転生してキヴォトスに来ちゃった系フクロウ   作:ストライダー信長

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第8話 デスフクロウ、銀行を襲う

 

 

 

『タエさん、準備はいいですか?』

「はい、アヤネさん。いつでも行けます」

 

 

 ブラックマーケット、闇銀行近くのビルの屋上。

 

 面で視界を封じたまま待機していた私の耳に、少し緊張したような声が響いた。

 ………銀行襲撃の計画はシンプルだ。

 私が上空から突撃して防御施設を破壊し突入、混乱に乗じて皆様が突撃して内部を制圧、然る後に目当ての品を掻っ払って撤退するだけ。

 

 

 閉ざした眼の先にある標的を、塞いだ目で見据えて、

 

『タエさん、作戦を開始します』

「了解」

 

 

 翼を広げてビルから身を投げ、空を切って落下する。

 

 音もなく風を引き裂き、一瞬でトップスピードへ。

 

 右腕の刃を引き出し、真昼の空を飛ぶ。

 

 

『目標地点まで400メートル、攻撃準備を!!』

「了解」

 

 

 右腕を貫手の形に構えて、

 

 

 

 ─────ガシュン!!

 

 

 

「………え?」

『タエさん!?なにか問題が』

 

 

 ガシュンガシュンガシュンガシュン!!と、駆動音を立てて右手が伸縮する。

 

 からくり人形の左腕が、私の意思に反して掘削機械めいたピストン運動を繰り返す。

 

 絶望的なまでの《威力》を蓄えたまま、放たれた矢のように突き進む。

 

 というか、これ、とまらなっ

 

 

「死っ─────」

 

 

 轟音と衝撃、ついでに激痛。

 

 

 破城槌よろしく超高速で突っ込んだ私の右腕は、堅牢なはずの闇銀行の外壁を紙屑のように引き裂いていた。

 

 痛む体を堪えて何とか立ち上がり。

 

 

「動くな!!抵抗すれば貴様ら全員射殺する!!!」*1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「動くな!!抵抗すれば貴様ら全員射殺する!!!」

 

 

 

 ………うん、状況を整理しよう。

 

 

 私はどうしようもなくなって闇銀行から融資を受けようとして、それが無理そうだという話になって、気づいたら銀行の壁が吹っ飛んでいた。

 

 犯人は、不気味な鳥の面を被った、1人の女の子。

 

 小柄な少女が、なんか物騒なノコギリ?の生えた腕で瓦礫を真っ二つに叩き切って。

 

 

「オンギャァアアアアァアァアアアアアッッ!!!」

「ゴーゴーゴー!!」

「ん。動かないで」

「うへっ、動くと怪我するよ?」

「動かないでくださいね☆」

 

 

 なんか変なのが入ってきた!?

 

 あっという間に警備員を制圧した覆面たちのうち、紙袋を被った少女が銃を天井めがけて乱射して。

 

 

「う、動かないでください!!動けば即座に撃ちます!!」

「このっ」

「動くなと言ったぞッ!!!」

 

 動こうとした職員さんが脳天を撃ち抜かれて沈黙した。

 

 そのまま銀行員にカバンを突き出した一団が、カバンに何かを詰め込ませ

 

 

 

「うへっ、タエ………ナンバー6、目当ての物はゲットしたよ~」

「承知致しました。皆様!掴まっててください!!!」

「てった~い!!」

「ん。逃げる」

「ちょっ、マジでコレやうにゃぁああぁぁっ!?」

「それではみなさん、おたっしゃで~♤」

「ねぇっ、待って」

「オンギャァァアアァアアアアアッッ!!!」

「っ!?」

 

 絶叫と轟音、巻き上がる粉塵。

 

 

 思わず目を瞑ってしまった私の顔に風圧が吹きつける。

 

 

 数秒後、眼を開いた私の視界に映ったのは、破壊された天井から差し込む天使の梯子のような光柱と、舞い落ちる羽根、そして死屍累々とばかりに横たわる職員たちだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………あの、セリカさん、離して」

「………!!」

「あだだだだっ!?」

「あらあら~☆」

「あの、タエさん死にそうになってますけど………」

「たっ、小鳥遊先輩!!助けて!!!」

「うへっ」

「そのうへっは何なんですか!?ちょっ、マジでっ、羽根折れ」

 

