転生してキヴォトスに来ちゃった系フクロウ 作:ストライダー信長
「………ふぅ」
銃を右脇に挟みこみ、やや汗ばむ左手で眼帯を外して、並べていた的を見る。
スクラップの価値もない廃棄物で人型を象ったそれらは、弾丸によって散々に撃ちのめされていた。
息を、大きく吐いて。
「………これなら、多少は使い物になる、か」
私が漂流したこの場所………キヴォトスでは、恐ろしい事に、銃撃戦が日常的に行われているらしい。
かといって殺しと凌辱と略奪が日常的に行われる修羅の国というわけでもなく、ここキヴォトスに暮らす、頭に光輪──ヘイローと呼ぶ──を備えた生徒たちは、銃弾程度では大した手傷にならないのだそうな。
まったく、理解しがたい事だが、それは私が銃撃戦に備えずとも好いという話にはならない。
特に、私が所属することになったアビドス高等学校では、ヘルメット団なる無頼の輩から日常的に襲撃を受けている。
ならば、私も戦わなくては。
「ぴーでぃーだぶる、か」
十六夜先輩が贈ってくださった、私の銃。
形容しがたい、だが確かに扱いやすい奇怪な構造の銃器は、不思議と私の手に馴染んだ。
初日は弾倉を変えるので精いっぱいだったが、2日もみっちり稽古すれば、なんとか盲撃ちが出来るようになった。
ぺっとぼとるの蓋を口で開けて、カラカラに乾ききった喉に水を流し込み。
「………相変わらずの、醜形だな」
血走ったような四白眼と、病人のように真っ白な顔と髪。
頭上に浮かぶ、融け堕ちた戦闘機*1を思わせるどす黒いヘイローと、身の丈に合わない、異様に巨大な白翼。
頬は瘦せこけ、右腕は肘辺りから千切れ、まともに靴も履けないような異形の鳥足。
おまけに、見た相手を傷つける呪いめいた眼の持ち主と来た。
………ダメだな、こんな事ばかり考えても何にもならないとわかってはいるのに、ついネガティブな思考になってしまう。
大きく、溜息をついて。
「………そろそろ小鳥遊先輩を起こすか」
誰もいない朝の公園を立ち去った。
「………イワナ先生?今、なんと?」
「セリカちゃんがカタカタヘルメット団に誘拐された」
重い雰囲気の教室で私が聞かされたのは、そんな最悪の知らせだった。
「バイトから帰る途中で狙われたみたい。………幸い、先生が連邦生徒会のセントラルネットワークにアクセスしてくれて、セリカちゃんがどこにいるかもわかったから、今からみんなで救出に行くことになってさ」
「………そう、ですか。敵方の狙いは?」
「ん。多分だけど人質。卑怯な手を使う」
「………なる、ほど」
人質………人質、か。
ならば、まだ事態は致命的なレベルには達していないと、そう見るべきだろう。
まだ、助けられる。
荒く震える息を、押し殺して。
「………タエちゃんも来る、よね?」
「はい。………いえ、私も行かせてください」
小鳥遊先輩の問いに、頷き返し、
「………あの、1つよろしいでしょうか?」
「アンタらよくもやってくれたわね!!」
「ん。全員叩きのめす」
「うへぇ~………シロコちゃんもセリカちゃんも張り切ってるねぇ~………」
「アヤネさん、支援ありがとうございました」
『こちらこそ………しかし、上空からC4爆弾を投下するとは』
「私には飛ぶくらいしかできないので」
滞空する私の直下から響く怒声と罵声、銃撃音。
体に巻き付けていた手榴弾のピンを抜いて。
「………いきます」
「っ!?また空からっ」
「こんにちは、そしてさようなら、です」
急降下と同時、敵集団の中央に手榴弾を投げ込んで逃げる。
数秒後、盛大な爆音と絶叫が響く。
羽ばたき1つ、滞空して。
「撃て撃て撃て!!撃ち落としてやれ!!!」
全身を貫く、無数の殺気。
導線から逃れ、射線上に撃ち返してまばらな悲鳴が上がる。
左手の銃を構え。
「ん、ナイスアシスト」
「てった~い!!戦車来てる!!戦車来てるから!!」
「潰します!!」
「ちょっ、タエちゃん!?」
キュラキュラと耳障りな音の方へ全速力で急降下し、私のどてっぱらをぶち抜く殺意の線を回避。
キューボラに取りついて。
「プレゼントです」
「おまっ、ふざけっ」
「くぁwせsdrfgふじこlp」
手榴弾をポイッと投げ込んで撤退し、数瞬の後、ボフンッ!と勢いよく爆発した。
ざまぁみやがれ。
慌てふためいて這い出てくるヘルメット団に銃弾を撃ち込んで追い払い。
「………よし!状況終了!!みんな、お疲れ様!!」
「セリカさん!ご無事でしたか!?けがは!?」
「ちょっ、タエ、あんた、距離近いのよ!!」
「あぶっ、あのっ、セリカさん、眼帯が外れ」
「大丈夫!!私は大丈夫だから!!!」
「………怪我、してないんですよね?」
「してないってば!!」
「………そう、ですか。それなら、良かったです、本当に」
「………なによ、そんなに心配してくれたの?」
「はい」
「………あ、ありがと?」
思わずセリカさんに抱き着いて、ものすごい力で引っぺがされた。
………なにか酷い事されてないか心配で仕方なかったが、どうやら、杞憂だったよう
「あ、れ………?」
「ちょっ、アンタ、大丈夫なの!?」
どっと全身の力が抜けて、へたり込んでしまった。
「あ………その、ちょっと疲れちゃって」
「まったく………ほら、おぶってあげるから肩貸しなさい」
「すみません、セリカさん。ありがとうございます」
ぐっと乱雑に担がれ、なんだかいい匂いがした。
柔らかいし、あったかいし、いい匂いするし、なんだこれ、最高か?
