初登校
あと10分だけ、本当に、もう昨日大変だったからあと10分・・・いや5分だけ。
そう思っているけど、二度寝はできそうにもないな。今は朝の4:30か。ソファーから体を起こしてスマホでアントテクネまでの行き方を検索してみる・・・あれ、『インターネットに接続されていません』だって?
ああ、ギヴォトスの携帯と外の世界の携帯では規格が違うから当然か。そういえばこっちじゃなかった。
自分で用意したものをすっかり忘れている。
・・・自分のことながら、心配になるな。
さてと、ロックを解除して『アントテクネ高等学校 行き方』っと。ええっと、こっから三時間かかるのか。まあ8:30にはじまるらしいから大丈夫か。
シャワーを浴び、歯を磨き、昨日着ていたすスーツと同じ「ものを着る
・・・よし、これで大丈夫だ。転校初日、それはクラスメイトからあれやこれやと質問されてチヤホヤされる。少なくとも青春もののアニメではそうだ、フィクションとリアルは違うものだろうが、期待を膨らませ、カバンを持ちさっそく学校に向かう。
「まずは、バス停に行って5:20のバスに乗るのか。」
周りを見渡すと早朝ということもあって人はほとんどいない。
それにしても流石に値段重視でアパートを選んだのがダメだったなあ。まさかこんなに遠いとは思わなかった。
そんなことを思いながら歩いてバス停に着くとすぐにバスが来た。
支払いを済ませて乗り込むとまた化け物を見るような視線で見られるかと思いきやバスの中にはほとんど人がいない上に乗客全員が寝ているか携帯をいじっていたので何の視線も向けられなかった。
そのことに安堵しつつ席り、外の景色を眺めながらふと昨日のことを思い出そうとする。前から銃声が聞こえてくる。携帯をいじっていた人も寝ていた人も一斉に前を見る。
「ただいま前方の交差点で銃撃戦が始まりましたため、迂回させていただきます。お客様には大変申し訳ございません。」
唐突なバスのアナウンス。私は銃声に反応して伏せる。バスは迂回しようと左折したのだが、流れ弾がタイヤにあたりパンクしてしまう。
「皆様、タイヤがパンクしてしまったためこれ以上運行するのは不可能です。お降りください。」
周りの乗客は「またかー」というような顔で降りていく。が、それは彼らがキヴォトスの住民であるからであり、外から来た人間は流れ弾がビュンビュン飛んできて窓が割れに割れている状況では一歩も動くことができない。
そう私のことだ。
けど出なくちゃいけない。今か今かとタイミングを見計らう。
そうすると、すこし銃声がやむ。
今しかない。そう思い切ってどうにかバスから出たものの流れ弾がすぐ近くを掠める。
「ヒャい!」
流れ弾がすぐ隣を走る。
「もう嫌だー!」
思わず叫んでしまう。必死に足を動かしてその場から逃げる。
もうかれこれ二分は走っただろうか。もう大丈夫だろうと思い、次のことを考える。
逃げることはできた。けどどうしようかな。多分もう学校には間に合わないでしょ。
スマホでアントテクネまでのルートを検索してみると大幅なバスの遅延が発生しているとの情報が。
どうやら銃撃戦が起こっているのはあそこだけではなかったらしい。
とりあえず遅れることは確定しているので、学校に電話をかける。
「はい、アンノテクネ高等学校です。」
物腰が柔らかそうな女性の声がする。
「すみません、今日からお世話になります高校一年生の和田ですけれども、今トラブルに巻き込まれてしまったのでそちらに伺うのが遅れそうです。申し訳ございません。」
「ああ、和田くんかい?いいよ全然。ゆっくり来てね。」
ブランクな人だなあ。
「ありがとうございます。失礼します。」
あれから二時間。どうにか学校までたどり着いた。
「疲れた。もうかえって寝たい。」
それにしてもえらく厳重な警備だ。
校舎と思わしき建物の周りは高さ3mほどのコンクリートの壁でおおわれて、しかもその上には有刺鉄線が張られている。監視カメラも無数にある。
・・・ところで校門はどこだろう。
すでに疲れ切った体に鞭を打って校門を探すと、それらしき場所を見つけた。
『やあ、新入生くん。まずはそこの読み取り機に持ってきた生徒証をかざしてくれ。』
スピーカーから誰かが話しかけてくる。その声は電話で聞いた声と同じだ。
言われた通り、生徒証をかざすと門が開く。そして目の前には二人の女子高生がいた。
「やあ、ようこそアンノテクネ高等学校へ。僕はここの生徒会長の日永チサトで、こっちは副会長の相葉ナオ。よろしくね。」
「今日からお世話になる和田 佐和です。よろしくお願いします。」
「早速だけれども中に入って話そうか。」
そうして二人についていく。
「そういえばずいぶんと静かですけれども他に生徒さんはいらっしゃないですか?」
校舎から何の気配も感じない。
「なんだ・・・お前何も知らないのか?」
副会長がびっくりしたような顔をする。
えーと・・・何をですか?
