車は人通りが少ない道を走りセーブハウスを目指している。
今、私と一緒に乗っているのはアントス探偵事務所 の副所長である綾乃さんと情報要員の愛莉さんだ。
「•••和田くん。あなたはなぜあの暗号を知っていたの?」
「それ、私も知りたいな。」
愛梨さんが私に尋ねてくる。綾乃さんもそれに賛同する。
「聞くだけ時間の無駄だと思うのですが•••それでもいいですか?」
時間の無駄になっちゃうと思うんだけどなあ。
「別に?暇だし。」
「そうそう。」
綾乃さんと愛梨さんはそうは思っていないみたいだ。
「じゃあ話しましょうか。私はつい最近まである研究所にいたんです。」
「へえ~。どうしてそこにいたの?」
「これがちょっと普通じゃないんですけどね・・・私は昔ある犯罪集団にこき使われていたんです。」
「つ・・・使われていた?」
綾乃さんの声が上ずる。
「まあ、はい。こんな姿なんでボロボロになるまで使われて……
で、そこから逃げ出したんです。」
「……大変だったね。余計な言葉かもしれないけど。」
綾乃さんが慰めてくれる。
「とんでもない。話を戻すと、逃げ出した後、とある人に出会ったんです。」
そう、忘れもしない雨が激しく降っていたあの九月の日。私はあの人に出会った。
「その人が私をかくまってくれて……で、その人と一緒に研究所で研究していたんです。」
「ふ~ん。ちなみに研究所ではどんな立ち位置だったの?」
愛梨さんが聞いてくる。
「最初はただかわいがられていただけのはずが、いつのまにか偉くなっていってしまって。」
「ほお~じゃあ研究とかしていたの?」
綾乃さんは興味津々だ。
「ええ、テーマは……量子力学と重力でしたね。」
「……そう。」
情報要員の愛梨さんの目がぱちくりとしている。
「ところで•••なんであなたはここに来たの?」
愛理さんが聞いてくる。
「私の姉が三年前に失踪しまして・・・ここには姉を探すために来ました。」
「けど、他にもやり方はいくらでもあるでしょう。例えばお金を他の人に渡すとか。」
う~ん、正論だ。
「まあ、そうなんですけれども。あのままあそこにいてもただのお荷物になるだけでしたから。」
そう、私は研究所にいるあの人たちの足かせになってしまう。
「だから邪魔にならないためにここに来たっていうこと?」
「まあ、そんなところです。」
「•••命を落としても?」
「ええ。」
「和田くん。なぜそれほど生きることを軽く見ているんだ?」
綾乃さんは探偵事務所の副所長らしく鋭く質問してくる。
「・・・生きる意味が分からなくなってしまったんです。」
私はあの惨劇を経験したころから、生きていることの意味が分からくなった。
「けど君はあの時私の質問に迷わずに答えた。」
「それは•••」
確かに、綾乃さんに『君は自分のためだけではなく誰かのために戦えるかい?』という質問に私は『勿論です。』』と答えた。
「もしかしたら君は自分で気づいていないだけで生きる目的を持っているんじゃないか?」
「もし持っていたとして、私がそれを知らないのはおかしいです。」
「そうかもね。けど、この世界はわからないことの方が多いものだよ。
それは研究者である君がよく知っているだろ。」
「はい。」
「私だってそう。あの高校に入るとは思わなかった。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。本当に•••そうなんだ。」
そう言う綾乃さんの目は優しかった。
「さて。もうそろそろ着くよ。二人も、降りる準備して。」
「わかりました。」
「はい。」
しばらくするとシャッターが降りていて潰れたのであろうお店の目の前で車が止まる。
日永さんの車が止まっているところを見るとどうやらあの人たちは先についていたみたいだ。
「ここですか?」
「そうだよ。和田くん。」
「なんだここ、ぼろっちいじゃねえか。本当にここがセーブハウスなのかよ。」
「瀬名さん、落ち着いて。確かにここだよ。」
シャッターをあげて会長を先頭にして中に入ってみるとジメジメしていて気持ちが悪くなる。
「こりゃ、射殺される前に死にそうだな。」
「•••確かに。」
瀬名さんに相槌を打ってから会長を見ると何やら台の上に置かれたレジをいじっている。
「•••私達は覚えている•••」
急に会長が何かを言い始めてびっくりする。
「大切な人を奪われた悲しみを。
私達は知っている。理不尽に力を振るわれた者の悲しみを。
私達は見た。ただ悲惨な運命を受け入れることしかできない者を。
私達は誓う。今を生きる者のために、未来のために、戦うことを。
恐怖に向き合い、克服せよ。それこそが未来への唯一の道。」
会長が言い終わった途端、近くにあった本棚が動いて扉が出てくる。
「•••会長。さっき言った言葉は一体?」
「私達のモットー。さ、中に入るよ。」
いざ中に入ってみると五年前に放棄されたとは思えないほど綺麗だ。
