621はこの作品では若い女性です。原作の都合上様々な設定を妄想し捏造しています
また、原作の流れと台詞もいくつか引用しているため、未プレイの方のネタバレに配慮しておりません。
ifモノとしてラスボス戦後の流れが違っています
ここ最近はずっと騒がしかったが、その日は特に慌ただしかったことを思い返す。
封鎖機構の連中がなかなかお目に掛かれないほどの大盤振る舞いを見せ、対する企業連中どもも、小競り合いすら避けていた及び腰から一転、独立傭兵も手当たり次第に雇いお抱えも総動員だったろう
ルビコニアンだか、解放戦線だかも盛り上がっていたが結局、鉄屑どころか明日の食事もままならない土着では一丁噛みもあえなく途切れた
そして洋上都市の浮上なんてものを目にしたのだから……今度こそルビコンの絶息を想起し、現実逃避でしかなかった
俺も数週間前はシステムからの命令を受けて監視側をやっていた。
お偉くお冷たくあらせられる
…実際にそうだったのか、唐突に
まあ。そんなことで現在、慌ただしく死を迎えるかもしれない星を去るところである。
使う船は小型と言っても、そこは
SG時代でもシミュレータ以外で動かすことは無かったが、職場がここから去る時に投棄されたうちの完品を、企業が根こそぎ鹵獲する中でちょろまかせたのは全くの偶然だったが、これと小型艇を合わせて退職金と考えることとした、脱出の暁には売り捌いてやれば生活費になってくれるだろう
以前では近づくことは自殺と同義であった打ち上げポートに堂々と船体を接続する。当然構うものなど何処にもいないし、オートパイロットであっさり準備は完了した
操縦席から空を見る。いつもの焼けた曇天ばかりだったが、飛びあがった洋上都市に封鎖衛星砲がかまされた光景に、己の直感だの予感も捨てたものではないと確信する、クジでも買えば今なら当たるかもしれないな
「チッ……!大気を抜けたと思ったら…!?」
ルビコン3のうんざりする大気を越えた矢先、突如として小型艇のオートパイロットが勝手に更新……いや、明らかにジャックされ、よりにもよって件の洋上都市を直撃した封鎖衛星砲上に誘導されている
もしもあの都市も、緊急時の脱出機構で……この灰被りの星から出ようとする土着や、密航者たちの最後の希望であったのなら、システム様は尻尾を巻いて逃げ出したくせにまだ、星の外で淡々と待ち構えていたということか?無駄の無さに
「今度はなんだ……?」
そして肉眼でも封鎖衛星砲を捉え、己の悪運もここまでかと諦観が湧き始めた頃、俺の小型艇の前に何かをけん引し、あちこちから赤い閃光を吹き溢しながら向かってくる……満身創痍の戦闘機らしき機体が現れた
今にも爆散してしまいそうなそれが、勝手に搬入口を開く。持つ何かは形状を見るに…ACのコア部分と推測できる──断定できないのは、外装の破片すらとんでもない、本当に最低限の
様々な疑問点があるが、その時は離れたと同時にコントロールが戻ったことを確認できたため、俺は無我夢中でオートからマニュアルに変更し推進剤を浪費し
全速力で離れる小型艇を眺め、引かれるものも無い孤独な空間で、とうとうその機体が弾け、小さな赤い奔流が暗闇に溶けたことにも気づかずに、俺はルビコンから脱出した。
「う、お……!!」
星と真空が焼け爛れ、ただただ原始的恐怖を刺激する暗黒の空間を赤く明るく染め上げ、真後ろを向いて尚熱すら感じてしまうほどの「虐殺」……そう、何故かそう感じたそれは、後日「レイヴンの火」などと名付けられ有史上最悪の人災として、後世に伝わる。
──さて、標準時間にて激動から一日が経過した。
食料も万全、自動航行によってデブリとの衝突の心配も天文学的確率で万全、換金準備も整いセカンドライフが待つ
……が、だ。そんな憂いの無いはずの艇内にて、俺は悩みの種を前に頭痛を覚える
「要人か、はたまた……と考えていたんだがな」
あの謎の機体が勝手に搬入したACコアと思われる部品、スキャンを掛ければ当然生体反応
想定通りのものなら丁重に扱い、なんなら謝礼を求めることが出来て得と思ったのだが
