ブルアカSS   作:うろ覚え

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カスミちゃん監禁モノ

 

 ゲヘナの風紀委員には幾つかのアンタッチャブルが存在する。自由と混沌を是とする校風は爆発と暴力によって彩られ、それを取り締まる風紀委員長である空崎ヒナがその殺人的な業務量に乱心し作られた『特別懲罰室』もその一つであった。

 

 陽の差し込まないジメジメした地下室に堅牢な鉄格子を備えた檻の中には空気穴が一つあるだけでそれ以外に何も無い。特別懲罰室の外から漏れる淡い光だけがこの部屋を照らしていた。

 

 「で、鬼怒川カスミ。申し開きは?」

 

 「ハーハッハッハ!温泉開発に爆破は必須っ!爆破こそ温泉開発なのだっ!」

 

 鬼怒川カスミは温泉開発の折に岩盤を発破する為の爆破を行ったが、それが原因で地盤が沈下し大規模な震災を起こした。

 

 ヒナは不眠不休で1ヶ月ほど後始末に追われた風紀員メンバー達全員を休ませる為に万魔殿のマコトが頷くまで説得(馬乗り顔面パンチ)を行ったのだが、実際に休日を貰ってみると日常の業務の多忙さ故に休み方を忘れていた。

 

 ふわふわのソファーでダラダラするのが好きだった。友達と遊んで、笑い合うのが好きだった。

 

 

 

 

 

 ・・・筈?

 

 

 

 

 ヒナは、自分が解らなくなった。

 

 

 

 

 

 「・・・わかったわ。じゃあ、貴女には暫く、ここに入って貰うわね。私が『良い』と言うまでに出たら、怒るから。」

 

 「(うん?ヒナの雰囲気が変わったか?まあ、いい。メグが助けに来る迄の辛抱だ。この程度の檻、いつもの様に容易く抜け出してやるさっ!)ハーッハッハッハ!それは恐ろしいな。では、暫くの間は大人しくしていてやろうではないかっ!」

 

 「ええ、そうして。お願いだから、そうして居て。」

 

 祈るかの様に呟くヒナの横顔が厭に記憶に残った。

 

 

 

 

⭐︎カスミ視点⭐︎

 

 

 

 ヒナが特別懲罰室から出ると、部屋の中はドアから漏れ出る僅かな光が照らすだけとなった。黒く塗られた鉄格子は闇に溶けて見えず、暗闇に慣れたと思っても、目の前に持ってきた指の数さえ見えない程の暗闇にカスミの背中に少しだけ怖気が走った。

 

 「ふふ、特別懲罰室などと言われて気を張っていたがこの程度の暗闇など大したことではないな。」

 

 それは、私の強がりだったかも知れない。そも、部屋で独り言を呟くと言うのは可笑しな話だ。暗闇に目が慣れ始めると薄っすらと檻の全体像が見える。

 

 「本当に、何もないな。天井に手首が入るだけの垂直な空気穴に地面はコンクリート床。この感じは、ッチ。ヒナめ、床にまで鉄板を敷いているな。」

 

 足の爪先でコンコンと床を鳴らせばコンクリートだけではない、複合的な材質の感覚が跳ね返ってくる。神秘を巡らせての突破は不可能、大人しく救出を待つだけとなりそうだ。メグ達なら、最悪の場合2、3日は掛かるだろうか。いや、流石に懲罰室から出されるのが先になりそうだな。その間に温泉開発をする事が出来ない事を残念に思いながらも次の開発地を何処にするかを考える。普段なら温泉開発をしながら温泉開発の事を考えれば良かったが、温泉開発を想いながらゆっくり過ごすのも重要だ。

 

 掘削作業を主としながらも如何に発破作業を多くする事が出来るかを考える。団結力を高める為に部員には手作業での堀削作業をさせている。温泉開発には団結が不可欠で、暗く狭い開発痕の中で作業する部員には通常以上のストレスが掛かる。強いストレスに晒されると叫び出したり、暴力的になって仲間に攻撃し出す部員すらいる。そんな過酷な中で作業を完結するには綿密な計画と少ない工数に何より団結、端的に仲間意識が必要。

 

 友達に殴り掛かる人間は少ないだろ?私のカリスマだけでは200名を越える部員を纏め上げる事は残念ながら出来ない。出来たとしてもそれに胡座を掻くのは馬鹿のする事。だから、各員で監視させる。リーダーとは方向を示す指針であって、先導と煽動に長けている人間の事を言うのだよ。

 

 「そう、この私の様になっ!ハーッハッハッハ!」

 

 声は響かない。コンクリートを分厚く塗りたくった部屋は防音に長ける。なんか、哀しくなってくる。

 

 硬く、湿気の帯びた床でゴロゴロと時間を潰しているとコツコツと階段を降りてくる音が聞こえる。音の主は残念ながら空崎ヒナ。メグが救助に来たのであれば急いで駆け降りてくる、か。

 

 「カスミ、これ、忘れてたわ。」

 

 「なんだ、この赤いボタンは。」

 

 檻の中に投げ入れられたのは黄色と黒の虎テープで装飾された四角い箱の上に赤いボタンが付いているだけの、自爆ボタンじゃないよな?

