学校を襲っていたヘルメットたちを、アビドス生徒たちに加勢してユメ先輩と一緒に撃退した私は、今アビドス高等学校の教室の一室に居た。
あの後有無を言わさず担ぎ上げられ周りの宥めもそこそこにどこかの教室に放り込まれた。それはもう鮮やかな誘拐だった。ウマ娘の私が一切抵抗できないほどには。
あまり使われていなさそうな部屋だが、清掃は行き届いている。そんなところの教室の床に、私は正座していた。ピンク髪の小柄な生徒に頭にショットガンを突き付けられながら。
「言え。一体どうしてあの人、ユメ先輩と一緒に居た。答えろ。嘘は吐くなよ」
ゴリゴリとショットガンの銃口で頭を小突かれる。オッドアイの瞳が私を捉えて離さない。
これは……ごまかしや嘘は一切通じなさそうだ。もう洗いざらい全部吐くしかない。
ひとまず尋問されるがままに私は一通りの質問に答えていくのだった。
「……つまり、気が付いたらアビドス砂漠に居て、しばらく歩いてたら倒れてたユメ先輩を見つけて、その案内でここまで来たってことかな? 貴女自体は外の世界の住人だと」
「それで合っています。嘘みたいな話だと思いますが……」
「まあ、見たことないところのお金と身分証に、普通あるはずの耳がない。でもヘイローはある。正直今でも半信半疑だよ。ユメ先輩を弄んでる異常者だって言う方がまだ信じられる」
「? 耳ならありますけど……」
「このキヴォトスの住人で、犬耳とかが生えてる娘たちはそれと一緒にヒト型の耳もあるの。でも貴女にはそれがない。それだけでも貴女が異常な存在なのはわかるよ。まあ後でセリカちゃんやシロコちゃんに見せてもらえばいいんじゃないかな」
そうなんだ。じゃあ私やっぱりこの世界の住人じゃないんだなあ……ならなんでヘイローがあるんだろう?
「ヘイローに関しては気が付いたらありました。元の世界ではこんなものなかったです。私みたいな種族は沢山いましたけど、犬猫の耳が生えてるような娘たちは居なかったですね」
「……まあ、嘘は吐いてなさそうだから一先ずは良いよ。でも装備は全部こちらで預かるし、身柄も拘束させてもらうよ。同じ外の世界から来た先生に一度判断してもらってから処遇を決める。そこの判断次第ではまあ、最悪牢屋行きかな」
「……まあ、今の私不法入国者なんで已む無しってところなんですけど……」
行政側の判断次第ではそのまま刑務所にぶち込まれても文句は言えない。今の私には法的な身分保障が何もない状態なので、最悪存在しない人間として闇から闇ということもあり得る。
海外に行くときはその辺りかなり注意して過ごしてたんだけどな……あはは……
バンドで後ろ手に手を縛られ拘束され、手持ちの荷物を全て没収された。荷物は彼女が部屋の隅に置き、私の学生証だけ持って来たようだ。
縛り方はかなりしっかりしている。多分、ちょっとやそっとじゃほどけない。海外で身柄を拘束されたのは初めてだなあ……まあ、こういう時は下手に抵抗しない方がいいだろう。
連れられるがまま別の部屋まで案内される。そこには先ほど見た生徒たちとユメ先輩、それに大人の男性がいた。おっとりした穏和な雰囲気の男性だ。グレーのスーツをぴっしり着こんでいる。彼が『先生』だろうか?