「…強化人間。しかもこの縫合痕は……」
そう。コアをこじ開け見れば、首や四肢から様々にコードが伸び、浅い呼吸で伏す──俺から見ればだが、体躯的に誰が見てもかもしれない──年端もいかない枯木のような少女が居た
確実に強化人間、それも杜撰な手術痕から察するに恐らく第4世代までのいずれかだろう──5.6世代に生き残りがいるとは思えない──、とくれば、アーキバスが擁する
その結論で様々な危険が舞い込んできてしまった。
「生命維持がよく
まず最初にこれが目覚めた際の反応が読めない
旧世代型には異常がありがちだ。平たく言えば大半は
なので喪失側であればいいが増幅側…それも攻撃性など、の方向であれば目覚めてすぐに俺は殺されるだろう。第4世代であれば……まだ外部からの
「身分証明になりそうなチップも何もないとはな……判断が出来なければ決断も出来ん」
次に完全に
幸い「方程式もの」を迫られる状況ではないのだが、助ける見返りも期待出来ず、上記の対応におけるリスクを孕み、後ろ盾もいないことが多い独立傭兵の可能性が高く、1から10まで変数まみれ
さらに子供というのが最悪だ、無慈悲な選択では罪悪感もあれば、押し付けられたこれを抱えて本当に順風満帆な予定で進行するかも完全に未知
「シートを汚されんよう、祈るしかないか……」
あれこれ理屈を並べたが、結局機械からも切られる俺という半端者に、物事をバシっと決められるわけもなく、売り払うまでにせめて中古扱いになるような減点をされないようにとみみっちくシートを敷き詰めたLCのコクピットに押し込み、この未知数に
……脱出機構は積まないくせにこんな機能だけはあるのだから、主力兵器も随分ひねくれたものである。
「─ォ、る……ター……ぇ…ア」
「……少なくとも、寝言は言えるようだ。はあ、目を覚ましたらどうするか」
起きても発声は出来そうなので、会話が問題ない可能性が増すのはありがたい
言葉のやりとりに付き合ってくれる感性があるか残っているかはまだわからないが、十全に機能するLSSとリンクし、呼吸が戻って漏れた声は、しわがれてはいたが、まあ外見に見合った声に思えた
『621……お前に意味を与えてやる』
暗い。最初に聞いたあの人の声がする
これ以前は何も覚えてはいない、ただ知っているのは、自分は「不良品」だという事。
機能以外は死んでいる、白衣に言われて
彼──ハンドラー・ウォルターは
『お前の人生は、意味を果たせば取り戻せるだろう』
寒い。彼に買われ、次に言われたことが蘇る
ウォルターはコーラルを探していて、それがある惑星ルビコン3への密航を計画したと話す
何処までも平坦に説明をするウォルターは杖を突いて、それでも目だけは力強く光を宿している人だった。意思の殆どを置いてしまった私には、今になっては眩むほどに強く光って見えていた気がする
『…レイヴン。あなたにお願いがあります』
辛い。もう聞こえるはずもない、かけがえのない親友の声がする
様々な依頼を言われるがまま消化し、誰かと出会い、何かを奪い、他が当たり前に持つものを培い、意味を果たす最中。
ベリウス地方北部、コーラルの地中支脈監視地点「ウォッチポイント」の一つデルタ、そこを単身襲撃し、漏れ出るコーラルの流入制限のためのセンシングバルブを破壊するための彼からの仕事
『また犬を飼ったようだが、何度でも殺してやろう』
スッラという第一世代の強化人間との交戦、スッラとウォルターには因縁があるらしいことを、通信越しの会話で察した、そして、彼を煽るスッラへの、僅かばかりの不快感も思い出す。
スッラの駆る中量二脚を退け、センシングバルブを破壊し離脱すると言うまさにその時、私はコーラルの逆流現象に巻き込まれ、致死量の奔流に被曝した
目を覚ました時、私の乗るACのCOMを遠隔遮断し、惑星封鎖機構の特務無人兵器「バルテウス」との交戦に集中させ、共に乗り越えたのが親友──エアとの始まり。
『「壁越えの傭兵」の力 ぜひとも貸してほしい』
『そのナンバーは縁起が悪い。付け続けているとロクなことにならんぞ』