 

 

 

 

 

YOU DIE

 

 

 

 

 

 

「………死ぬかと………死ぬかと思いました………」

 

 いや、ほんと、マジで死にかけた。

 

 なんなら肋骨辺りからパキョとかそんな感じの音したし。

 

 

「あ~………その、ゴメンナサイ………」

「いえ、結局死ななかったのでモーマンタイなんですけど………えと、セリカさん、ちょっと、離れては」

「それは嫌」

「えぇ………」

「あはは………あれ、結構怖かったですもんね。すっごく速かったですし」

「そうですか?皆様が振り落とされたりしたら大変なのでだいぶ速度を落としたつもりだったのですが………」

「………落としてアレなの?」

「体感でだいたい3割くらいですかね?皆様の重量を加味しても全力には程遠いかと」

「………マジ?」

「マジです、はい」

『えっと………さっきの飛行速度がだいたい時速百キロほどなので………』

「単純計算で時速300キロは出せますね。重量も、皆様くらいなら1ダースまとめて運べそうです」

「………タエちゃんってさ、ひょっとしてすごかったりする?」

「かもですね。自覚はありませんが」

 

 

 ひしっと抱き着いたままのセリカさんを抱き返して、首筋に顔を埋め

 

「あっ、そうだ。シロコちゃん、例のかばんは?」

「ん、ちゃんと持ってる」

「うへ、ありがと………なんか、ちょっと重くな………って、めっちゃお金入ってる!?」

「”………これ、一億円くらい入ってるんじゃないかな?”」

「わぁ!本当に5分で一億円稼げちゃいましたね☆」

 

 

 ………どうやら、書類を強盗するはずが、勘違いした銀行員が金も押し付けてきたらしい。

 

 一億円………一億円か。

 

 現在、アビドス高等学校の抱える借金は、9億跳んで6千万円。

 

 1割弱とはいえ、それだけの借金を一気に返済できるのはとても大きい、

 

「小鳥遊先輩、このお金を借金の返済に充てるのは」

「うへっ?………そうだねぇ~………おじさんは、やめといたほうがいいと思うなぁ~………」

「なんでですか!?借金を返さないと」

「うんうん、そうだね。けれどね、セリカちゃん。今回は良いとしても、次はどうするつもりなのかな?」

「つぎ………?」

「うん。今回は悪い奴らの犯罪資金だったから良いとして、その次は?その次の次は?………こんな手段に慣れたら、次、ピンチになった時に、きっと同じように、やっちゃいけない事に平気で手を出すんじゃないかな?」

「………」

「おじさん、可愛い後輩がそうなるのは見たくないなぁ~………」

「………なるほど、悪業(カルマ)の話ですか」

 

 因業は巡り巡るもの。

 

 外法に手を出し、それが常態化し、いずれは己に牙を剥く、か。

 

 

「カルマ?………はよくわかんないけど、まぁ大体そんな感じだね」

「残念です。上手くやれば借金を無限に返済できると思ったのですが………」

「?タエ、それどういう事?」

「銀行を襲って得た金で借金を返済し、その返済した金を銀行を襲ってもう一度入手するんです。後はこれを繰り返すだけのイージーゲームです」

「”タエちゃん、絶対したら駄目だからね?”」

「わかっています、イワナせん」

『………!みなさん、気を付けてください!!何者かがそちらに接近しています!!』

「っ!?」

「わにゃっ!?」

 

 即座にセリカさんを振り落として銃を露出させ、刃を展開。

 

 左手に持った銃身を、突き出すように構え、

 

 

『っ、あれは、便利屋の………』

「はぁっ、ふぅっ………まっ、待ってちょうだい!!」

 

 とっさに引き金を引きかけた指を意志力で抑え込み、便利屋─────たしか、陸八魔アルだったか─────が、そんな事を言った。

 

 全力疾走で追いかけてきたのか、荒く肩で息をする陸八魔が、姿勢を正し。

 

「………あなたたち、さっきの銀行強盗よね?」

「………だったら何なのかな~?」

「あっ、やっぱり!?その、私、あなた達の襲撃を見て、なんというか、こう、感動したの!!最近色々上手く行かなくって、落ち込んでて、でも、私の目指したアウトローって、きっとあなた達みたいな人だったんだなって思って!!私っ、頑張るわ!!法や規律なんかに縛られない、あなた達みたいな真のアウトローになりたいから!!」

