転生してキヴォトスに来ちゃった系フクロウ   作:ストライダー信長

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第3話 デスフクロウ、ラーメンと遭遇する

 

 

 

 

「………それで、落ち着いたかな?」

「………はい。ご迷惑をおかけして、申し訳ございません」

 

 

 医務室の、ベッドの上。

 優しく声を掛けてくれた先生に、私はそう返した。

 

 ぐっと、身を起こして。

 

 

「………やっぱり、気になりますよね。セリカさん」

「っ!?」

 

 

 私の右斜め前、怯えたような雰囲気と匂いに声を掛けて、あからさまに怯えられてしまった。

 ………自業自得だが、なんというか、少し寂しいな。

 

 大きく、息を吸って。

 

 

 

「安心してください………とは、言いませんが、全部説明します。………もっとも、私も把握できてない事の方が多いんですけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………つまり、要約すると?」

「私が厄ネタだって話です」

 

 

 しかし………改めて考えると、私、相当に厄いネタだな。

 

 

 記憶はない、右腕もない、このキヴォトスなる都市についての知識もない。

 

 おまけに、見た相手を殺す、呪いのような眼を持っているときたもんだ。

 

 

 

「私のこの眼に関しては、正直、私自身、ロクに把握できていません。この砂漠に来る前、女学生さんたちに絡まれた時、まとめて殺害してしまったもので」

「あっ、そっちは多分大丈夫ですよ」

「………え?」

「一昨日、トリニティ自治区の路地裏で不良生徒が集団で倒れているのが発見され、救護騎士団によって回収されたそうです。揃いも揃って意識不明の重体ではありますが、命に別状はないと、報道で」

「………そう、ですか」

 

 

 アヤネさんの口から聞きなれない用語がズラズラ出てきたが、とりあえず、私は誰も殺していなかったという認識で良いのだろう。

 それならば、まだ………いや、駄目だな。

 居住まいを正して。

 

 

「………まぁ、私については皆様のお好きな様にしてください。司法組織に引き渡すなり、目玉を抉り出すなり、眼を焼き潰すなり、磔にするなり、砂漠に放り出すなり。私は抵抗しませんので如何様にも処刑してくださいな」

「いや、しないよ?」

「そうですか?………と、なると、縛り首か、串刺しか、斬刑か、それとも火刑か………あぁ、できれば銃殺は勘弁して」

「しないよ!?」

「しないのですか?」

「私を何だと思っているの!?」

「と、言われても………私のような危険生物は即刻駆除するべきなのでは?」

「しないよ!?」

「そうですか………」

「何でちょっと残念そうなの!?」

「………さぁ、なんでなんでしょうか?」

「えぇ………」

 

 

 

 ふむ、しかし言われてみれば、私はなぜ自らを殺してもらおうとしたのだろうか?

 ………考えてもわかりそうにないし、気にしない方が良さそうだな。

 

 

 改めて、上体を起こし。

 

 

 

「では、改めまして自己紹介をば。私の名前は根切タエ、記憶喪失で右腕が無くておまけに厄介な眼を持った歩く火薬庫のような存在ですが、皆様の末席に受け入れていただけるのであれば幸いに存じ」

 

 

 ぐぅ~………

 

 

 ………。

 

 

 

 

「あ、アハハ………お腹がすいてたんだね、うん、そういう日もあ」

「先生。自決用の毒薬か何かありませんか?」

「なんで!?」

「皆様の前でかような無様を晒して生き延びるなどあってはならな」

「ストップ!タエちゃん、ストップ!!ちょっとノノミちゃん、何とかしてぇ!!」

「は~い☆」

「むぎゅっ」

 

 

 

 あ、なんかあったかzzz

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの、その、タエちゃん?」

「ころしてください」

「大丈夫ですか~?ほらほら、ノノミママですよ~☆」

「殺してッ、ください………ッッ!」

「………まぁ、うん、同情するわ」

 

 

 なんッ、でッ、なんでっ、あんな………あんなぁ~………

 

 

「ん。落ち込んでいても仕方ない」

「誰にでも間違いはあるさ。気にしないほうがいいよ」

「………すみません、砂狼先輩、イワナ先生。お見苦しいところをお見せしました」

「ん。切り替えていくべき」

「………はい。そうします」

 

 

 皆様に励まされながら、ジャリジャリとした砂に覆われた、市街地らしき場所を行く。

 

 

 ………いくら羞恥心で理性を失っていたとはいえ、よりにもよって先輩相手に、なんて真似を………ッ!

