翌朝、みんなはスッキリした顔で円卓の周りに集まる。私と愛梨さん以外ではあるが。
「愛莉、和田どうした、顔が死んでいるぞ。」
アントス探偵事務所の綾乃さんからストレートに言われる。
「寝不足です。」
「恋バナをしていたんだろ。」
アントテクネ高等学校生徒会副会長、相葉さんがぶっきらぼうな顔をしながら言い放つ。
「違いますよ。誰から聞いたんですかそんなこと。」
「日永からだが?」
「……日永さん?」
私はアントテクネ高等学校生徒会の会長、日永さんを見る。
「あれ、そうだっけ?」
「ほら、みんな静かに。」
日永さんと、騙された相葉さんを尻目に綾乃さんが会話を仕切る。
「さてと、実は寝不足なのは二人だけではなくて私もなんだ。」
「綾乃先輩も恋バナを?」
「相葉、お口チャックだ。まあ、話を戻して。」
綾乃さんの目つきが鋭くなり、皮膚を刺すような空気が流れ、自然と背筋が伸びる。
「実はカンナと話していたんだ。」
カンナ?
「いやちょ、おい待ってくれよ。なんでそいつに電話したんだよ。」
アントス探偵事務所の機械要員である瀬名さんが慌てる。
「あのーカンナさんてどなたなんですか?」
「尾刃カンナ。端的に言えば公安局の人間だ。」
「公安局ってまさか。」
「そう、ヴァルキューレにいるやつだ。確か『狂犬』とか言われていたかな。」
そうなると私たちを殺す勢いで探している組織の人に自分たちの居場所を教えたことになるのだが。
「どうしてその人に連絡したんですか?」
綾乃さんに問いかける。
「いや、まあ、同僚だったから。」
「ん?あれ、ということは。」
多分この人ヴァルキューレに元々いたということは。
「もしかして綾乃さんってヴァルキューレで市川さんの後輩だったんんですか?」
「おっ、正解。ところで、市川さんが元ヴァルキューレにいたっていうのはどうして知っているんだい?」
「えっと、昨日愛莉さんから聞きました。」
「ふーん、愛梨がねえ。愛莉は市川さんのことを怖がっていたんじゃないの?」
「昔はそうでしたけど、今はそうでもないですよ。」
どんだけ怖かったのだろうかあの人は。
「そう、じゃあ突然だけど問題。実はあともう一人ヴァルキューレにいた人がいます。誰でしょう?」
綾乃さんがウィンクをしながら問題を出す。
「うーんと、日永さんですかね。」
「えっなんでわかったの?」
「天性の勘ってやつか•••。」
二人とも不思議そうな顔をする。
「単純に、お二人がそういう関係に見えたからです。というか、バレバレです。」
「あちゃー、らしいよ、綾乃。」
「まあ、そうだろうなあ。」
日永さんは舌をぺろっと出す。いや、まるわかりです。
「ちなみにもっと言うと、相葉は元SRTで、瀬名は元ミレニアム。」
「ふーん。」
二人をチラッと見る。
「おいコラもうちょっと反応しろ。」
瀬名さんは不満そうだ。
「……いや、まあ、なんというか、SRTがどういう組織なのかが分からなくて。」
「一言でいってしまえば特殊部隊。」
「……養成機関とかではなくて?」
「正真正銘の特殊部隊。」
「わーお。」
同級生や先輩が特殊部隊にいるなんて今までだったら想像がつかない。
「まあ、さておき。で、彼女から聞いた話には2つポイントがあるんだ。」
「1つ目は?」
「まず、私たちはどうや随分と前から目をつけられていたらしい。」
「それは前からそうなのでは?」
日永さんがいう通り、確かに私だったら昔テロを起こした学校をそのまま野放しにすることはしない。
「まあ、確かにそうなんだが、事情が違くてね。」
「……あの許可。つまりアントテクネ高等学校の生徒に対する無差別殺害許可は連邦捜査部が襲撃された時に考えて出されたのではなく、前から用意されていたものなんですよね。」
