殺せんせーが校庭に竜巻を作り出した翌日。俺達E組の生徒は本校舎に来ていた。
椚ヶ丘中学校ではテストは全員1人の例外無く本校舎で受ける決まりでありE組は普段の教室を離れアウェーでの戦いになる。
「やぁ、結城」
テストが始まるまで後10分、俺たちが使う教室に入ろうとすると声をかけられた。
「浅野、何か用か?」
「いやなに、君の様子を見に来たんだ。理事長から聞いたんだが今回のテスト、君は僕に負けたら本校舎に戻ると言う賭けをしているらしいね」
いつも通りに返した俺に浅野がそう答えると教室内がざわつき始めた。
「理事長が俺のお願いを2つ叶えてくれるからな。俺にメリットがあるから賭けに乗っただけだ」
「『叶えてくれるから』か……もう勝った気になっているとはね。いつも強気な君が羨ましいよ」
「これまでの成績を見ればお前が俺に勝つ確率はかなり低い。今まで学内、学外合計して30近いテストがあったがお前が俺に勝った回数は0だ。点数が並んだ回数も3回。そんな、お前が『賭け』をする今回のテストで俺に勝つ確率は限りなく0だ。俺は『いつも通り』だからな」
「……………ちっ、必ず勝って這いつくばらせてやる」
浅野にいつも通り勉強は完璧だと伝えて今回も負ける事は無いと言うと浅野はそう吐き捨ててクラスへと戻って行った。浅野を見送り俺も教室に入ると席に座る。何故か全員がチラチラと見てくるが知った事ではない。テストが始まるまで残り5分。俺は机にシャーペン、消しゴム、替芯を用意してテストが始まるのを待った。
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テストが始まると俺は全部の問題を確認し手間のかかる問題から解き始める。
学内、学外のどのテストもそうだが、最初の問題はかなり簡単だ。馬鹿正直に最初から解いていけば途中から難易度が上がり時間を浪費する事になる。ならば、時間のある内に難易度の高い問題を解き、一瞬で解ける問題は後に回す。こうすれば効率的に問題を解くことが出来る。
「それにしてもこの問題……」
テストが始まり25分。俺たちの邪魔をするように配置された教師が雑音を立てるが俺は気にせずテストを進め今解き終わった問題を見て小さくそう呟いた。
(学校が指定してきたテストの範囲外の問題だ。それも応用力が求められる難易度の高い問題……。下手をするとこの問題の正答率一桁になるんじゃ………?)
そう、テストの最後の3つの大問が指定されていたテスト範囲を逸脱した問題なのだ。習っていない上にその応用をしなければならない問題。殺せんせーのおかげで中学の範囲に隙がなくなっている俺は解けるが、俺以外のクラスメイトは難しいだろう。
(クラスの中で解けそうなのはカルマ、他だと浅野くらいか?)
そう考えながらも残しておいた簡単な問題を全て解き、俺は時間を確認する。
時計の針はテスト時間がまだ、半分程残っている事を示していた。
(残りは確認の時間だな)
俺は回答用紙を机の端に置いて問題用紙の方に回答を書き込んでいく。椚ヶ丘中学校ではテストの際に回収されるのは回答用紙だけで問題用紙は回収されない。問題用紙に書き込めば確認とテスト後の自己採点に使うことが出来る。
(1度解いた問題だ。さっきよりも早く終わるな)
残り4分の時間を残して問題用紙に答えを書き込むと俺は回答用紙と見比べて齟齬がないかを確認する。
(完璧だな)
2つの用紙を見て俺は頷くとタイミング良く終了のチャイムが鳴り回答用紙は回収された。
(残りの教科もいつも通りこのやり方でやっていこう)
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5時間目終了のチャイムを聞き俺は息を吐き出した。1時間目の最後の心の中での呟き通りにいつも通りのやり方で全てのテストを終えた俺は頭を悩ませた。
「まさか、全ての教科で範囲外の問題が出てくるとはな」
そう、1時間目のテストと同じく残りのテストも範囲外の問題が出てきた。進学校でレベルの高い椚ヶ丘と言えどこれは異常だ。
「まさか、理事長が賭けの為にこんな事を……?」
その可能性は十分にあるが考えられない事でもある。理事長は合理的な人だ。わざわざ1人の生徒を隔離校舎から本校舎へ戻す為にこんな事をするなんて合理的とは言えない。
「俺を本校舎に戻す為にひとつの学年のテストの平均点を下げるような行動……非合理的な上に理由が希薄すぎる。理事長らしくない」
