漆黒の鋼鉄 if ~一つの奇跡の合流点~   作:うづうづ

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第二話

 

 

 カタカタヘルメット団のアジト襲撃を終えた私たちは一度学校へ戻り、そのまま今日は解散ということになった。

 先生は少し離れたところにあるホテルに宿を取っているらしい。私は校庭でテントでも張って野宿でもしようと思っていたのだが、ユメ先輩がおうちに招待してくれた。

 非常にうれしいのだが、一つ懸念点がある。

 

「あの、ユメ先輩は2年タイムスリップしてきたんですよね? ユメ先輩のおうちが無事な状態だと思えないんですが……」

「……ああっ!? そういえばそうだったぁ! つまり私も宿無し!?」

「人が住まなくなった住居はすぐ悪くなるって聞いたことありますし、家具とかは入れ替えてリフォームしないと使えないと思います」

 

 特にこの砂漠環境下では普通の住居がどうなるかわかったものじゃない。あの荒廃しきった街を見た後では、とても無事で残っているとは……

 

「ユメ先輩の家なら無事ですよ。私が管理していましたから。内装や衣服も手入れしてあります」

「えっ!? ほんと!? ありがとホシノちゃん! あ、でもどうやって私のおうちに入ったの?」

「当然家にも探しに行ったので。鍵、開けっ放しでしたよ。いくら人が居ないからって不用心すぎます。もっと危機感持ってください。新しい鍵を取り付けてあるのでこの鍵を持って行ってください」

「ひぃん……気を付けるね……」

 

 やっぱりどこか抜けている人みたいだ。ホシノさんから鍵を貰っている。何だか身体は大きいのに小動物のような感じの人だ。

 でも何だか太陽のような安心感のある人で、この人にならついていってもいいかなと思える何かがある人だと思う。ルドルフさんとかとはまた別のカリスマ性というのだろうか。ちょっと頼りないところはあるけど、トップに向いている人だとは思う。

 しっかりとした厳しい補佐が居れば組織運営にはかなり向いてる人なんじゃないかな? 部下たちの士気はとても上がりそうだ。

 

「おまたせテウスちゃん! あ、これからはクウちゃんのほうがいいのかな?」

「そうですね……私のことをよく知らない人に対しては偽名で通そうと思います。でも、皆さんには本名で呼んでほしいです。その……誰にも本名を呼ばれないのは、寂しいので」

「わかったよ、テウスちゃん。じゃあいこっか! じゃあみんな、また明日ね!」

 

 ユメ先輩が私の手を取って、引っ張って歩き出す。温かい手だ。やっぱり彼女は太陽みたいな人だと思う。砂漠の身を灼く太陽とは違い、ポカポカしていてとても安心できる温かさだ。

 

 そのままユメ先輩に手を引かれるままに、私たちはアビドスの砂にまみれた道を歩いて行った。

 

 

 

「やっと帰ってこれたよ~。入って入って~」

「お、お邪魔します……」

 

 恐る恐るユメ先輩の家に上がる。お屋敷にはよくお茶会に誘われたりするけれど、こういうマンションの一室に招かれたのはほぼ初めてに近いので緊張する。フクキタルさんのところはお家って言うより神社って感じだし……

 ユメ先輩が玄関にあったスイッチを入れると、普通に電気が点いた。そういうのもホシノさんが全部維持してくれていたらしい。本当に死んだと思っていたならここまで維持はしないと思う。やはり彼女の中でユメ先輩のことを強く想っていたのだろう。

 ユメ先輩の家はなんというか、ごくごく普通のマンションって感じ。ちょっと広めの2LDK。玄関上がってすぐに小さめのホールがあって、ホールにはクローゼットとお手洗いに続く扉とLDKに続く扉。LDKは12帖くらいかな。キッチンとの間にはスライドの仕切り扉、後はバルコニーにつながっている。

 キッチンには三枚扉があり、それぞれ6帖くらいの洋室二部屋と洗面所につながっている。洋室の片方は寝室で、もう片方はあまり使っていないようだ。一応それぞれの部屋にクローゼットがあるのだが、寝室の方には予備の楯や装備品が壁に立てかけられている。浴室は綺麗なユニットバスだ。一人で入るなら十分すぎる広さだと思う。

 印象としては、しばらく使っていなかった割にはかなり綺麗にされているという感じだろうか? 多分、数日に一回くらいの割合で清掃してたんだと思う。結構まめな人なのかな、ホシノさん。