「ご明察、理由は?」
綾乃さんが聞いてくる。
「なぜあんなにもすぐに私達の殺害許可が出たのかがずっと気になっていたんです。襲撃されてすぐにあの許可を出したとは考えにくいですから。」
「なるほどね。」
綾乃さんが相槌を打つ。
「そう、和田くんが言った通りあの殺害許可は前もって準備されたもの。で、その理由は各学園で前から起きていた騒動の首謀者が私たちだと疑われていたから。ということらしい。」
「紛れもないバッドニュースですね。あの許可がとっさに出されたものだとしたら私たちへ向けられた疑念を晴らすのはまだできたかもしれないけれども、前もって用意されていたものならば難しいでしょう。」
愛梨さんがはあ、とため息をつく。
「と、愛莉、思うだろう。ところがどっこいまだ希望は残っているんだな〜。」
「もう全部潰れていないか?」
相葉さんの意見に完全同意である。
「グットニュースは各団体で今のところ意見が三つに割れているということ。」
「それならまだ希望はありますね。」
そうだ、信じてくれている人がいるのならばまだ希望はある。
「まず一つ目『とりあえずアントテクネの連中は潰すべき』っていうグループがゲヘナとミレニアムとトリニティイとアドビス。」
よし、戒名を決めておくか……じゃなくて
「それってほとんどじゃないですか?」
たまらなくなってツッコむ。
「まあまあ、つぎに『暴動が起き過ぎているから関わる暇がない。』っていうグループは山海経とレッドウィンターだね。
そして、最後。『アントテクネは無罪』っていうグループは•••。」
「どこなんですか早く言ってください。」
「今の所カンナ。」
「さんと?」
「え、カンナだけだよ?」
それはグループといえるのか?というかそもそもの話として。
「なんでヴァルキューレやSRTの人たちは味方になってくれないんですか!ここにいる人たちのほとんどは元々ヴァルキューレとSRTにいたんですから私たちの味方になってくれてもいいはずです。」
「あーその、それは•••。」
日永さんの口が重くなる。
「まあ、私たち三人は。いや真谷と市川さん。それに愛莉も入れて6人は、ここに来るはずではなかったんだ。」
「率直にいうと、追われてきた。」
「ふえ?」
市川さんはどんな人かは知らないが、その人を含めてこの人たちは何かしでかすような人たちには見えないのだが。
「まあその話はいいや。そろそろ来るでしょ。」
「来るって、まさか。」
「そう、そのまさかだよ。」
入ってきた扉がドン、ドンとノックされる。
「はいはーい。」
会長が宅配を受け取るノリで扉を開けに行く。
「やっほー久し•••ってえ?」
身長は170cmくらいだろうか、ネクタイを締めていて、目つきはタカのように鋭い。しっかりした人であることはわかるが、なぜか傷ついている。
「すまない、とりあえず中に入れてくれないか。」
「も、勿論。」
「救急箱とってきます!」
すぐに部屋から救急箱をもってくる。
「申し訳ない。」
「いや、それよりも。ああ、もう上着を脱いでください。」
シャツをめくり、カンナさんの腕を見るとひどい打撲痕が何数箇所ある。
こんなに酷いのをみたのはあの時以来なのかな?
昔の忌々しい記憶を思い出しながらできるだけ素早く手当てを済ませようとする。
「カンナ、何があったの!」
「ここまで来る途中に襲われてな。この有様というわけだ。」
「•••。」
「和田くん、手が止まっているよ。」
「すみません。」
カンナさんが私の方をちらっと見る。
「しかし、アントテクネにこんな子供ははいなかったはずだが。日永の弟か?いや、それにしては面影がないというか。」
カンナさんは私にことをじーっと見つめる。
あれ、これもしかして勘違いされているのでは?
