「いてっ…………つつ…………!」
「無茶をしすぎです、シロー様」
シローの頭に乱暴に消毒液をつけるクロエ。態度にも出ているように、確実に怒っている。
「だから、済まないと何度もいって」
「済まない、で済むなら世の中にあらゆる公安組織は必要ありません」
腕組みでそっぽを向くクロエ。額を手で押さえてしまった、という風な表情をするシロー。そして、クロエがちらりとシローを見る。
「…………まぁ、シロー様の手料理なら…………許してあげないことも…………はっ!?私はなにを?」
聞かれてないかとキョロキョロと周りを見渡すクロエ。取り敢えずシローはクロエの頭を撫でることにした。
「わ、私はまだ許して無いですよ!」
腕を振って抗議するが、旗から見れば可愛らしいだけだ。
「うう…………」
クロエが目に涙を溜め始める。後少しすればぐずり出すだろう。シローは手を離し。
「済まん…………悪かった。」
「…………今回だけです…………」
この後数時間はクロエは顔が真っ赤だった。
「はぁ、しかし、ラウラ達も大変だったな?」
臨海学校を終えて、学園へ戻ってきた一夏達。福音は一夏が二次移行《セカンドシフト》を果たし、専用機持ち全員で、福音は撃墜された。
「…………」
終始、何かを考えているラウラ。
「…………ウラ」
「…………」
(やはり腑におちん。仕方があるまい。こうなればクラリッサに調べさせるか)
「ラウラ!」
「うわぁ!?」
似合わない素っ頓狂な声を出すラウラ。反射で一夏の顔に裏拳を打ち込む。
「い、いい、いきなり後ろから強く叫ぶな馬鹿者!」
「おおお…………、いや、何度呼びかけても反応しねぇからよぉ」
「む?そうか、ならば私の責任だな」
潔く自分の非を認めるラウラ、軍人らしいといえば軍人らしい。
「もしかして、臨海学校の?」
「…………ああ。」
最後あたりのシローの180ミリキャノン砲。ラウラはあれがどこに撃たれたのか。一夏の話を聞いた時、確信は無いが、犯人と繋がっていると考えた。
「…………ふむ、一度教官にこのことを離してみるか。」
ラウラは、千冬のいる寮長室に向かった。
「篠ノ之 束!聞きたいことがある!」
「わかってるよー、小隊のことでしょ?」
まるでシローが来るのをわかっていたかのように振る舞う束。対してシローはかなり怒っている。
「どうしてだ!お前の情報収集能力ならわかっていてもおかしく無いはずだ!」
「あははっ!流石の束さんも未来のことまではわかんないよー」
「なに!?」
「福音が暴走した直後に指令が下ればいくら束さんでも、ねぇ?」
片手でコンソールを扱いながら、右手の指で空中に縁を描くようにくるくると回しながら答える束。
「まぁ、でも今回は完璧に私が悪いね。しっくんに忠告し忘れちゃったから。だから、」
束はシローに近づき、あるものを渡した。それは情報が入ったメモリーカード。
「少しだけ休みを上げる♪」
「はぁ、なんでこんな事に…………」
シャルロットは今、執事服を着ている。何故か、それはラウラとレゾナンスで買い物をしている際、困った風な女性を見かけ、声を掛けたところ、バイトに誘われてしまったのだ。
「ふむ、貴重な経験と言えるな」
ラウラはメイド服に着替えている。
「いきなりごめんね〜!でも今日だけ!お願い!」
「あはは、大丈夫です…………はぁ、」
シャルロットはため息を尽きながら、仕事を始めた。そして、始めて二時間ほどした時である。
「…………」
一人の男が入ってきた。白い帽子をかぶった男、シャルロットは迷わず仕事に徹する。
「すまない、給水器が近くの席が良いんだが…………」
「わかりました、此方へ!」
シャルロットは快活に声を出し、男を席に案内する。
(あの時の、オレンジ色のラファールの搭乗者か)
男は軽く、シャルロットを見ると、配られたメニューに目を通し、レモネードとレモンパイを注文する。
「ふぅ、」
レモンパイを軽く口に入れ、息を吐く。しばらく食べていない甘いものである。少しだけ肩の荷が下りたような気がした。
(…………よし、切り替えるとするか。)
男が席を立った瞬間。
「動くんじゃねぇ!ぶっ殺すぞ!」
銃を持った男達が入ってくる。何人かは普通のハンティングライフル。もう何人かはショットガンを持っている。
「お、おい!これに金を入れろ!」
男の一人が金を要求する。すでに店の周りは警察が取り囲んでいる。シャルロットとラウラがアイコンタクトで合図を送り制圧しようと動こうとした時。
「おい!てめぇ!動くなって言っただろ!」
一人の男が動いた。先ほどシャルロットが案内した男だ。
「少し喉が渇いただけだ。飲み物くらいゆっくり飲ませてくれ」
男は席を立ち上がり、コップを持つ。白い陶器でできたコップ。男は飲み物を口につける振りをして、そのままもどす。
「飲んだな!?動くなよ!」
男は小さくため息を付く。
「わかった、つまりこういうことだろ?動くな」
そう言って、目の前の男にコップを投げつける。男が其れを手で払いのけた瞬間、男は腹部に肘を撃ち込まれ、気絶する。
「て、てめぇ!」
其れに気づいた男が再び銃を向ける。男は気絶させた男から奪ったハンドガン、グロック17でその男の両大腿部を撃ち抜く。
「ぎゃあ!?」
「くそっ!?」
さらに続けざまに銃を向けて来るが、全員がどちらかの大腿部を撃たれ、行動不能になる。すると残った男が人質を取る。
「このクソ野郎!動くんじゃねぇ!こいつがどうなっても良いのか!?」
シャルロットとラウラがしまったと顔をしかめる。が、男の顔は口元だけしか見えてないが、揺らいでいない。
「銃を捨てろぉ!」
男は、大きく振りかぶり、振り抜くと同時に引き金を引いた。そして、男は右の鎖骨を撃ち抜かれ悶える。
「なに?」
「なんだ今のは…………」
男は仕事が終わったとばかりにその辺に銃を捨て、
「銃弾が曲げれないと誰が言った?」
そう言って、男達をロープで縛り、店の裏口から出て行った。男がやったこと。それは、あの特殊な撃ち方で銃の弾道を湾曲させただけだ。男の銃傷の角度から事実を物語っている。
「すごかったね、ラウラ」
「…………ああ」
二人はその場に立ち尽くしていただけだった。
その頃、08小隊の隊舎では、
「ええ!?」
「本当かい!?キキ!」
「うん……あの場にいたから間違いない。」
驚きの声が上がっていた。キキがあの日の帰り際にあるものを見たという。
「…………わかった、信じるよ…………、隊長があの"白い戦神だって可能性をね」
彼らは少しずつではあるが、真実へと近づいて行く。彼らが見るは鬼か人の子か。それは誰にもわからない。そしてそれは、
「どうだ?クラリッサ?」
『ええ、隊長。間違いありません。
シロー・アマダは、08小隊にはおりません。おそらく、篠ノ之 束と行動している可能性が高いものと思われます。』