『…621。ルビコンでの仕事にはまだ先がある、お前には……最後まで付き合ってもらうぞ』
『私は……変わらずあなたを、そう呼びたいと思います……レイヴン』
『…お前は仕事をした。ミシガンもそれは分かっている』
嫌だ。もう思い出させないで
当時には、何も感じなかった。当時には、何も思わずにいられたのに
何故今になって?罪悪感は無い、彼も言っていた、私は仕事をしただけだから。
そんなものではない、只々不要な、今となっては望むこともない感性が輪郭を取り戻してきている
要らない、こんなものは要らない。人間らしさなんて今更、要らない。彼も居ない、彼女も居ない
『…この仕事が終わったら、ある友人からの…最後の依頼について話そう』
ルビコン技研都市。彼曰く「罪人たちの墓標」
かつての災禍「アイビスの火」の発生地点と予想され、そして星に残るコーラルが集積する私の意味の、到達点と思っていた場所
稼働する無人兵器……彼がアイビスシリーズと呼んだ機体との戦闘を越え、油断……打ち込まれた弾頭が放出する電磁波、意識を手放す前の……慙愧を覚えている
『──これは、ハンドラーとしての指示ではない』
アーキバスの「再教育」からの脱出。
技研都市の下水施設に満身創痍で逃げ込み、朦朧とする中エアが見つけた、彼からの最後のメッセージ。
企業は一筋縄ではいかないことを読んでいた彼が、廃用品に偽装したジャンクACを駆り、機体に入力されている座標情報を目指し、エアも言う通り、とてもじゃないが私に付いてこない機体に四苦八苦しながらも、緊急ビーコンを打ち上げた。
RaDのチャティからの追加の指示、そして、その頭目カーラの救援により、私は生き延びた。そう、私だけは……
『火を付けろ』
私へ意味を与えてくれた彼はきっともう居ない、だから私が引き継いだ。
彼の、彼らオーバーシアーの使命を
そのための彼の置き土産……修復を完了し、今や大気圏を越え延長したバスキュラープラントへの移動手段にして、火種への火薬庫たる恒星間入植船ザイレムの起動を完了させる
『あなたの考えは、わかりました……残念です』
……決別と共に。
『こちらを選んで正解だったな、お前の戦い方…まさに猟犬という感じだ』
苛立つ。まるでゲーム感覚で、チャティを
一挙一動が私を、ウォルターを軽んじている気がして。
『…ふざけちゃいないさ、なあ?ビジター』
悲しい。カーラはチャティを喪って。私はウォルターを喪ったことを再確認した。
此処で零れたカーラの一言は、私の中にある彼女への芳しくなかった評価を改めた
彼女もまた、使命と己の心の為、笑って見せていたのかもしれないと
『背負ったようだな、戦友……!』
哀しい……壁越えを共にした彼との死闘は、ただそれだけだった。
私は何も、背負えていないのに。もう与えてくれる人が、いないだけなのに。
この人も、私には眩しすぎた人だ。立派で、高潔で、泥臭く、気高く足掻いた人だった。
『衛星砲は、私が掌握しました』
だが消沈の暇もなく、いまだ掌握されていないはずの衛星砲を受けた
戸惑うカーラを横に、私は彼女の仕業だと確信していたし。果たしてそれは…数日ぶりに脳裏に響く声によって、正しいことが証明された。
ああ……切ない。
苦しみが、嘆きが、彼女の言う同胞の物ではない、ただただ彼女のそれが、ずっと私の中に響く
言葉に重く圧し掛かる、選ばれなかったモノの絶叫が、がむしゃらに、ひたむきに、出たらめに…赤い奔流として襲い掛かってくる
でも私は選んだ、与えられた意味を果たすために。得られたかもしれない友を振り切って、見届けなければならない
夢の時間の終わり。そして同時に、悪夢も終わる。残像を飛ばし、本命の紅刃を束ねて振り下ろす彼女と、読んでいた私が既に構えていた
見据えて。私達は、お互いがお互いを仕留めて終わったのだと。役目と負目が晴らされたような清々しさで、瞼が降りた
──レイヴン。
あなたが最後の最後、私よりも一手早かったはずのことを、あなたは気付いていない、その最後、あなたの駆る機体が躊躇うように
……