「あ、ホシノちゃんやっと来た! も~、いきなりどこに行って……ってテウスちゃ、えっと、クウちゃんに何をしてるの?」
「本名は彼女から聞いたので偽名は意味ありませんよ。彼女からは事情を聴いていました。ひとまずは不審者ということで拘束しましたが」
「へぇ~、そうなんだぁ……って、不審者!? 拘束!? えっと、一応私の恩人だから手荒な真似は……」
「得体の知れない人物ですから。不法入国者ですし」
駆け寄ってきたユメ先輩とピンク髪の生徒──ホシノさんが話している。結構親しげだ。やっぱり彼女がユメ先輩の言う『ホシノちゃん』だったらしい。
「え、え? ホシノ先輩ってあんな話し方だったっけ?」
「私と出会った当初はこんな感じなところもありましたね~☆」
「ん。ホシノ先輩はこんな感じだったこともあった。そしてボコボコにされた」
「挑んでたのはシロコ先輩だったって聞きましたけど……」
その後ろで生徒たちは小声で話している。小声のつもりなんだろうけど、ウマ娘の私にはそれはもうはっきり聞こえている。どうやら複雑な事情があるらしい。
「はいはい、とりあえずは彼女たちから事情を聴くのが先決だよ。それでいいよね、ホシノ?」
「……まあ、先生に任せるよ~。おじさんは後ろで聞いてるねぇ」
「え、おじさん? 今ホシノちゃんおじさんって言ったの?」
「話がややこしくなるのでユメ先輩はちょっと黙っててください」
「ひぃん……ホシノちゃんが冷たいぃ……」
大人の男性──先生が手を叩いて会話を一度止め、こちらに向き直る。身長はかなり高い。多分トレーナーさんと同じくらいかちょっと低いくらいかな?
正直トレーナーさんより清潔感があって頼れそうな大人だ。まあトレーナーさんみたいにいきなり女の子のトモを触りに行くような人がそうそういるとは思えないが。
「ひとまず、初めまして。連邦捜査部シャーレの先生だ。よろしくね。君のことは何て呼べばいいかな?」
「私は……ブラックプロテウスと言います。ここでは私の本名は目立つようなので弘原海クウと名乗る予定ですが、お好きな方で呼んでいただければ」
「め、珍しい名前だね? まるで競走馬みたいだ」
「え? 外の世界には私たちのようなウマ娘がいるんですか?」
「いや、君のような娘は見たことないかな。馬が走るレースがあってね」
なるほど、やはり外の世界だとウマ娘の代わりに馬がいるらしい。適当な馬名を聞いてみたが聞き覚えのある名前は一つしかなかった。その名もゴールドシップ。
もう驚かない。他の馬はスーパーウィークとかサイレントスズカとかちょっとずれた名前になっているのになぜ彼女──この世界では"彼"らしいけど──なぜゴルシさんだけそのままの名前なのか。
ちなみに私は知りうる限り居なかったらしい。三冠馬にも名を連ねていないとか。私が居た時代ではなかったのか、それとも私が存在しなかったのか……
「つまり君の世界でサラブレッドたちの代わりに君たちウマ娘がいたんだね? それがなぜかここに来てしまったと。それは……大変だったね」
「信じてくれるんですか?」
「私は先生だからね。生徒のことは信じるよ」
「……ぐすっ」
そう言って微笑んでくれる。ちょっと泣きそう、というか堪えきれずに涙が零れた。ユメ先輩以外に頼れる人が居なくて、誰にも連絡がつかなくて、ここから帰れる目途も付かなくて、人が居るところについたと思ったら銃撃戦をして、そして今こうして両手を縛られて。もういろいろと限界だった。私だって女の子なのだ。
「わっ、わっ、テウスちゃ……クウちゃん大丈夫? よしよし……怖かったねえ」
「……まあ、おじさ……こほん。私もちょっとやりすぎたよ。ごめんねぇ。今拘束といてあげるから……」
人目も憚らず大泣きする。一度零れてしまったらもう止まらなかった。ユメ先輩がぎゅっと抱きしめてくれる。
流石に気の毒に思ったのかホシノさんが両手を拘束していたバンドを切ってくれた。そのままユメ先輩に抱き着いてひたすら泣き喚く。
心細いとか、家に帰りたいとか。胸の中に秘めていた思いが溢れ出して止まらない。
