゃん。あなたに何かあっては困るから、ね」
「大丈夫。心配してくれて、ありがとう。ベル」
「そう言ってくれると、助かるわ。私もだけど、フラットウェルやラスティも肩の荷が降りるから」
そして、改めてホルスの事情が説明される。ザイレムの墜落、燃焼計画の失敗はオーバーシアーも観測している。だが、この計画の失敗の有無を問わずに621に再手術を施して欲しいのがウォルターの願いだ。無論、あくまでこちらがそう望むのなら。という意思確認は前提だが……
「改めて、強化人間C4-621。第九世代以降の強化再手術による、肉体の再生……。このプランニングをいかが致しますか?」
その問いを、改めて考える。
「レイヴンちゃん、ホルスさんの書類は私やフラットウェルも確認した。十分に信用出来るものだと私たちが保証する……。一応、これはルビコン解放戦線側の意見として言わせて貰うわ。強化人間は、決して施術前の一般人に戻る事は出来ない。だから、再手術をしてもあなたの強化人間としての価値が失われることはない。だから、これを機に戦線復帰して欲しいの」
分かっている。今のこの義体の状態では、ACに乗ることは出来ない。再建中の彼らルビコン解放戦線も、戦力を必要としていると。
「——でも、これはあくまでルビコン解放戦線の都合。私個人としては、そんな大人の都合と関係なく受けて欲しい。今の身体の負担が、軽くなるはずだから。フラットウェルも、ラスティも。本心としては、あなたが健全に近い身体に治療されることを望んでいるはずよ」
それはきっと、ウォルターも望んでいたことだ。
『レイヴン……。私たちの答えを探すためにも、その身体の治療は優先度が高くなります。きっと、フラットウェルも私たちが彼らに手を貸さないという選択をすれば、自由にさせたいと考えているのでしょう。再手術をした後、私たちの身の振り方をどうするのか。その選択肢は、与えられる。再手術をした後でも、考えることは許されると思います』
傍らにいる
「まあまあ、そーんな硬い話は後ででもいいと思うよー? ねー?」
「はい。再手術を受けるか否かも、再手術後の人生設計に関して、あなたの一存で決めてしまって構いません。それが、ハンドラーの願いでしたから」
自分で決めてしまっても構わないと、だが、その理由に第三者を使ってはいけないと。自分自身で考えて、自分を理由にする。誰かに気遣ってしまうのでは無いかと、心配をかけさせてしまっている。
だが、答えは決まっている。
「……受ける。このままじゃ、何もできないのは本当の事だから。再手術をして、普通の人生を——。そのウォルターの願いも、叶えたい。どうしたいかはまだ決まらないけど、手術の後の事は受けてから考える」
「——はい、それで構いませんよ。ありがとう、こちらのプランニングに頷いてくれて」
「お礼は、こっちが言いたい。どうしたらいいのか、分からなかったから」
再手術を受けなければ、二進も三進もいかないことは分かっていた。だが、どこで受ければ良いのか、そもそもどうやって星外に出るのか。その手段が断たれていた。そんな中、ホルスはやってきた。こちらにとっても僥倖だ。
「……話はまとまったようね。ホルスさん、レイヴンちゃん。星外に行くのなら、シュナイダーを頼ると良いわ。ホルスさんが用意した番地があるコロニーなのだけれど……。あそこ、どうもあの空力バカたちが出資している航空機博物館があるみたいで、社員なり関係者なら彼らの足で向かうことが出来るみたいよ。密航に密航を渡っていくのは、危険すぎるしね」
「……良いのでしょうか?」
「彼らが良いって言ったから大丈夫よ。多分」
ようやく、再び歩むための目途が立ったのだ。
「となると、しばらくレイヴンちゃんとさよならかあ……。寂しくなるなあ……」
「長い旅路になるでしょうから、挨拶をしていった方が良いと思うわ。それに、旅立つための準備もね」
この惑星から(戻るつもりではあるのだが)一時でも離れる。しばらく顔を合わせることが出来ないと挨拶をした方が良いのは確かだ。
(……それって、ラスティとも……)
彼から離れるということに、どこか心が揺らいでしまう。今生の別れになってしまうかもしれないという可能性が、胸に痛みを覚える。それが、何を意味することなのかは、分からなかった。
