というわけで裏切り者が今回出ます
「くそっ!」
ある一人の人物が追いかけられている。それは金髪を全てオールバックにして、高そうなスーツを着た、男だった。男の名前は『ジュール・デュノア』。そうデュノア社総取締役社長である。
「なぜだ!私は…………、私は!社の未来のために!」
「ついて行くのはこりごりなんです。社にも、国にも」
銃を突きつけているのは、少女だった。金髪を後ろで纏めていて、その顔立ちは中性的でよく見れば少しばかり男と似ていた。
「どうしてだ!どうして奴らに寝返ったんだ!」
男は、娘の名前を叫んだ。
「シャルロット!」
男に、実の父親に銃を突きつけていたのは、男の実の娘、フランス代表候補生、シャルロット・デュノアだった。
「国から?」
ある日である。IS学園にいたシャルロットにフランスからメールが来たのだ。
「一体……………?まさか…………ね?」
シャルロットはメールの受信箱を開く。新着を見ると、一番最新で届いたメールは赤かった。
「………………さしずめ赤紙のメール版ってとこだね」
たちが悪いや、と思いながらシャルロットは全てを悟った。赤紙、とはかつて第二次世界大戦時に日本軍が徴兵するために使った手法だ。徴兵される人に届けられた紙が赤かったことから赤紙と呼ばれた。
(つまり、私にも戦えってことか…………)
シャルロットはある人物に電話をかけた。それは自分の担任だった。
「赤紙ならぬ、赤メールか…………」
「と言うわけです」
「………………済まないな」
「なんで織斑先生が…………」
「元は私の幼馴染が原因だ。すまない」
「………………私は大丈夫ですから」
シャルロットはこの次の日に学園を後にした。
「………………」
フランス本土では、はるか上空で戦闘、否、蹂躙が行われていた。黒い機体が、グリフィネスが、ただひたすらに追いかけては殴り飛ばし、殴り飛ばしては追いかけの無限ループだった。
「くそっ!」
「しっきりしなさいよ!」
「じゃあ、あんたがやりなよ!」
相手の三人は口々に言い合いをしている。グリフィネスは、シローは内心呆れていた。
(戦闘中だぞ?なんでそんな言い合いが出来る?つくづく救えないな)
シローはアームドアーマーVNを熊手状に展開。瞬間加速で距離を詰め、まず手前のラファールを引き裂く。
「「ひぃ!?」」
「もういい、邪魔だ。」
アームドアーマーBSで、二人まとめて両断する。アームドアーマーBSはその通り、叩き斬ることも両断することも可能である。
「ふぅ……………これで何機目だ?」
『十機目ほどかと、全く、お姉様方ったらだらしが無いんだから、紅椿お姉様やしろき…………白式お姉様の方がまだ………』
グリフィネスのコア人格すら呆れている。途中大変なことを言おうとしたがシローはあえて触れない。
『ーっ!マスター、接近する機影を確認、波長パターン、あの時のラファールカスタムです。』
「やはり来たか…………」
すでにシローは振り向いて反応のあった方を向いている。だが、その反応はまだ遥か先だった。
グリフィネスのレーダーの索敵範囲は通常のIS3倍に相当する。理由はアームドアーマーBS。これは待機形態の時は超高感度センサーとして機能する。したがって、下手な探索機や狙撃機より索敵範囲は広い。
「………………」
シローはアームドアーマーBSをビームスマートガンで展開、反応の接近してくる方向に向けると、
「………………」
容赦無く引き金を引く。アームドアーマーBSから、光がほとばしり、雷状のビームがうねりをあげて飛んで行った。
「………………」
(あーあ、やっぱりこうなるんだ…………)
シャルロットはフランス本土のはるか上空を飛行していた。
いきなりフランスに呼び戻され、与えられた任務はグリフィネス、ー世界では徐々に"黒い幻獣"と呼ばれているー、
の撃墜任務。しかも単機だ。
(………一夏に告白………しとけばよかったかな?)
シャルロットは浮き出て来た、一つだけ残した後悔を噛み殺し、前を向く。すると。
(ーーっ!?高エネルギー反応!?来る!)
すると、目の前を雷状のビームが飛んでくる。
「ーーーっ!?」
急な事態に、変則軌道で回避する。
「このビーム……………やっぱりいるんだ…………」
シャルロットは諦めモードに入りつつも、機体をさらに加速させた。
『マスター』
「まあ、このくらいは回避出来るだろうな」
アームドアーマーBSを待機形態に戻し、片手だけで180ミリキャノン砲を構える。
「だが、俺もタダで帰してやるわけにはいかないからな」
シローが装填したのは、ある特殊な弾種。
「いけぇ!」
その砲弾は真っ直ぐにシャルロットに向けて飛んでいく。
「あれは……………!」
轟音と飛んでくる反応から砲弾と理解したシャルロット。アサルトカノン『ガルム』を展開して乱射、砲弾を自分の目の前ギリギリで撃墜する。そして、
「な、何?」
撃墜した瞬間、周りが黒く覆われている。おそらく煙幕なのだろうが、いかんせん暗すぎる。普通の煙幕ではないことがはっきりとわかる。
『マスター、かかりました』
「見ればわかる、」
シローはアームドアーマーBSをビームスマートガンで展開すると、その黒い高密度の煙幕に向けて放った。
(来る!)
シャルロットはシールドを構えて直撃に備える。この普通ではあり得ない暗闇の中、下手に動くより、待ちに徹した方が被弾率が少なくて済む。そう、普通の暗闇ならば、の話である。
「っ!?」
(えっ!?急に明るく……………不味い!)
