「ふいー疲れたー。」
あの後二人と一緒に荷物を寮に移した後、自分の部屋で一人くつろいでいる。まあ、今は夜の23時。シャワーも浴びて普通は眠る時間なのだが眠れない。眠気がないというよりは、なんだか寝る気になれないのだ。
ベッドの中に潜り込んでも携帯をいじってしまいそうだ。
「何もすることがない。」
そう一人つぶやく。そういえば昔研究していたけど論文にしていないものがあったな。
論文とは言っても学術誌に掲載するものではない。自分や自分が読むようにまとめるだけである。私は周りから信用されなかったから。
えーっとあーっと・・・ここはこうで・・・
やっぱり何か作業している時が一番落ち着くなあ。
ドアをコンコンとノックする音が聞こえる。誰だろう。
「和田君、今すぐ出れるかい?」
会長の声だ。どうしたんだろう。
「5分あれば。」
「外で待っているから早めにお願い。」
私は急いでスーツに着替え、時計をつけて出る。
一応カバンにパソコンやらなんやらを入れて持っていく。
「何かありましたか?」
「ちょっと今から僕の知り合いのところに行くよ。」
え?
「急・・・ですね?」
「昼間に話した僕の先輩のことは覚えているかな?」
「はい。」
私がいるアントテクネ高等学校の会長。日永さんの一つ上の先輩で先代の会長だった人。
姉の行方を知るための重要人物だから忘れるはずがない。
「その人と連絡が取れなくなったらしい。」
「何かあったのでしょうか?」
「わからない。でも、もしかしたら相当なことにあったかもしれない。」
そうやって話していると副会長の相葉さんが日永さんの後ろにひょこっと現れる。
「会長、車の用意はできています。」
え・・・っと車?
「副会長って運転できるんですか?」
「まあな。」
本当に?とりあえず日永さんに ついていくと、車庫につく。
目の前には黒塗りの高級車が一台止まっている。
「とりあえず車に乗ろうか。」
私と会長は後部座席に、相場さんは運転席に座る。
促されて車の中に入ってみると座り心地がとてもいい。
相場さんは慣れた手つきでエンジンをかけ、車を出す。
・・・運転できるんだ。
「さてと、今から行くのはアントス探偵事務所。僕の元同級生が運営している事務所だよ。ちなみに明日会おうとしていた先輩はそこの所長の市川さん。」
「へえー」
高校生が事務所を?すごいな。
「そういえば眠くはないのか?」
「あんまりです。」
「そう。」
あれ、日永さんの顔が暗い。
「・・・外の世界に戻るなら今が最後のチャンスだよ。」
突然言われて戸惑う。
「戻る気なんてさらさらないですよ。」
「そうはいってもね、物事には限界っていうものがあるからさ。
多分だけど君は拳銃すら触ったことがないんだろう?」
「・・・おっしゃる通りです。」
日永さんの言う通りだ。
「いいかい、この世界は君が思っているような青春を送れるような場所じゃない。いつもどこかでは銃声がするし、各学園それぞれがある程度の爆弾を抱えていて、いつその爆弾が爆発するかわからない。
たとえ君が死ななくても、五体満足では生きていけなくなるかもしれない。それでいいのかい?」
「・・・それでも姉を見つけるために頑張りたいです。」
しっかりと会長の目を見て言う。
「そうかい、なら止めはしないよ。」
会長はそういうと窓の外の景色を見始めた。
街灯が右から左へ流れていく。外には誰もいない。
しばらくすると寂れた雑居ビルの隣で車が止まる。
「つきました。」
「ありがとう相葉さん。さて和田君降りて。」
そう会長にせかされて降りる。ビルをよくみてみると建てられてから20年はたっているのだろうか。それに光が灯っているのは5階あるうちの3階だけだ。
「さあ、入るよ。」
会長の後ろをついていってエレベーターに乗る。
少したったあとエレベーターは止まり、扉が開くと一人の女性が立っていた。
「夜遅くに申し訳ございません。会長。」
「いいんだ真谷さん。それに『会長』じゃなくて『日永さん』でいいよ。」
「ありがとうございます。ところで隣にいるのは・・・」
真谷さんはこっちをちらりと見る。
「ご相伴に預かりました和田 佐和です。よろしくお願いします。」
ぺこりとお辞儀をする。
「こちらこそよろしく和田君。」
真谷さんはにこやかに答えてくれる。 ショートボブに笑顔が似合う人だ。
「ところで綾乃は?」
「応接間にいらっしゃいます。」
「いんや、ここにいるぞ。」
真谷さんの後ろにいつのまにかもう一人女性が立っている。気づかなかった・・・
「綾乃!」
「日永!久しぶりだな。どうだ最近?」
日永さんと綾野さんは挨拶を交わす。
「いやあ、そんなに良くないかな。あいも変わらず寂しいよ。
まあ、後輩君が入ってきてくれたおかげで少しは賑やかになりそうなんだけれども。」
綾乃さんはちらりと私を見る。
