ギャルゲーじゃないので嫌だけどバグ妹(まい)にせがまれたのでVRMMOをやる事になった。   作:猿野ただすみ

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防御特化と尾行。

「あ、いた!」

「ア、アユミさん。もう少し声を抑えないと…」

「う、ソウダネ」

 

NWOにログインしたアユミとダイアナ。アユミ(歩美)エルシィ(えり)からさり気なく、今日のログイン時間を聞いていたために、先にログインして張り込むことが出来たのだ。もっとも、ケーマ達はすぐさまイズの店に向かったため、彼らが折り返して広場に戻ってくるまで探し続けることになったのだが。

なお、彼女がヒロチー(ちひろ)に尋ねなかったのは、幼馴染みゆえに怪しまれる可能性があったからであり、ケーマ(桂馬)に至っては、ゲーム理論であっさりバレると端から諦めていたのだ。

 

「……ところであの、全身黒装備の子とネコ耳帽子の子は誰だろ?」

「うーん、このゲームで知り合ったのかな? ……うん?」

 

意見を述べたところで、変な声を上げるダイアナ。

 

「どうしたの?」

「あ、ちょっと待って」

 

そう言って少しの間黙り込み。

 

「えっ、そうなの!?」

 

どうやらディアナと会話していたらしいダイアナが、素っ頓狂な声を上げた。

 

「ダイアナ?」

「え、えと、ディアナが言うには、ネコ耳帽子を被ってるのは、中川さんだって」

「中川さん…って!? まさか、かのむぐっ!」

「アユミさん、静かに…」

 

慌ててアユミの口を手で塞ぐダイアナ。声が大きくなったのは勿論のことだが、この様な場所で「かのん」の名前を出すのはまずいと、慌てて塞いだのである。当然アユミも、数秒の後にその事には気がついた。というか、メルクリウスに突っ込まれて気づかされた。

 

「……ごめん。そしてありがと。それにしてもダイアナ…もといディアナは、よく気がついたよね?」

「ディアナが言うには、顔をしっかりと見ればわかるはずですよ、って」

「いや、そうかもしんないけどさ」

 

服装はまだしも、帽子に至っては普段(アイドルとしても、学校での姿にしても)とはまったくイメージが違うので、知り合いだとは思いもしなかったのだ。

 

「……あ、なんだかみんな、あの黒装備の子と別れるみたいだよ?」

「どうやらダイアナの予想通り、NWOで知り合った子みたいだね。それじゃ早速、後をつけようか」

「……ねえ、アユミさん。冷静に考えると私達って、スト…」

「言わないで」

 

どうやらアユミにも、その認識はあったようだ。

 

 

 

 

 

尾行は結構楽だった。移動スピードが遅いため、結構な距離をとっていてもそうそう見失うことはなく、仮に一瞬見失っても、その間に距離を離されて完全にロストすることもなく済んでいる。

 

「なんだか桂馬くん達、随分と移動が遅いよね?」

 

ダイアナが疑問を口にすると、アユミが説明を始めた。

 

「桂木…えっと確か、ケーマでやってるんだったっけ。とにかくケーマはゲーム始めるとき、VITだけにポイントを極振りしたんだって。だから移動速度が遅いらしいね」

「……アユミさん、詳しいね?」

「エリーに話を振ったら、結構色々と教えてくれたから」

「えりさん…」

 

相変わらずなえりに、ダイアナはやや哀れみを感じてしまった。

 

「あ、そうそう。ゲーム内だとちひろはヒロチー、エリーはエルシィって名前だって」

「……えりさん、ある意味そのままだね」

「……まあね」

 

えりは現実でも、桂木エルシィと名乗っていた時期がある。これには深い理由があるが、本編とは関係ないので、それはいずれまたの機会に。

二人がその様な会話をしていると、対象であるケーマ達が歩みを止めた。それに合わせて二人も歩みを止めて、木の陰へと身を隠しながら様子を窺う。

この辺りには弱めのモンスターがまとまって現れやすいポイントであり、ヒロチーとエルシィが初ログインのとき、レベル上げをしていた場所でもある。

 

