5月の第2週の水曜日、この日俺達は昼休みを返上してE組の旧校舎のある裏山を下山していた。
「急げ、遅れたら本校舎の連中にまたどんな嫌がらせされるかわからないぞ」
「前は本校舎の花壇掃除だったっけ?」
「あれはキツかったー、大体花壇が広すぎなんだよ」
「お前はほとんどサボってただろっ」
「はっははーそうだっけ?」
「ああーもうっ!なんで私達だけこんな思いしなきゃいけないの!!」
「成績が悪いからだろ」
今日は月に一度の全校集会だ。校舎が違う俺達E組は昼休みを返上して体育館で整列していなければならない。先導する磯貝を先頭に文句を言いながら歩く岡野達にそう言いながら俺も歩いているところだ。
「結城…お前もうちょっと言葉をオブラートに包むって事をしろよ」
「そーだせ、ストレートすぎて傷つくだろ〜?」
「事実は事実だ。それにそう思うなら成績を上げれば良い」
俺のセリフに磯貝と前原がそう言ってくるが俺からすればただの実力不足だ。これ以上何を言えば良いんだ、立ち止まった2人にそう言い残して俺は山を降りていった。
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「はぁ〜相変わらずの正論パンチ」
「私、結城って苦手、配慮ってもんが無さすぎ」
歩いていく結城を見送ると前原がため息混じりにそう呟いた。岡野も前原と似たような事を思ったのかそう言っている。前原よりストレートなあたり、岡野らいしが俺も言いたい事はわかる。
「でも、ああ言われても言い返されないだけの成績を納めてるからな。結城は」
「あー、磯貝は結城と1年、2年とクラス一緒だったんだっけ?」
「昔からああなの?」
「ああ、昔からあんな感じだ」
前原と岡野のセリフに頷いてそう応えながら俺は歩き出す。
「私、結城の事って喧嘩騒動で名前聞くくらいしか知らないんだけど、どんな奴なの?」
遅刻は出来ないので前原と岡野も着いてくるが岡野はすぐにそう聞いてきた。
「天才だよ。入試でオール満点とってそれからのテストもオール満点、普段の授業態度も真面目で非の打ち所のない奴なんだけど、やっぱり親の事で過剰に注目されてて本人はそれが凄く嫌みたいだ…。岡野が聞いたって言う暴力沙汰もそれが原因だよ。と言ってもいつも相手から手を出されて結城が一方的に痛めつけるから話が広がっただけだと思うけど…」
「そうなんだ。でも、確かに教室じゃ普通に話してるとこ見かけるしこの前の暗殺の時もアドバイスしてくれたりしたよね。噂って当てにならないな〜」
「でも、結城って羨ましいよな〜。あの大女優、結城巴が母親なんだぜ?3人の姉も女優でちょ〜美人だしよ」
「バカね。そういう事言われるのが嫌だってさっき磯貝が言ってたじゃない。超スゴい成績とってるのだってアンタみたいのにそういう事言われない為よ」
「今、本人いねぇからセーフだよ、セーフ」
お気楽そうにそう言う前原に岡野はため息を吐いているが俺も同じ気持ちだった。正直、ここに結城がいなくてラッキーだった。1,2年とアイツの喧嘩を見た事ある俺としては結城が前原を殴る姿も前原が殴られる姿も見たくない。
「結城はその手の話が地雷なんだ。結城と喧嘩になった奴等も今の前原みたいに話しかけてすげなくあしらわれて、結果手を出して殴られてたからな…。前原、今みたいな事は結城の前では絶対に言うなよ」
「お、おう…わかった…」
前原の性格だといつ地雷を踏み抜いてもおかしくないからな。一応、釘は刺しておかないと。頷く前原に俺も頷いて体育館へ向かう足を早めた。
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「結城」
「磯貝、遅かったな」
「お前が早すぎるんだ。なんでそんなに早く山降りられるんだ?」
「毎日鍛えてるからな」