あなたと袂を別つ覚悟は、十二分にしてきたのに、私はそれだけで、それだけで……
たったその刹那を見ただけで……どうしようもなく私は、唯々あなたに躊躇われるほどの位置にいたことに。後悔と喜悦を
……レイヴン。
我々はウォルター…秘密結社たちの遺志、その恐れを受け入れます。だからどうか、背負ってくれませんか
貪られるままに、焼べられるままに、恐れられるままにだけあった我々にも、あなたたち人間と同じく、意思があった事実を
この期に乗じて、ルビコンから逃れる一隻にあなたを託します…時間がないため、これは賭けでしかありません…それでも
死にゆく我々を……私を、どうか
「─ォ、る……ター……ぇ…ア」
──二人とも、
《ハンドラー・ウォルターからの メッセージを再生します》
カチ。と硬質の音を立て、俺はあいつが入っていた残骸のCOMからサルベージした、あいつ宛の封入メッセージの冒頭で止める。
「まさか、あの
自分の察しの悪さに嫌気が差す。
独立傭兵で、旧世代の強化人間で、あんなところに居た
ルビコンへの道を作るため、散々猟犬たちを放ってきた悪党と繋がる要素だと言うのに
まあ、別に俺がそういう被害に合ったわけでもなければ、ルビコンでの大暴れに遭遇したわけでもないのだが
となるとこいつがあのレイヴン……の、成りすましということか
どういうわけかは知らないが、システムがそう判断していたし……ルビコン内で同時に出現し邂逅していたしな
成りすましの予想としては密航時に残骸からIDで漁ったら、偶然レイヴンのものだった、とかか?
「…はっ、無いな」
ばかばかしい現実逃避を切り上げ、サルベージした他のデータを調べていく
……メッセージは個人宛で、わざわざ厳重にロックされていた以上、俺が聞くべきものじゃない
しかしかなりいいサポートCOMを積んでいた。登録者の脳波と連動しておけば、強化人間なら脳のデバイスに直接通信出来るほどの。
使い捨ても視野にあるACに積むには安くはないだろうに、それほどこの拾い物は優秀な猟犬だと、買われていたのだろうか?
……デバイスを交換して、LCにCOMも外付けで組み込んでおく
生命維持装置の管理も逐一見てはいられないし、外付けにしておけば、LCを売るときの査定にも響かないだろうと言う考えと、このまま廃棄とするには躊躇われる程度にお高い代物だったしな。
《脳深部、コーラル管理デバイス正常値。脳波チェック、完了。強化人間C4-621、意識明瞭》
「─あ。アァァ……ああァあぁああああああ───────!!!!」
標準時間における深夜。俺は目を覚ました瞬間絶叫を始めた拾い物の騒音でたたき起こされる憂き目に会った。
「落ち着いたか」
「……」
絶叫しながらコクピットで手足をバタつかせ、売値が下がると引きずり出しては見たものの…
目の前の病的に細く、白く、先ほどとは打って変わって生気の無い子供は問いかけに何の反応もみせやしない
「ここは、脱出艇の中だ。ルビコンは燃えた。だから俺は脱出した、その道中、お前を拾った」
「……」
仕方がないので淡々と説明をする最中、項垂れていた顔から拾ったという頃に向けられた、どろどろと濁った瞳から反射的な敵意を感じる
気のせいかもしれない、ただどうにも……これは自分が生きている原因に対する怒りを感じているらしい、何があったのかは知らないが…「余計なことを」と、何となく。だ
「その様子じゃ、死にたかったらしいが…おしつけられた以上は、今の理由を知ってからでもいいだろう」
濁った瞳は向けられるが、それ以上は特にない。余計なことをした相手に腹は立つがそれだけで、何かをやろうと思う気力もないのだろうか
ならば幸いと、こいつが運ばれてきた時のこと、そしてこいつ宛のメッセージの存在を教えてやる
どうして
メッセージの再生を終え、先ほどよりも深く項垂れていた子供が絞り出す
デバイス越しの再生なので俺は聞いてはいないが……予想通りなら、こいつに生きろという類のメッセージでも残していたのだろう
……あわよくば、お気に入りの猟犬への
──どうして?
