ドイツ国境近く、白い機体が森の中を全速力でスラスターを吹かし、進んでいる。くすんだ白の全身装甲の機体。もちろんそれは、ちゃんと指定座標に向かい移動している。
(よもや、あの人の機体にそんなものが積まれていたとは…………。あの時大火力で封殺していてよかった。スキンバリアーが衝撃までは防げないことが幸いしたな。)
束から聞いたのは、ヴァルキリートレースシステムと言うシステム。シローもシステム関連は触り程度で聞いたことがある。軍部でカレンがEXAMシステムと言うシステムのパイロットにされそうになったことがあり、08小隊が本気で切れそうになった一件でもあったからだ。ちなみにもうすぐ日本軍はEXAMシステムを公式採用すると発表している。
『マスター、ダーゲット確認できました。』
「分かっている、静かにしていろ!」
スラスターを急停止、足でブレーキをかけ減速、完全に停止すると、180ミリキャノン砲を装備する。そして、いつかの様にシールドを衝立がわりに、砲身をのせ、構える。ちなみに今回の弾種は、炸裂徹甲弾。これを食らって無事な建物や主力兵器(戦車や巡洋艦、航空ヘリなど)はいない。
「………………………………」
しばらくの沈黙の後、動いた。
平穏な森の中に似つかわしくない轟音が響く。放たれた砲弾はまっすぐにターゲットに飛んでいく。そして、離れた場所で遅れて轟音が響き火の手が上がる。正直、シローも憤っていた。ヴァルキリートレースシステム。はっきり言って人の動きを真似るのも、EXAMの様に人の感情を利用するのもシローはどちらも嫌いだった。
「人は!命は!玩具じゃ無いんだぞ!」
Ez8の180ミリキャノン砲がもう一度火を吹く。徹甲弾は、建物を貫き、内部を砕き、徹底的に破壊して行く。
「銃身が焼きつくまでうち続けてやる!」
建物はほぼ半壊と言っていい。だが、束は潰せ。つまり徹底的に破壊しろ、一欠片も残すな。そう言っていたのだ。
つまりは全壊。中も外も。
「おおおお!」
立て続けに180ミリキャノン砲が火を吹き続ける。徹甲弾が尽きた為、劣化ウラン弾に切り替えた。焼夷性が少し弱いだけで弾自体の威力は変わらない。
『マスター!敵機確認!数、2!』
「やはりいたか…………。誤差修正に協力しろ。この距離から削れるだけ削る!」
『イエス・ユア・ハイネス!マイマスター!』
その会話が終わった瞬間。また、180ミリキャノン砲が火を吹いた。
「…………これが?」
「そうだ…………、クラス対抗戦の時に織斑、鳳、オルコットの三名を同時に相手取り、エネルギーが削れていたとはいえ、二名を戦闘不能にした、この機体。世界からは"白い戦神"とよばれているらしいがな。」
IS学園の一室、つい先ほど束に連絡を取り、その映像を手に入れた千冬が、その映像を専用機持ち全員に、見せていた。
「しかし…………ここまで…………」
「明らかに世代は私たちの方が上なのに」
「実戦経験でまけてるって感じだね。しかも圧倒的に、多分ラウラでも苦戦するんじゃ無い?」
シャルロットがラウラに尋ねるが、ラウラは映像を、まじまじと、観察し誰かと照らし合わせるように見ている。
「ラウラ?」
(あの戦い方…………何処かで…………)
「……………教官、今の所をもう一度、見せていただけませんか?」
「どうした?何か気づいたのか?」
「少し気になるところが」
ラウラは千冬に映像の巻き戻しを要求。もう一度その映像が流れる。そして、ラウラは確信する。
「確実に弾種を交換している。おそらく最初の方が徹甲弾だろう。そして、この次のリロードがおそらく劣化ウラン弾。」
「れ、劣化ウラン弾!?冗談じゃないわよ!あの大砲のデカさよ!?」
「しかし、既存兵器ではISは…………」
「いや、この次を見ろ。」
千冬が、端末を操作すると映像が切り替わる。日にちはタッグマッチの時。ある基地の映像である。女たちが上空からの爆撃に対し、高速で移動を始めるが、
「おかしい…………、あんな大口径なのに、どんどん射撃が精密になってる…………。」
「上空からなんでしょ!?なら飛んで行けばいいじゃ無い!なんでわざわざ!?」
「上空に行けない理由が?」
「馬鹿者、一番スピードが出にくいのは上昇なのだぞ?爆撃中の急上昇などどうぞねらってくださいと言っているようなものだ。それに仮にできたとしても、着くまでにエネルギーが持たなかったのだろう。」
「そんな高さからの爆撃…………航空機じゃ無いと無理だろ?」
ラウラは目を閉じてしばらく思考すると、唐突に目を開ける。
「いや、策ならある。おそらくだがHLVをリニアレールで上に打ち上げたのだろう。後は目標の高さになったら、そこから飛び出して、座標位置に向かうだけだ。そして、教官、この部分だけの映像データをコピーしてもらえないでしょうか?」
「どうした?珍しい。」
「いえ、思い出せないのですが…………似た戦い方をしていた奴がいたものですから。」
「なるほどな…………いいだろう。だが外部には漏らすな?必要なくなったら削除しろ。いいな?」
「はい!」
こうして、各人が量の部屋に戻って行った。そして、ラウラは…………。
「うむ…………」
(教官には悪いが、思い出せんと言う嘘まで付いてこの映像をもらってよかった。)
「また、見てるの?ラウラ。」
端末をシャルロットが覗き込む。
「うむ、どうしても腑におちん点が、な。」
「どこ?」
「まあ、いろいろだ」
(うむ、まだ確信は持てんが、あの戦い方以前模擬戦をした小隊の戦い方に似ている。確か08小隊、だったか)
早くも疑い始めるものが出てきていた。
「おおおお!」
白い機体は今だ帰らず、ある基地に襲撃をかけていた。それは、違法な人体実験の行われていた場所であった。
「クソがぁ!んな機体で!調子にのんなぁ!」
『マスター!?』
「黙ってろ!」
物理ブレードを、マシンガンの銃床で受ける。そして相手に蹴りを放ち、マシンガンを放ちながら一定の距離を取る。
「ちっ!旧式が!」
「全ては搭乗者たちの腕次第だろう!世代の違いが戦力の決定的差じゃ無い!」
機体の右大腿部からビームサーベルを引き抜く。
「クソックソックソッ!なんなんだよてめぇは!」
「何者でも!たとえ悪魔でも構わん!」
目前の敵にビームサーベルを突き立てる。最大出力のそれは、180ミリキャノン砲と同じく、絶対防御をゆうに貫通する。
「ぐっ!?がはっ…………チィ……バケ…………モンがぁ…………」
ビームサーベルを引き抜き、ビームライフルで眉間を撃ち抜く。
「化け物、か…………今の俺には、ぴったりだな」
シローは悲しげに空を見上げる。目にはあの時以来見せなかった涙があった。