「戦神…………!」
一夏は、アリーナで訓練に没頭していた。ターゲットは普通だが今の一夏には、戦神、シローに見えていることだろう。
「落ちろ…………」
雪羅の荷電粒子砲『月穿」で撃ち抜く。
「落ちろ!」
雪片でターゲットを切り裂く、
「落ちろぉ!」
雪羅のクローでターゲットを粉砕する。
「まだだ!まだぁ!」
狂ったように訓練を続ける一夏。彼の脳裏には昨日の出来事が、あの映像がリピートで繰り返され、こびりついていた。
(二度と、あんなことさせねぇ!)
「まだまだぁ!」
今日も日がくれるまで、一夏はアリーナを飛び回った。
「やあやあ、しっくん。前回はお疲れだったねぇ。いっくんも少しばかり教育してくれたみたいだし、束さん大助かりだよ〜」
ニコニコと満面の笑みを浮かべて束はシローに近づく。
「それより、次の仕事はなんだ?次に亡国機業がしかけてくるのはいつなんだ?」
「んもう、せっかちだなぁ。次は多分キャノンボールファストだねぇ。そこでしっくんにはぁ、はたまた敵さんの見敵必殺をお願いしたいなぁ?」
シローは何も言わずに首を縦に振る。
「うん!よろしい。一応その次のお仕事も言っておこうか。また、ゴーレムのデータ取りかなぁ」
ため息を吐きつつも、首を縦に振るシロー。
「んじゃ、お仕事報酬特別ボーナスぅ〜」
束が、端末にある情報を、送信する。シローはその情報に目を通したあと、驚愕する。
「…………っ!バカなっ!」
「ちなみに、これは今日の朝に出された命令らしいよ?」
「あの人がこんな命令を下すわけが無い!ならば軍上層部か!」
シローは奥歯を噛み締めながら言う。束から渡された情報は…………。08小隊の前線配備命令だった。
「あぁ、オータム…………」
あるホテルの一室である。金髪の女性が窓に手を当て、空を見ながら恋人の名前を呼ぶ。
「待ってて、すぐに仇はとってあげる。」
彼女、亡国機業実働部隊幹部、スコール・ミューゼルは恋人にそう告げると自分の機体を展開する。金色のその機体は、彼女の愛機。名前を、ゴールデン・ドーン。
「M?」
「どうした?」
「貴方は作戦を遂行して頂戴」
「お前はどうするのだ?」
「オータムの弔い合戦よ」
機体を再度戻してから、部屋を出て行く。Mと呼ばれた少女は、ため息を吐く。
「敵討ちなど…………いくらヴァルキリーといえど、死ぬぞ?まあ、私には関係の無いことか」
そう言って、Mも部屋を出て行く。彼女は自分に言い聞かせた。"私は弾丸だ。目標に向かってまっすぐ飛んで行くだけ"と。
「はぁ、やはり前線配備か。」
「しっかしまあ、こうして生きてるだけでもねぇ」
08小隊隊舎、彼らは前線配備が決まった後ものんびりとしていた。前線配備など彼らにして見れば、今更、と言った雰囲気である。
「前線か…………隊長に何て顔向けしたら…………」
テリーが項垂れて、顔に手を当てて言う。
「まあ、ちゃっちゃと終わらせて帰ってくれば良いのさ。」
カレンは前向きに捉えている。顔は苦笑いだが。
「さて!行くよ!さっさと終わらせて帰ってくりゃ良い話だ!」
「「「「「「おお!」」」」」」
キャノンボールファスト。それはISによる超高速のレースである。モンド・グロッソの正式競技の一つであるため、操縦者には必ず通る関門だと言える。
「ふう、おし!」
一夏はほおを叩く。IS学園の行事の一つキャノンボールファスト。今はその専用機部門である。そして、それがもうすぐ始まろうとしている。そして、
「レディー…………ゴー!」
シグナルが青になり、全員が一斉にスタートした。キャノンボールファスト、全員が高速戦闘仕様にしている。その遥か上空では、
(くそっ!早く向かわなければ!)
Ez8がビームライフルとシールドを装備して、その様子を見ていた。
「ここからあそこまでは何分で着く!?」
『だいたい全速力で飛ばせば10分ほどかと』
「ちっ、何事もなければいいが…………」
シローのその危惧は、シローの想いとは裏腹に実現することになる。
『マスター!機影確認!…………イギリスのサイレント・ゼフィルス!」
「ちっ!このクソ忙しい時に!」
どうやら彼方もこちらを捉えているらしい。その時彼方のゼフィルスからプライベートチャンネルで通信が入る。
『戦神か、お初にお目に掛かる』
「何のようだ?」
『聞いてくれるなら話が早い。私は今、貴方と敵対する理由が無い。それゆえ、私はこのまま帰るつもりだ。』
「なるほど、見逃せ、と言うことか…………」
サイレント・ゼフィルスが自前のレーザーと実弾のハイブリッドライフル、『スターブレイカー』を収める。
「なるほど、敵対の意思なし、か…………」
シローもビームライフルを収める。
「だが、信用は出来ないな。俺はある人に頼まれてここにいる。お前は、俺があそこに集中した途端に後ろから襲うかもしれん。」
『なるほど、ならばこれで信用できるか?』
ゼフィルスのパイロットがバイザーに手をかけ、外す。シローは驚く、彼女の顔は織斑千冬と同じだったのだから。
「…………、なるほど、ならば俺も其れ相応の態度を見せなければいけないな」
シローもヘッドパーツに手を掛ける。今度は彼方が驚く番だった。戦神の正体が男などと誰が想像できようかと思っていたから。
『…………まさか…………』
「さっさと行け、今の俺は非常に機嫌が悪い。後この事は他言無用だからな。」
『…………なるほど、痛みいる』
すると、両名のハイパーセンサーに大量のIS反応が灯る。
「ちっ!面倒臭いことに!ゼフィルスのパイロット!早く行け!」
『すまない、ーーーこの借りはいつか…………』
「さっさといけと言っている!」
サイレント・ゼフィルスが急かされるようにその場を離れる。シローはビームライフルの確認をすると、ヘッドパーツを元に戻す。
「仕方が無い、五分だ!」
反応は打鉄四機、ラファールリヴァイブ四機。おそらく学園の教師たちだろう。
「大人しく投降してくれるとありがたいんだが…………」
「この数の差はひっくり返せないでしょう?」
シローはゆっくりと周りを見渡すと、
「御託は良い、とっととかかってこい。」
その言葉と共に、教師たちはシローに挑んで行った。