 

 「ご飯ボタンよ。押せば空気穴から勝手に出てくるから。じゃあ、」

 

 ご飯ボタンだとっ?反省室は1日も経たずに解放されていたが、下手したら数日はこの暗い部屋に閉じ込められると言う事か。

 

 「待ってくれっ!私はいつ迄ここに居ればいい?」

 

 「貴女が反省したと私が判断する迄よ。」

 

 ヒナはそれだけ言うと部屋から出て行く。取り敢えずは腹拵えでもするかとボタンを押すと手首程度の太さの空気穴からぼとり、とカロリーブロックが落ちて来た音が聞こえた。

 

 「へっ?」

 

 これ、だけ?

 

 「い、いや。そんなハズは。」

 

 もう一度、ご飯ボタンを押す。カチ、

 

 「え、」

 

 出てこない。信じられずにもう一度ご飯ボタンを押せば一本、カロリーブロックがぼとり、と落ちて来た。

 

 「あっ、焦ったぞ!ご飯ボタンの接続が悪いじゃないかっ!ヒナっ!?」

 

 この場に居ないヒナには聞こえない事は判っているが、文句も言いたくなるっ!と言うか包装すらされていないカロリーブロック1本とかどうなっているんだ!?

 

 落ちてきた衝撃で割れたカロリーブロックを口に詰めながら背中を濡らす冷や汗を乾かす為に赤いYシャツをパタパタとする。温泉開発を指揮していたのもあって、今日はどっと疲れた。夕方頃に特別懲罰室に入れられたから外はもう、夜だろう。

 

 「明日にはメグが助けにきてくれる。英気を養わねばなっ!ハーッハッハッハ!」

 

 

 

⭐︎

 

 

 

 「ぐぅ、困ったな。時間がわからない。」

 

 昨日は疲れていたせいかたっぷりと熟睡できた。目覚めも良く、ご飯ボタンを数回押して朝食を済ませて簡単なストレッチをしたが、部屋が暗いせいでどうにも身体の感覚がおかしい。脳がふわふわしている感じで落ち着かないまま、恐らくは数時間が過ぎただろう。

 

 何故だか落ち着かない。初めての感覚に段々ストレスが積もっていく。檻の中をぐるぐると回って居ると足音が聞こえた。

 

 ギィ、と扉が開くとともに階段を照らす蛍光灯の淡い光が差し込む。

 

 「おはよう。カスミ。様子を見にきたわ」

 

 「ヒナっ」

 

 「元気そうね。反省はしているの?」

 

 「も、勿論だ。」

 

 「メグが貴女を解放しろって煩くてね。あ、お水飲むかしら。ご飯しか出てこないから喉乾いてるでしょう?」

 

 流石に風紀委員長は突破出来ないと判断したのかストライキを起こしたか!部員達に怪我人が居ないなら直ぐに温泉開発に取り掛かれるぞ!

 

 「ああっ!頂くともっ!」

 

 ヒナから受け取った水を一気に飲み干すと活力が湧いてくる。ぼーっとしていたのは昨日から水分を摂っていなかったからだろう。

 

 「さて、残念だけど私は未だ貴女を解放する気は無いわ。」

 

 「な、何故だっ!いつもは日帰りで、「反省、して無いでしょう?」」

 

 ヒナは冷たい目で見つめてくる。睨んでは居ないがこの眼は。

 

 「カスミ、貴女は解放されたら直ぐに温泉開発に行くつもりだったでしょう?」

 

 「あ、当たり前だ!私は温泉開発部の部長だぞっ!」

 

 「だからよ。じゃあ、そう言う事だから。」

 

 「ま、待て。」

 

 ヒナは一瞥もせずに部屋から出ていった。

 

 何かがおかしい。本来なら風紀委員会は罰則以上に個人の行動を制限できないし、反省室に入れられても数日を跨ぐことは無い。いくらゲヘナとは言え人権保護の概念はある。ヘイローの破壊が禁忌である様に連邦生徒会が定める法は例え自治区の法的機関であっても違反できない。個人の人権侵害は連邦法違反であるからこそ、それを利用して好き勝手してきたのだ。