 

「片っぽ使ってないお部屋あるから、そっちなら好きに使っていいよ~。お布団買いに行かないとねぇ、今から行って空いてるかな……」

「え、でも、あんまり長居するのはお邪魔なんじゃ……それに、寝袋があるので大丈夫ですよ?」

「いいのいいの! 一人で住むにはちょっと広いかなって思ってたし! 寝袋じゃ疲れも取れないでしょ?」

 

 そうは言ってくれるけど、流石に自立しないとまずいだろう。使える空き家を探して借りるくらいはしないと。どうやってお金を稼ぐかだけが問題だが……こういう特殊な地形なら力仕事には困らなさそうだし、そういうので稼ごうかな?

 とりあえず生活費と家賃くらいは払えるようにしたい。多分ユメ先輩はそういうの一切受け取ろうとしないと思うけど、私のプライド的なものが許さない。

 

「とりあえず晩御飯たべよっか……と言っても、流石に食材はないなあ、どうしよっか」

「私がキャンプで食べる予定だった食材があるので、ひとまずは今日はこれを食べましょう。買い出しは明日しましょう。手持ちの荷物で売れるものがあればそれで資金調達もできますし」

「お金に関しては気にしなくていいよ? それなりには貯金があるし……って、私の口座使えるのかな。先生が手配してくれるまで使えないかも……お財布の中にいくら入ってたっけ……」

 

 鞄からキャンプ用のアルファ米とフリーズドライのおかずを取り出す。ウマ娘の私基準で用意した量なので、結構ボリュームがある。二人で食べても1日くらいは余裕で持つだろう。

 資金面に関しては、まあ、最悪鞄に入れておいたゴルシさんの純金像を売るしかない。ゴルシさんには悪いけど、死活問題だ。金の地金分だけでも日本円基準で多分500万位では売れるはずだから、当面の生活費にはなる。

 もしくは日雇いバイトでもして日銭を稼ぐかのどちらかだ。でも戸籍もないのにアルバイトってできるんだろうか? 学生証すらここでは使えないしなあ私……でも日雇いなら何とかなるのかな? 明日ホシノさんに学生証何とかならないか聞いてみよう。何だかんだで優しい人だから手配してくれてる気がする。

 

「わー、いっぱい種類あるねえ。どれ食べてもいいの?」

「いいですよ~。好きなの選んでおいてください。私はお湯沸かしてますから」

 

 キッチンに行って、コンロがつくか確かめる。IHコンロのようだ。スイッチを入れたら普通に動いた。機械のメンテナンスまでやってくれていたのかな……?

 蛇口をひねれば水も出る。赤さびのような色もない、普通の水道水。手ですくってちょっと飲んでみたけど、普通の味だ。これなら問題ないだろう。お鍋に水を入れてお湯を沸かす。

 スマホを見てみればWi-fiまで使える状態のようだし、インフラ系も全部使えるようにしていてくれたのかな。後でユメ先輩にパスワード教えてもらってつないでみよう。 

 ここまで完璧に整っていると偏執的なものまで感じる。まるで、ずっとここにユメ先輩が住んでいたようなそんな感じの手の入れようだ。

 まあ、深くは考えないようにしよう。沸いたお湯をアルファ米が入った袋に少量注ぎ、かき混ぜてチャック蓋を閉めて15分くらいすれば出来上がりだ。汚れないし、少量の水でもおいしくできるのでキャンプのお供である。一袋でお椀2杯分くらいにはなるけど、とりあえず4袋分くらい作っておく。足りなかったらまた作ればいいだろう。

 残ったお湯はフリーズドライを戻すのと、お茶を入れるのに使う。お茶はお湯で簡単に溶ける粉末の緑茶だ。私が緑茶好きだと聞いた企業さんから送られてきたもので、結構おいしくて愛飲している。

 ここにも同じようなものが売っていればいいんだけど……最悪、新しい緑茶を探さないといけないかな。

 

「う~ん……見たことないものばっかりで迷っちゃう……よし、これにする!」

「私はハンバーグにしますね。深皿お借りします」

「いいよいいよ~。好きに使って~」

 

