ギャルゲーじゃないので嫌だけどバグ妹(まい)にせがまれたのでVRMMOをやる事になった。   作:猿野ただすみ

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防御特化と新装備。

本条楓は浮かれていた。VRMMOゲーム[NewWorld Online]で、念願の格好いい装備を手に入れる事が出来たのだ。しかも、鎧、盾、武器(短刀)の一式である。

今日はせっかくの休日、夜更かしのために遅い起床ではあったものの、早くログインしたい一心で宿題と明日の準備は午前中の間に早々に済ませ、お昼ご飯の後、早速ゲームを起動させた。楓がメイプルになった瞬間である。

 

 

 

 

 

いつもの如く、街の中央の広場へとログインしたメイプル。すぐにでも自分の装備を見てもらおうと、フレンド登録した人達に連絡を取ろうとした、その時。

 

「あれ、メイプルさん?」

 

後ろから聞こえた、聞き覚えのある声。振り返るとそこには、ケーマ、エルシィ、ヒロチーとあとひとり。

 

「え? もしかして、アポロさん?」

 

メイプルが素っ頓狂な声で尋ねた。しかしそれも、致し方ない。そこにいたのは、ネコ耳がデザインされた革製の耳当て付き帽子にゴーグル、初期装備の服を覆うほどのマントにロッドという出で立ち。今は帽子の位置までゴーグルを上げているから気づいたが、そうで無ければ正体に気づけたか怪しかっただろう。いや、今の状態でも、きちんと顔を見なければわからないかも知れない。事実、メイプルがすぐに気づけたのは、ケーマ達が一緒にいたことが大きいと言える。

 

「アポロさん、変そ…」

「ンンッ!!」

 

メイプルのセリフの途中で、ケーマが咳払いをする。メイプルは一瞬、呆気にとられるが、すぐにその意図に気がついた。

 

「えっと、イズさんに頼んでた装備が完成したんですね」

 

そう。この様な人の多い場所で「変装」などと言えば、少なくとも数人は誰かの関心を引いてしまうだろう。

先に書いたとおり、今のアポロはきちんと顔を見なければわからないかも知れないが、逆に言えば、しっかりと見られれば「かのん」だとバレる可能性は高いのだ。なら当然、出来るだけその危険は排除した方がいい。

 

「うん。帽子はVIT+2、INT+5でマントはVIT+3、INT+2なんだ」

「へー。アポロさんは魔法使いなんですね」

「……スタンガンが無いから」

「え?」

「あ。なんでもないよ!」

 

スタンガンは現実(リアル)でのアポロの、標準装備である。業界内ではアポロ(かのん)のスタンガンは有名な話だが、さすがにアイドルとしてのイメージがあるので、(ちまた)には知れないようにオフレコ状態なのだ。……まあ、ケーマとエルシィはある理由で知っているのだが。

 

「そ、それよりメイプルさんも、見違える姿になったよね?」

「え、あ。そうですかー?」

 

あからさまに話題を変えられたが、もともと新装備を見てもらいたかったメイプルは、あっさりと引っかかってしまった。

メイプルの新装備。黒い鎧に黒い大盾、どちらにも赤いアクセントが入っていて、鎧は胸の辺りのアクセントが赤い薔薇になっている。

 

「実はこれ…」

「待て! 言うな!」

「えっ、ケーマくん?」

 

メイプルが説明を始めようとしたところで、待ったをかけるケーマ。

 

「……正直に言おう。今、ある可能性に行き着いている。行き着いてはいるが、はっきり言って信じられない」

 

そう前置きしてから、その可能性を口に出す。

 

「お前の装備、イズが言ってた毒竜を倒して手に入れたんじゃないのか?」

「すごい、ケーマくん。正解だよ」

「正解だよ、じゃねーーーっ!!」

 

あっけらかんと言うメイプルに、激しく突っ込むケーマ。まあ、低レベルプレイヤーが中ボスを倒したのだ。突っ込みたくなる気持ちはわからないでもない。

 