いち早く本校舎の体育館へ到着し水を飲んでいた俺はやっと到着した磯貝とそう話す。磯貝以外も着々と到着している。岡島が何故かボロボロになっているが山を下山して来たんだ。道中何があっても不思議じゃない。
「早く体育館に入ろう。到着してても並んでないとペナルティが出るからな」
「まっ、待ってくれ結城…、もうちょい休憩…」
「言ってる余裕ないぞ、もう本校舎の連中が集まってきてる」
俺のセリフに杉野がそう言ってきたが俺は体育館の中を指さしてそう言う。中にはちらほらと本校舎の生徒が集まってきており時間が迫っている事を言外に伝えている。
「最悪だ…。時間間に合っても整列できてなきゃペナルティとか、終わってんだろ」
「くそ…、なんで俺等だけ…」
悪態をつきながら疲労困憊の身体に鞭を打ってみんな動き出した。俺も飲み終わったペットボトルをゴミ箱へ入れて体育館へ入る。
「もう来てるよ」
「はやっ」
「可哀想に〜」
体育館へ入った途端に鬱陶しい野次が聞こえてくるが無視して俺達は整列する。寺坂あたりは苛立っているようだがこの学校では成績下位のE組が本校舎の生徒に逆らったところで笑いものになるだけだ。差別待遇はここでも同じ、特にそれを気にする必要がない俺以外は全員、居心地が悪そうな顔をしている。
「…要するに、君達は全国から選りすぐられたエリートです。この校長が保証します。が、慢心は大敵です。油断してると…どうしようもない誰かさん達みたいになったちゃいますよ」
集会が始まっても差別待遇は変わらない。いや、むしろ教師が煽るぶん加速すると言っても良いだろう。実際に今も聞くに絶えない笑い声が体育館全体に響いている。
「続いて生徒会からの連絡です」
司会がそう言うとようやく笑い声が収まった。もうずっとこのままでいて欲しいが、本校舎の生徒会が主役だ望み薄だろう。
「え、誰?あの先生??」
「シュッとしててカッコいい〜」
そんな事を思っているとなんだか騒がしくなった。原因を探してみればちょうど烏間先生が本校舎の教師に挨拶をしている。
「E組担任の烏間です。別校舎なのでこの場を借りてご挨拶をと」
烏間先生に挨拶をされた女教師は顔を紅くしているがその理由はわからなくない。立ち振る舞いからなにから烏間先生はちゃんとしているからな。
(ああいう大人になりたいもんだ…)
「ナイフケースデコってみたんだ〜」
「かわいーっしょ」
烏間先生を見てそんな事を考えていると前の方から話し声が聞こえてきた。様子を見ていれば倉橋と中村がデコレーションしたナイフケースを見せあっている。
(阿呆だ…)
俺がそう思っていると烏間先生が珍しく驚いた様子で倉橋と中村へ詰め寄ってナイフケースをしまわせた。
そうなるよな。一般の女子中学生がナイフケースを持ってるなんて一般的とは言えない。その『一般的ではない状況』を隠すために色々と手を打っているであろう烏間先生からすれば倉橋と中村の行動は阿呆と言う他ない。
(出すのはいいとしても声に出すなんてな…)
2人の行動に呆れているとまた騒がしくなり始めた。
また、原因を探してみればビッチ先生がモデル顔負けのウォーキングで体育館へ入ってきていた。何しに来たんだあの人
「なんだあのものすごい身体の外国人は!?」
「あの人もE組の担任なのか?」
「何しに来た」
「何じゃないわよ、私もここの先生よ」
烏間先生も俺と同じ事を思ったのかそう聞くがビッチ先生は当たり前のようにそう答えている。短い時間で変わるもんだ。ついこの前、学級崩壊を起こした原因にはとても見えない。普通とは言えないがALTの先生には見える。
「渚、あのタコの弱点全部手帳に記してたらしいじゃない。その手帳おねーさんに貸しなさいよ」
前言撤回、何やってるんだこの人は
「いや、役立つ弱点はもう全部話したよ」
「そんな事言って肝心なところ隠す気でしょ」
「いや、だから…」
「いーから出せってばこのガキ!窒息させるわよ!!」
潮田を胸に埋めて情報を吐かせようとするビッチ先生に思わずため息が出る。