そのまま泣き続け、落ち着くまで30分くらいの時間を要してしまうのだった。
「すみません、お見苦しいところをお見せしました……」
泣き止んだ後、何も言わずに見守ってくれていた皆に頭を下げる。高校生にもなってあそこまで号泣してしまうとは夢にも思わなかった。耳の先まで真っ赤になっているような感じがする。
「いや、仕方ないでしょ。いきなり知らない土地に飛ばされたって言うなら私だって参っちゃうし……ほら、これ使って。あ、私はセリカ。黒見セリカ、一年生よ。よろしくね」
猫耳黒髪ツインテという属性もりもりの娘がハンカチを渡してくれた。気の強そうな人だけど、結構優しい。なんだかダスカさんやウオッカさんと同じ空気を感じて少し落ち着く。
「私は十六夜ノノミ。同じくアビドス廃校対策委員会の二年生です~☆」
「一年の奥空アヤネです。よろしくお願いします」
「二年の砂狼シロコ、よろしく。クウでいいの? それともテウス?」
それに続いて他の子たちも自己紹介してくれた。呼び名に関しては……どうしよう? クウのほうが目立たないとは思うけど……
「ちょっと身の振り方を考えたいので、しばらくは好きな方で呼んでいただければ。それにその、私がここに居ていいのかもわかりませんし……」
そうしてホシノさんと先生を順番に眺める。私がどうなるかは多分この二人が握っていると思う。ユメ先輩は私の味方をしてくれるとは思うけど……
「アビドスで面倒が見れないならシャーレのほうで面倒を見るよ。学籍に関しても何とかしないといけないし……」
その視線に気づいたのか、先生がホシノさんに話しかける。ホシノさんは……少しバツが悪そうに頭をかいていた。
「うへぇ……対応に関しては謝るよ。ちょっといろいろありすぎて余裕がね……おじさんは小鳥遊ホシノ。アビドス対策委員会の三年生だよぉ」
「いえ、あの時は仕方なかったと「えっ、ホシノちゃん三年生になったの!? もしかして飛び級!!?」思いま……す?」
ホシノさんが自己紹介をすると、ユメ先輩がかなり驚いている。そういえば私も聞いていた話と違うな?
「えっと、ユメ先輩からはホシノさんは一年生だと窺っていたのですが……」
「それに私、こんな子たち初めて知ったよ? 他の分校とかに居た子たちかな? アビドスにはもう私とホシノちゃんしかないと思ってたからびっくりしたよぉ」
「うへぇ……? んー、あー……これはちょっと色々と事情をすり合わせないといけないかな……皆もそれでいいよね?」
どうにも話がかみ合わない。どこかしらで致命的なすれ違いをしていそうな気がする。
とりあえず皆で机を囲み、現状の状況を話し合う。
まずは現状の認識から。ユメ先輩はもう学校に二人しかいないと言っていたが、現状はユメ先輩含め六人の生徒が居る。さらにはホシノさんの学年の違い。その際を確認してるうちに、ある事実が発覚した。
「えええ!!? 今ってXX年なの!? XV年じゃなくて!? 私のスマホ二年前で時間止まってたの!?」
「間違いなくXX年ですね。はい、これ」
アヤネさんがキヴォトス標準時が表示された画面を見せてくれる。ユメ先輩がその横にスマホを置けば、二年弱ほど日付がずれている。時刻も少しずれてるけど、まあ些細なことだ。
「ええっと、つまりどういうこと?」
「ん。つまりユメはタイムトラベラー。時をかけるユメ」
「信じられませんけど、そう認識したほうがいいのかもしれないですね~。少なくとも砂漠にいきなり飛ばされた娘が目の前に居るわけですし~。しかも先生の居た外の世界とはまた別の外の世界から」
反応はおおむね好意的だ。というか私という不思議存在が居るので多少のことでは驚かないといったところか。
「ユメ先輩。最後の記憶はどこで途切れてますか?」
「ええっとねぇ、何処かに何かを交渉しに行った帰りに砂嵐に襲われた、ような……? ごめんね、倒れる前の記憶が曖昧なの」
「手帳は? いつもメモしてましたし何かしら書いてあるのでは?」
「楯と一緒に無くしちゃったみたいでぇ……うう、そんな目で見ないでホシノちゃぁん……」