「ゲームでのボス戦ってのは、情報収集して、レベル上げて、装備整えて、ようやく対戦するもんなんだよっ! 第一防御力極振りじゃ、攻撃力が全然足らないだろっ!?」

「よっ! さすがゲーマー」

「でもにーさまは、ギャルゲーマーですよ?」

 

熱く語るケーマに茶化すヒロチー。エルシィは疑問を述べているが。

 

「ギャルゲーにだってRPGくらいある。【いもクエ(妹クエスト)】とか」

 

急に冷静な口調で、ケーマは答えた。この振り幅が、ケーマらしいと言えばらしい所である。

 

「さて、話を戻すが。はっきり言ってボクやメイプルの攻撃力じゃ、中ボスクラスにはダメージが入らないはずだ。それにどうダメージを入れたのか。ゲーマーたるボクに、何か見落としでもあるのか。非常に気になるんだが…」

 

分析が得意なタイプのゲーマーであるケーマ、メイプルの新装備の入手方法までは読めたものの、その倒し方までは推測が出来なかった。

ケーマはギャルゲー特化ではあるが、逆を言えば、ギャルゲーに関してさえいれば全てのジャンルを網羅している。そんな彼としては、かなり珍しいことだった。

 

「うん。向こうの攻撃は効かなかったけど、私の攻撃も効かなかったんだよね。それで最終手段で、かじったんだ」

『……は?』

 

ケーマを含めた全員が、素っ頓狂な声を上げた。

 

「なんだか強い敵でも、食べることは出来るみたい。それで5時間かけて食べ続けたら、HPドレインって形で倒せちゃったんだ」

『……』

 

メイプルのあまりにもな倒し方に、全員がしばらく声も出せずにいた。しかし。

 

「フ、フフフ…」

「え、ケーマ?」

「にーさま?」

 

突然笑い出したケーマに、訝しむヒロチーとエルシィ。

 

「このゲームの運営は、バランス調整も出来ない無能集団かと思っていたが…いや、その考えは今も変わらないが。だが、ゲームに必要な遊び心には溢れていたようだ。

……そう、認めてやろうではないか。NWO…【NewWorld Online】は、攻略のしがいがあるゲームだと!!」

 

攻略のしがいがあるゲーム。これは、ケーマにとっては最高の賛辞である。

 

「……オタメガの妄言はおいといて」

「オタメガ?」

 

ヒロチーのセリフを疑問に思うメイプル。因みにオタメガは[オタク眼鏡]の略。リアルでは眼鏡をかけたゲームオタクなので付いたあだ名である。

 

「メイプルのその装備、強敵を倒して手に入れたんなら、かなりいいものなんじゃない?」

 

ヒロチーが尋ねると、メイプルが嬉しそうな表情に変わる。

 

「そうなんだ! ねえ、見て見て。私だけの、唯一無二の装備!」

 

そう言って操作画面を開いたので、みんなが後ろに回り込み、画面を覗き込む。さすがに4人が押し合うような形になるので、些か窮屈そうだ。

まずは大盾のステータス。

 

 

  『闇夜ノ(うつし)

  【VIT +20】

  【破壊成長】

  スキルスロット空欄

 

「破壊成長、だと?」

 

ケーマが呟くように言う。次は鎧。

 

  『黒薔薇ノ鎧』

  【VIT +25】

  【破壊成長】

  スキルスロット空欄

 

そして武器の短刀。

 

  『新月』

  【VIT +15】

  【破壊成長】

  【毒竜(ヒドラ)

 

武器なのに、何故かSTRではなく、VITにステータスが振ってある。

 

「メイプル。破壊成長というのはもしかして、装備が破壊されると、能力アップしながら再生するということか?」

「ケーマくん、凄い! よくわかったね?」

「まあな…」

 

答えたケーマはしかし、何やら浮かない顔である。

 

「メイプルさん。スキルスロット空欄というのは、どーいう事なんでしょうか?」

「拾得したスキルを破棄して、代わりに空きスロットに付与できるんだって。付与したスキルは取り出せないみたいだけど」

 

エルシィの質問に答えたメイプルの説明を聞いて、再び、しばしの沈黙が訪れる。

 