 

 

 

「まぁ~まぁ~タエちゃん、そのあたりにしておきなよ~」

「………そう、ですね。ありがとうございます、小鳥遊先輩」

 

 

 ………いけない、落ち着け、落ち着くのだ。

 

 

 明鏡止水風光明媚一日一票五日で五条。

 

 

 ………なんか変なのが混線してしまった。

 

 

 

 

「さ、着いたよ。ここが紫関ラーメンだ」

「ん、大将、やってる?」

「おぅ、シロコちゃん!っと………そっちの子は、転入生かい?」

「あっ、はい。根切タエです。よろしくお願いします?」

「おぅ!よろしくな!!」

 

 

 ふわりと香る、嗅ぎ慣れない、けれど空腹を刺激する、香辛料の良い匂い。

 

 なるほど………らぁめん、らぁめん、か。

 

 聞いたことのない料理名だったが、期待できそうだ。

 

 

 促されるまま、席に着いて。

 

 

 

「それで、みんなは何にする?」

「………?」

「ん。豚骨ラーメンチャーシュートッピングマシで」

「私は醬油ラーメンで」

「コレ、先生の奢りなんだよね?じゃ、おじさんは紫関ラーメントッピングマシマシで」

「じゃあ私は塩ラーメンでお願いします☆」

「あ、あぁ、うん。………それじゃあ、私は味噌ラーメンで。セリカちゃんとタエちゃんはどうする?」

「………じゃ、じゃあ、私はチャーシューラーメンで………タエ、アンタどうしたの?」

「あっ、いえ………」

 

 

 

 ………なるほど、『らぁめん』とやらには、いくつか味のバリエーションがあるらしい。

 

 が、ここで問題発生。

 

 私、味の種類がわからん。

 

 

 そもそもの『らぁめん』でどんなものがお出しされるかわからんのに、味を予想しろとか無理ゲーにもほどがある。

 

 

 大体なんだ、『らぁめん』って。

 

 

 『サクサクモチモチ』とか『ふわふわ揚げ』とかなら何となく予想できなくもないが『らぁめん』の名前からいったいどんな料理が出てくるのか想像もつかん。

 せめて『ベイクドモチョモチョ』みたいな名前から想像つく奴にしてくれ。

 

 ………だが、

 

 

「そう、ですね。塩ラーメンでお願いします」

 

 塩、塩だ。

 

 ショーユとミソとトンコツが何かは皆目見当もつかないが、まさか『塩らぁめん』が塩味でないというトンチキな事態はあるまい。

 

 この勝負、私の勝ちだ。

 

 

「あいよぉ!ちょっと待っててくれや!!」

 

 

 元気よくそう言った誰か………察するに、この店の店主か………が、トテチテターとどっかへ行った。

 

 隣のセリカさんがなんだか気まずそうにしてるのを感じつつ、しばし待ち。

 

 

 

「はい、おあがりよ!!」

 

 

 

 ドンッ、と音がして、目の前にあったかい何かが置かれた。

 

 

 ふむ………どうやら、『らぁめん』とやらが出来たらしい。

 

 

 私も、食べようとして、

 

 

 

「………あの、セリカさん。大変申し訳ないのですが、少しよろしいでしょうか」

「………なに?」

「いえ、その………ほら、私、眼を開くわけにはいかないじゃないですか?それに右腕もなくて………それでその………」

「………なによ」

「あっ、ええと………その、あ~んして、貰えないかな、と」

「………」

「し、仕方ないじゃないですか。私ひとりじゃ食べられないんですから………」

「………わかった。食べさせてあげればいいんでしょ?」

「………すみません、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほふぅ~………」

「うへ~………タエちゃん、すっごい蕩けた顔してる………」

「あぁ、失礼いたしました。ただ、ここまで美味しいものを食べたのは初めてだったもので」

「そう言ってもらえるんなら、料理人としても冥利に尽きるってもんだ」

「というかタエちゃん、ラーメン食べた事なかったんですね?」

「ですね。………もしかしたらあったのかもしれませんが、覚えてないので実質初体験です」

「………ねぇ、あなた。なにか覚えてる事とかないの?」

「んん~………残念ながら、ほとんど何も」

 

 

 

 心地よい満腹感と、微かな倦怠感。

 

 

 暗く塞いだ視界の中、記憶に想いを馳せて。

 

 

 

「………ああ、でも、少しだけ覚えていることはありますね」

「うへっ?」

 

 

 

 激痛の中、転がった死体のそば、私の前で号哭の悲鳴を上げる1人の人間と、私をどこかへ連れ去る幾人もの人影。

 

 暗闇と、私を封じ込める牢と、長い孤独。

 

 積み重なった無数の死体の山と、そして、

 

 

 

「最期の瞬間、私に銃口を向ける、盲目の老人。………これくらいですかね、覚えてるのは。右腕が無いのは、きっとあのお爺さんのせいなのでしょうけれど、あの人たちが何をしていたのかまるで分らないのが少々不気味ですね」

