ギャルゲーじゃないので嫌だけどバグ妹(まい)にせがまれたのでVRMMOをやる事になった。 作:猿野ただすみ
仮想現実大規模多人数同時参加型オンラインゲーム。通称VRMMO。意識を仮想空間に接続してプレイする、フルダイブ型のMMOゲームである。
このシステムが普及して数年。後に、そのゲーム性とは別の理由でも話題を呼ぶゲームが現れた。そのタイトルは【NewWorld Online】。そう。痛いのが嫌だという理由で防御力に極振りし、素人故の独自な発想のために特異な存在へと成長していった少女によって、ある意味での伝説を残した、あのゲームだ。
これは、そのIFの存在とIFの物語である。
始まりの街から少し分け入った森の中。初心者向けの低レベルモンスターが、うじゃうじゃと湧き上がっている。そんな中。
「あわわわ~!」
長い黒髪をポニーテールにした少女が、モンスターを引き連れるようにして駆け回っている。そして、剣を持ったひとりの少女の前を通り過ぎ。流れるように過ぎていくモンスターの、最後尾の一匹が目の前に来たタイミングで剣を振り抜いた。するとモンスターは短く悲鳴を上げ、死亡エフェクトと共に消滅する。
「ほら、エリー! うちが数を減らすから、エリーも攻撃せんと経験値貰えんぞー」
「うう~、分かってますよ、ちひろ…、じゃなくってヒロチーさん~」
そう言いながら、エリーと呼ばれた少女はくるりと振り返り。
「ええっと、【ファイアーボール】!」
火の玉を撃ち出す魔法、【ファイアーボール】を放ち、再び逃げ出した。ヒロチーはエリーが通り過ぎる度にモンスターを1匹討ち倒して。それを何度も何度も繰り返し、やがてモンスター達を全て退治し終わるのだった。
「はわわぁ。レベル、5も上がりました~!」
「ホント、なぜだか知らんけどエリーがモンスター引きつけてたお陰で、めっちゃ簡単にレベルアップ出来たよ」
「はい。しかもお陰で、【挑発】なんてスキルまで修得しちゃいましたっ!」
等と二人してホクホク顔をしていたが、やがてヒロチーが不機嫌になる。
「それよりも、桂木…、じゃなくてケーマはどうしたのさ!」
「確かに。にーさまが見当たらなくなって、かれこれ1時間といったところでしょうか」
「先にログアウトしたって訳でもなさそうだし…」
ヒロチーのセリフを聞き、エリーがパネルを開いてパーティーメンバーの状態を確認するも、確かにログアウトの形跡はない。しかしケーマと連絡も取れなければ、現在位置の表示もないのだ。
「ひょっとしてあいつ、マップに表示されないように何かしたんじゃあ…」
「うーん、確かに。にーさまならそれくらいの機能、使いこなしてそうですね」
「だしょ?」
そんな考察をする二人。そしてその予想はバッチリ大正解なのであった。
エリー達の狩り場から少し離れた場所。現れるモンスターの種類も若干違い、ウサギ型のモンスターが比較的多い。
そしてここに、エリー達が話題にしていたケーマがあぐらをかいて物思いに耽っていた。
「……このゲームはクソゲーだ」
ケーマはポツリと呟き、捲したて始める。
「そもそもボクは、ギャルゲーでもないこんなゲーム、やりたくなかったんだ。だがえりが、ちひろも誘いたいからボクも一緒にやってくれ、なんてしつこく頼むから、仕方なしに始めたが…。
どうせ数回付き合えばいいと思って、大盾使いで防御力極振りで始めたのに、何だ、この仕様は! いくらザコとはいえ、1時間も攻撃食らってるのにノーダメってなんなんだよ!? それにもしダメージ与えられないなら、普通は攻撃パターンが変わるなり逃げ出したりするもんだろ!?
このゲームの運営は無能なのか!?」
そう。ケーマはこの1時間、ウサギ型モンスターからずぅっと体当たりを食らい続けていたのだ。
「しかもこの、絶対防御ってなんだよ?