 

 「いや、前提が、崩れた、のか?」

 

 ゲヘナ自治区法違反の前例がある者は風紀員になる事が出来ない。逆説的に風紀員が自治区法を侵した場合、程度に寄っては部活動から除名される。

 

 風紀員はゲヘナ自治区法を侵せない。その前提が。

 

 「考え、過ぎか。」

 

 嫌な予感を頭から霧散させる為に頭を振る。自治区の治安維持を目的とするのであれば例外措置も取られる場合もある。メグ達が抗議して居るのはその例外的な措置に対しての事だろう。

 

 あのヒナが意味無く、必要以上に罰則を与える事などあるはずが無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう、自分に言い聞かせて9日が経った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 暗くジメジメした部屋にカチカチカチ、とボタンの押す音だけが響く。カチカチカチカチ、一定の音を響かせるだけのそれは単純な動作なだけに私の心を酷く苛立たせた。

 

 酷く、喉が渇いていた。あれ以降、ヒナはこの部屋に現れなかった。

水分の補給がない。たったそれだけで寝る事も出来ず、動く事も億劫になっていた。

 

 頭が、上手く回らない。早く温泉を掘り当て無ければ、喉が渇いて死んでしまいそうだ。唾液が出なくなって数日、腹も、減って居る。

 

 ご飯ボタンの接続が悪いだけだと思っていた。だから、初めの数日の内は【お腹が空いたら】ボタンを押していた。

 

 だが、違う。ご飯ボタンは押した回数毎に抽選が行われる確率機、若しくは予めボタンを押す回数が指数関数的に上昇していく様に設定されている。

 

 1が2に、2が4に。数十回も繰り返せば2の数十乗だが最早、それどころではない。昨日は1日中、ご飯ボタンを押し続けていたのに1度もカロリーブロックが出てこなかった。

 

 右手に在るご飯ボタンを親指で何度も押し続ける。初日にカロリーブロックを3つも食べてしまった事が悔やまれた。1口だけでも、残しておけば良かったのだ。

 

 カチカチカチ。

 

 カチカチカチ。

 

 カチカチカチカチ。

 

 ボタンを押す音と少し荒くなった自分の呼吸音だけが暗闇に響いて居る。

 

 もしかしたら、ヒナは私を餓死させる気なんじゃ。

 

 横になり、脳が動かない状態で指だけを動かして居ると外から階段をゆっくり降りる音が聞こえた。

 

 ゆっくりと扉が開かれる。

 

 「あら、カスミ。」

 

 「ヒ、ナ。」

 

 乾き切った自分の声は擦れていた。

 

 「忙しくて水を持って来るの、忘れてたわ。」

 

 「っつ!」

 

 ヒナの言葉を聞いて確信したっ!この女は、私を殺す気だ!

 

 怒りで目の前が真っ赤にそまった。初めて、自分の理性を飛ばす程に私は怒った。

 

 「ヒナッ!貴様!」

 

 「なに?」

 

 ヒナの冷めた目が、私を射抜く。それだけの事で私の怒りは萎んでしまった。ヒナの右手に水の入ったコップが見えたからだ。暗闇で僅かな外の光を反射して、輝いて、

 

 水が欲しい。

 

 「・・・っつ!・・・なんでも、ない。」

 

 「そう、じゃあ水をあげるわね。」

 

 はい、といって鉄格子を越して水の入ったコップが渡される。

 

 水だっ!

 

 私は受け取ったコップの水を一気に煽った。

 

 「んっ、ごくっ、ごくっ。うっふぅ。ヒナ、もっと水を、」

 

 渇いた身体に水分が入って来るのを感じる。喜びで胸が躍る。やっと、生きられる!

 

 「今日はそれだけよ。」

 

 「どう、して?」

 

 まだ、3口しか飲んで無い。直ぐに飲み切ってしまったせいで口寂しさだけが残り、苦しい。

 

 私は子供が急におもちゃを取り上げられた時の様に、只々、疑問を口にした。

 

 「それしか無いもの。じゃあ、また来るわ。」

 

 「まって。」

 

 ヒナの背中に手を伸ばす。

 

 「なに?」

 

 「どうしてメグは助けに来ないのだっ!」

 

 それは最たる疑問だった。数日経っても助けが来ないなんて、あり得ない。メグも温泉開発部の部員達も、結束こそ温泉開発部の誇り。私を見捨てる筈がない。

 

 「私が全員、畳んだわ。」

 

 「畳んだ?」

 

 「手脚の関節を全部折ってから逆方向に固定してゴミ集積場に棄てた。風紀委員は全員、休みを貰ってるから後20日もすれば治療を受けられるわよ。」

 

 「は?」

 

 こいつは何を、言っている?

