英語の時間、相変わらずビッチねぇさんは俺たちに自習をさせているがこの日は様子が違った。
タンッ!!タンッ!!
一心不乱にタブレットをタップしまくり時折頭を掻きむしっている。
「あはぁ、必死だね、ビッチねぇさん。あんな事されちゃプライドズタズタだろうね〜」
カルマの煽りにも反応せずタブレットを操作している。傍から見ても余裕のない姿にため息が零れてしまう。
「先生…授業しないなら殺せんせーと交代してくれませんか?一応、俺等今年受験なんで…」
すると、クラスの学級委員長の磯貝が遠慮した様子でビッチねぇさんに話しかけた。
まぁ、納得は出来る。俺は心配ないが成績不振の生徒が大半を占めるクラスで昨日、今日と英語の授業が進まなければ不安にもなるだろう。そうなるなら勉強しておけば良いのにと思うが成績に不安がない俺には関係ない。
「はっ、あの凶悪生物に教わりたいの?地球の危機と受験を比べるなんて…ガキは平和でいいわね〜」
しかし、そんな磯貝達の不安はビッチねぇさんには理解出来なかったようだ。
「それに聞けばあんた達E組って…この学校の落ちこぼれだそうじゃない。勉強なんて今さらしても意味無いでしょ」
「馬鹿だな…」
ビッチねぇさんのセリフに俺は小声でそう呟いた。殺せんせーの暗殺失敗で気が立ってるからなのか、ビッチねぇさんは磯貝達の表情に怒りが現れた事に気づいていない。
「そうだ!!じゃあこうしましょ、私が暗殺に成功したらひとり500万分けてあげる!!あんた達がこれから一生目にする事ない大金よ!!無駄な勉強するよりずっと有益でしょ、だから黙って私に従い…」
磯貝達を無視して機嫌よくビッチねぇさんは話すがその言葉は何処からか投げつけられた消しゴムが黒板に当たった事で途切れた。
「出てけよ」
小さくもよく通る怒りが籠った声が聞こえた。ビッチねぇさんもそれでようやく気づいたのか生徒達を見るがもう遅い。
「出てけクソビッチ!!」
「殺せんせーと代わってよ!!」
堰を切ったようにビッチねぇさんへの怒りが暴言となって溢れ出し、投げつけられる文房具や丸めた紙やらと一緒に襲いかかる。
「な、なによあんた達その態度っ、殺すわよ!!」
「上等だよ!殺ってみろコラァ!!」
突然の生徒達の反乱にビッチねぇさんはそう言うがキレているコイツらには通用しない。俺からすればビッチねぇさんの言い分は理解出来る内容だった。いくら勉強しようと殺せんせーを殺せなければ地球は滅び俺達が高校生になる事はない。ならば、勉強する時間を削ってでも、それこそことの重要性を考えれば勉強の時間を無くしてでも暗殺を進めるべきだ。実に納得の出来る言い分だ。しかし、この教室に即しているとは思わない。
正直に言ってクラス一斉射撃を余裕で躱す最高時速マッハ20の怪物なんてどの国のどの戦力でも殺せない。3月に烏間先生が言っていたように本気で殺せんせーが逃げ続ければ俺達は手も足も出すことなく地球と共に平等な最後を迎えるだろう。それでも俺達が暗殺をするのは殺せんせーがこの教室にいて俺達が1年後も生きていたいと思っているからだ。
暗殺に成功すれば未来がある。100億円を手に入れていようがいまいが暗殺出来れば未来がある。それを信じて俺達は生徒と暗殺者を両立させている。少なくとも俺はそう思っているしクラスの連中も大体はそうだろう。
だからこそ、俺達に学業は必須なんだ。落ちこぼれクラスの『エンドのE組』の生徒であっても生徒と暗殺者を両立する以上、絶対に。だが、ビッチねぇさんはそれを理解していない。本人は何故こうなったかわからずに混乱しているだろう、教室の外では教員室から出てきた烏間先生がこの惨状に頭を押さえている。
(仕事とは言え苦労の絶えない人だな…)
心の中で烏間先生に合掌しながらも俺は椅子の背に身体を預けうるさい時間が過ぎるのを待った。
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「なんなのよあのガキ共!!」
私は荒れていた。烏間に引っ張られて教室から出された後もあのガキ共態度に腹が立って仕方がない。
「こんないい女と同じ空間にいれるのよ?有難いと思わないわけ!?」
「有難くないから軽く学級崩壊してるんだろうが」
この怒りを烏間にぶつけるがこの男は真面目に相手にすること無くパソコンを弄っている。
(なんなのよ!この私がこんなに怒ってるのよ男なら慰めなさいよ!!)