「……楯は私が拾ったので後でお返ししますよ」
「おうちに帰ったら予備があるから使ってていいよぉ。それはホシノちゃんにあげるね~」
ホシノさんはユメ先輩と話し合っている。なんというかこう、しっかり者のホシノさんと天然なユメ先輩でバランスが取れているコンビだと思う。
先輩かあ……ちょっとまた寂しくなってきた……情緒不安定になってるかもしれない。深呼吸して落ち着こう。
「ところで先生、今の私ってどういう立場になってるんですか?」
「ええっと、ちょっと調べてみるね……死亡扱いになってるね。発見者はホシノになってる」
「えええ!!? 私死んじゃってるの!? もしかして今私ゾンビになってる!?」
「ここまで感情豊かなゾンビは居ないと思うけど……ホシノ、どうなの?」
「ユメ先輩が帰ってこなかったので探したら先輩の楯だけは見つけることが出来たんですけど、他の物証が全く見つからなかったんです。なので事故死ってことで処理したんですが……死体もなかったので司法解剖にも回せなくて、死因不明でしたし」
まあ、確かに砂漠で遭難して遺留品の一部でも見つかればそう処理するだろう。火災とかで死体が見つからなかった場合行方不明から三か月くらいで死亡認定されるとか聞いたことあるし。
「まあ、ユメに関してはこちらで手続きをしておくよ。連邦生徒会で管理してる戸籍はすぐ戻ってくると思う。ただ、死亡退学で除籍になってるから学籍に関してはちょっと厳しいかも……もう一度入試を受けてもらって再入学の手続きならできるけど……ホシノ次第、かな? 今のアビドスの実質トップはホシノだし」
「ユメ先輩を三年生として迎えること自体は可能ですけど。学力的には一年からやり直した方が……」
「ひぃん……だってアビドスでまともに勉強なんて出来ないよぉ……」
「ん、私も勉強してない。借金で首が回らないし」
「そういえば、借金ってどれくらいの額何だい?」
先生が皆に尋ねている。そういえば私も借金額は聞いてないな。借金があることは知っているんだけど……
「んー、ざっと9億位?」
「きゅ、きゅうおく!?」
「正確には9億6235万です」
9億かあ、GⅠ出まくれば一年くらいで稼げるかな……日本円が使えればの話だけど、グッズ売り上げとかで潤っている私の口座で今動かせる額でも全然返せる額だ。先生は愕然としているけど。
「なんでまたそんな額の借金が……」
「うわあ、今そんな額になってるんだ、私が居た時より増えてるね……数十年前から砂嵐で街が砂で埋まっちゃって、その復旧でたっくさんお金使っちゃってねぇ」
「融資してくれる銀行が見つからなくて、カイザーローンっていう悪徳金融会社から借りるしかなく~……」
「最初はそれでも返せる予定だったんだと思います。でも、砂嵐は何度もアビドスを襲い続けて。ついにはアビドスの半分以上は砂に埋まって、生徒たちは絶望してしまい、その結果膨れ上がった借金だけが残されました。借金が返せなくなれば、この学校すらも手放してアビドス高等学校は廃校手続きを取らざるを得なくなってしまいます」
「ん、でも完済できる可能性はほぼゼロ。私が入学したころにはもう私たち以外誰も居なかった」
「ま、そういうつまらない話だよ」
思ったよりヘビーな話だ。私はユメ先輩から大体のあらましは聞いていたのでショックは少なかったけど、先生はそうでもなかったらしい。ちょっと痛ましい表情をしている。
「っ……話を聞かせてくれて、ありがとう。皆が背負っているものがどういうものか、私にも少しだけわかった。確かに借金は膨大だけど、諦めるわけにはいかないよ。どうだろう皆。これから君たちの先生として、私にも協力させてくれないかな?」
「は、はい! よろしくお願いします!」
アヤネさんが感極まったように頭を下げている。多分、頼れる大人が今までいなかったのだろう。そこまでこのアビドス高等学校は追い詰められていると私でも思う。
「それでいいの?」