 ユメ先輩が選んだフリーズドライの鶏肉と野菜のカレー(甘口)と、私が選んだハンバーグをそれぞれお皿に空けてお湯を注ぐ。ちょっと気持ち少な目に注いだ方が上手く出来る。あんまり水の量が多いと味が薄くなってしまうのだ。

 ユメ先輩が結構悩んでいたので、フリーズドライのおかずが出来上がるころにはごはんもいい感じに完成していた。テーブルに全て並べ、残ったお湯でお茶を入れれば晩御飯の完成である。手抜きもいいところだが、まあ今日くらいは仕方ない。

 

「わ~、おいしそう! まともなご飯は2日ぶりだよ~。いただきま~す、あ、おいしい! フリーズドライのおかずって結構おいしいんだね!」

「いただきます。技術の進歩ってすごいですよねえ。そういえば遭難してた時は何食べてたんですか?」

「エナジーバーとお水。でも結構お口の中がパサパサしちゃって……目算よりお水沢山飲んじゃって」

「ああいうのって結構粉っぽいですからねえ……」

 

 ご飯を食べながらワイワイと雑談をする。ユメ先輩は本当に美味しそうにご飯を食べている。相当お腹が空いていたのだろう。まあ、脱水症状で倒れてしまうくらいの状態だったんだ。処置をしたとはいえ、その後も沢山動いてたし身体が栄養を欲しているのだろう。

 

「ご飯は後6袋分あるので、とりあえず好きなだけ食べてもらっていいですよ。朝ごはんはまたどこかで調達しましょう。せっかくなので豪遊です。ポテトチップスも開けちゃいます。ジュースはないですけどね」

「わ~い! 食べよ食べよ~。お菓子も久しぶりに食べるよ~」

 

 今日はいろいろあったし、ちょっと贅沢したい気分だ。鞄に一つだけ入れておいたとっておきのお菓子を開けて、摘まみつつご飯を食べる。ちょっと楽しい。にんじんジュースでもあれば最高だったのだが、流石にキャンプにまでは持ってきていないので仕方ない。緑茶で我慢しよう。

 

 そのまま日付が変わる2時間前くらいまで騒いで、それぞれお風呂に入ってから眠りにつくのだった。

 ちなみにお布団は私がお風呂に入っているうちに調達してきてくれた。人がいなくなった商店から貰って来たらしい。いいのかな、と思ったけれど、商店主が引っ越す際に残ったものは好きに使っていいと言われていたそうなので、気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 

 夜、物音がして目が覚めた。私の家には今一人しかいなかったと思ったんだけど……あ、そういえばテウスちゃんも居たんだった。お手洗いかなぁ?

 

 ちょっとお水が飲みたくなったので起き上がってキッチンに向かう。ところどころ身体をぶつけながらキッチンへたどり着く。灯り付ければよかったかなぁ……

 

「……あれ?」

 

 お水を飲んで一息つくと、バルコニーへ続くガラス戸が開いていた。閉め忘れたかな?

 そう思ってバルコニーに出ると、隅っこで蹲っている人物が居た。

「……テウスちゃん!? どうしたの!?」

「あ、ユメ先輩……」

 

 彼女が顔を上げると、涙で顔をぐしゃぐしゃにしていた。酷い顔だ。眼は腫れてはいないようだが、結構な時間泣いていたように見える。

 

「……いつも、眠る前に。両親や友達にメッセージを送るんです。でも、どんなメッセージを何度送っても、送っても、送っても、誰にも届かなくて。そうしてるうちに、寂しくなってきちゃって……ごめんなさい、普段はこんなに泣いたりすることはないんです。少しすれば収まると思いますから……」

 

 そう言って、力なく俯く。頭の上に生えている耳はそわそわと動き、まるで誰かを探しているよう。尻尾は足の間から巻き込み、それを抱きしめるように座っている。

 私とそれほど体格は変わらないのに、今の彼女はとても小さく、か弱く見える。対物ライフルを片手で扱って、音が大きいとしか言わないくらいタフな娘なのに、今の彼女はどこかすぐに壊れてしまいそうな雰囲気がある。

 

「仕方ないよ。いきなり右も左もわからないようなところに飛ばされて、お友達も居なくって。私だってそんなことになったら寂しいもん。何も恥ずかしくないんだよ」

「ユメ先輩……」

 

 傍によって優しく抱きしめてあげると、ぎゅっと抱き返してきた。お昼の時より、もっと弱弱しい抱き着き方。こちらに遠慮しているのかもしれないけど、きっとそれ以上に弱っているんだと思う。