「フーン、君が和田君かい?」
「はい。」
かがみ込んで綾乃さんに見つめられる。なぜか今すぐにでも逃げ出したいき気持ちになる。けれどもまるで吸い込まれるような瞳で見つめられて動けない。
「一つだけ質問してもいいかな?」
「どうぞ。」
のどをゴクリと鳴らしてしまう。
「君は自分のためだけではなく誰かのために戦えるかい?」
「勿論です。」
なぜか前もって考えていた・・・わけではないがスラスラと言葉が出てくる。
「そうかい。来てくれ。」
綾乃さんに案内されて応接間に入るとまたもや二人の女性がいる。
「さて、改めてアントス探偵事務所へようこそ。私は副所長の綾乃ミカサそして順番に実働要員の真谷エリ。次に機械関係担当の 瀬名マリ。最後に情報担当の愛梨カナ。」
「よう。」
「よろしく。」
瀬名と呼ばれた人はどこかけだるそうに、愛莉と呼ばれた人は眉ひとつ動かさないで挨拶をしている。
えーと副所長の綾乃さんに実働の真谷さん。それと機械の瀬名さんに情報の愛梨さん。
よし、覚えた・・・忘れるかもしれないけど。
それぞれが席に着く。
「さて、話を始めようか。」
まず、副所長の綾乃さんが話を始める。
「さて、皆さんに集まってもらったのは他でもなく所長のこと。」
「それは知っている。で市川さんに何があったの?」
日永さんの言葉に綾乃さんは首を横に振る。
「わからない。18時ごろに戻るって言ったきり連絡が取れなくなった。」
「へえ、あの人はなにをしていたの?」
「日永さん。それについては私から。」
日永さんの疑問に答えるように情報担当の愛莉さんが話し始める。
「市川さんはとあるものを調べるために調査の行っていたんです。」
「とあるもの・・・それはどんな?」
私も心のなかで聞き返す。
「大雑把にいうならテロ計画に関してです。」
テロ計画?
「・・・初耳なんだが。」
日永さんの顔が険しくなる。
「その内容は。」
相葉さんがズバッと言う。
「連邦生徒会への襲撃。」
「は?」
・・・ん?
「それと同時にゲヘナ学園風紀委員会、万魔殿。またトリニティ総合学園正義実現委員会、ティーパーティーへの襲撃。次にミレニアムサイエンススクールへの…」
「待て待て待ていくらそんなでもありえない。」
愛梨さんの言葉を日永さんは否定する。無理もない。
「おっしゃる通りです。私もそう思いましたがイタズラだとしても手が込まれすぎているんです。」
「ちなみにゲヘナ、トリニティイ、ミレニアムの他にはどこが襲撃対象になっているんだ?」
「他にもヴァルキューレ、SRT、山海、百鬼夜行、アビドス、レッドウィンターが襲撃対象です。」
「それで?ヴァルキューレにはこのことが伝えたの?」
「伝えたのですが、『イタズラ』だと判断されました・・・まあ解読できたのはこの計画の概要の一部分だけで。内容が『ぼくがかんがえた最強の計画』みたいな稚拙で、小学一年生が考えるような内容ですから彼女らの対応が妥当かと言えば妥当です。」
「・・・にしても変わらないなあそこも。」
・・・? 副会長の相葉さんの言葉にどこか引っ掛かりを覚える。
「まあまあ相葉さん落ち着いて。でその計画を立てた奴らはわかっているの?」
「いいえ、まだです。」
「そう・・・でそろそろ話を戻すと市川さんはどこに?」
「わかりません。」
分からない・・・。
「なんで?」
「市川さんは教えてくれなかったんです。『今はまだ話せない。』って。」
「そう。」
応接間に重い空気が流れ、たまらず口を開く。 所長が行方不明になったのだから当然か。
「・・・愛莉さん。送られてきた暗号を見せていただけませんか?」
「かまいませんが、何をなされるんですか?」
情報担当の愛梨さんが不思議そうな顔でこちらを見る。
「ああいや、何か思いつくかなと。少しでも力になれたらと思いまして。」
「なるほど、少々お待ちください。」
少しの間をおいて愛莉さんが開いていたパソコンの画面をこちらに向ける。
「・・・これって・・・」
見た瞬間私は絶句した。
「知っているの?」
「会長。これは私が外の世界にいた時に使っていた暗号と全く同じものです。」
「ほう。で、どんなものなの?」
副所長の綾乃さんが聞いてくる。
「主に軍事転用が可能な研究データに使われる暗号です。これを使える人はごく少数に限られているはずなんですが・・・。」
「それにしてもお前なんでそんなことを知っているんだ?」
「・・・まあそれはおいおい。」
今話すと長くなるからなあ。
「とりあえず、和田君、この暗号を解読することは?」
「できます。」
「よし、やってくれ。」
「承知!」
すぐにケータイから愛莉さんのパソコンに解読プログラムを送り、プログラムを走らせる。
「さあ、どんな内容なんだ?」
その場にいた全員が解読された内容をみて目を丸くする。
