烏間先生が俺たちE組の副担任になると告げられてから1日経ち、朝のホームルームで昨日知ることの出来なかった生徒の為に改めて自己紹介が行われた。
副担任ではあるが表向きはE組の担任兼体育教師として、俺達の訓練や親や本校舎の生徒、先生への対応をしていくそうだ。まぁ、殺せんせーは国家機密だ。おいそれと俺達以外の人間の前には出れないから当然の措置だろう。
そして、その日の午後、俺達は校庭で体育の授業を行っていた。
手にナイフを持って。
「「「「いっち、に〜、さ〜ん、し、ご〜、ろっく、しっち、はっち」」」」
掛け声と共に多方向からナイフを振る。
「晴れた午後の運動場に響くかけ声、平和ですねぇ…生徒の武器がなければですが」
その異様な光景に殺せんせーも冷や汗をかきながらそう言う。
「8方向から正しくナイフを振れるように!!どんな体勢でも、バランスを崩さない!!」
しかし、烏間先生はそう言う殺せんせーを無視して俺達に檄を飛ばす。
俺達は烏間先生の激に応えるように少しづつ丁寧にナイフを振る。
「結城君、第1撃はもう少し腕を伸ばして降っていい。今のままでは腕がちじこまって速度が出ないぞ」
「はいっ、ありがとうございます!」
烏間先生のアドバイスは現役の精鋭軍人ならではの的確なアドバイスでとても有意義だ。烏間先生のアドバイス通りに腕を伸ばしてナイフを振れば前よりも素早くナイフを振ることが出来た。
「酷いですよ、烏間さ…烏間先生。私の体育は生徒に評判良かったのに」
「嘘つけよ、殺せんせー。身体能力が違いすぎんだよ、この前もさぁ…」
その光景を見た殺せんせーは泣きながらそう言うが菅谷は呆れた様子でため息混じりにそう言う。
「だよなぁ」
「あれはねぇ…」
菅谷のセリフに近くにいた中村や杉野も呆れた様子でそう言う。確かに、菅谷達が言いたいことは理解出来る。殺せんせーと俺達では、標準的な身体能力が違いすぎるのだ。この前の体育の授業だってそうだ。
『反復横跳びをやってみましょう。まずは先生が見本を見せます』
そう言うと殺せんせーは地面に引かれた白線を高速分身しながら跨ぎはじめた。
『まずは基本の視覚分身から、慣れてきたらあやとりも混ぜましょう』
そして、そう言うと器用に触手であやとりを編み始めた。
『『『『『『『『『『『『『『『出来るか!!』』』』』』』』』』』』』』』
クラス全員の声がハモった。
出来るわけがない。『基本の視覚分身』などと言っているがそんな事が出来る『人間』がいたら紹介してもらいたい。
「異次元すぎてね〜」
「せめて体育は人間の先生に教わりてぇよ」
先日の授業を思い出してそう言うと殺せんせーは『ガーン』と言う効果音が響きそうな顔になった。
「そういう事だ。体育の授業は今日から俺の受け持ちになる。お前は邪魔だからせいぜいそこの砂場で遊んでろ」
そして、烏間先生の言葉がトドメになったのか殺せんせーは本格的に泣き出すと砂場で砂を弄りはじめた。
「やっと、暗殺対象を追っ払えた。授業を続けるぞ」
そんな殺せんせーを見ながら烏間先生はそう言うと俺達に視線を向ける。
「でも、烏間先生。こんな訓練意味あるんすか?しかも、当のターゲットがいる前でさ」
「勉強も暗殺も同じ事だ。基礎は身に付けるほど役に立つ」
砂場で遊ぶ殺せんせーを後目に烏間先生にそう言う前原に烏間先生はそう応えた。その応えに何人かが首を傾げそれを見た烏間先生はネクタイを緩めると
「磯貝君、前原君。2人で俺を攻撃しそのナイフを当ててみろ」
磯貝と前原にそう指示を出した。
「え…いいんですか?」
「2人がかりで?」
「そのナイフなら俺達人間に害はない。かすりでもすれば今日の授業は終わりでいい」
烏間先生にそう言われた磯貝と前原は困惑した様子になるが烏間先生はそう言うと「さぁ」と言って攻撃を促した。
「え…えーと…」
「そんじゃ」
そう言って磯貝は躊躇い気味に烏間先生に突きを繰り出す。しかし、烏間先生はそれを顔色1つ変えずに躱した。
「来なさい」
そして、未だ仕掛けてこない前原に挑発するようにそう言う。前原の顔から躊躇いが消えた。
2人が全力で切りかかる。しかし、烏間先生はナイフをほとんど動かずに躱し、捌いていく。
「すごいな…」
その姿に俺は思わずそう声を漏らした。それは、見ている全員同じようでみんな驚きと羨望の表情をしている。
「このように多少の心得があれば、素人2人のナイフ位は俺でも捌ける」
「くそっ」
磯貝と前原は余裕で自分達のナイフを躱して捌く烏間先生に逆に余裕がなくなり大雑把に切りかかる。しかし、烏間先生は微笑みながらその腕を掴むと磯貝と前原を地面に倒した。