『よし。やれ、エルシィ』

『はい! 【挑発】!』

 

エルシィがスキルを発動すると、近くに潜んでいたモンスターがわらわらと現れた。

 

『それじゃ…はっ!』

 

かけ声と共にケーマが盾で、モンスターの一体を殴る。とはいえ、STRに全くポイントを振っていないため、この一撃で倒すことは出来ない。それどころかケーマへと反撃をしてくる。

が、しかし。ケーマはその攻撃を、すいっと躱してしまった。

 

「……あれ? ケーマってAGIが0のはずじゃ…?」

「多分、プログラムされた行動を読んでるんだと思う。でも、それでも、あのスピードはおかしいよ」

 

アユミとダイアナは、ケーマの動きに目を丸くする。ケーマの【落とし神モード】を知らないので、無理もないことだが。

当然そんなことは知らないケーマは、攻撃しては避けるを、現れたモンスター一体一体に繰り返していく。ただし、とどめを刺すことはしない。その理由は。

 

『【ウィンドカッター】!』

 

ケーマが攻撃したモンスターを一体づつ、アポロが攻撃して倒していってるからだ。

そう。今回は初戦闘のアポロのレベル上げがメインである。そしてあまりレベル上げに積極的ではなかった、ケーマのレベル上げも兼ねているのだ。しかもエルシィが【挑発】で敵を集め、ケーマがダメージを与えてからアポロの攻撃でとどめを刺すというのは、かなり効率がよい。時間が余り取れないアポロとしては、かなり有難い事であった。

 

『【ファイアーボール】! ……はぁ、終わったぁ』

 

最後の一体を倒してから、アポロは大きく息を吐いた。

 

『まあ、こんなもんだろう。さすがにMPがある程度まで自然回復するには、時間が足りないだろうからな』

『そうだね。まあ、こればっかりは仕方がないよ』

 

アポロも、その辺は割り切ってゲームをしているのだ。文句などあろうはずもない。

 

『あわわ~。かのんちゃん、初戦闘とは思え…あ!』

『このバグ(まい)が!』

『エリー。さすがにアポロ呼びには馴れとこうな?』

『はい~。すみませんでした~』

 

ケーマとヒロチーに突っ込まれ、萎縮してしまうエルシィだった。

 

「……ディアナが言ったとおり、かのんちゃんで正解だったみたい」

「そうだね」

「それにしても、アポロかぁ。やっぱりまんまだね」

「うん」

 

アユミとダイアナは覗き見ながら、そんな意見をやり取りしている。エルシィの【挑発】で周囲のモンスターがケーマ達の許に呼び寄せられたため、二人は戦わずに済んでいることと、ある程度距離があるために彼らに気づかれずに済んでいることで、多少気持ちにもゆとりが出来たのだ。

つまりそれは、油断にも繋がることで。

 

「ねえ。二人はケーマくんの後をつけて、何してるの?」

 

後ろから突然声をかけられ。

 

「うひゃあっ!?」

「……!?」

 

アユミは大きく変な悲鳴を上げ、ダイアナは思わず息を呑む。そして大声を上げれば当然。

 

「誰かいるのか? ……って、天理! それに歩美か!?」

 

近づいてきたケーマに見つかるのも、至極当然の事。もちろん、二人の後ろにいる人物も視界に入っている。

 

「メイプル。これは一体、どういうことだ?」

「どうもこうも、この二人がケーマくん達の後をつけてたから、心配になって私もその後をつけて来たんだよ」

 

さすがに、好奇心に負けたことまでは言わない。

 

「そういう事か。それで二人は、どうしてボク達の後をつけてきたんだ?」

 

その疑問に答えたのは、しかしアユミでもダイアナでもなく。

 

