ギャルゲーじゃないので嫌だけどバグ妹(まい)にせがまれたのでVRMMOをやる事になった。 作:猿野ただすみ
夕食や入浴を済ませ、約束の時間にログインした桂馬たち。
「やっほー。うんうん、ちゃんと来たようだな。えらいえらい」
「……いい加減なお前に言われるのは、すごく心外なんだが」
ヒロチーの態度に、ジト目で言い返すケーマ。しかしヒロチーも黙っちゃいない。
「何言ってんのさ。か…ケーマはどうせ、『数回付き合えば問題無いだろ』とか思ってたんでしょ?」
「な…、ヒロチーに読まれた、だと!?」
「いや、昨日のあんたの行動に今朝の教室での会話を考えたら、ケーマの性格からして、そんくらいのこと考えてるだろうな、くらいはさすがに察せるって」
THE☆普通少女のヒロチー事ちひろとて、それくらいはやってのけるのだ。
「にーさま、そんな事考えてたんですか~!?」
……エルシィには無理だったみたいだが。
「……いや、すまない。ヒロチーの事を少し侮ってたみたいだ。だが安心しろ。ボクもこのゲームに、少々興味がわいたからな。……いや、正しくはプレイヤーに、か」
「それってもしかして…」
ヒロチーがそう言いかけたところで、少し離れた場所でログインした少女の姿が目に入った。
「……あの子のこと?」
「ん? ……ああ、そのとおり。ボクと同じ大盾使い、メイプルの事だ」
そう言って少女、メイプルを見るケーマ。メイプルの方はケーマ達に気づかず、しばらくして辺りを見渡し、やがてトコトコと小走りで走り出す。そしてひとりの大盾を持った大柄な男に声をかけた。
『その大盾、格好いいですね』
『あ、ああ、どうも…』
どうやら知り合いというわけではないようだ。その様子をケーマ達は、黙って見守る。やがて。
『そうだな…紹介してあげようか?同じ大盾装備のよしみでね』
『お願いします!』
そんな風に話は進む。
「いや、これはさすがにマズいんでない?」
「さすがに私でも、初対面の異性にホイホイ着いてったりしませんよ?」
「うむ。ゲーム内での倫理上問題のある行為は通報されるが、そのギリギリを突いてこないとも限らないし、そうでなくてもリアルの住所を洩らそうもんなら目も当てられない。いちゲーマーとして見過ごすことは出来んな」
三人の意見が合致して、メイプルの許に移動する。
「……ケーマ、VITに全振りしたとか言ってなかったっけ?」
小走りに進むヒロチーに、ピッタリと着いてくるケーマを疑問に思い尋ねる。
「落とし神モードをON・OFF繰り返してスピードを合わせてるからな」
「……落とし神モードって何さ」
「あ、落とし神モードはにーさまの、ゲームの秘技です。通常は幾つものゲームを物凄いスピードで同時進行させるんですけど、ダンスゲームの足運びにも使えるんで、それを利用したんだと思いますよ?」
予想外の人物からの、的確な説明に驚く
「……一応補足すると、落とし神モードはプレイヤースキルとして発動させてる。昨日、発動の確認はしといたからな」
「ううむ。なんて器用な」
ヒロチーは、半分呆れながらも感心する。そんな会話をしているうちに。
「え、あれ? ケーマくん達?」
「なんだ? キミの知り合いか?」
大柄の男が尋ねる。
「はい。昨日知り合ったケーマくんにエルシィさん、ヒロチーさんです」
「そうか、初めまして。俺はクロムだ。どうやらキミも大盾使いみたいだな。そうだ、キミたちも一緒に来るか? 実はこの子…あー、ええと」
「あ、メイプルって言います」
自己紹介もまだだったことに気づき、名乗るメイプル。
「メイプルちゃんから盾の入手方法を聞かれてね。知り合いの生産職を紹介することになったんだ。キミたちもいずれ必要になると思うし、知っておいて損はないだろう?」
黙って聞いていたケーマは、ふむと頷く。
「確かに。NPCの既製品より、腕のいい生産職の武具の方が性能はいいだろう。それにお前は、悪い事は考えてないみたいだしな。その申し出を受けよう」
『え?』
ケーマの発言に、全員が聞き返す。しかしクロムは、すぐにケーマの言わんとすることを理解した。小声で「いや、確かに迂闊だった」と呟いている。
「メイプル。ボク達がお前のところに来たのは、たまたま見かけたからって訳じゃない。知り合ったばかりの男にあっさりと着いていこうとしたからだ。ゲーム内にだって悪いやつはいる。疑ってかかれとは言わないが、少しは警戒しろ」
「あう。そ、そうだね」
さすがにメイプルも、自分の迂闊さに気づいて素直に反省した。
「にーさま、クロムさんが悪い事考えてないっていうのは、どういう理由なんですか?」
「何かやましいことがあるなら、隠したり誤魔化したり、そんな行動するもんだろ。ゲームなら」