賭け以外にも何か理由があったのだろうか、と考えられずにはいられない今回のテストに俺は面倒くささを感じながらも教室を出ていった。
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テストから1週間経ち返却日が訪れた。テストの返却となると各々一喜一憂するものだが、クラスの雰囲気は暗い。理由は明白だ。指定されていた範囲外の問題が出てきた事で点数が取れなかったせいだろう。
どうもカルマから聞いた話しによると俺以外の連中は殺せんせーから「全員が学年50位以内に入る事」と言われていたらしい。出来なければこの校舎を平らにして出ていく、とも
「…………先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見すぎていた様です。君達に顔向け出来ません」
殺せんせーからのミッションを達成出来なかったクラスメイト達の落ち込みを感じるのか俺達に背を向て殺せんせーはそう言う。
「これはどう言う事でしょうか?公正さを著しく欠くと感じましたが?」
殺せんせーの隣では烏間先生が指定外の範囲から問題が出題された事に抗議の電話を本校舎へ入れているがまともに相手にはされていないのだろう。その表情が晴れることは無い。
烏間先生も内心とても焦っているのだろう。殺せんせーが自分の言葉通りに行動するなら殺せんせーはこのE組を出ていく。現状、世界で1番暗殺がし易い場所からターゲットが消えれば地球を救う事が難しくなる。防衛省としては何としてでもそれは避けたいのだろう。
それに
殺せんせーに居なくなられると俺が困る。
本校舎の教師ではダメだ。俺の話を聴いて、理解してくれて、俺を成長させてくれる先生。それは、殺せんせーだけだ。だから、居なくなられると困る。
俺はゆっくりと銃を抜くと俺達に背を向ける殺せんせーに照準を合わせ引き金を引いた。
「にゅやッ!?」
発砲音に反応しつつも何故か驚いたような声を上げて殺せんせーはBB弾を避けた。
「い、いきなり何するんですか結城君!先生は今、落ち込んで「『先生』なんだろ」
「は?」
「殺せんせーは俺達の『先生』なんだろ?だったら俺達の事を見てくれよ」
「!!」
「話しはカルマから聞いた。そんな事になってるなんて知らなかったけど…………俺には関係ない」
俺のセリフに固まる殺せんせーに俺はそう言って五教科の回答用紙を渡す。
「これはッ!!」
そして、回答用紙を受け取った殺せんせーは声を上げた。
「俺は範囲外から問題が出ても関係なかった。もともと、中学の範囲は全部終わらせてたし。テスト勉強で殺せんせーが穴を完璧に埋めてくれたからね」
殺せんせーにそう言うと俺のテストの点が気になるのか全員が席を立って俺と殺せんせーの周りに集まってきた。
「うそっ」
「全教科満点………」
「学年1位かよ……」
「すごい……………」
「だから、焦りも驚きもなく回答出来た。『先生』が教えてくれたからだよ」
俺は今回のテストも500点満点だった。満点がとれる様に勉強をした。いつも通りに。俺の点数を見た何人が声を上げているが今は関係ない。
「殺せんせーがちゃんと『先生』してくれたから、点数がとれた。まぁ、中学の範囲は終わらせてるから例え、殺せんせーのテスト勉強が無くても500点満点とれた可能性はあるけど、それはあくまでも可能性の話しだ。今、ここにある『事実』は『殺せんせーがちゃんと教えてくれたお陰で俺が何時ものように500点満点をとれた』って言う事実だ。なのに……殺せんせーはそれを加味せずに、たった1回の失敗で俺達から顔を背けて『先生』を辞めるの?俺、殺せんせーにこの教室から居なくなられると困るんだけど」
「しょうがないよ結城クン」
俺が殺せんせーにそう言うとそのセリフと同時に対先生ナイフが飛んできた。
「カルマ君」
「カルマ……」
「結城クンの後じゃ見劣りするけど俺も範囲外の問題が出てきても関係なかった」
そう言うとカルマは殺せんせーに回答用紙を投げた。殺せんせーは少し慌てた様子でそれらをキャッチすると点数を見て目を見開く。
カルマの点数は数学が満点で残りの教科も99、98点と合計で494点の高得点を叩き出していた。
「結城クンと同じくあんたが俺の頭に合わせて範囲外も教えたからだよ。だから、問題なく対処出来た。でも、俺も、さっきのセリフ的に結城クンもE組出る気無いよ。前のクラス戻るより暗殺の方が全然楽しいし」
「俺も同感だ。それに殺せんせーと法人類学の話しをするのは他の何よりも楽しいからな」