 

「ね、テウスちゃん。眠れないなら一緒に寝よっか?」

「え、で、でも……迷惑じゃ……」

「私のベッド広いからテウスちゃんくらいなら大丈夫! いこ~っ」

 

 手を引いて寝室へ連れ込み、ベッドに寝かせる。抵抗は全くない。少し居心地が悪そうにもぞもぞとしていたけど、私がベッドに入り込んでテウスちゃんを抱き枕のように抱きしめるとおとなしくなった。

 暖かい。結構体温が高いのか、ぬくぬくしてきた。テウスちゃんが寝るまで見守るつもりだったけど、これは私の方が先に寝ちゃいそうかも。

 後、ちょっと彼女の耳が擽ったい。そわそわとせわしなく動く耳が鼻先をかすめている。でも、その耳の動きがだんだんとゆっくりになってきた。彼女の後頭部のヘイローも次第に明滅していき、ふっと消えた。ちゃんと眠れたみたい。よかった。

 起こさないように、優しく頭をなでる。ふわりと私がいつも使ってるシャンプーと同じ匂いがする。

 流石にホシノちゃんもシャンプーまでは用意してなかったみたいだけど、未開封のシャンプー類が洗面台の下にあった。安かったからまとめ買いしてよかった。

 

「ん……おかあさん……」

 

 抱きしめてくる力が少し強くなる。夢の中だけでも母親に会えているんだろうか? それならよかった。少しでも彼女の力になれたなら。

 成熟してるように見えるけど、話を聞けば去年までまだ中等部だったと聞く。まだまだ家族が恋しい年齢だと思う。まあ、2つしか離れてないけど……

 

 今の私がここに居るのは、きっとテウスちゃんのおかげ。多分、彼女が居なかったら、たとえ私がタイムスリップしてあの場所に居たのだとしても結局は砂漠に埋まっていただろう。

 貴女が此処に来てくれた奇跡のおかげで、私は今こうしてここに居られる。貴女が私を甲斐甲斐しく看護してくれたおかげで、私はこうして生きていられる。だから――

 

「今度は私が貴女を護るね。テウスちゃん」

 

 額に口付けをして、私も目を閉じた。

 

 

 

 

 

「んにゃ……? あれ……?」

 

 窓から差し込む日差しで目が覚めた。寝るまで迄有った温もりが腕の中にないことに気付き、もしかしたら夢だったのかなと思いつつ、でも布団には確かに私以外の温もりが残っていて。というか彼女の特徴的な長い黒髪がベッドの上に数本落ちているので夢だったってことはなさそう。私はユメだけど。なんちゃって。

 起き上がると、キッチンの方からコーンスープの良い匂いがし始めた。ふらふらとその匂いに誘われるようにリビングに移動すると、ちょうど探し人が居た。どうやら朝ご飯を用意してくれていたみたいだ。

 耳がこちらに向いて、彼女が振り向いた。結構便利な耳らしい。彼女の前だと隠密行動はそうそう出来ないんじゃないかなと思う。

 

「あ、おはようございます。ユメ先輩。その……昨日はありがとうございました。おかげさまでちゃんと眠れました。朝ごはん用意したので食べてください。これもインスタントのものですけど……」

 

 テーブルを見ればスープ用の器にコーンスープと、フリーズドライのビスケットが置いてある。これも多分テウスちゃんが持ってたキャンプ用品かな? 結構おいしそう。

 

「ううん。気が楽になったならよかった~。私に出来ることがあるなら何でも言ってね~。朝ごはんありがと、いただきます!」

 

 せっかく用意してくれたし、頂くことにした。ビスケットをまず一口食べてみる。こういうのは味が悪かったり油っぽかったりするものだけど、これは結構おいしい。スープが無くても問題なく食べれるくらい。

 コーンスープも粉っぽさはあまりなくて、これもなかなかおいしい。二つとも毎日食べるとちょっと飽きちゃうかもしれないけど、災害時やキャンプの時に持ち歩く非常食としてはかなりイケる。少なくとも私は好き。

 

「んー、おいしー! 今の非常食って味も侮れないんだねぇ」

「私のようなウマ娘は結構味にうるさいので、そういった感じのものも味は結構重視されてるんです。あ、でもスープはともかく、ビスケットはあんまり量食べない方がいいですね。これ、結構カロリーお化けなので」