「………タエ、アンタ、何か変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」
「ソンナワケナイジャナイデスカヤダナー」
「………まぁいいけど。そ、その、助けてくれたわけだし?」
「………セリカさん、けっこうかわいいですよね」
「今から銃撃戦がお望みかしら?」
「あ~………それもいいですねぇ~………」
「ちょっとホシノ先輩!!なんかうつしてないですか!?」
「うへ~………おじさん、流石にそれは心当たりないかな~?」
「そうですよ、単にセリカさんがモチモチフワフワなだけで」
「いい加減に張っ倒すわよ?」
「ごめんひゃい」
思いっきりほっぺたを抓られてしまった。
痛い。
なんなら銃弾より痛いんだが?
なんで?
なんで素手でほっぺ抓られて銃弾より痛いの?
ムニムニしてくるのから、何とか脱出しようとして藻掻き。
「
「なんて?」
「ぷぱっ………何も言ってませんよ、セリカさん」
「ふぅ………少し冷えますね」
深夜、私は冷たい空を1人で飛翔していた。
良い夜だ。
月光は涼やかで、夜風は身を切るようで、空はどこまでも暗く澄んでいる。
良い夜だ、実にいい夜だ。
こんな良い夜だからこそ。
「貴様ら全員、滅んでしまえ」
砂漠の中央に建てられた電波塔、その最上部を止まり木代わりにして、眼を見開き。
「あぐっ」
まず1人、夜警にあたっていたヘルメット団が、トレードマークのヘルメットから血を噴いて斃れた。
慌てて駆け寄ろうとしたバカが倒れ、そこから先はドミノ倒し。
1人、また1人と血反吐をぶちまけて倒れていく。
………だが、コレだと少し効率が悪いな。
大きく翼を広げて、敵基地の上空を旋回する。
………相応の手練れなら、私を捉える事も出来たろう。
それこそ小鳥遊先輩のような超人なら、私を仕留める事もたやすいだろうが、この場にそんな強者はいない。
ゆえに、眼下で地を這い逃げ惑う奴らは、私相手に何もできないのだ。
………私の大切な人を傷つけ、挙句の果てに攫うなど、赦せるはずがない。
殺しはしない、だが、再起不能になってもらう。
私の翼のはためき以外の音が消えたのは、それから15分後だった。
「………ねぇ、ムツキ」
「………うん」
「………コレ、何があったのかしら?」
「………さぁ?」
雲の切れ間から朧月の照らす、砂漠の夜。
カタカタヘルメット団の『掃除』に来た便利屋の面々の眼前に、文字通り死屍累々の、血の海に沈むヘルメット団たちが転がっていた。
「あ、アル様!これっ、逃げた方がいいんじゃ」
「待ちなさい、ハルカ。………ねぇ、そこのあなた、何があったの?」
「……っ、……ぅぅ………」
「ねぇ、しっかりして。何があったの?」
「……ろ…」
「………何?」
「ふ、ふくろう、が………ごぷっ」
「うわぁあっ!?血吐いた!?」
「………大丈夫、息はある。重傷だけど、死んでる子はいないみたい」
「そ、そう………でも、本当に、いったい何が………」
「社長、見て、コレ」
「………鳥の、羽根?」
「………ほんとに、何があったの」
「わっ、わかりませんっ………けれど、アル様、ここは一度、引きましょう。嫌な予感がします」
「………そ、そう、ね。ここは一度撤退しましょう」
「は~い」
「りょーかい」
「かっ、かしこまりました」
戦場跡めいた惨状に背を向けて撤退する社員たちを傍目に、赤いコートを纏った女………陸八魔アルが、血に塗れた羽根をしげしげと眺め。
「………フクロウ、フクロウ、ね」
尋常じゃなく巨大なソレを放り捨てたアウトローが、夜の闇へ消えていった。
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