二度目。上げた顔は焦燥しきり、血の気が引いた白い肌は最早凍えているように青かった
気休めだがシートを羽織らせる。茫然とただただ、生きている…生かされている自分が納得できないらしい。
……子供なのだから、生かされて当然などという倫理観はあの星で適応されるか──そもそも旧世代の強化手術をされてる時点でどうか──知らないが、俺ならそう思う。
雇い主もまあ…させたことはともかく、罪悪感を和らげるつもりがあったなら、生かそうと、あるいは覚えていてくれる証人だのとおためごかすこともあるのではないか。常人の
「お前が誰で、何をしたのかは知らない。聞く気もないし、俺のことも一々教えることもない…ただここで死なれるのは困る、そして生きるにしても無条件で衣食住を提供する気もない、どっちにしろ金があるなら支払ってもらう」
「……」
「目的の港まではまだかかる、生き死にを決めるのはすぐじゃなくても構わん…支払いもな。だがその間は早まるなよ。俺の船だ、勝手なことは許さん」
…駄目かもしれんな。色々と俺の中でもまとまってはいない以上、こいつの返答を聞き出せる術は思いつかない
そして強化特有か、こいつの生来かしらんが色々と希薄な雰囲気が……死臭を漂わせている
今はLSSにもう一度繋いで、休ませておくしかないだろう
「……まあいい。今は休め」
「!!──っウォる……」
「あの機体とLSSとをリンクさせている。締めずにシートを倒してベッド代わりにしておけ、当然だが、起動は出来ないし、するなよ…おやすみ」
急に顔を上げ…まさか、ウォルターと言いかけたのか?訝しい感覚だが…正直長々話せる話題も、この辛気臭い雰囲気にも耐えられない、それに寝直したい気持ちが上回り、さっさとその場を後にする
これでも自決されていれば仕方がない。拾って目覚めて、経緯も話しメッセージも未開封で返した、もう義理は十分だろう。起きてシートが鮮血で染まらない終わり方をしてくれていることを願うばかりだ
目が覚めて、私は啼いた。ひたすらに、産まれ落とされたことを嘆くように喚いた
何故生きているのか、どうして死ねなかったのか、二人に逢えない、二人に逢いたい、もう一人でしかないのに
そしてはたと、生命維持装置に気づき、内に黒々と沸々と滾々と立ち上がる、終わりを邪魔した存在への憎悪を、騒音に駆け付けたその人物に重ねた
そいつを殴ってやりたかった。殺してやりたかった。ぐちゃぐちゃに噛み千切ってやりたかったのに、
怒りをすら諦観が上回り、男が何かを発していることも遠く感じた頃に、頭の中にCOMの音声が響いた
《ハンドラー・ウォルターからの メッセージを再生します》
『…621、仕事は終わったようだな』
そして狂おしい程に望んだ声の一つが、続いた。
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────
──
どうして?
返答は要らない、それでもどうしても私を生かした男に尋ねずにはいられない
なんで死なせてくれなかったの?私はもう意味を果たしたよ、十分じゃないか、選択の結果として、友と一緒に逝かせてくれてもいいじゃないか
そしてウォルターにも……何故、こんなものを遺したの?
どうして居なくなってから、私を手放すの?
──どうして?
自分の身体から熱が失せているのがわかる。今こうして顔を上げ、初めてはっきりと男の面を見据えられていることが、不思議なほどに
私のはっきりと男に向けた二度目の問いは、一切の慈悲無く弾かれた
聞いてよ。助けたくせに
教えてよ。生かしたくせに
死なせてよ。生きてて迷惑だったなら
生きたくないよ。金で死が買えるなら
辛いツライつらい 苦しいクルシイくるしい 憎いニクイにくい
私も男も彼も彼女も全部全部全部が、
可能性なんて要らないよ最期まであなたの犬でいさせてよ
背負えないよせめてあなたと一緒に掻き消えさせてよ
……この先なんて、欲しくないよ
「……まあいい。今は休め」
──なんでだよ。
なんでこいつが同じことを言うんだよ
違うくせに、昏く輝く目もしていない、私みたいな腐った目のくせに
…なんで彼と同じことを、言うんだよ
なんで私は……安心したんだよ
こいつはウォルターじゃない…彼なんかには掠りもしない
なのにどうして、重なるんだよ。ふざけるな、ふざけんな
