朝、いつもより早く家を出る。いつもより早い電車に乗っていつもより早く学校に着く。山を登り校舎が見えてくると
「おはようございます。結城君!」
殺せんせーが物凄いスピードで空から降ってきた。
「おはようございます。殺せんせー。それ、英字新聞ですか?」
俺は殺せんせーに挨拶を返しながらも手に収められていた英字新聞を見つけてそう言う。
「ええ、そうです。今朝ハワイに行って来ましたので買って来たんです。このトロピカルジュースと一緒にね」
殺せんせーは俺に見せるように新聞とトロピカルジュースを前に出す。
「へぇ、先生のスピードならハワイはすぐですからね。でも、新聞の記事は爆発した月の話題ばかりですよ」
「おや、その口ぶりから察するに君は英字新聞を読むんですか?」
「ええ、母と離婚して離れて暮らしてる父が昔から英字新聞と日本の新聞を家で読んでて俺もそれを真似して読んでいたので今も習慣で読んでるんです」
「そうでしたか、君が英語の課題で見せる巧みな表現はその習慣のおかげなんですねぇ」
「ええ、まぁ」
俺の言葉から何かに納得したようにそう言う先生に俺は短くそう答える。
「しかし、アメリカでも爆破した月の話題ばかり…もっと楽しい一面記事が欲しいところですねぇ」
「えぇ、ずっと似通った記事ばかり最近飽きてきました」
「確かに、ずっと同じ話題では飽きてしまいますねぇ」
先生は俺と話しながらさっと新聞に目を通すとニヤリと笑ってそう言う。
「その話題を作った張本人にそう言われるとたまったもんじゃないですね。いっその事、また、先生が話題を作ってはどうですか?」
そんな先生にそう言うと先生は口角を下げて黙ってしまった。
「そうだ殺せんせー、今日暗殺したいのでなるべく教室にいてください」
「おおっ、結城君がそんなふうに言ってくるとは珍しいですねぇ。いいでしょう!君の暗殺を真正面から受けてあげましょう!!」
「よろしくお願いします」
悪くなった空気を変える為の俺の言葉に殺せんせーは嬉しそうにそう言う。そんな殺せんせーに俺はそう言うと「じゃ、また」と言って校舎へと入っていった。
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昼休み、殺せんせーは教室に残りショートケーキを食べていた。心做しかその表情は明るく触手もいつもよりうねうねとうねっている。
「ご機嫌ですね。殺せんせー」
そんな殺せんせーに磯貝がそう言って銃を打つが殺せんせーはあっさりと躱してしまう。
「ええ、実は今日、朝から結城君の暗殺予約が入っているんです。それに早朝には杉野君が殺しに来てくれました。先生大人気で嬉しいです」
「へぇ、結城からなんて珍しいですね」
「えぇ、久しぶりなのでとても嬉しいです」
磯貝と楽しそうに話す殺せんせーは本当に嬉しそうに最後の一口である一番上の苺を食べた。
その瞬間
ドパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパパッ
伊澄は殺せんせーがケーキを食べ終わったタイミングでライフルを乱射した。ちょうど磯貝が立っている場所の反対側。殺せんせーは素早く椅子から飛び退くと弾丸を避けはじめる。しかし、動きが何時もより悪い。磯貝がいるからだ。伊澄は磯貝に絶対に当たらない様に乱射しているが跳弾でいつ当ってもおかしくない。短期での暗殺終了が良いと判断して伊澄は引き金を引いたまま近づくとライフルを捨てナイフを素早く抜いて襲いかかった。
「フッ!!」
一撃、二激、三激、四激、連撃でナイフを振る。
「にゅや!!」
食べ終わった直後と言う一番油断したタイミングでの強襲。暗殺とは呼べない真正面からの攻撃だったが一番良いタイミングだった為に反応が遅れる。
(やっぱり、この教室の中で最高時速は出せない!せいぜいが時速数百km。毎日毎日先生を見てるから何とか追える!…それに出だしを潰した!!)