「またゲームかよ! ……って言いたいとこだけど、現実でも普通にある行動か」
ヒロチーは一旦突っ込むものの、すぐに訂正する。
「……さて、せっかくの誘いだし、ボク達も連れてってくれないか」
「あ、ああ、そうだったな…」
クロムは、少し疲れた表情で答えるのだった。
そして到着した店。店内ではカウンター越しに、ひとりの女性が作業をしていた。
「あら、いらっしゃいクロム。盾のメンテにはまだ早いはずだけど」
「ああ、ちょっと大盾装備の新入りと、その知り合いを連れて来た」
そう答えるクロムの後ろに、メイプルとケーマ達がいる。
「まあ、美少年に美少女揃いね」
「美少女か。よかったな、ヒロチー」
「よけーなお世話だ!」
ケーマのセリフに噛みつくヒロチー。THE☆普通少女のヒロチーは、顔立ちも普通である。
「クロム。下手したら通報ものよ?」
「言わないでくれ。そのやり取りは、さっきやったばかりなんだ」
「あら、ご愁傷様」
それこそ、そんなやり取りをする二人。そこそこ仲はいいようだ。
「ふふっ、この話はこれくらいにして、本題は?」
「この子が格好いい大盾がほしいって言うから、顔見せのために連れて来たんだ。他の子達は…まあ、さっきの理由で接触してきた」
「ああ、そういうこと。いい友達を持ったみたいね」
クロムの説明で理解した彼女は、メイプルに優しく言った。
「さて、私の名前はイズ。見ての通り生産職で、特に鍛冶を専門にしてるわ。調合とかも出来るけどね。あと、ちょっとしたアルバイトの子もいるんだけど、少し訳があって顔を見せられないの。ごめんね」
「いえ、いいですよ。あ、私はメイプルって言います」
「私はヒロチー」
「私はエルシィって言います。それで、こちらがにーさまの…」
「ケーマだ」
イズの自己紹介に、四人もそれぞれ名前を名乗る。その時、がたり、と奥へと続く扉の向こうから音が聞こえた。そして、がちゃり、と扉が少しだけ開き。
「……もしかして、桂馬くん?」
女の…少女の声が尋ねる。その声はケーマが…いや、この場全員が一度は聞いたことがある声だった。
「その声…、お前、もしかしてかのんか?」
「やっぱり桂馬くんだ! それにえりさんとちひろさんも!」
扉を開けて出てきたのは、中川かのん。ケーマ達のクラスメイトで、多くの人に顔を知られた人物でもある。
「えっ!? アイドルの中川かのんちゃん!?」
「おいおい、マジか? 確かにこれは、顔を見せられないな」
そう。かのんはトップアイドルなのだ。
「……あー、かのん? すまないが、ゲーム内での本名呼びはマナー違反だからな? というか、ユーザーネームはかのんでいいのか?」
「あ、ごめん、忘れてた。あと、私はアポロでやってるよ」
ケーマの指摘に謝り、ゲーム内での名前を伝える。
「アポロ…」
「ある意味まんまですねー」
そう。ある意味まんま。トップアイドル中川かのんの中にも、女神がいるのだ。その名はアポロ。もっとも、ケーマとエルシィ以外には意味がわからなかったが。……いや、女神の存在自体は知っているヒロチーは、おそらくかのんの中の女神がそう言う名前なんだろう、と当たりはつけていた。
「かのんちゃ…もとい、アポロは黒髪にしたんだ」
「そう言うちひろ…じゃなくてヒロチーさんも、赤髪に赤い瞳なんだね」
二人はお互いの見た目の違いを言い合う。アポロはもちろん、なるべくかのんとバレないように(ほぼ意味ないが)、ヒロチーは少しでも目立った印象にするために、である。
因みに、ケーマとエルシィの見た目はほとんど弄っていない。強いて言うなら、ケーマは現実で着用している眼鏡をしておらず、エルシィは現実でストレートヘアな所をポニーテールにまとめている、といったところか。
「それでイズ、どうしてかのんちゃん…いや、アポロがお前の所でアルバイトしてんだ?」
クロムが尋ねると、イズは苦笑いを浮かべて答えた。
「リアルの話になっちゃうけど、アポロちゃんのマネージャーとはちょっとした面識があるの。それで私がNWOをやってることも知ってるんだけど、アポロちゃんがNWOをやりたがってるから面倒を見てほしいって頼まれちゃったのよ」
「そういう事か」
クロムは頷き。
「岡田さんらしいですねー」
エルシィは訳知り顔で言った。
「あら、エルシィちゃんは岡田さんを知ってるの?」
「え? あ、ええーっと…」
イズに問われて言葉に詰まるエルシィ。そこへケーマが助け船を出す。
「今更隠す意味がないから言うが、アポロとボク、エルシィ、ヒロチーは同じ学校のクラスメイトだ。そしてアポロは学園祭でライブを開いてる。エルシィがアポロのマネージャーを知ったのも、そのタイミングじゃないか?」