カルマのセリフに続ける様に俺もそう言う。するとカルマをうっすらと笑みを浮かべ
「で、そっちはどーすんの?『全員50位以内に入らなかった』って言って結城クンの言う様に俺達に背を向けて『先生』辞めて出ていくの??」
挑発的な口調で殺せんせーにそう言う。
「それって結局さぁ、殺されんのが怖いだけなんじゃないの?それに俺達に第二の刃がなんたらこうたらとか言ってた大人が自分の『先生』って仕事ほっぽって出ていくなんてカッコ悪くね?」
カルマの煽りを受けた殺せんせーは青筋を浮かべて赤くなる。すると、今まで黙っていた前原達がカルマが作った波に乗るように殺せんせーを煽り出した。
「なーんだ殺せんせー怖かったのかぁ」
「だったらそう言ってくれればいいのに」
「ね、『怖いから逃げたい』って」
「それに、『先生も辞めたい』って」
「俺達は仕事を投げ出すカッコ悪い大人にはならない様にしないとな〜」
「にゅや━━━━━━━━━━━━ッ!!!」
最後の言葉が効いたのか殺せんせーはそう叫ぶと顔を真っ赤にして触手をうねらせた。
「逃げる訳でもありませんし辞める訳でもありません!!期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!!」
触手をうねらせて叫ぶ顔を赤くし本物のタコのようになった殺せんせーに笑いが起こる。この雰囲気はカルマの計算なのだろうか、とにかく俺は殺せんせーがこの教室から居なくならないと言うだけで万々歳だ。
(これでなんの憂いもなく理事長の元へ行ける)
クラスメイトの笑い声を聴きながら俺はそう思った。
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テストの返却が終わり放課後になると俺はE組の校舎を離れ本校舎の理事長室に来ていた。理由はもちろんテスト前に約束した『賭け』の件だ。
「やぁ、よく来たね結城君」
扉を開けると理事長は目がまったく笑っていない笑みを俺に向けてそう言う。
「時間を作って頂きありがとうございます。理事長先生」
そんな理事長に俺はいつも通りに返すと話を進める。
「今日、来たのは『賭け』の件です。勝利条件は俺が浅野にテストの点数で勝利すること。勝てば『理事長が俺の願いを2つ叶えてくれる』。負ければ『俺が本校舎に戻る』と言う内容でした」
「あぁ、そうだったね」
「結果は既にご承知でしょうが今回のテスト浅野は498点。俺は500点でした。俺の勝利という事でよろしいですね?」
「あぁ、構わない」
理事長の表情が一瞬真顔になり、またすぐに目の笑っていない笑顔でそう答えたり心做しか圧が強くなった気がするがどうだっていい。
「それにしても、流石だね。範囲外の問題が出たはずなのにそれをものともせずに君は何時ものように500点満点だった。問題が解ける様に本校舎の生徒には私自ら授業を行ったが、君の様に満点をとる生徒はいなかった。嘆かわしいことだ」
「殺せんせーは超一流の教師ですから。殺せんせーに教わって俺が取りこぼす可能性は限りなく低いですよ」
「あはは、すごい自信だ。だが、君はその自信を得るだけの事を『ちゃんとやっている』。………浅野君にも見習って欲しいね」
「浅野は『ちゃんとやっている』と思いますよ。正直に言って今回は並ばれるかと思いました」
「ふふ、だが、彼は君に負けた。それが『事実』だ。…………………話が逸れてしまったね。それで?私に叶えて欲しい願いは何かな?」
俺のセリフに理事長は微笑むとそう言ってきた。俺は満を持して理事長に叶えて欲しい2つの願いを要求する。
「学校の図書室を予約なして何時でも利用出来るようにして欲しいという事と図書室に法人類学の論文や学会誌を出来るだけ多く入れてください」
「……………………………それだけかね??」
俺の要求を聞いた理事長は間を空けてそう聞いてきた。
「はい」
「はっはっはっ、君は相変わらずだね!良いだろう!ただし、3日程時間を貰うよ色々と手続きがあるからね」
「わかりました。よろしくお願いします」
声を上げた笑う理事長と言う珍しいものを見たが俺はいつも通りの対応でそう言うと会釈をして理事長室を出ていった。
両親や姉たちの人物紹介はあった方が良い?
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良い!!
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なくても良い!!