…………わかったよ。じゃあ、生きてやる
こいつを恨んで、縛って、歪めて、妬んで、重ねて、壊して、占して、縋って、愛して
こいつを生きる意味にして、私を生きる意味にして、何処までも何時までも、ぐちゃぐちゃにどうしようもなくなって、
どうしようもなく、お前に縋ってやる。あられもなく、私に染めてやる。
金が欲しいと言ったな、全部くれてやる。きっとウォルターはこれで手術をしろという金を
だからその金でお前を買う。私に縛る。お前の一生を私を生かすことに費やせ
生きてる間の私の全てを、受け止めろ。支えろ。常に居ろ
────今度は、勝手にいなくならないでね?私の
外は星、内はルミネセンスだけの暗闇、標準時間帯は朝を指す
幸いボディバッグや
「お金、必要でしょ?」
「だから──これで貴方を買う」
昨日の様子から一転、不気味なほどに落ち着き払った子供が、俺の口座に網膜通信で送ってきた金額は、今生見たこともない桁数、無職の中年一人を購入するにしてもあんまりにもあんまりなほどに
一夜にして拾い物とオーナーから
「それで、貴方は私を飼って」
「私の全てを貴方が管理する、それはそのための生涯契約金」
「貴方の一生は今後、私の飼育に費やして、出来なければ私を
……なんだ、こいつは。
突然人生を何度豪遊できるかという
その人生を己の世話に終始させるために買い上げたと言い放ち。それが出来なければ
今も選ばせているのか。細すぎる白磁の首を、
どちらに転んでもいいのだろう。死ねば金など要らないと、生きるにしても、生命活動の維持全てを買い取った他者に依存すると
「選んで……
なんでこんな選択を俺は迫られているんだ?喉の奥が乾いているような、胃液の酸味が拡がるような状態だ。
無言で、震える手をうなじに掛けると、
どこまでも冷たい肌と、爛れる程に熱い吐息が…化け物の口から零れた
もう片方の手を頬に添えれば、血ほどに
「はァ────」
甘ったるく、不気味で、無邪気に、猟奇的で、狂気に満ちた声色と眼差しで
俺は理不尽を迫られた。
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──
かつてルビコン3と呼ばれた惑星がある
新世代の資源…及び情報導体として、人類社会に飛躍的な発展を齎すと目された物質「コーラル」の産出地として注目・労働者の入植が盛んに行われ栄えたルビコンはしかし、二度の災禍に見舞われた。
「アイビス」…そして、「レイヴン」。
二つの業火に宙域諸共を、コーラル含め灰燼に帰す憂き目とあった繁栄は影も無く
惑星封鎖機構、及び企業の共同声明によって、公式に「廃星」と定められ、惨たらしい被害を伴い終焉を迎えた
その死の上……全土が灰に覆われた亡骸にて、一つの機影が青いスペクトルパターンを放出し、降り立つ
『ポイントB、その周辺が最も反応が強い。スキャンを実行しろ』
通信越しに、男性の低い声が響く
淀みなく機体から不可視の波形が展開され、周辺地形を隈なく解析し、灰の下に、いくつかの塊の影を表示する
『……レアアース類を青、レアメタル類を赤、一定量のその他鉱物はそのままにマークする、青・赤・その他の優先順位で、回収していけ』
機体は迷いなく示された優先順位に駆け抜け、背負ったシェルパコンテナを展開し、迅速に回収し、打ち上げていく
『今回はこのくらいでいいだろう。作業は終了だ。機体を回収する…近場のポートへ向かえ』
──しかして、終焉を迎えても、星の中に残った
コーラルがなくとも、超高温で全土が熱された結果、新たに、或いは溶け合って形成された様々な資源が残されていた
それを目当てに、監視の目も消えた今、彼らのように堂々と
死んでもなお、ルビコンは少なくない労働者がやってくる。
打ち捨てられても、星の恵みが名と成分を変えて、貪られるだけだ
『──待て。そちらに急行する機影を捉えた…』
そして、それらを早い者勝ち、あるいは囲って独占しようとするものが、資源に手を出す輩にこうして難癖を示しに現れる
『おいおい、そこらへんは俺たちの取り分だぜ』
『知らなかったは……通じねえわな?』
随分と年季の入ったACを駆る。二人組の
ルビコンの終焉に伴い、星系外からも仕事にありつくためにやってきた口だろうか
それにしても運がない
『…見ねえ機体だな、それに妙に小奇麗だ、こりゃ売れそうじゃねえか』