「あー、エリーはか…アポロの熱烈なファンだからなー。待機中に接触しようとしてマネージャーに追い払われた奴らがいるって聞いたけど、エリーもそのひとりだったか」
「あ、あははー、そーなんですよー」
ケーマのフォローとヒロチーの噂話に、乾いた笑いを浮かべながら答えるエルシィ。
「えっと、話を戻すけど、今のままだとNWOでまともにプレイ出来ないでしょう? だから私が変装用のアイテムを生産するそれまでの間、アポロちゃんに裏方の仕事を手伝ってもらってるって訳」
「生産作業は手伝えないので、バックヤードの雑用だけですけど」
アポロは申し訳なさそうに言った。
「何言ってるの。開店前に商品の展示の準備してくれたり、新しく開発したアイテムの実験を手伝ってくれて、その感想も忌憚なく言ってくれるのは結構重宝してるのよ?」
「そ、そうですか…」
誉められ照れるアポロ。因みに、後片付けはインベントリにしまうだけなので、手伝い様はないのだ。
(うわぁ。かのんちゃん、やっぱりかわいいなー)
そんなアポロを、ミーハーな感じで見ているメイプルだった。
それからようやく、メイプルの大盾の事へと話が戻る。因みに軌道修正したのはケーマである。当事者であるメイプル自身は、かのんちゃんムーブに当てられて、すっかりと忘れていたのだ。
「それで、メイプルちゃんが大盾を選んだのはなんでかしら?」
「ええと、痛いのは嫌なので、防御力を上げようと思ったんです」
まさに原作タイトルそのままの理由である。
「……ケーマはどうせ、すぐやめるつもりだったからっしょ?」
「……そのとおりだが、そのネタ引っ張るのはやめろ」
実はケーマ、やめるの前提で始めたことを、ゲーマーとして恥ずべき行為だったと秘かに反省していたのだ。たとえ興味のないゲームだろうと、始めるのならば真摯に向かい合うのが真のゲーマーである。たとえそれがクソゲーであったとしてもだ。
それはともかく、メイプル達の会話は続く。
「なるほど。それならVIT特化装備が良さそうね。でも最低でも100万Gくらいかかるわよ?」
「所持金はいくらだ?」
「う…、まだ3000です…」
3000Gはゲーム開始時に所持している金額である。
「それじゃあ足りないわね。ま、気づいたときには貯まってるもんよ」
「うう、しばらくオシャレはお預けだなぁ」
そう呟いて、メイプルは項垂れるのだった。
アポロ以外が店から出ると、イズが街の外を指差して口を開く。
「ここから東へ行ったところに【毒竜の迷宮】があるわ。そこならお宝が一杯あるわよ。ちょっとモンスターが強いけどね」
「そのうち行ってみるといい。運が良ければ、何か装備が手に入るかも知れないぞ?」
「ありがとうございます」
お節介を焼くイズとクロム。二人とも人が良い上に、メイプルみたいな子には構ってあげたくなるのだ。
そんな二人にメイプルがお礼を言うと、更にイズはお節介を焼いてきた。
「せっかく知り合ったんだから、フレンド登録でもしておく? ケーマくんたちも。そうすればいつでも連絡が取れるから」
「ありがとうございます!」
「まあ、ボクとしても生産者と懇意にするのは願ってもないことだ」
「あの~、クロムさんもどうでしょうか?」
「私達もこういった先輩プレイヤーが知り合いだと、相談しやすいしねー」
「ああ、いいけど。……はは、頼られるのも悪い気はしないな」
という感じでフレンド登録が進んでゆく。すると。
「……あの、私ともフレンド登録してもらえますか?」
店の扉を少しだけ開け、中からアポロが言う。
「ええっ! も、もちろんですっ!」
メイプルは
「知らぬが仏というやつだな」
「ケーマ?」
ケーマの呟きを疑問に思うヒロチー。しかしその理由はすぐに判明する。アポロとのフレンド登録がすんで数秒後、アポロからのメールの着信があり開いてみると。
【ヨロシクね! ヨロシクね! ヨロシクね! ヨロシクね! ヨロシクね! ヨロシクね! ヨロシクね! ヨロシクね! ヨロシクね! ヨロシクね! ヨロシクね!…………】
以上の文が延々と続いていた。一瞬固まっていたメイプルは、ぎぎぃと顔をケーマに向ける。
「……アポロは友達が少ない。なので友達というものに、異常に執着するんだ。……だがまあ、安心しろ。今は改善されてて、そのメールは後遺症のようなもんだ。問題はない」
「そ、そうなんだ…」
トップアイドルの意外な側面を知り、メイプルは引きつった笑顔を浮かべるのだった。
因みに、アポロ(かのん)の異常行動の理由が「友達が少ない」というのは、あくまで原因の一部分です。本当の理由は別の所にありますが、この作品では関係ない上に【神のみ】本編において解決済みなので、細かい説明は省かせていただきます。