さてと、荷物は明日にでもバラすとして寝るまでの時間まで何をしようか・・・そういえばずいぶんと何も食べていないな。
立ち上がり、鍵を持って外に出てみる。周りを見渡してみると自分と同じような姿をしているのは女性ばっかりで男性は見当たらない。
せっかくキヴォトスに来たのだから何かいいものでも食べようかな。と思ったが、
長旅で疲れた私は高いお店に食べに行く気力もなく、近くのコンビニに入った。
店員に軽く会釈をしながら店に入ってあたりを見渡すと・・・これって手りゅう弾か?
いやいやさすがに模造品だろう。
「あーそれ興味ありますか?」
「いえ、特には。」
すぐさま全力で拒否する。
「いやいや、お客さんここで買っておかなきゃ損ですよ!なにしろこの手榴弾は前のモデルよりも爆発力が上がったのに加えて安全性も高められたい一品!しかもセール中で10%引き!」
まさか本物の手榴弾が売っているとは思ってもいなかったので驚く、どう考えても私と同じ普通の高校生がこれを使う想像ができない。
そしてそれを布団を売るセールスマンのようなノリで売ってくる店員にも驚く。
「ああ・・・いや、その結構ですのでカップラーメンとかありますか?」
「こんな遅くにカップラーメンなんてお客様は罪な人ですね。」
店員は意地悪い笑顔を浮かべる。
「いえいえ。」
言うことは最もである。だが、仕方ないじゃないか、こんな疲れ切った日の深夜に食うカップラーメンは至高であり、その原因の六割は深夜に体に悪いものを食すという罪悪感からきているからだ。
巷では体に悪いとか言われているがそんなことは知ったこっちゃない。
研究所の医者には全力で止められたが、止めた張本人も深夜にカップラーメンをすすっているところをみたことがある。
そういえば研究所にいた時は徹夜で作業した時みんなで食べたっけ。
先輩が教えてくれたアレンジがおいしくて頬張っていたら写真を撮られて可愛がられたことを覚えている。
「それならこちらにありますよ。どうぞどうぞ。」
昔のことを思いながらカゴに必要なものをポイポイと放り込んでいく。
「会計お願いします。」
「はい、しめて2013円になります。」
「はーい。」
スーツの内側から財布を取り出す。
「えっ。」
「どうされましたか。」
「いえ、なんでもありません。ありがとうございました。」
驚きと懐かしさでいっぱいになりながらお会計を済ませて店を出る。
自分がヘイローを持っていないことに気づかれなかったのは幸運だったな。
「おい、そこのチビこっちに来い。」
後ろを振り向くと銃を自分の方に向けている何人かの女子高校生がいた。
やめようよ。私低身長で、ヘイローがないか弱い男の子だよ?
「いいからこっちに来い」
両手を掴まれずるずると裏路地に無理やり引きずりこまれる。
地面に叩きつけられ、思わず買い物袋を手放す。まったく、容赦ないな?
「・・・なんで私を襲うんですか。」
力のない私には質問をすることしかできない。
「そりゃあこんなにいいスーツを着ているんだからさぞかし金を持っているんだろうなあと思っていてな、それにお前ヘイローがないということはキヴォトスの外から来たってことだろう?サイコーのカモじゃあねえか。」
「こんなことしてヴァルキューレが黙っていると思うんですか?」
言い返すのはあまりよくないが好奇心で聞いてみる。
「嘘だろこいつ!何も知らないんだな。」
不良たちが笑う。
「ここはヴァルキューレの管轄外だよ。」
「お前この街に来てそんなに経っていないだろ。となると….」
「何をするんだ!離してくれ!」
抵抗虚しくコートを奪われると彼女たちは中を物色し始める。
「やっぱり拳銃すら持っていないな。コートの中に入っているのは財布とケータイと・・・あと生徒証か。」
生徒証は投げられ、笑われる。
「お前のような軟弱者を入れる学校があるとは驚きだな。時計、財布、ケータイそれとコートも高く売れそうだからもらっておいてやるよ。ほらさっさと『先輩!』なんだ?」
「こいつ・・・」
学生証を確認した取り巻きの一人が青い顔をしてボス格の人に話しかけている。