「俺に当たらないようでは、マッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう」
「嘘だろ…」
「まじか…」
倒された2人に淡々とそう言う烏間先生に2人は呆然とした様子で呟く。
「見ろ!今の攻防の間に奴は砂場に大阪城を造った上に着替えて茶まで立てている」
完璧な大阪城だ。磯貝と前原の攻防なんて1分位だったのに砂場には立派な大阪城が完成していた。凄いやら腹立つやらなんとも言えない気持ちになるな…。
「クラス全員が俺に当てられる位になれば、少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる」
烏間先生はそう言いつつもそんな殺せんせーに少しイラついた様子で地面に座る磯貝と前原の手を引いて立ち上がらせると
「ナイフや狙撃、暗殺に必要な基礎の数々、体育の時間で俺から教えさせてもらう!」
俺の、俺達の顔を見てそう言う。
「はい!」
そんな烏間先生に俺は自然と返事をしていた。確信だ。俺が感じていた『力不足』。この先生に教えてもらえばそれを克服できる。それを確信して俺は静かに笑った。
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「今日の授業はここまで」
『ありがとうございました!』
授業が終わり俺達は烏間先生に挨拶をして教室に戻る。しかし、俺は教室へ戻るみんなの流れから抜けると烏間先生の元へ行き話しかけた。
「烏間先生、少し時間いいでしょうか?」
「どうした、結城君。何かあったか?」
「はい、個人的なお願いになるのですが放課後、訓練をお願い出来ないでしょうか?」
「!!」
俺のセリフに烏間先生は少し驚いた様子を見せる。恐らく、こんなに早くこういう事を言われると思っていたなかったのだろう。
「まさか、こんなにも早くそんな事を言われるとは思っていなかった」
予想通りのセリフに俺は少し笑うと直ぐに表情を戻して話し続ける。
「正直、今の俺では殺せんせーを暗殺できません。このクラスの中では身体能力は高い方だと自覚していますが、技術不足、知識不足が表面化していると思います。だから、先生に授業以外でも教えて頂きたいんです」
「良いだろう。それでは今日の放課後から個人訓練を実施しよう。6時間目が終わったらまたここに来てくれ」
「はい!ありがとうございます!!」
俺のセリフに烏間先生は笑うとそう言ってくれた。俺は、内心ガッツポーズをしながら笑顔でそう答えると教室へ戻る。
しかし
「キィー!烏間先生、ひょっとして私から生徒の人気を奪う気でしょう!!結城君があれほど笑顔になったところ見た事ありませんよ!!」
後ろから聞こえたセリフに思わず足を止めた。
「何めんどくさい事言ってんですか殺せんせー」
そして振り返ってそう言うと殺せんせーは「そんな酷いですよ、結城君」と言って泣きはじめた。
「殺せんせーは俺のお願い聞いて俺の為に課題作って出してくれてるじゃないですか、それと同じ事を烏間先生にもお願いしただけですよ。受け入れてくれた先生にはとても感謝してます」
本当にめんどくさいが俺はそう言うと殺せんせーは一瞬で泣き止んだ。
「嬉しいですよ、結城君。ありがとうございます!
しかし、烏間先生には負けません!!」
しかし、ビシッと音がしそうなほどしっかり烏間先生を指差すとそう言う。
「ふざけるな」
烏間先生はため息を吐いてそう言う。その表情は本当に面倒に思っているようでその気持ちには同意できた。
「学校が望む場合、E組には指定の教科担当を追加できる。お前の教員契約にはそう言う条件があるはずだ」
烏間先生はスーツを着ながらそう言うと流れるような動きでナイフを殺せんせーに投げた。しかし、殺せんせーは高速で後ろに下がりながらナイフをハンカチを使ってキャッチしてしまう。
「俺の任務は殺し屋達の現場監督だ。お前を殺すためのな」
そんな殺せんせーを見ながら烏間先生はそう言うが殺せんせーはニヤリと笑い
「奴や、お前ではありません。生徒が付けた『殺せんせー』と呼んでください」
高速で着替えながらそう言った。
「そろそろ6時間目始まるので俺はここで失礼しますね」
そんな2人を後目に俺はそう言うと今度こそ教室へと戻る為に歩き出した。
しかし
「よっ、結城クン。久しぶり〜」
そう言って手を振る男に呼び止められ俺は再び足を止めた。
話の区切り的にここまでにしました。読み応えがないと思われたら申し訳ありません。
さて、次の話でカルマが登場します。設定にもある通り多少なりとも因縁のある2人の再開です。どうなるのでしょうか?楽しみにしていただけると嬉しいです。