「あーそれ多分、うちのせいだわ」

 

ヒロチーであった。

 

「ほら、この間学校で、桂木と…他に人いないからいいよね? 桂木とVRMMOでデートしたって言ったじゃんか。すぐに桂木が否定してたけど、歩美が気にするには充分だったんじゃないかな」

「え? ちひ…ヒロチーさん、そんな話してたんですか?」

 

ホームルーム前にスリーピングしていたエルシィには、初耳だったようだ。

 

「……なるほど。という事は天理はさしずめ、歩美に唆されたってところか」

「なんで私が唆したことになってるのよっ!」

「違うのか?」

「違う…わよっ!」

 

目的は違うものの、嵌めた形にはなっているので、一瞬日和ったアユミだった。

 

「……ええと、ケーマくん達の知り合い?」

「ああ。銀髪の方はリアルでクラスメイトだ。もうひとり、黒髪の方は一応幼馴染みだな」

(一応!?)

 

一応と言われてダイアナはショックを受けるが、以前は幼馴染みと認められていなかったことを考えれば、かなり扱いがマシになったと言えるだろう。

 

「名前は…と。今更だが、ユーザーネームは何にしたんだ? あまりにもの事で本名呼びになってたが、本来だとマナー違反だからな」

 

本当に今更だが、ケーマといえどさすがに想定外で、冷静さを欠いていたのだ。

 

「私はそのままアユミだよ」

「あ、えと、私はダイアナにしたんだ」

「……ボク達を尾行する気なら、名前を変えるべきじゃないか? そっくりな別人で誤魔化せたかも知れないぞ? ……まあ、ダイアナが見つかってなければの話だが」

「ぐ…」

 

ダイアナと同じ指摘を受けて、アユミは小さく呻いた。

 

「……ダイアナは、ディアナの英語読みか。少しは捻ってるが、見た目はそのままだな」

「あ、私は、えり…エルシィさんに相談されたときに、試しに一度ログインした時のアバターだから…」

「ああ。目的が違ったのか」

 

納得したとばかりに頷くケーマ。

 

「それにしても、プチプチしてないお前も珍しいな」

「NWOにプチプチないし、やる事も多いから、どのみち出来ないよ」

「それもそうか」

 

自身もNWO内でギャルゲーが出来ないことに思い当たり、ケーマも素直に納得した。

 

「プチプチ?」

 

ダイアナとの会話に、今イチ意味がわからないメイプルが尋ねる。

 

「クッキーの缶とかに入ってる、気泡緩衝材だ。ダイアナはアレを潰すのが趣味なんだ」

「ああ、アレ。アレって気泡緩衝材って言うんだ」

「因みにプチプチという名前は、製造メーカーのひとつが商標登録してるから、他のメーカーは別の名前らしいな。一般人が通称として使う分には問題ないと思うが」

「「そうなの?」」

 

質問したメイプルと、プチプチ愛好家(?)のダイアナが声を揃えて驚いている。むしろあれだけ愛するプチプチの事を知らなかったダイアナに対して、ケーマは少しばかり驚きを感じてるくらいだ。

 

「ねえ、かつ…じゃなくってケーマ。どうしてあんた達はかの…も違くてアポロと一緒にいるのよ?」

 

どうでもいい会話に()れてきたアユミは、さっきから聞きたかったことを尋ねた。その質問に対して、ケーマは面倒くさそうに簡潔に答えた。

 

「この間ゲーム内で、たまたま会ったんだよ」

「あ、ええと、私が知り合いのプレイヤーさんのお店にいたところに、偶然ケーマくん達がやって来たの。それで今日は、その知り合いのプレイヤーさんに頼んでた変装用の装備が完成したから、みんなに頼み込んで一緒にプレイする事になったんだ」

 

アポロはさすがに簡潔すぎだと思ったのか、もう少し詳しく説明する。

 