何が起きているんだ?わけもわからず地面の上で震えてしまう。もうどうにでもなれ。
「こいつ・・・アンノテクネ高等学校所属の一年生です。」
「クソっ、こいつに手を出すんじゃなかった早くずらかるぞ!」
そう言いながらいつのまにかヤンキー女子高校生たちは逃げようとする。
「あーちょっと?」
私は彼女たちを呼び止める。
「いえ、申し訳ございませんでした。どうか命だけは・・・。」
さっきまでの威勢はどこにいったのか。今にも地面に頭をめり込ませて土下座しそうなほど腰が低い。
「そうじゃなくて、お金、困っているの?」
私は優しく聞く。
「まあ、困っています。」
「それじゃあ、ほら。」
いくらか財布に入っていた万札を二十枚ぐらい渡す。
「ちょっと待ってください、こんなにいただいても返せません。」
「いいんだよ。あげる。」
別にこれぐらいは問題ない。
「ありがとうございます。失礼します!」
「もう悪いことするなよー。」
「はい!」
この世界の闇は深いなあと思いながら地面に散らばった私物をまとめる。
元々いた世界では子供は守るべきものとして周りの大人が手を差し伸べていたがここでは違うようだ。
ふと彼女たちが言っていたことを思い出して生徒証をよく見る。
この生徒証はアパートの郵便受けに入っていたものだが、イマイチ釈然とせず、自分がこれから通うことになる高校がなぜあれほど恐れられるのかわからない。
そう思いながらアパートに戻ると郵便受けには大量の紙が入っていた。
中を開けてみると「死ね」だの「アパートから出ていけ」という罵詈雑言が書かれた紙が何枚も入っていた。
(なんでこんな目に遭うんだ?)
そう思いながら部屋に戻って外を見ると歩いている女子高生が視界の中に映った。
その瞬間、動悸がする。
「うっ、あっ」
そう呻き声をあげた後持ってきたバッグの中から抗うつ剤を出して口の中に乱暴に放り込み飲み込む。
それと同時に昔のことを思い出す。
『ねえ和田君てさあ女の子っぽくてチビだからさあ、スカートとか似合いそうじゃない?』
『いやだ・・・やめて。』
『つれないなあ、ほら押さえつけて。』
『りょーかい。』
『やだっ、やめてよ。』
『キャハハ傑作じゃん、というかこの写真ばら撒いたらどうなるんだろうね?』
『・・・』
『あーもう反応もしなくなっちゃったか、もういいや。ばらないちゃおーっと』
「うえっ、ヒック」
思い出して自然と涙が溢れる。
私は弱い人間だ。
誇りも。
自分の身も。
大切なものも。
何一つ守れやしない。
そんな奴が失踪した自分の姉を探そうとしているのだ。
「はは・・・」
思わず自分がやろうとしていることと現実との差に笑いが込み上げる。
でも、この笑ってしまうような現実を思い知らされていても不思議と次こそはという気持ちが湧いてくる。
(なんでだろうな。弱いはずなのに、負けるとわかっているのに。)
けれども、それでもやっぱり、自分を愛してくれた姉を見つけるという目標を変えようとはしなかった。
まあ、とりあえず買ってきたものを食べて寝よう。シャワーは明日でいい。明日から新しい学校なんだから。
私はさっそくカップラーメンに入れる水を沸かす。
ふと、どうして私は彼女たちにお金を渡したのだろうかと疑問を持つ。
・・・昔の私を見ているようでほっとけなかったのかな。
お湯が沸く。すぐにカップラーメンに注ぎタイマーをかけ三分待つ。
時計を外し裏蓋を見る。
”Wager it all on the future and forge your destiny.”
その意味は”未来に全てを賭け、運命を切り拓け”
研究所の仲間はこの時計と今着ているスーツを送ってくれた。
そして裏蓋に彫られた言葉は私が研究所に来た時に自分で作ったモットーだ。
・・・私は死ぬだろう。これはほぼ確定していることだ。
けど、それでいい。
裏蓋に彫られている自分の名前を見る。
”和田
・・・これから私は短い波乱の運命をたどり、死ぬ。けど、その運命の残り香が誰かの道しるべとなりますように。
タイマーが鳴る。カップラーメンをあの暖かい時間を思い出しながら食べ、歯を磨き、そのままソファーに横たわる。
そのまま私は目を閉じ、眠った。