「まあまあ相葉さんそれは部屋についてからゆっくり彼に話そう。」
そうして着いた先は教室ではなく生徒会室であった。
「あの、ここ生徒会室ですけど、教室に行かなくて大丈夫なんですか?」
「うん。さて、中に入ろうか。」
入ってみると部屋は綺麗で年季の入った高そうな家具が並んでいる。
しかし・・・部屋の雰囲気はどこか寂しそうだな。
「さてと、そこにかけていいよ。」
「どうも。」
「紅茶かコーヒーどっちがいいかな?」
「じゃあ、紅茶で。」
「いいよー。」
それを聞いた副会長がポットでお湯を沸かし始める。
「さて何から話そうかな。何か気になっていることはないかい?」
そこで昨日のことを思い出す。
「あ、そのことなんですけれども、昨日不良高校生たちに絡まれて、危うくカツアゲされそうになったのですが。」
「・・・ほう。」
会長が神妙な顔をする。
「その時、生徒証をみた不良たちが震え上がっていたのですが、何かご存知ないですか。」
彼女たちはこの学校の名前におびえていた。
「なるほどねー。その理由、本当に聞きたい?」
会長が怪しげな笑みを浮かべる。
「はい。」
「じゃあ話そうか。けど、長くなるよ?」
「それでもかまいません。」
「そうか、じゃあ話そうか。」
相葉さんが「お茶です」と目の前に紅茶の入ったティーカップを置いてくれる。
それを一口飲んでみる。うん、おいしい。
「まず、これを話すには二十年前までさかのぼる必要がある。」
「・・・そんなに壮大な話なんですか?」
「そうさ、なにしろ私達の学校がテロを起こそうとしているんじゃないかって疑いをかけられたのだから。」
「いや、え、今なんて?」
思わず耳を疑う。
え、学校がテロを企ている疑いをかけられた?
「言った通りだよ。その時、当時の連邦生徒会長を殺してインフラ設備を壊そうとしたっていう根も葉もない疑いがこの学校にかけられた。
まあ、この学校の成り立ちがちょっとアレだから随分と前から陰謀論とか、そういうことは言われ続けていた。」
「・・・“アレ”とは?」
「それも後で話すよ。」
一呼吸置いてまた会長は話し始める。
「まあ、どうやらせん先代の先輩たちはそんなに気にしていなかったみたい。
『またか』っていう感じに。」
・・・はあ。
「けれども、二十年前のときは違った。」
会長の目が急にぎらついた目になる。
「その噂が立った後、なぜかタイミングよく連邦生徒会長の殺害計画書とか違法武器の取引記録があるって言われたんだ。もちろんそんなのはうちの生徒全員が知らない物。そしてその証拠と思われるものが出てきてから連邦生徒会含めて私達の学校を恨んでいた学校が一斉に宣戦布告をここにした。」
一斉に?
「おかしいと思うだろ?けど誰もが疑いもせず、すぐにここに攻め込んできた。最初、誰もが簡単に攻め落とせると考えていた・・・けれども大方の予想に反して戦争は長引いた。しまいには最後に残っていたこの学校の生徒七人が一矢報いようと連邦生徒会に突撃してね。まあ、流石に連邦生徒会がある建物までいけなかったらしいんだけど、目前まで迫ったらしい。」
「なんというか、その、ちょっと外の常識とは違いすぎて理解が追いつきません。」
あまりの出来事に戸惑う。
「まあ、そうだろうね。そんな訳でその後自治区はこの校舎の敷地を除いて没収されて、今は廃校寸前っていうわけ。今は君を含めて三人だしね。」
「あれ、もしかしてさっきやけに人気が少ないと感じたのは勘違いではなくて本当のことということなんですか?」
あれ、わたしの感覚はあっていた?