『スキルの所有者のVITを二倍にする? 【STR】【AGI】【INT】のステータスを上げるために必要なポイントが通常の三倍になる…』
……まあ、真面目にやる気も無いし、何の問題も無いが。
『取得条件。一時間の間敵から攻撃を受け続け、かつダメージを受けないこと。かつ魔法、武器によるダメージを与えないこと…』
……防御力極振りしただけでこんな簡単にスキルを取れるなんて、完全に調整ミスじゃないか。やっぱりこのゲームの運営は無能だな」
ケーマは大きくため息を吐いた。
「……さて、このままここにいてもしょうがない。そろそろえり…、もといエルシィ達と合流するか」
そう言ってすくりと立ち上がったその時。体当たりして来たウサギ型モンスターが変な角度で盾に当たり、はじき返され。
── キュウウ…
小さな声を上げて消滅する。
『レベルが2に上がりました』
「……おい。どんだけクソゲーなんだよ」
さすがのケーマも、呆れることしか出来なかった。
ケーマが森の中をしばらく移動していると、視線を奪われるものに遭遇する。
「……何だ、あれ?」
毒虫タイプのモンスターに
すると突然少女が目を覚まして、パネル操作を始めた。そして。
「えええっ!?」
周りの状況に気づいたのだろう、慌てて短刀を振り回し始める。やがて集っていたモンスターを全て倒し。
「…………え?」
ケーマに気づき、視線がばっちりと合った。
「……ええっと、見てました?」
「お前なら優しい嘘と厳しい現実、どっちを選ぶ?」
「……て事は、見られてたんだぁ」
少女は顔を真っ赤にして俯く。これがケーマと、後にラスボスとまで言われる様になる少女、メイプルとの出会いであった。
「あ、いたいた!」
「にーさま!」
森の中を捜し回り、ようやくケーマを発見したエリーとヒロチー。
「ああ、何だ。エルシィとヒロチーか」
「『エルシィとヒロチーか』じゃねーっ!」
「もう、今までどこに行ってたんですか~。私達、散々捜し回…、え? そちらの方はどなたでしょうか?」
ケーマと面と向かって座っている少女に、気づき訊ねるエリー改めエルシィ。
「あ、私、メイプルっていいます。ケーマくんとは、色々情報のやり取りをしてました」
「まあ情報と言っても、ボクたちがこのゲームを始めた経緯と、メイプルのスキル修得のおかしさに聞き入ってただけだが」
そんな補足を入れるケーマだが、彼がギャルゲー以外に興味を惹かれるのは珍しい事である。
「そうだったんですか。あ、私はにーさま…、ケーマの妹でえり…じゃなくてエルシィっていいます」
「私はヒロチー。NWOはエリーに誘われて、気まぐれで始めたんだ」
そんな事を言うヒロチーだが。
「あれ? ケーマくんが、『妹にせがまれて、自分が参加することになったからやる気になった』って言ってたけど?」
「か、桂木ぃーーー!?」
「本名呼びはゲーム内では御法度だぞ?」
「お前はほぼ、本名じゃんか!」
ケーマの本名は桂木桂馬である。
「甘いな、ヒロチー。ボクのユーザーネームは長音記号を使っている。ケの後の長音の場合、一文字に置き換えれば母音に引っ張られてエが妥当だ。つまり、ボクの本名の読みとは一文字違いになるっ!」
「変な屁理屈捏ねるなああああ!」
「にーさま、相変わらずです」
怒りと共にツッコミを入れるヒロチーに、諦めムードのエルシィ。
(そっかぁ。ケーマくんの本名、カツラギケイマって言うのかぁ。それでエルシィさんがカツラギエリ…)
何気にケーマとエルシィのフルネームがバレていたりするが、さすがにメイプルも気を使って、心の中に留めていた。
「ところでメイプル」
「うちの意見は無視かっ!?」
「にーさまのスルースキルですよ」
突然メイプルに話を振り、ヒロチーはまたもやご立腹だが、それすら無視してケーマは話を続ける。
「そろそろいい時間だが、大丈夫か? ボクたちは…エルシィ以外は夜更かしにも慣れてるが、リアルだとおそらく1時前後だと思うぞ?」
「「……え。ええーーーっ!?」」
メイプル、そしてエルシィが同時に驚きの声をあげた。
「そ、そうだ。明日の準備をしないと…」
「マズいです。このままだと明日、にーさまのお弁当が作れないかも…」
「ああ、それはありがたいな」
「にーさま!?」
「すまん、エリー。それは私にも擁護出来んわ」
「ヒロチーさんまで!」
エルシィ…えりの料理は、なんというか…、とにかく人知を超えたものとだけ記しておこう。
「え、ええと、それじゃお先に失礼します」
メイプルはそう言ってログアウトする。
「それじゃあボクたちもログアウトするか」
「そうだね。……って言うかうちら、ケーマを探すのに手間取ったんだけど」
「そーですよ、にーさま!」
「おっと。それはすまなかった」
一見傍若無人に見えるケーマも、自分の非を認めれば素直に謝るのだ。
「……ま、ケーマらしいっちゃらしいけどさ」
ヒロチーも半ば諦めてるのもあるが、そういうところを含めてケーマが好きなのだ。こればかりは仕方あるまい。
そんなわけで少しごたごたしたものの、三人もログアウトするのだった。
メイプル(楓)の誕生日なので、とりあえず投稿しました。