「どれくらいあるの?」

「一本あたり200キロカロリーくらいですね。結構あります。ウマ娘はヒトと比べて必要カロリー量が多いので、これでも抑えめのものですけど」

「わぁ……確かにそれは沢山食べたら太っちゃうねぇ」

 

 小さめのビスケットだけどやっぱりこういうのってカロリー高いんだなあ。まあ、常食するものじゃないしね。

 朝ご飯は結構すぐ食べ終わって、食後に緑茶を出してくれた。これに関しても簡単に作れる粉末タイプのものだけど、一番自信があるものだとか。

 トリニティの紅茶とかゲヘナのコーヒーとかを飲んだことあるけど、これのおいしさはまた別。なんというか、落ち着く味だと思う。あったかい緑茶でほっと一息つく。

 

「じゃぁ着替えたら学校行こっか。あ、でもテウスちゃんの着替えないよね……そうだ! ちょっと待ってて!」

「一応登山着の替えとジャージならありますけど……まあ、普段着はないですね。もともと一泊二日くらいの予定だったので」

 

 お茶を飲みほし、クローゼットから未使用のアビドスの制服を取り出す。私と同じチェックのスカートと白いシャツ。後はタイにハーネスベルト。多分私のものでもサイズは合うはず。私の方が少し背は高いけど、体格的にはほぼ同じくらいだ。

 

「貰っていいんですか? えへへ、嬉しいです。着替えてきますねっ」

 

 制服を受け取ると嬉しそうに尻尾を高く振り、彼女の部屋として宛がった部屋に駆けていく。ここまで喜んでくれると贈った私もうれしい。

 しばらくすると出てきた。私とおそろいの恰好。違うところをあげれば拳銃用のホルスターがないところと、紫色のラインが一本入った白いオーバーニーソックスを履いていることくらいかな?

 でも、ちょっと恥ずかしそうにしている。なんでだろう、似合ってるのに。

 

「さ、サイズはちょうどいいんですけど……その……尻尾が……」

 

 恥ずかしそうにお尻のあたりを抑えている。尻尾か~、盲点だったなあ……

 

「多分学校に尻尾がある生徒用のスカートがあると思うから、それまでちょっと我慢してて? 恥ずかしいと思うけど……」

「一応下にスパッツ履いてるので問題はないんですけど、それはそれとしてめくれちゃうのは少しはしたないですよね……うう……」

 

 恥ずかしそうにもじもじしている。ちょっと可愛い。

 

「じゃあ、誰かに会うまでに早めに学校行っちゃおっか。すぐ着替えちゃったらばれないよ~」

「そ、そうですよね。そうします。早速行きましょう!」

 

 もうちょっと眺めていたかったけど、流石に気の毒だし。早めに学校に案内してしまおう。尻尾がある生徒は別に珍しくないし、多分あるはずだ。何せアビドスは元超巨大校。様々な生徒が居たと聞いているから。

 なのでスカートに尻尾穴が開いているタイプのものもあったはず。ホシノちゃんなら多分、念のために一通り揃えてあるはずだ。私が居た時は用意してたし。

 もしなかったらお裁縫して加工すればいい。あんまり得意じゃないけど、後輩のために頑張ろう!

 決めたら即行動が吉。パパっと準備して荷物を纏めて鞄と銃を持ち、家を出た。

 

 

 

「あれ? ユメにテウス。朝早いね。おはよう」

「あ、おはようございます、先生」

「おっ、おはようございます……」

 

 そして道を歩いていたら、ばったりと先生に出くわした。どうやら先生も今から学校に向かうらしい。

 思わぬ遭遇者にテウスちゃんが背中に隠れちゃった。男の人、しかも大人に見られるのは流石に恥ずかしいらしい。気にしすぎだと思うけどなあ。

 

「ユメとテウスは今から学校? 学校に行くなら一緒に行ってもいいか?」

「いいですよ~。あ、いいよねテウスちゃん」

「か、構いませんけど……あんまりこっち見ないでくださいね」

「? あ、制服のこと? 似合ってると思うけど」

 

 先生は特に気にした様子はない。どうやら尻尾のことについては気付かれなかったみたい。でもさすがにちょっと可哀想なので、先生の少しだけ後ろからついていくような形で歩いていく。これならちょっと見られてもお尻のほうまでは見えないと思うし。

 私が前に見た百鬼夜行の子は気にせずスカートの下から出してたし気にしなくていいと思うんだけどなあ。価値観の違いかなぁ? デリケートな問題だろうからあんまり話題には出来ないかも。気をつけよっと。

 

 しばらく歩いていくと、アビドスの学生服を着た猫耳の娘の後ろ姿が見えてきた。たしか、セリカちゃん。

 こちらの足音に気付いて振り向いた彼女は、先生の顔を見ると露骨に嫌そうな顔をした。そんなに嫌いなのかなあ?