「•••連邦捜査部S.C.H.A.L.Eへの襲撃なんてあり得ない。」
綾乃さんは口を手で押さえている。
「けれどもこれを計画した奴らは本気みたいだよ。明日の1:00にやるみたいだし・・・って。」
全員が時計に視線を向けると現在時刻は夜の1:30。全員が慌てふためく。
「・・・とりあえずヴァルキューレに通報を・・・。」
「待ってください!」
その先を読んだ私は全力で日永さんを止める。
「どうして?」
「これを見てください!」
「えーと『なおこの計画の首謀者はアントテクネ高等学校の仕業とする。』だと!?」
「今通報してしまったら隠蔽工作とみなされるかもしれません。」
「でもよー何も言わないよりかはいいんじゃねえか?」
それまで静かにしていた瀬名さんが口を開く。
「確かにそれはそうなのですが電話越しだと説明が十分にできず相手に誤解を与えるかもしれません。」
「なら今すぐヴァルキューレに行こうか。」
「ダメです。」
情報担当の愛理さんが副所長の綾乃さんを止める。
「愛莉さんどうして。」
「これを。」
愛理さんが私たちに向けたスマートフォンにはニュースが映っている。その題名は『キヴォトスを襲った悲劇!犯人はアントテクネ高等学校の生徒たちか。』と書かれている。
「さらに下には『アントテクネ高等学校の生徒の即時処刑を許可』とも書かれています。」
一同が絶句する。
「・・・その指示を出したのは誰だ?」
綾乃さんがかすれた声で言う。
「明示されてはいませんが連邦捜査部S.C.H.A.L.Eとのことですので・・・おそらく先生でしょう。もちろん連邦生徒会のお墨付きかと。」
「・・・あの人はそんなことをする人じゃない。」
冷静な日永さんがうろたえる。
「•••すみません会長。先生というのは?」
口ぶりから相当な特別な人なのだろう。
「連邦捜査部S.C.H.A.L.E所属の『大人』。このギヴォトスでは知らない人はいないほどの有名人。性格は温厚。何よりも生徒思いな人なんだけど。」
「まあ、相手が凶悪なテロ集団であれば話は別なのでは?」
「いや、それはない。そうしたらもっと前に同様に処刑されている人物がいる。」
「じゃあどうしたら•••。」
「日永、あそこを使う時じゃないか。」
綾乃さんが不意に口をはさむ。
「綾乃さん。あそことは?」
日永さんの言葉に反応する。
「お前は新入りだろうから何も知らないだろうが緊急時のために残されたセーフティーハウスだよ。もう五年前からは使っていないが設備自体は残っている。」
私の疑問に相葉さんが答えてくれる。
「そうだな、あそこに行くのが一番いいだろう。」
会長と副所長の意見が一致した。決まりだね。
「念のために私たちが乗ってきた車は放棄するとして・・・綾乃。予備の車は?」
「もちろんあるよ。きっちり二台。」
「そう、じゃあ分かれて乗ろう。綾乃と愛梨と和田。他は私と一緒にね。装備は?」
「日永さん。一応、隣の武器庫に12.7mm重機関銃一丁、5.56x45mm アサルトライフル5丁、45口径 拳銃7丁それと12.7mm対物ライフル二丁があります。」
実働要員の真宮さんがすらすらと答える。
いやなんでそんな物騒なものが探偵事務所にあるんですか。
「弾薬は?」
「12.7mmが800発、5.56x45mmが1200発、45口径が600発です。」
「少ないね。」
日永さん・・・少ないとは?
「あーそれと通信機やらサプレッサーもあるぜ。」
機械の瀬名さんが答える。
「では私は色々調べておきますね。」
情報の愛梨さんが言う。
「そうだな、和田くん。君はこっちに。」
「はい。」
副所長の綾乃さんの頼みとあれば断れない。
「こっちです。」
真谷さんが案内した先は小さな武器庫だった。
綾乃さんが慣れた手つきで扉を開ける。
扉を開けた先にあったのは外の世界で普通に生きていたら直に見ることはないであろう銃火器の数々。
「さて、和田くん、君にはそうだな・・・これがいいだろう。ほら。」
綾乃さんから拳銃とホルスターを渡される。
思っていたよりも重く、鈍く、黒色の光るそれを渡せられてある一種の恐怖を抱く。
「何があるかわからないから一応持っておきなよ。」
・・・持っていてもなあ。
そうは思いつつもホルスターを腰に巻き付け、そこに拳銃をしまう。
そうしている間にも日永さんや真谷さんは慣れた手つきで銃火器を運んでいく。
「和田くん、君は荷物をまとめてちょっといろいろと調べておいてくれ。」
「わかりました。」
日永さんにそう言われ、パソコンをしまい、スマホでいろいろと調べていく。
「和田和!!全員準備できたよ!」
急いで下に行くと銃を持って待機しているみんながいる。
「よし、それじゃあ行こうか!」
綾乃さんの掛け声と同時に私たちはそれぞれの車に乗りこみセーブハウスを目指した。
和田君について次回は深掘りします。