シャルロットは暗闇の中心より可能な限り離れる。光の正体は先ほどシローが撃ちこんだ、アームドアーマーBSのビーム。この煙幕、ビームを拡散させる特殊な水晶体と、微細な、アルミニウムを付着させた特殊なミラーが仕込んである。そこの水晶体に撃ち込まれたビームはその水晶体の特殊な層構造により、数十に拡散される。さらにそれをミラーが反射する。つまりは、それすなわち、ビームの檻である。
「本当に……………‥悪い冗談だよ!」
離れていたシャルロットですらあっという間にビームの檻にとらわれる。だが、反射角は入射角に等しい。そして、反射とミラーの角度は常にランダム。ゆえ、
「くっ!?」
ウイングの片翼を反射されたビームに撃ち込まれ焼き切られる。この様にミラーは常に移動と反射を繰り返している。確認はできないがその数、数百はくだらない。それゆえ、変則軌道を描き飛んでくる事もある。
(相手も見えない……………、こう動かされちゃ狙撃もできない。セシリアみたいに得意じゃないからね……………。なんとか此処から……………‥)
この暗闇から抜け出そうと、シャルロットは縦横無尽に飛び回る。その様子をグリフィネスのコア人格は。
『無駄なんですよ、無駄無駄無駄無駄ぁ!マイスターが作った、このリベルダス・スペクトル(自由なる鏡)!避け切れるものなら避け切ってみやがれってってんですよぉ!』
実のところ、ミラーはある程度、このコア人格の思い通りに動かすことができる。と言っても、直進、停止だけだが。
「この!」
『銃なんぞ使ってんじゃねえですよ!』
レッドバレットを向けた瞬間に反射されたビームに撃ち抜かれる。
「っ……………‥!!」
(ここにいちゃ不利だ、何とかして抜けないと……………!)
シャルロットは踵を返し、瞬間加速で暗闇からの脱出を図るが、
『その場に後退の二文字はねえってんですよ!』
サブスラスターの数基を撃ち抜かれる。残りのウイングも撃ち落とされ、体制が大きく崩れる。
「しまっ!?」
『しずめってんで……………‥、ん?』
グリフィネスのセンサーが何かを捉える。高速で接近する多数の熱源反応。
『ちっ、このクソ忙し……………い……………?』
グリフィネスのコア人格が言葉を濁らせる。理由は、その熱源が自分の予想外だったものだったから。
『マスター!これ、地対空誘導ミサイルですよぉ!』
「……………‥!そういうことか!」
シローはビームが飛び交う暗闇の中に突っ込み、シャルロットに呼びかける。
「止まるな!動き続けろ!」
「っ!!」
突然あげられた声に驚くが、状況を見てそれがいいと判断したシャルロットはシローの言う通りに動き続ける。暗闇では次々とミサイルが撃ち落とされ、爆炎をあげる。
「っ!!」
「やはり、俺をこいつごと……………か」
『マスター、今のミサイルの発射地点が割り出せました!』
「束に送れ、あいつなら嬉々としてクラッキングぐらいはするだろう。」
『イエス・ユア・ハイネス!』
シローはシャルロットの方を見る。
「生きてるか?」
「どうして助けたの?」
「……………なんとなくだ」
素っ気なくシローは答える。
「まぁ、でも今のミサイルは地対空誘導ミサイル。当たれば絶対防御は貫通できるだろうな」
「……………まさか」
「あぁ、おそらく俺をお前ごと仕留めようとしたんだろう。」
シャルロットは乾いた笑みを浮かべる。瞳からはハイライトが消えている。
「あはは……………‥つまり私は使い捨てにされたわけか……………‥」
「……………」
いつかの自分の姿を重ねてシャルロットを見るシロー。すると
『マスター、マイスターからの通信です!』
「繋いでくれ」
『ハロー?みんなのアイドル?篠ノ之束だよ〜!』
「早く要件を言え」
『ぶー、まあいいや、そこの子に繋いでー?』
「?」
疑問に思いながら、シャルロットの回線に束の通信を繋ぐ。
「……………‥もしもし?」
『ハロー?お元気ぃ?まだ生きてる?』
「え、ええ、まだなんとか」
『ふふふん、それはそれはぁ、まあ良い事か悪い事か、まあどうでもいいねー。んじゃ本題ー。優しい優しい束さんは君を助けてあげようではないか」
「へ?」
『だから、君を捨てた奴を殺して来なよ』
「そうか!奴らに何か吹き込まれて!」
「いいえ?私は自分の意思でこうしている。僕から個人を奪い、挙げ句の果て、お母さん達まで奪ったあなたを私は絶対に許さない。」
実は、シャルロットの義理の、つまりは育ての母とシャルロットは実に良好な関係だった。シャルロットをひっぱたいたあとに、部屋まで来て、泣いて謝りながら抱きしめあったのは、シャルロットの産みの母と過ごした日々と同じくらい忘れられない思い出だった。それを一気に奪われた。
「ま、まて!全て、全て仕方がなかったんだ!」
「……………」
シャルロットは実の父親、ジュールの前に一つのファイルを、投げる。
「あなたがしてきたことのすべてですよ。これ見て、あなたの方を信じろ、という方が無理です。」
ジュールは顔を真っ青にして、ファイルを見ていく。
「これを……………どこで……………」
「白兎が届けてくれたんですよ。」
ジュールが、すべて諦めたように両手を地面につける。
「じゃあ……………‥サヨナラ。良い来世を」
シャルロットはそのままジュールの頭に銃を突きつけ、引き金を引いた。
「さて?どうだったかな?」
「ええ、もうこれで思い残すことはありませんね」
「うふふ、歓迎するよ?シャーちゃん?」
この日、シャルロット・デュノアは表から姿を消した。