「………なんか、タエちゃん、おもったより闇深い感じ?」

「ですね、小鳥遊先輩。………あっ、それとセリカさん」

「っ!?な、なに?」

「ごちそうさまでした」

「………あっ、ありがと………?って、なんでアンタが私にお礼言うのよ」

「いえ………ただ、ラーメンが本当に美味しかったので」

「………な、なるほど?」

「大将さんも、ありがとうございました。ラーメン、美味しかったです」

「おぅ!」

 

 

 塩ラーメン………塩ラーメン、か。

 

 

 いいものだった、すごくいいものだった。

 

 惜しむらくは、私の胃袋までもがミニサイズなせいで他の味のラーメンを食べられなかった事か。

 

 畜生め。

 

 

「そんな顔すんなって。また食べに来ればいいだろ?」

「………それもそう、ですね。ご厚意に甘えさせていただきます」

 

 

 少しだけ重いお腹をさすりつつ、席を立ち。

 

 

 

「ごちそうさまでした、大将」

「おぅ!また来てくれよ!!」

 

 

 私たちは、紫関ラーメンを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「しかし………大将ってどんな人なんでしょうか」

「柴大将?え~と………モフモフしてる?」

「………モフモフ?」

「あとちっちゃいですよね☆」

「………ちっちゃい?」

 

 

 

 道を歩きつつ、ふとそう零したら、想像の斜め上を行く答えが返ってきた。

 

 声の渋さから、てっきり、私よりよっぽど大きな人なのだろうと考えていたのだが、違ったか。

 

 ………うん?

 

「………あの、もしかしてなんですけど、皆さんって翼生えてなかったりします?」

「生えてないですね☆」

「生徒たちの中には、羽とか角とかケモ耳とか尻尾とか生えてる子もいるけどね」

「なるほど………では、首が回ったりする生徒さんは?」

「………首が回る?」

「はい。こんな風に」

「うわぁっ!?」

「んっ!?」*1

「うへぇ~………」

「………それ、どうなってるの?」

 

 

 

 グリン、と首を回してみて、思っていた通り………よりかは若干オーバーなリアクションが返ってきた。

 というかセリカさん、砂狼先輩、そのリアクションはちょっと傷つくのでやめてください。

 

 ………まぁ、今のうちに、私が他の皆様とは少し外れた存在だと認識できてよかったと思おう。

 

 そうしよう。

 

 

「なるほど、反応からして、イレギュラーは私のようですね」

「キヴォトス広しと言えど、首が一回転する生徒は流石にいないかと………」

「あっ、そうだ、タエちゃん」

「小鳥遊先輩、どうかしましたか?」

「タエちゃんってさ、家、どうするの?」

「家………ですか。それなら、そこらの電柱にでも止まって」

「うへ~………おじさん、それは家じゃないと思うな~………?」

「………?家もねぐらも同じでは?」

「違うよ!?」

「違うのですか?」

「ん。ちゃんとした場所で寝るのは大事。でないと疲れが取れなくなる。………それに」

「それに?」

「タエは一回、干物になりかけてる。次も無事とは限らない」

「あっ」

「それでさ、タエちゃん。せっかくなら、おじさんの家に来ない?」

「………小鳥遊先輩の家に、ですか?」

「うんうん。おじさんも一人暮らしは寂しいからさ~、タエちゃんみたいな若い子が一緒に住んでくれると嬉しいかな~って」

「それは………よろしいのですか?」

「よろしいも何も、こっちから誘ったわけだしさ。………タエちゃんはどうする?」

「えっと………なら、よろしくお願いします?」

「うん、よろしくねぇ~」

「わぷっ」

 

 

 

 同棲の誘いをかけてきた小鳥遊先輩にそう言って、正面から思いっきり抱き着かれた。

 

 ………あっ、なんかいい匂いする。

 

 お日様みたいな匂いするぞこの人。

 

 

 

「………ちょっと、アレ止めなくていいの?」

「とめる必要ありますか?」

「………ない、わね」

「それじゃみんな、おじさんはタエちゃん家に連れてくからまた明日ね~?」

「えっ?」

「ん。さよなら」

「さようなら、ホシノさん」

「ちょっ、流石に急すぎっこの人、力強いな!?」

「はいはい、暴れない暴れない」

 

 

 

 

 片腕の私は、なすすべなくドナドナドーナされてしまった。

 

 

 ………でも、まぁ、悪い気分じゃない。

 

 色々とあったが、私の眼の事を考えれば、むしろ出来過ぎなくらいだろう。

 

 ………記憶を喪う前、私の身に何があったのかはわからないが、せめて今くらいは、平和な日常とやらを謳歌してもいいのかもしれない。

 

 そんな事を考えながら、小鳥遊先輩の小柄で肉付きの薄い体に、身を預け。

 

 

「………タエちゃん、今、なんか変なこと考えた?」

「いいえ何も?」

 

 

 

 

 

 この3日後、セリカさんが行方不明になった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
キュウリにビビッてジャンプする猫のイメージ






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