*
ある程度の挨拶周りをして、ほとんど無いに等しい荷物をまとめてバートラム旧宇宙港へとホルスと共に向かう。
——ここは、ラスティと共に惑星封鎖機構と戦い、アイスワームという怪物が出現したのを見た場所だ。アーキバスが接収した後、シュナイダー社がこの基地の担当をしていたらしい。強襲艦のパーツの姿は無く、宇宙へ向けて伸びるマスドライバーの姿が見える。既に小型シャトルの用意がされ、あとは搭乗員を待つだけだった。
『しかし……。本当にラスティに挨拶をしないでよろしかったのですか?』
『……うん。ラスティも、これから忙しくなるだろうし……。心配かけて、負担を掛けたくないから……』
半分が本当で、半分は嘘。ラスティを会うのが最期になってしまいそうで。そんな言い表せない不安から、彼に挨拶をすることが出来なかった。最後の見送りにも、ベルタやモニカ、ツィイーたちの姿はあったが彼の姿は無かった。伝えていないのだから、当たり前なのだが……
「レイヴンちゃん、あー……。エイヴェリーちゃんだっけ? シャトルは不安かい?」
「え? えっと……」
「まあ、最初は慣れないものだよ。でも、今の人々は惑星と惑星の間を飛んでいくのが当たり前の時代だ。いずれ慣れるさ」
アルドリックに声を掛けられて返事に困る。(彼は本社に出向く用事があるらしく、途中まで共に乗船するらしい)だが、彼はシャトルに対する不安を抱いていると思っているらしい。勘違いされたままの方が良い。特に否定する気にはなれなかった。
(でも、これで……)
これで良いのだと思ったその時だった。
「すまない! まだシャトルの席は空いているか!?」
「えっ——」
『この声は——!?』
思わず、振り向いた。傍らにいるエアもだ。聞き覚えのある声と共に、誰かが全力で走ってくる足音と息遣い。文字通りに飛び乗る勢いで、見慣れた背丈の高い男性が飛び込んできた。
「おーい、駆け込み乗車は危ないぞー。そんな慌てなくても、大丈夫だよそこのお兄さん?」
アルドリックが冗談めいた口調で言葉を掛ける。元から、搭乗する予定だったのだろうか。膝に手をつける程に全力で走っていただろう男性の顔が上がる。そして、赤くなった白い肌、残る火傷痕、橙色の瞳と……、目があった。
「……、ラスティ」
「っ……、はあっ……。まさか、挨拶も無しに、行ってしまおうと、するなんてな……」
「ごめんなさい——、でも、なんで——」
「ほら、席ついて飲み物飲んで。座ってから話しなよ、お二人さん」
アルドリックに促されて席へと座る。隣には既に席に着いて待機していたホルス。そして、まだ呼吸が荒いラスティも座った。
「……、ふう……」
「……離陸予定まで時間があります。なのに、全力疾走してきたのですか?」
「ははっ……。いや、本当に遅れてしまうと思って焦ってしまってな……」
しばらくすれば、ラスティの呼吸も落ち着いてくる。ようやく落ち着いて話せそうだ。
「……ラスティ、その……」
「理由を話してくれるのか? 戦友」
「……ラスティ、これから忙しくなると思って……。だから——」
正直に話すことに、躊躇してしまう。だが、こちらが遠慮してしまったことは伝わったのか。くすりと笑う声が聞こえた。
「——フラットウェルもそこまで鬼ではないさ。むしろ、しばらく私は
「そう……、だったんだ」
すっかり見落としてしまっていた。ラスティも、この一時の平穏のために尽力した功労者だ。再興のために働くにしても、怪我人(の割には全力で走れる分は回復出来たらしい)は足手まといという考えだろうか。
「とはいえ、私はこの
思いもよらない提案だった。それに、確かに嬉しいと思う自分がいる。だが、それを表に出してはいけないような……。思わず、ホルスの方を見上げた。
「私は構いませんよ。複数人を滞在させるには、問題がないスペースはありますから」
こくりと、彼女は頷いてくれた。
『……私も、止める理由はありません。レイヴン、嬉しいと思ったあなたの感情を否定したくありませんから』
複雑な表情だが、エアも頷いてくれた。拒否するための口実が、無くなってしまった。
「……一緒に、来てくれる?」
「ああ。君が良ければ」
再手術のため、新たに一歩を踏み出すための小さな旅路が始まろうとしていた。