「………なるほど?」

「それとそこの鳥人間さん!!」

「………あっ、私ですか?」

「あなた、さっきのアレは何だったの!?いきなり建物の壁が吹っ飛んで、すっごくかっこよかったわ!!」

「あぁ………なんというか。義手のギミック………ですかね」

「義手!いいわね、すっごくアウトローっぽいわ!!」

 

 アウトローとはいったい何なのだろうか。

 

「そ、それと、あなた達のチーム名があれば教えてもらえるかしら!?この記憶を、出来るだけ深く刻んでおきたくて………」

「ふむ……良いでしょう、私たちは人呼んで『覆面水着団』!!」

 

 十六夜先輩?

 

「ふ………覆面水着団………!?ヤバイ、カッコいい……クールすぎるわ………っ!!」

 

 ………?

 ダメだ、理解できない。

 

「うへ~………ほんとは覆面に水着が正装なんだけど、今日は急ぎの仕事だったから、略式で覆面だけってわけ」

「そういうわけなんです!私たち、昼間はアイドルとして活動して、夜になると握人を懲らしめる正義の怪盗になるんです!!─────そして私は、クリスティーナだお♧」

「ミネルヴァです。以後、お見知りおきを」

「すっ、すごい………キャラが立ってる………!というかミネルヴァさんの今のお辞儀、すっごくかっこよかったわ!私も真似していいかしら!?」

 

 なんだかふざけたような事を言う十六夜先輩の真横で一礼して、そんな声が返ってきた。

 

 

「それは………別に構いませんが」

「うへっ、目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を行く。これが私達のモットーだよ!」

「な、なんですってー!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………ミネルヴァ、ミネルヴァ、か。

 

 確か、ギリシャ神話に出てくる女神のペットだったか。

 

 知識と叡智を象徴する神獣の類だったはずだが、問題はそこじゃない。

 

 

 ─────私は、ミネルヴァという名前と、何か縁がある。

 

 深く刻まれた、拭い難い腐れ縁のようなものが。

 

 あるいは、その名は、私の過去に─────

 

 

「タエちゃん?どうかした?」

「いえ、セリカさん、抱き心地抜群だったなと」

「っ!?!?」

 

 

 ………考えても意味がない、か。

 

 私の過去に何があったにしろ、私が今生きている場所はここで、私はそれで満ち足りている。

 

 それ以上を望むのは、分不相応というものだろう。

 

 セリカさんにぶっ叩かれながら、私はそう結論付けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、ブラックマーケット、闇銀行にて。

 

 

「あっちゃあ~………タエちゃん、さっそく暴れたねぇ………うん、流石は僕だ、スペースギッチギチだったけど、【炎の矢】も【聖ジョルジュの剣】もちゃんと動いてる。黒服にどやされずに済みそうだ」

 

 壁を大きく抉り取られたような惨状を呈するそこを前に佇む、黒いコートにサングラスの男がいた。

 

 長い銀色の口髭を満足げに髭をいじった男が、路地裏へ滑り込むように姿を消し、

 

「おい、貴様!!怪しいな、何か知っているんじゃないのか!?」

 

 ロボットの警備員が2人、そいつに銃口を突き付けた。

 

 ヘイローを持たない人間を容易く壊し得るそれに怯みもせず、男はスタスタ歩き、

 

「何って何さ」

「先の銀行強盗についてっだっぴゃ!?」

「ぽぎゅっ」

 

 引き金を引こうとした指がバラバラに弾け飛ぶ。

 

 連鎖する崩壊はとどまる事を知らず、腕、肩、胴、頭、足、背中、そして全身がバラバラのスクラップに『分解』されるまで、2秒もかからなかった。

 

 男が、気だるげにサングラスを持ち上げ。

 

 

「………さて、そこなレディたち、速やかにおうちに帰ってママのおっぱい吸ってな。体中の関節を外されたかぁ無いだろう?」

「っ、ふざけっ」

「あっそ、んじゃ、『分解』っと」

 

 

 

 ─────30分後、現場を訪れたマーケットガードたちが見たのは、全身の関節を外されて蠢く25名の少女と、ネジ単位で分解された3体のロボットだった。

 

 

 

 

*1
やけくそデスバード、迫真の脅迫






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