「……そ、それって、武器を買い替えなくっても必要に応じて強くなるって事じゃん! しかも自分用にカスタマイズが出来るっておまけ付き! めっちゃ凄い装備じゃんか! 桂木、こういうのってなんて言ったっけ!?」

 

興奮のあまり、うっかり本名で呼びながら尋ねるヒロチー。

 

「そうだな。[ずる]という意味でチートアイテムとか、[独特]や[特異]という意味でユニークアイテムなんて言われてるな」

 

内心でやれやれと思いながらも、ケーマはその質問に答えた。

 

「確かに、ユニークシリーズって書いてあったなぁ」

 

メイプルが呟くように言う。

 

「ユニークって、[面白い]とか[楽しい]って意味じゃなかったんか」

「私もそういう意味だと思ってました~」

「私も」

 

ヒロチーは別の所に食いつき、エルシィとアポロも驚き同意しているが。因みに自分も、調べるまではそう思ってました(英語は苦手。反省)。

 

「でも毒竜って、他のプレイヤーだって倒してんじゃない? なんでメイプルだけそんな装備、手に入れられたんだろ?」

「あ、それは…」

「待て。さすがにこれ以上情報を得るのは、ゲーマーとしての矜持に関わる。普段なら、倒した方法だって聞かないところだ。今回は、どうしても気になって聞いてしまったが」

 

ケーマがそう言って、メイプルの話を止める。それを受け、ヒロチーが不服そうな顔をしたため、ひとつため息を吐いてからケーマは言った。

 

「ヒロチー。ボク達だけユニークシリーズの入手方法を教えてもらったら、それこそ[ずる]になるぞ? かといって情報を公開したら、今度は運営に迷惑がかかる。

メイプルが手に入れた装備は本来なら、もっとゲームが進んでから手に入れる者が現れることを想定していたはずなんだ。だから今のボク達に、これ以上の知識は必要ない」

「……むう。そんなこと言われたら、反論できないじゃん」

 

ヒロチーが拗ねたように言う。

 

「仕方がないですよ、ヒロチーさん。にーさま、一度言ったことはよほど納得出来るような理由がない限り、撤回しませんから」

「それに攻略方法知ってたら、その分楽しさが半減しちゃうんじゃない?」

「……それもそっか」

 

エルシィとアポロにも諭され、ようやくヒロチーも納得した。

 

「という訳だ。これ以上の情報交換はやめておこう」

「うん、わかった」

 

今までの会話を聞いていたメイプルは、素直に頷いた。

 

「さて、それじゃあアポロの初戦闘に行くとするか」

「あ、そうだった!……って、あと1時間半…ううん、その後の準備も入れると1時間くらいしか無いよ!」

 

リアルではアイドルのアポロ、時間には厳しい制約があるのだ。

 

「じゃあな、メイプル」

「そんじゃまた」

「それでは失礼します」

「メイプルさん、またね」

 

それぞれに声をかけられ。

 

「みんなも頑張ってね」

 

メイプルはそう言って見送った。

 

「……私もイズさんに装備をお披露目したら、レベル上げでもしようかな?」

 

装備を自慢したい想いは、まだ満たされていなかったようだ。そんなメイプル、振り返ろうと思ったその時に、何やら怪しい人達が視界に入った。ケーマ達の後を着けていく二人の少女がいたのだ。

一瞬、装備のお披露目と目の前の二人が天秤にかけられ…、あっさりと好奇心に傾いた。

 

(えっと、何か企んでるのかも知れないし、見張りは必要だよね?)

 

メイプルは感じている罪悪感を正当化しつつ、二人の後を追いかけて行くのだった。




アポロの変装用の帽子は、アニメ【異世界食堂2】ヒルダの装備がモチーフです。まあ、中の人繋がりですね。
ゴーグルは帽子とセット、マントは防具ではなく、アクセサリー枠です。
因みにアイテムの製作にかかった金額は、マネージャーが課金しています。これはあくまで、身バレ防止の必要経費として割り切っており、以降のゲーム内での売買はアポロ(かのん)自身の力で何とかします。

※新月のスキルスロット空欄を【毒竜(ヒドラ)】に変更しました。自分のうっかりミスです。
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