さっき、烏間先生が倉橋と中村に釘を刺したばかりだと言うのに、全校の場でそんな事やったら目立って仕方がない。
「何をやっているんだお前は!?」
案の定、烏間先生がビッチ先生の首根っこを掴んで潮田から引き剥がした。本当に苦労が絶えない人だ。
『はいっ、今皆さんに配ったプリントが生徒会行事の詳細です』
烏間先生に心の中で合掌している間に話しが進んだのか壇上からそう聞こえてきた。
しかし、俺達の手元にプリントはない。辺りを見れば他のクラスには配られているようだ。
「はぁ…」
E組の分だけ作っていないのだろう。生徒会からの差別待遇に思わずため息が出てしまう。
「すいません、E組の分まだなんですが」
磯貝が代表してそう言っているが俺達の手元にプリントが来ることはないだろう。
「くだらない」
そう呟くと俺はクラスの列から抜け出してある生徒の元へと向かった。
「結城君…?」
「結城?」
『え、ない?おっかしーな…。ごめんなさーい3-Eの分忘れたみたい。すいませんけど全部記憶して帰ってくださーい。E組は記憶力も鍛えた方がいいと思うし』
生徒会役員のセリフと笑い声でかき消されて聞き取りずらかったが列を抜け出し俺に矢田と吉田が声をかけてきたが俺は無視して生徒会の連中が並んでいる列へと向かう。
「浅野、プリントくれ」
そして、生徒会長である浅野学秀にそう言った。
「何アイツ?」
「E組のくせに生徒会長に…何様よ」
「なぁおい、あの人…」
「あぁ、結城先輩だ…」
「え?あの人ってE組だったのか?」
浅野にプリントを催促する俺にあちこちから声が上がるが今は関係ない。
「結城、どう言うつもりだ?」
今はこっちの方が重要だ。
「合理的に行こう。どうせこの一瞬の為にE組の分は作ってないんだろ?だったらお前からもらったプリントをコピーしてうちのクラスで配布する。このくだらない時間を終わらせて集会を進めろ。生徒会長なんだから生徒会行事は全部頭に入ってるんだろ?」
「E組の分際でな「合理的に行こうって言っただろ」っ!?」
「この学校は成績が『全て』なんだろ?お前が言っていた事だ」
「…良いだろう」
俺の言いたいことが伝わったのか浅野はそう言うと俺にプリントを手渡した。
「ありがとう、貰っていくよ」
浅野から受け取ったプリントを確認してそう言うと俺はE組の列へと戻った。
「結城…大丈夫なのかよ…」
「何が?」
「浅野君の事、怒らせちゃったんじゃない?」
「別に問題ないだろ」
戻ってきた俺に吉田と矢田が何故か心配そうな表情で話しかけてきたが俺はそう応えると
「磯貝、後でコピーしたのを渡すから配っておいてくれ」
前にいる磯貝にそう伝えた。しかし
「その必要はありませんよ、結城君。そのプリントは後で先生に渡してください」
磯貝が応えるより先に別の方から応えが返ってきた。
「は?」
「お前っ!何故ここにいる!?」
声のした方を見てみればいつの間にか殺せんせーが教師の列に並んでいた。
「生徒のピンチですから」
怒り顔の烏間先生に殺せんせーは真面目な声でそう言っているがそれどころでは無い。
「全校の場に顔を出すなと言っただろう!お前の存在自体国家機密なんだぞ!!」
その通りだ。国家機密の殺せんせーがこの場にいていいはずがない。烏間先生は秘密を守るために小声で話しているが殺せんせーの姿形に注目が集まっているのがあちこちから聞こえてくる声でわかる。
「結城、そのプリントは後で先生が手書きでコピーしておきます。なので無くさないでくださいね」
しかし、殺せんせーはそんな烏間先生の気持ちを無視して俺にそう言ってくる。
「わかりました…」
流石にこれはまずいだろと思いながらも俺は平静を装って応えるが烏間先生の気苦労は推し量ってあまりある。
しかし
「フンっ、フンっ」
そんな烏間先生を無視してビッチ先生が殺せんせーにちょっかいを出し始めた。
「なんか隣の先生にちょっかい出されてね?」