「みんなこの円卓の周りに座ろう。」
日永さんに促されて座る。
「さてと、まず、現状を整理しよう。私達はテロ事件の犯人だとみなされ、命を追われている。テロを起こした犯人の手がかりはあのメールだけで、市川さんが行方不明。」
「ま、そんなところだな。で、これからどうするかだが。」
「まず確認したいんだけど、アントス探偵事務所の皆さんは私たちアントテクネ高等学校に協力するということで大丈夫?」
「大丈夫だよ、日永。なあ、みんな。」
副所長の綾野さんは瀬名さん、真谷さん、愛梨さんに目配せをする。
「もちろん。」
「ええ。」
「たりめえだ。」
三人ともついてきてくれるらしい。ありがたい。
「そしたら次に私たちがとる選択肢だが……私は3つあると思う。
その1、大人しく殺される。
その2、ほとぼりが冷めるまで逃げる。
その3、私達で真犯人を見つけて無実を証明するか。」
日永さんは3つの選択肢を出す。
「会長。その1は絶対にあり得ないとして、その3もありえなくないですか?」
真谷さんが言う。
「日永、正直に言わせてくれ、その3が一番いい計画なのはわかる。けれども、それが成功する確率はほとんどゼロだ。」
「•••もしもその3のプランに沿って行動する場合、ゲヘナの風紀委員会。トリニティの正義実現委員会、ミレニアムのC&Cを始めとして、各勢力の激しい攻撃が予想されます。そうなった場合我々は死体さえなくなりません。」
正直に言って私も同じ意見だ。なにしろ自分よりも遥かに強い人達が一斉に襲いかかるのだから。
「じゃあ、私たちは逃げるべきなのか?みんな。」
「•••それが一番の最善策かと。」
「もしも逃げた場合•••」
私はぽつりぽつりと無意識に話し出す。
「私たちはギウォトスの全ての学校と真犯人に追われ続けます。
そうなると、各学校にとってこれだけの規模のテロ事件の首謀者である私達を野放しにしないでしょう。たとえ何年かかってでも見つけ出すでしょう。それに真犯人の方も問題です。これだけのことをできるのですから当然それだけの目的を持っているでしょう。そしてその内容次第ではギヴォトス全体が壊滅するかもしれません。そうしたら待っているのは破滅のみです。•••ってああ、すみません。口が滑りました。」
「和田くん。いいんだ。」
突然日永さんの目つきが鋭くなる。
「みんな、怖いのはよくわかる。けれども今ここで戦わないのは逆に真犯人の思い通りになる。それに、私達ならきっとできる。」
「•••そうですかね。」
実動要員の真谷さんが口を開き始める。
「空崎ヒナ、剣先ツルギ、美甘ネル。日永さんはこの3人をご存知ですか?」
「勿論知っているさ。」
日永さんは頷く。
「……さっき言った人たちの他にも強い人たちはいます。」
「弱者には弱者なりの戦い方がある。問題ない。」
「それによお、そいつら全員まとめてぶっ潰せばいいんだろう。」
機械要員の瀬名さんが言う。
「あなたは彼女らを知っているんですか!」
「ああ、もちろん。名前を聞いただけで死にそうなくらいそいつらの強さは知っている。けどな、戦っていねえのに勝ち負けの話をするのは間違っているだろ。」
「確かにそうですが•••。」
「その通りだよ真谷さん。最初から勝つことを諦めちゃダメだよ。」
「大丈夫さ、真谷。私達なら多分大丈夫。」
綾乃さんと日永さんは真谷さんを励ます。
「まあ、やるしかないか。」
「ですね。」
どうやら三人とも腹は決まったようだ。
「よし、私たちはこれからこの事件の真犯人をとっ捕まえるために全力を出す。それでいいね、みんな。」
「「「「「「はい!」」」」」」
「じゃあ、今日は寝て、明日に備えようか。」
「そうですね、みなさんおやすみなさい。」
「おやすみなさい。」
それぞれが就寝前の挨拶を済ませるとソファーなどに寝そべり始める。
ベッドもシャワーもあるし数週間は大丈夫そうだな。
ただ、どうしても寝れなかった私は周りの部屋を見ることにした。
武器庫にキッチンルームに車庫など、それぞれ見て回るとふと一台のタブレットが目に止まる。
(なんだろう、これ?)
よく見てみると大きさは一般的なタブレット型端末と変わらないのだが、どこにも製造会社のロゴが入っていない。
不思議に思って画面をタップすると画面がつく。
そこにはこう表示されていた。
『パスワードを入れてください。』
何を入れればいいんだろう?と、思う。しかし次の瞬間、脳裏にある言葉が浮かび上がる。
それはあの時聞いた言葉。
「表と裏 光と闇」
その言葉を言った途端、タブレットの画面が光る。そして人型のキャラクターが画面に表示される。
『こんにちは、管理者様。私はこのタブレットのOSであるメイです。
何なりとご要望をお申し付けください。』
「え?」
•••どういうこと?
和田くんについての小話
彼は頭がいいのはそうなんですが、それよりも探究心が強い子です。
それが買われて研究所に雇われました。