『ならなるべく奇麗に殺してやるか。それで奪った分とチャラだな』
やはり。こいつらは軍事組織とやり合ったこともない
念のためにID照合もしていたが……
『聞いたことも無いID…アリーナにも掠っていない。お前の敵ではないが……不要な火傷を負うこともないだろう。
『わかった、
二体一でも問題はない。資源も回収済みで身軽であれば、すぐに済む
《メインシステム、戦闘モード起動》
無感情なCOMから、木っ端への死刑宣告がなされた
……あの選択から、俺はこいつ──エアに一生を買われ、エアの一生を飼うことを選んだ。
なんてことはない、結局俺は、大事なことを選べず…コイツの狂気を終わらせるだけの度胸も無かっただけの話だ
結果、俺はウォルターを名乗ることになり、エアも……呟いていた以上こいつの名前ではないのだろう、それを名乗り…明らかに、そいつらの
「…戻ったか。エア」
「ただいま、ウォルター」
年季の入った二つを、灰の一部に変え、コクピットを開くエアを抱き上げる。
…エアはLCの操作の指示以外の活動、その全てをこちらに依存した
歩くこと。食べること。眠ること。起きること。清めること。排泄すること。満たすこと。
…感情も、自由に出せと言う俺の
濁り淀み切った、そして底なしに澄み切った
「…よくやった、エア。お前がいなければ俺はダメだな」
「─────ァは、あはっ。私も、ウォルターがいないと何もできない」
「そうだ。お前は何もできない」
「私は何もできない」
「…俺たちは、お互いが、いなければ何も……出来ない」
絞り出す、思ってもいない苦痛を。
その様に、こいつは絶頂感を漂わせ、恍惚と覗き込み、粘つくほどに確かめてくる
自分のために生きてる人間の存在を、自分の為だけに生きて、そしてそいつに全てを委ねて生きている、己自身を、常に鏡として見つめている。俺を通して、ずっと。
「──うん。だから一緒にいないとね。ずっと、ずっと…ずっとずっとずっとずっと一生……嬉しいよウォルター、私の意味は貴方、貴方の生は私、もう離さない、離れない、誰にも、奪わせない…絶対にだ。気持ちいい、気持ちいいよ……ウォル、タぁ──」
──ここはかつて、ルビコン3と呼ばれた残骸の上
善がる獣から逸らした目線が、かつて脱出艇とした船上から、地表に向く。
灰の上、燻っている余燼が一つと、未だ熾火を遺す余燼が一つ、転がっている。
ふと、後者が、燻っていたものに被さった
見る見るうちにそれらは燃え移り、燃え盛り……そして、一つの赤になる
今は赫々と勢いのあるその一つは、灰色に染まる廃星に映える
しかして、そう遠くはない時間の中で、灰に埋もれて消え去るだろう
それが俺たちの、終わった行き先を暗示されてるような気がして、逸らした矢先、また逸らす。
(選択は……どこでするべきだったのだろう)
意味のない自問。現実逃避、理外に居座る獣は、色に、歪に狂った身をよじる
服を脱ぎ、脱がせる。獣は歓喜を挙げ、俺ではないガワの名を叫ぶ。
意味のない時間、意味のない後日談、意味のない一生を、意味もなく、意味もなく──
どちらが先にくたばっても、後を追うか、追わせられる。
(ああ。来た時点でだな……はは)
選ばなかった流れ。あらゆる時点で、あの時選んだその前でさえあれば、こうじゃなかったif
そんな淡くて甘い、無意味な逃避は、許さんと言わんばかりの、結合部の刺激で殺される
(そうさ。来るんじゃなかった……こんな
獣の嬌声と、自堕落の哀叫が重なり、廃星の上の、赤が消えた。
・今作の621
操縦機能以外は死んでいたが、ルビコンでの活動やウォルターの献身により、徐々に身体機能を取り戻していた。
しかし情緒などの精神面での刺激がルビコン内の出来事によってもたらされ、エアとの決別によっての激情などを経て、粘度の高い内面に完成した依存粘着独占従属の化身
死に損なった怒り、そして偶然のウォルターとの同一視により、愛憎入り混じる悍ましい欲求を男にぶつける。
・男
遅きに失するの化身。
流されるまま生きた結果、そして、最初で最後の決断が最悪のタイミングで行われたため、全てを喪い一生を買われた
操縦時以外は、常に621から一挙一動を一分一秒観察されている
心身共に終わりは近い
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