ギャルゲーじゃないので嫌だけどバグ妹(まい)にせがまれたのでVRMMOをやる事になった。 作:猿野ただすみ
アポロの初戦闘に付き合ってから、しばらくが経ち。
「桂木ー、運営からの通知見たー?」
舞島学園3-Bの教室で、ちひろが桂馬に語りかける。桂馬はPFPでギャルゲーをしながら、気のない感じで答えた。
「ああ。第1回イベントの告知だろ?」
「そうそう! 10位内に入った人は記念品贈呈! ゲーマーとしては、なかなか興味深いんでない?」
ちひろは焚き付けるように言うが。
「残念だが、ボクはイベントに参加する気はないぞ?」
「えーっ! なんでさー!?」
文句を言うちひろに、桂馬は冷静な口調で答える。
「今回のイベント、バトルロワイヤル形式…つまりPvPというやつだろ? ボクは人が死ぬ展開は嫌いだ。それがたとえ、すぐに復活するシステムだとしてもだ」
「あ。それでにーさま、最初のうちは私の誘いを断ってたんですね?」
と、えりが話に割り込んだ。
「メインの理由はギャルゲーじゃないからだが、それも理由のひとつなのは否定しない」
「そっかぁ。それじゃあ無理強いなんて出来ないよね」
そう言うちひろは、少し寂しそうだ。
「……イベントには出ないが、レベル上げやスキル探しくらいは付き合ってやる」
「えっ、ホント!?」
一転、ちひろは笑顔に変わる。
「ああ、そうだ。イベントに出るなら…」
そう言うとゲームをセーブして一旦終了し、PFPをネットに繋ぎ、何やらデータを引き出して。
「とりあえずイベント中は、このメンバーには当たらないように気をつけろ」
そう言って見せつけたのは、NWOのプレイヤーの顔と名前だ。ちひろはPFPを受け取り、その名前を読み上げていく。
「えーっと、ペインにドラグ、ドレッド、フレデリカ…」
「えっ?」
突然反応したのは、聞き耳を立てていた歩美だった。
「あれ、歩美さんの知り合いですか?」
耳聡く尋ねるえり。歩美はそれには答えず。
「ごめん。ちょっと見せて。……あ、うん。この人だ。桂木。私にキャラクターを育てるのを楽しむように言ってたのは、この人…フレデリカさんだよ」
「ほう?」
興味を持ったのか、桂馬が真剣な表情になった。
「……歩美。お前はこのイベントに出場するのか?」
「え? あ、うん。天理と相談してからだけど、今回は順位とか関係なく、自分の実力を測るために出ようかな、とは思ってる」
「そうか」
そう答えた後、桂馬は少しだけ考え込み、次のセリフを口にした。
「それならボクからの忠告だ。もしイベント中に知り合いと出会っても、気を許したりするなよ? PvPのイベントに出場する奴は、割り切って考えられる奴が多い。知り合いでも平気で攻撃してくる可能性は、充分にあるからな。……だからMMOはあまり好きじゃないんだ」
最後のは、桂馬自身の愚痴がこぼれただけである。
「そ、そうなんだ。うん。ありがと」
桂馬の憤りを感じながら、歩美は素直に礼を述べる。
「その辺は、うちらも気をつけんとね。さて、他の注意人物は、と。ええと、ミィ、それに…え? メイプルも?」
予想外の名前に目を丸くするちひろ。えりと歩美も驚いている。
「ええと、にーさま? メイプルさんは、私達と同じ日に初ログインした新人ですよ? それがどーして…」
「メイプルは確かに新人だが、中ボスクラスをソロで倒したんだぞ? その結果ユニーク装備を手に入れ、更に効果は不明ながら、【毒竜】なんてスキルも手に入れている。因みにこの間見せてもらったステータスのVIT、同じ防御力極振りの大盾使いであるボクよりも遥かに高い」
『え…』
これには三人とも、続く言葉もない。
「ボクは1時間、ノーダメで敵の攻撃を受けきっていたら、【絶対防御】というスキルを手に入れた。おそらくメイプルは、そういったスキルを複数所持しているんだろう。並の攻撃力では、ダメージを与えるのは無理だろうな」
メイプルの様な希有な、もしくは特異なプレイヤーへの興味だろうか。桂馬は少し面白いものを見ているかのような表情となっている。
(……だが、そうなると
桂馬は心の内で、そう呟いた。
所変わって美里東高校。3-Aの教室で携帯電話の画面を見つめるひとりの少女。
「……第1回イベント、かぁ」
そう呟いたのは天理だ。運営からの通知を見てのひと言である。
「ん? なんや、鮎川がプチプチしてないなんて珍しいなぁ」
その様子に声をかけたのは、クラスメイトの榛原七香。数少ない天理の友達(?)だ。
「……何見てん?」
ケータイの画面を見ていた天理に尋ねる。
「あ、えーと…。VRMMOの、イベントの告知…」
「え? 鮎川、ゲームなんてやるん?」
結構失礼な発言だが、天理の性格を知っていればそれも致し方がない。天理自身も、当然それを理解している。
「あの、他の学校のお友達に誘われて…」
「ええっ!? 鮎川に友達おったんか!?」
「それはさすがに失礼だよ?」
天理にしては珍しく、ツッコミを入れる。
「いやー、冗談やて! 一応うちだって友達や。他に友達いてもおかしくないし」
そんな事言われて、むーと唸る天理。
「まあ、それはどうだっていいんよ。それよかゲームの事や。VRMMOって、バーチャルな世界でやるゲームやろ? 鮎川はどないなゲームしとるん?」