 

 ヒナは、こちらを見つめて笑って居る。背中にゾクリと悪寒が走った。様子が、オカシイ。

 

 「手首、肘、肩。足首、膝、股関節。貴女を除いた総員268名。大変だった。」

 

 ヒナが笑って居る。

 

 私の正面に鉄格子を挟んで、悪魔が嗤っている。

 

 胃酸が胸に上がって来たので、それを無理矢理飲み込んだ。

 

 「何故、そんな事をする?」

 

 「自由には責任がある。そして、私は貴女達に責任だけを押しつけられてきた。」

 

 息を呑む。私は彼女の顔を見つめた。

 

 無表情。

 

 ヒナは何時もの様に何処か疲れた様な表情さえ持ち合わせていなかった。

 

 「本気では闘えなかった。貴女達が死んでしまうから。ずっと、手加減してた。暴れて迷惑を撒き散らす貴女達の責任を、取り続けて来た。だから、次は私の番。」

 

 「なに、を」

 

 「私ね、可愛いペットが欲しかったの!風紀委員の仕事は大変でしょ?お家に帰れないから、お世話出来ないからって諦めてたけど、それなら学園で飼えば良いじゃない?お世話出来なくて死んでしまっても心が傷まない可愛いペット。ぬいぐるみ見たいに、そこに居るだけで少しだけ笑顔になれる。そんな家畜を飼いたかったのよ。」

 

 「ひぃっ!」

 

 怖かった。目の前で、満面の笑みで嗤う悪魔が怖かった。やっと得られた水分を、目尻から流してしまう程に。

 

 「カスミ、後20日間。お休みが終わったら出してあげる。其れまで、頑張ってね。」

 

 「は、二十日間だとっ!?待ってくれ、長過ぎる。こんな所に二十日も居たら死んでしまう!」

 

 鉄格子を両手で掴んで抗議する。水も食事も満足に摂れず暗闇が私の精神をすり減らす。時間も判らずにこんな場所に1ヶ月も閉じ込められるなんて。

 

 「うんっ!」

 

 そして、私の必死の抗議をヒナは笑顔で肯定した。

 

 悪魔が、私の命を弄び始めたのだ。

 

 

 

 

 

 

⭐︎

 

 

 

 「ん、これでよし。」

 

 特別懲罰室に仕掛けられて居る監視カメラは死角が無い様に配置され、自動判別AIが牢屋内の異常を直ぐに検知出来る。

 

 不自然な行動があった場合は自動で牢屋の内部に高圧電流が流れて一時的に行動を阻害するので大変便利な仕様になって居る。インターネットに接続されていない為にハッキングは直接、特別懲罰室に侵入するしか手段が無いしそこへ続く一本道は私のスマホから通信を行う事で分厚いシャッターで閉じる事もできる必殺空間だ。

 

 私はふわふわのソファーに座ってコーラを片手に監視カメラの映像を観る。テーブルにはお気に入りの甘いスナック菓子。端には給食部から買って来た持ち帰り用のお弁当が数段、重ねられて居る。

 

 「ふふ、動物園みたい。」

 

 カスミが涙を拭いて、ご飯ボタンを押し続けて居る。落ち着かないのか座ったり、横になったり、急に歩き出したりと見ていて飽きない。

 

 ちゅーちゅーとストローでコーラを飲んでからソファーで伸びをする。ソファーの肌触りの良さを頬で感じて居ると監視室にノックの音が転がった。

 

 「入りなさい。」

 

 「失礼します。ご報告致します。温泉開発部の部員達が縄を解いて脱走しました。外部の者が手を貸した様です。」

 

 外部の人間が?おかしな話だ。奴等が救助されて喜ぶ者など居ない。

 

 風紀委員のモブ子が報告を挙げる。風紀委員全員が一度に休める筈もなく、期間をずらして休みを取る他無いのだ。

 

 「そう、多分だけど先生ね。まだ10日しか経ってないのに。困ったものだわ。」

 

 口ではそう言うが、救助に関わったのはゲヘナの人間に間違いは無いな。

 

 温泉開発部員は全員の四肢を使えなくして居るから、自分での脱出は不可能。・・・救助作戦が行われたか、マコトが嫌がらせで仕掛けて来たか。

 

 少数精鋭では200名以上の救助は規模的に不可能。つまりトラック等の輸送手段が必要。見張りが大型車を見逃す筈も無いし、残念だけど風紀委員の中に裏切り者が居る。

 