みんなが歓迎ムードを出す中、一人だけ異を唱える人がいた。セリカさんだ。皆がセリカさんのほうを向くと、彼女はとても不機嫌そうにしている。ウマ娘ならこれでもかと耳を絞っていそうな感じだ。
「だって、先生は結局部外者だよ」
「でも、だからこそ私たちとは違う視点で助けてくれるかもしれませんよ?」
「それでも! 今まで学校のことは私たちだけ何とかしてきたじゃない! なのに、なのに突然やってきた大人に従うなんてっ……」
「わ、私はみんなのことを手伝いたいだけで……」
「何よその上から目線! 私は、私は認めない!」
ノノミさんの言葉も、先生の言葉も彼女は受け入れず、そのまま走って出て行ってしまった。
見送った後、仕切りなおすようにホシノ先輩が話を切り出す。
「とりあえず、これからのことを考えよっか。私としてはこのタイミングでカタカタヘルメット団に逆撃を仕掛けようと思うんだ」
「い、今からですか? セリカちゃんも居ないのに流石に……」
「私とホシノちゃんが前衛を務めるから大丈夫だよぉ。テウスクウちゃんも援護射撃してくれるだろうし」
「変な名前になってるのでどっちかにしてくださいよユメ先輩……どこまでお役に立てるかわかりませんけど、お世話になる以上は手伝いますよ。でも耳栓とかないですか? 私でも使えるやつがいいんですけど」
「ん。こないだ私が買ってきたフードがある。防音防塵耐水機能もばっちり。ミレニアム製だから品質もばっちり。Bluetoothもついてる。問題はここだとすごく暑いことくらい」
シロコさんがそう言って鞄からフードを引きずり出し、私に手渡してきた。頭の上に耳がある人向けなのかちょうど耳を入れるところもある。これなら私でも問題なく使えるだろう。
というかなぜフードにBluetooth? これがこの世界の常識なのかな?
「今なら先生も居るし、補給とか面倒なことも解決できるからね~」
「ん。ここからヘルメット団の前哨基地は30kmくらい。今から出発すれば晩御飯までに帰れる」
「良いと思います。あちらも今から襲撃されるとは流石に思ってないでしょうし、撃退された後で戦力も消耗してるでしょうから」
「それはそうですが……先生はいかがですか?」
「良いと思うよ。私も付き合うね」
「よっしゃ、先生のお墨付きももらったし、いっちょやっちゃいますかー」
「ん、先手必勝。それとも善は急げの方が正しい?」
「はい~、しゅっぱーつ、です☆」
そうしてみんなで、そのカタカタヘルメット団の基地へ襲撃を掛けに行くことにした。
『カタカタヘルメット団のアジトがあるとされるエリアに到着、半径15km以内に敵の反応を多数検知。向こうもおそらくこちらの到着に気が付いています! ここからは実力行使です!』
アヤネさんが操るドローンから偵察情報が飛び、それぞれが戦闘態勢に入る。思ったより抵抗は薄い。最終的に気付かれたとはいえ奇襲は決まったようだ。
「じゃあ私は高所から狙撃していきます。なるべく狙いは付けますけど、まだ初心者なので牽制程度にしかならないと思ってください」
ホシノさんに返してもらった対物ライフル、M107A1という型名のライフルを片手で持ち上げて見せる。返す時にホシノさんが整備をし直してくれて、ほぼ新品同様の状態まで戻った。かなり手馴れていたし作業もとても早かった。あっという間に解体してあっという間に組み立てなおしたという感想しか浮かばなかったほどだ。
ちなみに機関銃は置いてきた。使えないというわけではなく、私の使う銃で使う弾、12.7x99mm NATO弾の補給がないので継戦能力に乏しいからだ。一応改めて先生が手配してくれたらしいが、今ある弾はM2機関銃の箱型弾倉に入っていた弾100発ほどしかない。弾丸の種類はよくわからない。徹甲弾? というものらしい。とりあえず硬い装甲をぶち抜くための弾だとだけ聞いた。
「ん、アビドスにスナイパーは居なかったからちょうどいい。射撃精度は後で訓練する」
「おじさんも手伝ってあげるねえ、貴重な支援火力だからね~」
「私も機関銃の使い方教えてあげますね♧」