「カンナ、この子は入ったばかりの一年生だよ。」
「こ…これは、大変失礼しました。」
目を丸くしながら謝ってくる。
「いえ、いいんですよ。はい、手当は終了です。」
「ありがとうございます。」
「カンナ、早速だけれども何があったのか話してくれるかい?」
カンナさんはコクリと頷くと話し始める。
「はい。あの時、電話を日永から受け取ったあとここに向かっていたのですが、五十人ぐらいの武装集団に襲われました。」
「装備は?」
「それが、知らない装備をつけていいて•••何が何だかさっぱりなんです。」
「困ったね。装備がどんなものか分かれば犯人の特定にも役立つんだが。」
……もしかしたら……
「もしかしてその人たちがもっていた銃に『Timor idem est omnibus, et necesse est optimum scaenam creare.』と書いてありましたか?」
「それはどうかわかりませんが、確かに何か銃に白色で文字が書かれていました。」
「和田くん、今の意味は?」
日永さんが聞いてくる。
「•••気にしないでいただければ幸いです。」
そうだ、これはまだ憶測だ。何も心配する必要はない。
「で、これからカンナはどうするの?」
「これからは皆さんと行動しようかと思います。」
「カンナ、それは。」
「大丈夫です。これからの連邦生徒会の会議には私の代わりに今の状況で最も信頼できる生活安全局のとある二人を出席させることにしています。内部の情報は彼女たちに任せて大丈夫でしょう。」
「確かに公安局の内部にスパイがいるかもしれないなら生活安全局から代表者を出すっていうには賢明な判断とも言えそうだけれども、カンナは大丈夫なの?」
「大丈夫です。」
迷いのない目でカンナさんは言う。ああ、私もこういう目をしてみたいものだ。
「•••どうかしましたか?」
「いえ、なんでもないです。」
「おー今度はカンナに惚れちゃったのか?お?」
またもや日永さんがからかい始める。
「あーっとその、そういうことではなくてですね。」
「もしかして惚れたを通り越して好きになっちゃったりとか?」
「えっと、生まれてこの方恋愛感情を抱いたことがないんですよね。」
「嘘だー生きていたら恋の一つや二つするものだと思うんだけど、それに君なら逆に告白されることもあるでしょ、誰もいない教室に呼び出されて
『ねえ和田君てさあ女の子っぽくてチビだからさあ、スカートとか似合いそうじゃない?』
うっ
甘酸っぱく“好きです、付き合ってくださいって言われながら迫られちゃってさ。
『つれないなあ、ほら押さえつけて。』
ああ。
それから•••。」
「日永、ストップ。」
「カンナ?ってえ?」
「ごめんなさいごめんなさいスク水でもバニーガールの服でもなんでも着ますどれだけ殴って蹴ってもいいです好きにしていいですお金もたくさん出しますなんなら稼いできますですから命だけは•••。」
立派な客人がいるというのにみっともなく泣いてしまう。
「和田くん、ごめん。」
日永さんが背中をさすろうとする。
「やめて!」
けれども私はそこから逃げてしまう。
「もうやめてもうやめてもうやめて•••。」
「一体何が•••。」
「和田•••いや、和田くん。」
カンナさんが私と目線を合わせて話しかけてくる。
「昔の君に何があったのかはわからないけれども、またゆっくり聞かせて欲しい。何か力になれるかもしれないから。」
「•••はい。」
「和田くん。とりあえず君は寝ておきなよ。」
綾乃さんが私に言う。
「そんな•••。」
ここで寝てしまったら皆さんに申し訳ない。
「君と愛莉さんが夜遅くまで話していたのは私たちのためだって知っている。どうか休んで、君は僕たちの大切な仲間なんだから。」
「わかりました。」
「3時間ぐらい経ったら起こすよ。おやすみ。」
「おやすみなさい。」
寝室に入りベッドに入り込むとすぐに眠ってしまった。
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