「……なんだ。てっきり、ハーレムエンドでも目指してるのかと思った」

「……アユミ、よくハーレムエンドなんて言葉を知ってたな?」

「10年前のあんたが説明してたわよ」

「10年前のボクが? ……! そういう事か」

 

何かに気付いたのか、ケーマは納得した様だ。ヒロチーや完全部外者のメイプルには、何の意味かはわからなかったが。

 

「あのー、ところでアユミさんとダイアナさんは、これからどうするんですか?」

「そうそう。アユミが心配するようなことも無かったわけだし、ゲームを続けるかどうかもあるしねー?」

 

エルシィとヒロチーに言われ、アユミは一瞬焦るが、これからの事はダイアナと既に相談済みだった。

 

「ゲームは続けるよ。貯金の殆どを使ってゲーム機買ったんだから、元は取らなきゃもったいないじゃない!」

 

アユミにとってあの出費は、それほどの痛手だったのだ。

 

「そっかそっか。それじゃあうちらとフレンド登録しとかん?」

「あ、それなら私とも! ……えっと、疑ってたこと気にしてないなら」

 

ヒロチーの提案に乗っかるメイプル。さすがに今回は、少しばかり気が引けている様ではある。もっとも、アユミは意固地にさえなってなければ、それほど根に持つタイプではない。

 

「別に気にしてないよ。私達の行動が怪しかったのは確かだし」

「ああ。まるでストー…」

「それは言わないで」

 

ケーマのツッコミを、やはり遮るアユミだった。

 

 

 

 

 

「……これで完了、っと」

 

全員とのフレンド登録が済み。

 

「それでアユミとダイアナはこれからどーするん? うちらのパーティー入るとか。あと、メイプルはソロプレイみたいだし、一緒に組むとか?」

「あ、私は誘ってくれた友達がゲーム禁止令出されてて、まだ始められない状態なんだ。だから、ログインできるようになってからじゃないと、勝手に決めると悪いから」

 

メイプルは申し訳なさそうに断った。

 

「……いや、先に始めてて、更にそんな装備手に入れてるのもかなりヒドいと思うけど」

 

冷静に突っ込むヒロチー。

 

「大丈夫…ってのもどうなのかな。とにかく、私とダイアナは、しばらく二人でプレイする事に決めてるから」

「あの、ね。この間会ったプレイヤーの人に、キャラクターを育てる楽しみっていうのを教えてもらったんだ。でも、ケーマくんと一緒だと、つい頼っちゃうと思うの」

「だからしばらくは、二人でそういうのを体験してみようって事になったのよ」

 

二人の説明を聞き、ケーマはほうと呟く。

 

「二人は、なかなかいいプレイヤーと出会えたようだな。ボクはギャルゲーで迷う者のために攻略サイトをアップしているが、出来るなら自分で考え、悩み、攻略して欲しいと思っている。それこそが作り手とプレイヤー、そして攻略女子にとっての最高の関係だと思っているからな。

残念ながら、どうしても行き詰まってしまう者もいるからこそ、攻略サイトというのが存在しているのだが」

 

最後は、自身を含めた攻略サイトと持論との矛盾に言及しているが、これがケーマの偽らざる気持ちである。

 

「一緒にプレイ出来ないのは残念ですけど、そーいう事なら仕方ありませんね」

「だね。でも一緒にプレイしたくなったら、いつでも声かけてよ」

「私も、時間が合ったら一緒にプレイしたいな」

 

ケーマの後に続く三人。

 

「ケーマ、エリー、ヒロチー、アポロ…。うん、ありがとう」

「ゲーム内だと、私も少しだけ積極的になれる気がするし、がんばるよ」

 

賛同を得られた二人は改めて、NWOを楽しもうと心に誓うのだった。




あらすじにも書いたとおり、行き当たりばったりなこの作品。エルシィの【挑発】がこんな所で役に立つとは思ってませんでした。
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