 「で?裏切り者は誰?」

 

 私の心が冷めていく。貴女達も私の邪魔をするのね。

 

 「ひぃっ。ぁあぁぁああの、風紀委員に裏切り者は居ません!」

 

 そんなに、怖がらなくても良いじゃない。目の前に悪魔が居るわけでも無いのに。

 

 「ふーん。じゃあ、戦闘もせずに塵供を持っていかれたのは何故かしら?銃声も爆発音も一切、聴こえなかったのだけど。」

 

 「そ、それは。」

 

 バン。とモブ子の足元に弾を打ち付ける。爆発はさせない。神秘を使ってしまったら部屋ごと吹き飛んでしまうから。

 

 「10分以内に裏切り者を炙り出せ。出来なければ全員塵箱行きだ。」

 

 「ひっ。はひいっ!失礼しますっ!」

 

 正直に言うと、裏切り者が居ても居なくても良い。

 

 生贄を寄越せと、そう言っているのだ。

 

 暴力は恐怖の為にある。一罰百戒。組織である以上、必要な事だ。

 

 ジジ・・・ジジジ。

 頭上のヘイローが、テレビのノイズの様に音を立てている。私にはソレが、心地好く感じた。

 

 「どうなるか、教えてあげなきゃね。」

 

 

 

 

 

 ー----残念ながら、彼女達は裏切り者を見つけられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 休みを取っていない、着任中の風紀委員全員を校庭に集めて、目に付いた1名を取り調べた。

 

 ベゴッ、バゴッ。

 

 「お前だな?お前が見逃したな?裏切り者め。」

 

 ベゴッ、バゴッ。

 

 「ヒナっ!委員じょぉ。わだしじゃ、わだじじゃありばぜんっ!私じゃありまぜんっ!」

 

 取り調べは3時間ほどで終わり、裏切り者はついに自身の罪を認めた。

 

 罪人を逆さ磔で晒した後、返り血を洗い流す為に部室に備え付けのシャワーを浴びてから監視室に戻る。休みを貰う前は数分で終わらせていたシャワーも今はたっぷりと時間を掛けて楽しめる。

 

 「今日はカロリーブロックを補充してあげなきゃ。水は2、3日後にしましょう。」

 

 タオルで全身を拭きながら空気穴に繋がる空洞にカロリーブロックを1本入れる。カスミがご飯ボタンを押す度に、空気穴にある内蓋が開く仕組みで、私が補充しなければボタンを押しても無意味だ。

 

 監視カメラに映るカスミが、カロリーブロックが落ちて来たことに気付いて喜びで声を上げている。私は何とも言えない優しい気持ちになって思わず笑ってしまった。

 

 「ふふっ。」

 

 カスミが食事をしている所を観ながら温まった身体に炭酸ジュースを流し込む。ふと、イタズラを思い付いた。

 

 空気穴に少しだけ水を入れたコップを入れて暫くカスミの様子を眺める。カスミはカロリーブロックをゆっくりと味わって食べると直ぐに、嫌そうな顔をしてご飯ボタンを押し始めた。

 

 空気穴に入れられたコップが落ちて、カスミの目の前を通り過ぎて割れる。

 

 コップが落ちた辺りには水が飛び散って砕けたガラス片が少しだけ、綺麗だと思った。カスミは驚いて呆然とした表情をしている。監視カメラの備え付けの指向性マイクがカスミの小さい声を拾った。

 

 「へぁっ?」

 

 「あっ、はぁっ♡」

 

 カスミが、面白過ぎるっ!可愛い声を出してその場で硬直して動かないカスミを見て笑ってしまう。ちょっとだけ、クセになっちゃいそう。

 

 暫く笑っているとカスミが徐に膝を着いて頭を地面に付けた。

 

 「うん?何をやってるのかしら。」

 

 別角度のカメラに画面を切り替えると、カスミは地面を舐めていた。コップの水を地面が吸ってしまう前に水を舐め取ろうとしている様だ。私は少し驚いて、感動した。ガラス片が舌を傷付けるのを躊躇わずに湿った地面を舐め取るなんて・・・!

 

 「凄いっ。コレが、生命の輝き!」

 

 間違いなくこの瞬間に、カスミは自分の生命を保存する事に思考をシフトした。躾にはある程度の恐怖を与えるのが有効だとベアトリーチェから学んだけど、悪い大人からでも学ぶ事は沢山あると実感している。

 

 私は部屋の明かりを消して睡魔に身を任せる。今日は気分が良い。たっぷり熟睡出来そうだ。

 

 




続きますかもしれません。
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