 

「うっ……な、何よ……」

「おはよう、セリカ」

「何がおはようよ! 馴れ馴れしくしないで! 私、まだ先生のこと認めてないんだから! 朝っぱらこんなとこうろついちゃって、暇なの? いいご身分ね!」

 

 挨拶をした先生に、セリカちゃんが食って掛かる。先生は……どこ吹く風といった感じだ。優しい笑顔を見せる余裕すらあるみたい。大人だなあ……

 

「セリカちゃんはこれから学校? 良かったら一緒に行かない?」

「はあ!? なんで私があんたと一緒に学校行かないといけないわけ? それに今日は自由登校日だから別に学校行かなくてもいいの!」

「じゃあこれからどこに行くんだい?」

「別にどこだっていいでしょ! じゃあね、バイバイ! あ、ユメ先輩にテウスもまたね。今日私は学校行かないけど、多分夕方くらいにホシノ先輩に連絡すると思うから、何か用事があったらその時に言ってね」

 

 先生を睨みつけた後、こちらに幾分か穏やかな笑顔を見せてから去っていく。うーん、なんでこんなに嫌われているんだろう? 先生は良い人だと思うんだけどなあ?

 

「ごめん、ちょっとセリカがどこに行くのか気になるから私は彼女を追いかけるね。先に学校行ってて」

「は~い、待ってますね~」

「い、行ってらっしゃい……ふう、よかった」

 

 先生がセリカちゃんを追いかけて駆け出していくのを眺め、少し離れたところでテウスちゃんが私の後ろから出てきた。なんだか可愛らしい。

 

「も~、そんな風にしてると逆に目立っちゃうよ?」

「わかってはいるんですけど……後で先生には謝らないと……流石に失礼でした」

 

 やっぱり結構真面目な娘。礼儀とかそういうのが結構しっかりしてる。多分、家の人にしっかり仕込まれてるんだろうな。それか通ってたトレセン学園? がそういう校風だったのかも。

 

「ひとまず、他の誰かに会う前に急ごっか! 走るよ!」

「この格好で走るのはちょっと……あっ、待ってくださいユメ先輩っ」

 

 替えのスカートを用意する前にこれ以上誰かと会うのは酷かなと、学校まで走ることにする。テウスちゃんはちょっとためらっていたけど後をついてきた。

 結構全力で走ってるけど涼しい顔してついてくる。対物ライフルと機関銃を持った上で、それに比べて彼女より装備が軽い私のペースに楽々ついてくるあたり、聞いた通りアスリートなんだなあと思う。

 そのまま朝の通学路を二人で全力で駆け抜けていった。

 

 

 

 

 

「ん。この砂漠では一に体力二に体力。体力がなければこの先生きのこれない」

「ユメ先輩はともかく私は体力ある方なんですけど……」

「私だって一応アビドス育ちだからそれなりには体力あるよ~」

 

 学校について尻尾穴付きのスカートを見つけテウスちゃんに渡した後、私たちは登校してきたシロコちゃんに捕まっていた。なんでも私たちの体力を測りたいらしい。

 市街地でも砂まみれのアビドスでは体力第一、それはわかる。私だってそれなりに体力には自信があるし。

 実際にどれだけ体力があるか見たいと言うことで、ジャージに着替えて校庭に三人集まった。ジャージは山で寝泊まりする時に着る用と運動するとき用に二着持っていたようだ。結構楽しみにしてたのかな、山登り。

 

「トラックは一周400m。とりあえずついてこれるだけついてきて。ペースは一周1分くらいでいい?」

「……まあ、いいですけど。10周したらペースあげませんか?」

「ん、私は別に構わないけど……ユメは?」

「まあできる限りはついていくけど……」

 

 10周だと4000mかあ……ついていけるかな? テウスちゃんがちょっと不機嫌になったのが気になるけど、まあ大丈夫でしょ。確かアスリートだって言っていたし、体力を試されるのが気に入らなかったのかな?