「ふぇっ? えっと、【NewWorld Online】って言う、……戦闘型シミュレーションゲーム、になるのかな」
正確にはRPGに分類されるが、戦闘面にのみ重きを置けば、戦闘型シミュレーションもあながち間違ってはいないだろう。
「……なんや、鮎川のイメージに合わないんやけど」
「自分でも、そう思うよ。……でも、友達と一緒にレベル上げしたり、他のプレイヤーに助けてもらったり。それが楽しいな、とは思ってるんだ」
どうやら歩美の策は上手くいっているようだ。それは七香も感じ取ったらしく。
「……鮎川、少し変わった?」
「ふぇ?」
「なんてゆーんやろな。積極的になった? いや、ちゃうな。……あんま賢い表現できひんけど、思ってること、普通に口に出して言えるようになった、みたいな感じや」
「……?」
七香の言っている意味がイマイチ理解できず、キョトンとしている天理。それもそのはず、彼女はあまり積極的には話さないものの、必要に迫られれば今までだって、自身の思いを伝えることはあったのだ。
「……ひょっとして、自覚無いんか? 鮎川ってなんか伝えるより、ほとぼり冷めるまで逃げるタイプやろ」
「……あう」
天理は、七香から将棋の勝負を迫られて逃げ回っていたときのことを思い出し、変な呻き声を上げてしまう。
「それになんか伝えるときも、変に緊張してるっちゅうか、自信が無いっちゅうか、とにかくそんな感じなんよ」
確かに、天理は何か会話をするとき、かなりの緊張を強いられている。それは、長いこと自分の中に棲まうディアナに対してにすら、僅かながらも感じていることだ。
「けど、今、ゲームの事話してた鮎川は、ホントに自然やった」
そう言われた天理は、イマイチ自覚が持てずにいた。が。
(榛原さんが言うとおりですよ、天理。あなたはいい意味で、少し変わったと思います)
(ディアナ。……そう、かな?)
(ええ)
ディアナに肯定され、少しだけ自信に繋がる。そんな天理に対して、「後はもう少し欲を出してくれれば」などと思ってはいるが、さすがに彼女に伝える気は無い。
「榛原さん、ありがとう。自分でも気づかなかった変化を教えてくれて」
「気にする必要なんてあらへんよ。お礼ならむしろ、鮎川誘った友達にした方がいいんちゃうか」
「そう、だね。うん、わかったよ」
天理は軽く笑みを浮かべ、頷き答えるのだった。
一方。放課後に家へと帰ったメイプルこと楓は、パソコンを開き、遅まきながら運営からの通知を知った。
「ええっ、第1回イベント!? しかも上位入賞者には、限定の記念品を授与! ううー、限定品、欲しいなあ」
楓は限定と名の付く物は、地雷とわかっていても欲しくなる性格なのだ。
「でもきっと、私より強い人もたくさん出場するだろうし…。うう、どうしよう」
自身の異常な防御力に気づいていない、楓である。更には【毒竜】などという特殊なスキルが、現段階においてどれだけ異常な能力かなど、ゲーム初心者の上にやや天然な彼女には知る由もない。
「……もっともっとレベルを上げて、VITを上げる? でも、提供開始から始めた人は、かなりレベルが上がってると思うし、簡単には追いつけないよね」
実際はレベル差を加味しても、「メイプル」の防御力を貫けるだけの攻撃力を持ったプレイヤーなど、ほんの一握りしか存在しないのだが。
「……あれ? そういえばこの間、【シールドアタック】ってスキル覚えたけど、あれって大盾使いの専用スキルなんだよね? ……という事は」
あることに気づいた楓は、攻略掲示板のサイトを開いた。
「……やっぱり! 【大盾の心得】に【体捌き】、それに【攻撃逸らし】! そっか、ダメージ軽減スキルを取得すればいいんだ!」
スキルによるダメージ軽減は、一般的なゲームプレイヤーなら簡単に思いつくことではあるが、楓は本当に殆どゲームをしたことがなかったため、すぐにはその発想に至らなかったのだ。
「あとは…、そうだ。毒耐性持ち対策で、他の珍しい攻撃スキルを手に入れるってのもアリだね!」
そう考えてサイトを調べるものの、これといった情報はない。毒耐性は【毒竜】へと進化済み、それに伴い毒攻撃、更に付随して麻痺攻撃すら手にしている。それ以外の攻撃スキルは、大体他の人達も手に入れている、ありきたりなものばかり。そもそも珍しいスキルを手に入れたいなら、みんなが閲覧するような攻略掲示板を見ても意味はない。
「うーん…」
しばらくしてその事に気づいた楓は、唸りながら、今度はモンスターの方を色々と調べていき。
「爆発テントウ? ……爆発の魔法! これ、結構いいんじゃない!?」
存在するかはわからないスキルだが、楓は既にスキル取得の可能性しか考えていない。
「ええっと、発生地点は…。うえっ、結構遠い。私の足じゃたどり着くまで、結構時間がかかっちゃう」
そこでうんうんと頭を悩まし、数分後。
「……とりあえずモンスターを狩って、寝袋を買うお金を貯めよう。後は、休日に時間をかけて攻略だ」
とりあえずの指針を決めるのだった。
……これが後に、とんでもないスキル獲得に繋がっていくとは、楓のみならず、運営ですら知る由もなかった。
携帯電話……スマホと書きたいところですが、あえて神のみ側の原作準拠にしました。
しかし、近未来的ゲームシステムがあるのにガラケーというのが、かなりチグハグな感じです。
あと、七香の関西弁は大目に見てください。