「そう。まあ資金面に関しては問題ないんだけれども、何せ各学年一人ずつしかいないからねえ、あ、一応言っておくと僕が三年生、副会長が二年生ね。」
「・・・じゃあ、よく青春ものでよく見る転校初日にちやほやされるということは?」
「ないね。」
「そんなー。」
トラウマを克服するきっかけになったかもしれないと思うと残念で仕方がない。
「会長、その・・・彼には言わなくていいのですか?あのことを。」
「相葉さん、大丈夫。いまから言うよ。」
なんだろう、気になる。
「それはさておき君もこの学校の生徒になったんだし、そろそろこの学校の本当の姿を話そうか。」
「・・・まったく話が見えて来ないんですけれども。」
「まあ、場所を変えて話そうか、こっちだよ。」
そういうと会長は歩き始めたのでその後をおとなしく着いていくと備品室と書かれた部屋にたどり着いた。
「さて、長い話になるけれども、まだ連邦生徒会ができて、権力も弱かった時、各学校は熾烈な勢力争いをした。」
会長は扉を開けて中に入る。私も続いて入る。
「だけれどもそこに『ムツキ』と名乗る人が出てきた。
彼女を言い表すならば『暗闇の中に現れた一つ星』。
『ムツキ』が描く理想は『ギヴォトスの平和』っていう単純なもの。けれども『ムツキ』の人徳と強大な力のおかげで各学校の勢力争いは収まり、連邦生徒会の権力も大きくなって『ムツキ』に従う人も増えてきた。」
会長は本棚の前まで歩くと立ち止まる。
「けど、平和は続かなかった。ある時連邦生徒会長が殺害される事件が起きたんだ。首謀者は当時の副会長。だけれども、その罪は『ムツキ』になすりつけられ、『ムツキ』は処刑された。そしてその後、『ムツキ』に従っていた人たちが『ムツキ』の理想を叶えるために表向きは学校でも裏では民間諜報機関として作り上げられたのがこの学校。まあ、民間とはいっても誰かから依頼されて動くっていうわけじゃなくて自由にやっていたんだけどね。」
「じゃあ、先輩方はスパイなんですか?」
「いや、三年前からスパイ活動はやっていない。なんていったって人がいなくなってね。けれども・・・」
会長がスマホを取り出して操作すると近くにあった本棚が動いて隠し扉が出てくる。
「扉を開けて入ってみな。」
「はい。」
言われるがまま扉を開いて中に入る。
「こういうふうに設備は残っている。」
・・・きれいだ。
「なんていうか、すごく上品な部屋ですね。」
それしか言葉が出てこない。
「でしょ、この部屋居心地がいいから本を読むのにもってこいなんだよね。あ、もちろんここから別に部屋に行くこともできて、そこには銃とかもあるよ。」
「なあ、和田。」
「は、はい!」
それまであまり話さなかった副会長が話し始めてびっくりする。
「どうしてこの学校に来たんだ?」
「えーっと、姉と連絡が取れなくなってから『招待状』が届いたんです。」
しどろもどろになりながらも答える。
「やっぱり。それ僕の一個上の先輩が出したものだよ。その時一緒にいたから知っている。」
「にしてもなんで先代の会長はこいつに『招待状』なんか出したんですか?」
相葉さんが顔に『?』を浮かべる。
「後輩君のお姉さんが失踪したから。」
「姉のことをご存知なんですか?」
正直に言ってこの学校に姉がいたこと自体が驚きだ。
「もちろん。同級生だったからね。でもごめんなさい。どこに行ってしまったのかまでは知らない。」
「・・・そうなんですね。でもそれと『招待状』のことは何か関係あるんですか?」
「実は三年前から君のお姉さんだけではなくてね、卒業生含めて次々にこの学校の関係者が失踪しているんだ。もしかしたら君もそれに巻き込まれるかもしれないと思って先代の会長は『招待状』を君に出したんだと思う。君を保護するためにね。そうだ、その人に会いに行ってみるかい?」
「ぜひ、そうさせてください。」
願ってもない申し出だ。ぜひともそうしてもらおう。
「よし、じゃあ明日行こう。それと、後輩君。この学校の寮に住んでみないかい?」
「いいんですか?」
「全然大丈夫、さっきも言ったけどお金もたんまりあるしね。」
「ありがとうございます。」
「さて、そうなれば今日中にこっちに荷物を移しちゃおう。」
「はい!」
私は会長の後をついていく。
・・・まだ青春への道は途切れていないな。ヨシ!