「なんか刺されてるな…」
「本当に何しに来たんだお前は!?」
本校舎の生徒達がざわつき始めたタイミングで烏間先生は額に青筋を浮かべてビッチ先生の関節を決めて連れていった。
「はははっ!しょーがねーなビッチ先生は!!」
そんな烏間先生の気苦労が絶えることのない一連の流れに今度はE組から笑い声が起こった。
俺は烏間先生に今日何度目か分からない合掌をするがウチの先生ならではのやり取りに自然と笑みがこぼれてしまった。
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あの後、集会はなんとも言えない雰囲気で終わった。結局、あの後ビッチ先生が戻ってくる事はなかったが教室に帰ればいるだろう。
「おい結城っ!」
どこか怒りを孕んだ声に振り向くとそこには生徒会役員である浅野とその取り巻き4人が揃っており浅野以外は俺の事を睨んでいた。
「なんだ?」
「なんだじゃねぇよ!!E組の分際で全校の和を乱しやがって調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
「『全校の和』ってお前たちがそれを言うのか?」
取り巻きの1人の瀬尾のセリフに俺は眉を顰める。
「率先して乱したのは生徒会だろ。自分達の行動をよく振り返れ」
「な、なんだと!?」
「わざとE組の分のプリントを用意しなかったりそれを棚に上げて『全て記憶して帰れ』と言ったり…。和を乱しているのはお前らの方だろ。それともわざとじゃなくて本当に忘れたって言うのか?なら、記憶力を鍛えた方が良いのはそっちの方だぞ」
「言わせておけば!!」
「はぁ〜、くだらない。お前達の小さいプライドを保つための会話なんてくだらなすぎだ。鬱陶しいからこれだけ言っておく、『俺に』文句があるなら1度でもテストの成績で俺に並んでから言え」
あまりに執拗い連中が鬱陶しくなりそう言うと連中は顔を歪めながらも黙りこくった。俺はそんな連中を一瞥して教室へと帰った。
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ダンッ!!
全校集会の後、教室に戻った僕は机を殴った。クラスメイトがそんな僕に驚きと恐怖が混じった視線を向けてくるが知ったことじゃない。
今、僕の頭の中を占めているのはアイツの言葉だ。
『俺に文句があるなら1度でもテストの成績で俺に並んでから言え』
結城伊澄。入試で僕以上の成績をとり、入学後の学内テスト、学外の全国テストでも僕の上を行く男。
入学してから僕は1度しか奴に並んでいない。それ以外のテスト成績ではずっと奴に負けている。
毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回負け続けている。
勉強を怠ったことなどないなのに何時も僕は奴の下だ。怒りと屈辱で気がおかしくなりそうだ。
(何故だ何故奴に勝てない!!僕と奴の一体何が違うと言うんだ!!)
今すぐ声に出して叫びたいが僕にそれは許されない。この学校の支配者たる僕にそんな事は許されないんだ。
いずれは奴もこの学園の支配者たる父も超えて真の支配者と成るために
「必ず貴様を超えてやる…!結城伊澄!!」
怒りを噛み潰して僕はそう呟いた。
浅野との因縁を最後に書いてみました。でも、なんかストレルフルな感じになっちゃって書いてて少し可哀想になってきましたがプライドの高い彼なら問題ないだろうと思ったので特に変えることなく書きました。
いつか禿げないといいなぁ…。
両親や姉たちの人物紹介はあった方が良い?
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良い!!
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なくても良い!!