「えっと、えっと私は……うーん、楯の使い方もホシノちゃんの方が上手だし、ライフルは私苦手だし……お、応援するね!」
襲撃前に皆が声をかけてくれる。結構緩い雰囲気だ。いつもこんな感じなんだろうか? まあ、緊張でがちがちになるよりはマシかな。
「さあ、準備できた? みんな行くよ~」
『それじゃ、アビドスの皆、攻撃開始だ!』
先生の指揮の下、それぞれが配置につく。私は廃ビルの屋上から狙撃役だ。とりあえず偉そうな人から撃てばいいと聞いたので、後方でふんぞり返ってそうな娘かちょっと装備が豪華そうな娘から順に撃っていこう。
ちなみにアヤネちゃんと先生は少し離れたところでドローンを介して指揮をしている。指揮官が最前線に出るなんてことは有り得ないからね、うん。
弾薬の補給に関してはアヤネちゃんがドローンで弾倉を送ってくれるらしいし、とりあえず気にせずに撃っていこう。リロードの仕方もちゃんと覚えたし、フードがあるから大丈夫。
フードを深く被って、スコープを覗いて狙いをつける。前衛に関してはホシノさんとユメ先輩が請け負い、中衛でシロコさんが援護、後衛でノノミさんが制圧射撃を行っている。
というか、ホシノさんの進撃スピードがとても早い。ショットガンを連射しまくってもう彼女一人でいいんじゃないかなと思えるくらいのスピードでヘルメット団を蹴散らして行っている。このまま放っておくと私が何かする前に終わりそうだ。
最後方にいた指揮官っぽい人に狙いを定めて、トリガーを引く。それなりに強い反動と、大きな音。フードのおかげで大分軽減されて、自爆するようなことはなかった。流石最新鋭の防音フードである。多分私これ手放せないな……
放った銃弾は逸れて、隣に居た副官っぽい人に命中。胴体に直撃した彼女は綺麗に吹っ飛んで動かなくなった。あれで死んでないって本当? どんだけ丈夫なのここの人たち?
指揮官っぽい子は慌ててこちらの射線から外れるような動きをする。通行止め用の車止めの後ろに隠れたようだが、甘い。この徹甲弾なら多少の遮蔽なら問題なく撃ち貫けるらしい。隠れて動かない相手にゆっくり狙いを定め、もう一度引き金を引く。
遮蔽を粉砕し、後ろに居た指揮官に弾が当たる。多少は威力が減衰したようだが、それでも指揮官を戦闘不能にするのには十分な威力だった。
指揮官が倒れると、ヘルメット団たちの動きが鈍くなった。指揮官が倒れ、それを補佐する副官も倒れている。指揮系統に混乱が起きているようだ。
後は一応弾薬庫や補給所を破壊するように言われているが……シロコさんのドローンやユメ先輩が投げたグレネードなどですでに滅茶苦茶だ。というかもう壊走状態に見える。死兵になってもらっても困るし、逃げるなら追撃はやめておこう。先生からも追撃の指示は出てないし、薬莢を回収して戻ることにしよう。
『敵の退却、及び敵補給所、弾薬庫、アジトの破壊を確認しました! 戦闘目標、達成です!』
私が皆のところにたどり着くと、その頃にはもう完全に戦闘が終わっていた。皆ほぼ無傷。ユメ先輩がちょっと擦り傷を負ったくらいだ。
「ん、これでヘルメット団もおとなしくなるはず」
「よーし、作戦しゅーりょー! みんな、先生、おつかれー。それじゃ、学校に戻ろっか」
「ユメ先輩、怪我してますけど大丈夫ですか?」
「このくらいの怪我いつものことだから大丈夫だよぉ~」
「絆創膏、貼ってあげますね~☆」
戦闘後とは思えないほどの雰囲気である。楽勝だったのもそうだが、それに慕って空気が緩い。
そんなゆるゆるの空気の中、皆で学校に帰っていくのだった。
ブラックプロテウスが名乗る名前はどっちがいい?
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本名(ブラックプロテウス)で通す
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偽名(弘原海クウ)を名乗る
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通常は偽名で親しい子にだけ本名を名乗る