伊澄は策が上手くいったと確信して最後の詰めとして5発、殺せんせーが回避のために動くであろう場所に弾を撃ち込んだ。
「にゅ!!」
狭い教壇で動きが制限される中で道を塞がれる様に撃ち込まれた弾に殺せんせーは驚き反射で反対側に跳んだ。
しかし
バチュッ
跳んだ先には伊澄が乱射した弾が残っていた。
「!!」
「「「「「「「「「「「「!!!!」」」」」」」」」」」」
殺せんせーの触手が弾で溶ける。その事に殺せんせーだけではなく伊澄の暗殺を見ていたクラスメイトも驚く。そして、驚き動きが止まった殺せんせーに伊澄は肉迫しナイフを振るった。
ボトッ
音を立てて殺せんせーの触手が落ちる
殺せんせーへの初のダメージ。その事実に全員が固まって目を見開く。しかし、伊澄は動きを止めずに斬りかかる。しかし、殺せんせーは超スピードで上に大きく跳ぶと天井に張り付いた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ…」
天井に張り付いた殺せんせーは肩で息をして焦った顔で伊澄を見ている。
「くそっ、失敗か」
伊澄は逃げた殺せんせーを見てそう言う。しかし、その言葉を聞いたクラスメイト達は全くそんな事は思わなかった。クラス初、いや世界初の殺せんせーへのダメージ。それが自分達のクラスから現れた。その事実にクラスの全員が驚きと歓喜が入り交じったら感情で伊澄を見つめる。だが、伊澄は不満そうな顔で装備を解除した。
それが暗殺終了の合図になり緊張が解ける。
「ふーっ、すまない磯貝。あのタイミングしかなかったとはいえ巻き込んだ。もし、怪我があったら連絡してくれ治療費は出す」
伊澄は直ぐに磯貝に駆け寄るとそう言って座り込んでいた磯貝にそう言って立ち上がらせた。
「ああ、ありがとう。でも大丈夫だ。怪我はない。それより凄いな結城!殺せんせーの触手を破壊したぞ!!」
「ありがとう、作戦が上手くいって良かったよ。それより、本当に怪我はないのか?」
立ち上がると磯貝は興奮した様子でそう言うが伊澄は一言礼を言うともう一度怪我がないか尋ねた。
「ああ、本当に大丈夫だ。心配してくれてありがとう」
「いや、心配はしてない。自分の行動で他人に被害が出たならそれに対して責任を負うのは当たり前だ」
「あ、ああ。そうだな…」
磯貝の言葉に伊澄は真顔でそう言い、それを聞いた磯貝は困惑した表情で応える。磯貝の言葉に頷いた伊澄は殺せんせーに視線を戻すと
「どうでした?」
殺せんせーにそう問いかけた。
「見事でした。食事の直後に強襲する事で先生の油断を突きライフルの乱射で上や横への退路を塞ぎつつ先生を教壇に留めた。ナイフでの攻撃への移行も素晴らしく触手を切り落とす攻撃も見事でした。流石です」
淡々と、伊澄からの問に殺せんせーは答えた。その表情はまだ焦っており話す事で落ち着きを取り戻そうとしているようだ
「ありがとうございます。でも、殺す為に行動しました。触手1本の破壊では意味がありません」
殺せんせーの答えを聞いた伊澄は素直に賛辞を受け取り礼を言うが直後に首を横に振ってそう言う。
「無意識ではありません。先生にこれ程のダメージを与えたのは世界でも、君だけだ。自分自身を誇ってください」
「どうも、でも次は殺します」
「えぇ、是非また殺しに来てください。しかし、次は先生も油断しません。今日は、凄く焦りましたがね」
「ふっ、手強いですね」
ニヤリと笑ってそう言う殺せんせーに伊澄も笑ってそう返すとクラスのみんなに「昼休みにライフルを乱射してすまなかった」と一言言って弾を回収し始めた。
「あ、手伝うよ」
「俺も」
「私も…」
そんな伊澄にクラスメイトがそう言って回収を手伝う。皆口々に伊澄を褒めるが伊澄は殺せんせーに言った様に最後には「でも、殺せてない」と言って首を横に振る。そんな伊澄を殺せんせーは見つめながら考える。
(作戦立案能力とそれを行う実行力。磯貝君を巻き込まない様に短期に切り替えた決断力。それら全てを支える高い身体能力。この暗殺教室の中でも間違いなくトップレベルの暗殺者…。しかし、あの自己肯定の低さは気になりますねぇ。自分がどれほどの事をやってのけたのか理解しているハズなのに認めようとしない…。なにか理由がありそうですねぇ。少し調べて見ますか)
そう考えニヤリと笑うと時間を確認してクラス全員に話しかける
「皆さん!そろそろ5時間目ですよ。早く片付けて授業の準備をしてください」
「「「「「「「「「「「「はーい(はい)」」」」」」」」」」」」
自分に元気よく答えた生徒達に殺せんせーはうんうんと頷いてニヤリと笑った。
その目の先には前途有望な暗殺者が、鳴り響く予鈴を聴きながら殺せんせーは「先が楽しみですねぇ」とその笑みを深めた。