「いいから彼等にちゃんと謝って来い、このままここで暗殺を続けたいならな」
「なんで!?私は先生なんて経験ないのよ!?暗殺だけに集中させてよ!!」
烏間のセリフに尚更腹が立ってそう言うと烏間はため息を吐いて立ち上がり
「…仕方無い、ついて来い」
そう言って私を外へ連れ出した。
「見ろ」
草木を掻き分けて歩くと烏間は立ち止まって私にそう言ってきた。
「何してんのよあいつ?」
木の影からこっそりと見てみればあのタコが物凄いスピードで触手を動かしながら何かの作業をしている。
「テスト問題を作っている。どうやら水曜6時間目の恒例らしい」
「…なんだかやけに時間がかかってるわね。マッハ20なんだから問題作り位すぐでしょうに」
「ひとりひとり問題が違うんだ」
「えっ…」
烏間の言葉に私は驚愕した。だってそんなの…
「俺も生徒に見せてもらって驚いた。苦手教科や得意教科に合わせてクラス全員の全問題を作り分けてる。普通の教師の仕事ではない。だが、普通ではないヤツにはそれが出来る。高度な知能とスピードを持ち、地球を破壊する危険生物…。そんなヤツの教師の仕事は完璧に近い」
私は何も言うことが出来なかった。常に命を狙われるターゲットなのに相手である暗殺者にそこまでするなんて、私には出来ない事だ…。
「次だ」
黙り込む私に烏間はそう言って歩き出す。私もその後を着いていくと校庭で遊ぶガキ共が見えた。
「生徒達も見てみろ」
「ただ遊んでるだけじゃないの」
「俺が教えた『暗殺バドミントン』だ。動く目標に正確にナイフを当てる為のトレーニングだ」
烏間にそう言われて気づいた。あの子達が手に持っているのはラケットじゃない。あれは木製のナイフだ。あのタコの顔が描かれたボールをそのナイフの刃と鋒を使って器用に操作している。
「暗殺の経験の無い彼等だが賞金目的とは言え、本業である勉強の合間を縫って熱心に腕を磨いている」
『本業』あの時、私が言った言葉だ。今になってあの時の自分が恥ずかしくなる。烏間が何を言いたいのかもう理解出来た。
「お前に暴言を吐いた結城君は特にそうだ。彼はこの学校で1番の頭脳を持った『生徒』だが、このクラスで誰よりも『暗殺者』として腕を磨いている」
「…………」
「体育の訓練だけではなく放課後の時間を使ってまで腕を磨いてくれているのは彼だけだからな…。話が逸れたが、ここまで言えば理解できるはずだ。あのモンスターによって作られたこの奇妙な教室では誰もが2つの立場を両立させて腕を磨いている。お前はプロである事を強調したが教師と暗殺者この2つを両立出来ないと言ったお前はこの教室では誰よりも劣ると言うことだ。ここでヤツを狙うつもりなら見下した目で生徒を見るな」
烏間はそう言って去ってしまった。私はただ何も言わずに黙る事しか出来ない。自分の言葉が自分を締め付けている。教室であの子達が私にキレた理由がやっとわかった、あの子達に向き合わなければここには居られない。ならば、私は私のやり方で向き合おう。
そう決めて私は教室へと足を進めた。
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ガララッ
昼休みが終わり俺達が授業までの僅かな時間を過ごしていると扉を開けてビッチねぇさんが入ってきた。
カツ、カツとヒールを鳴らしてビッチねぇさんは黒板へ歩いているが磯貝や片岡達の目は冷たい。あれだけ派手に学級崩壊したのだ、その原因が突然入ってくればこうなるだろう。
「you're inredible in bed!」
しかし、ビッチねぇさんはそんな視線をものともせずに白のチョークを手に取ると黒板に英文を書いて読んだ。
「repeat!」
意味がわからず呆然とする俺達にビッチねぇさんはそう言って俺達にも読むのを促す。
「…ユ、ユーアー インクレディブル イン ベッド」
磯貝達は困惑しながらも促されるまま読むが卑猥な内容に俺は口を噤んだ。
「あれ〜結城君は読まないの?」
「あんな卑猥な文読めるか」
文を読まなかった俺に目ざとくカルマがそう言ってくるが俺はそう吐き捨てた。
「へぇ〜、アレなんて書いてあんの?」
「お前、内容わかってて言ってるだろ?」
「まぁね〜」
「結城」
「はい」
文を読むのを拒否する俺に読ませようとしてくるカルマを睨む俺にビッチねぇさんが声をかけてきた。
「あんたなんで読まないのよ」
「そんな卑猥な文読みたくないんで。というか俺だけ読んでないってわかるんですね」
「あんたは無駄に発音良いからわかるのよ。読んでないのあんただけよ、早く読みなさい」
「卑猥な文なんで拒否します」
「このガキ…」
頑なに拒否する俺にビッチねぇさんはそう呟くが読みたくないモノは読みたくないので仕方がないだろう
「あの、それで…どういう意味なんですか?」
埒が明かない会話に磯貝が手を挙げてそう尋ねる。周りの連中も「早くしてくれ」といった表情だ。
「アメリカでとあるVIPを暗殺した時にまずそいつのボディーガードに色仕掛けで近づいたわ。その時、彼が私に言った言葉よ」
「意味は『ベッドでの君はスゴイよ…❤』」
しかし、ビッチねぇさんがそう言うとみんな顔を紅くした。俺が拒否した理由が理解出来ただろう。
「短い時間で外国語を習得するには、その国の恋人を作るのが手っ取り早いとよく言われるわ。相手の気持ちをよく知りたいから、必死で言葉を理解しようとするのね」
下品な方向へ傾いた内容を正すようにビッチねぇさんは俺達に語る。学級崩壊が起こった時の、俺たちを下に見る態度とは違い今度はまっずくと俺たちを見ている。
「私は仕事上必要な時…そのヤリ方で新たな言語を身につけてきた。だから、私の授業では…外人の口説き方を教えてあげる。プロの暗殺者直伝の仲良くなる会話のコツ。身につければ実際に外国人と会った時に必ず役に立つわ」
「経験則に基づく授業か…」
「そう。私に出来るのはあくまで実践的な会話術だけ。受験に必要な勉強はあのタコに教わりなさい。…もし、それでもあんた達が私を先生と思えなかったらその時は暗殺を諦めて出ていくわ」
「…そ、それなら文句ないでしょ?…あと、悪かったわよいろいろ」
怯えたようにそう言うビッチねぇさんに笑いが起こった
最後の部分は小さくて聞こえずらかったけど俺達に謝っていた。あんなに高飛車だったビッチねぇさんがここまで大人しくなるなんて、一体どう言う心境の変化なのだろうか
「あははっ、何ビクビクしてんだよ。さっきまで殺すとか言ってたくせにさ」
「クククッ、借りてきた猫みたいになってら」
突然起こった笑い声にビッチねぇさんは呆然としたり前原達にそう言われて気恥しさから顔を紅くしたりしている。表情が忙しい人だな。
「あーあ、なんか普通に先生になっちゃったな」
「もうビッチねぇさんなんて呼べないね」
「考えてみれば先生に向かって失礼な呼び方だったよね」
「呼び方変えないとね」
前原達は『先生』になったビッチねぇさんに何処か疲れたようにそう言い当の本人も変化した生徒達の態度に涙を浮かべている。だが、元を辿れば『ビッチねぇさん』呼びになったのは彼女が『イェラビッチお姉様と呼びなさい』と言ったからであり今浮かべている涙は壮絶なマッチポンプと言えなくもない。
「じゃあ『ビッチ先生』で」
俺が呆れてそう思っていると前原がそう言い彼女は固まった。
「ね、ねぇ?せっかくだからビッチから離れてみない?気安くファーストネームで呼んでくれて構わないのよ?」
「でもなぁ、もうすっかりビッチで固定されちゃったし」
「うん、イリーナ先生よりビッチ先生の方がしっくりくるよね」
「さっきの英文の内容的にビッチでもハズレじゃないしね〜」
因果応報、ビッチ先生が今さらそう言おうと遅すぎた。
「そんなワケでよろしくビッチ先生!!」
「授業始めようぜビッチ先生!!」
「キ━━━━━━!!やっぱりキライよあんた達!!」
止まらないビッチ呼びにビッチ先生がそう叫ぶが後には笑い声しか起こらなかった。その笑い声はビッチ先生がここに馴染み始めているという事なのだろうが、それは今は言わない方が良いだろう。
椅子の背に身体を預けて俺はそう思った。
大人の時間で母親の名前を出したから人物紹介的的なのを書いた方が良いのだろうか?
両親や姉たちの人物紹介はあった方が良い?
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良い!!
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なくても良い!!