 

 

 

「――じゃあ、行きますよ」

「……!? 速い……っ!?」

 

 そうしてシロコちゃんに続く形で走り始めて10分。テウスちゃんが一気にペースを上げシロコちゃんを抜き去った。多分、今までのペースの二倍くらいのスピードになった。今までスクーターの制限速度くらいで走っていたのに、多分今は時速50kmは出ている。

 流石にこんなスピードに私がついていけないので、トラックの外に出て止まる。シロコちゃんは意表を突かれたものの食らいつこうとしている。

 テウスちゃんは……シロコちゃんの様子を窺うくらいの余裕がある。まだまだ全力には程遠い。シロコちゃんは結構きつそう。でも、何とか食らいつけるだけの速度は出ている。

 

「シロコ先輩。もう体力測定はこの辺でいいと思いますけど、どうします?」

「ん……まだまだ。テウスはまだ本気じゃない、私もまだ本気じゃない。本気を出して。そうじゃないと測定にならない」

「……まあ、私も今の身体能力がどの程度か確かめたかったので構いませんが……ついてきてくださいね?」

 

 そう言って、テウスちゃんがさらにスピードを上げた。生物が出しているとは思えないほどの速さ、高速道路を走る車よりもっと速い。シロコちゃんもあの速さには流石についていけないのか、見る見るうちに引き離される。

 一周400mでは短すぎると言わんばかり、カーブの時大分大回りで回っているけど、それでもシロコちゃんとは三倍くらいの速度差がある。あっという間に周回遅れにされ、4周遅れくらいになったところでこれ以上は無意味と思ったのかテウスちゃんが減速し始めた。シロコちゃんもそれに応じるように減速し、立ち止まる。

 

「はぁ、はぁ……ん、テウスは私より速いし体力がある。認めざるを得ない。ユメはまあ、普通くらい」

「はい、ありがとうございます。まあ、ウマ娘ですから。この世界で言う馬と同等かそれ以上の身体能力があると思ってください」

「あはは……多分馬はそんなに速く走れないと思うなぁ……」

 

 もう笑うしかない。この後輩もそうだけど、テウスちゃんも身体能力がとても高い。私はキヴォトスに住む人としては一般的な身体能力の域を出ないけど、この二人は多分上から数えた方が早いと思う。単純な足の速さだけならホシノちゃんより多分上。テウスちゃんに至ってはキヴォトスでも並び立つ娘は居ないだろうと思えるくらいの速さ。

 ちなみにここまでずっと背中に対物ライフルと重機関銃を背負ったままである。降ろしたらどれだけ速いんだろう。シロコちゃんもライフルを持っているけど、テウスちゃんの装備はそれの比じゃないほどの重さだ。

 

「じゃあ、後はソフトボール投げとか握力とかを測る。いわゆるスポーツテスト。あ、ユメはやらなくていい。多分やっても平均値しか出ない」

「人間用のスポーツテストだと私のようなウマ娘にはあまり意味が……まあ、でもこのキヴォトス基準ならいいのかな?」

「じゃあ私は飲み物とタオル用意してるねぇ」

 

 シロコちゃんが握力計やらソフトボールやらを用意して体力測定の準備を始めている。準備周到だ、もしかしたら楽しみにしていたのかもしれない。

 飲み物を準備しながら横目で見れば、ソフトボールは遥か彼方へ飛んでいき、握力計は破砕音を立てて壊れ、立ち幅跳びは測定用の砂場を飛び越えた。わかってはいたが持久走1500mは一分半程度で走り切り、シャトルランは簡単に完走して見せた。

 安心してみていられたのは上体起こしと長座体前屈と反復横跳びくらいだろうか? 反復横跳びは多少手を抜いていたようにも見えたが、それでも満点。向こうの世界ではトップアスリートだったと胸を張っていたし、流石といったところだろうか。

 

 

「ん……流石にここまでとは思っていなかった。どれか一つだけならこのキヴォトスには出来る人はいるけど、全部できるとは思っていなかった。身体能力は百点満点」

「私としてはどれか一つでもウマ娘と同等の身体能力がある人が居ること自体驚愕なんですけど……」

「身体能力はわかったから次は実戦訓練。武器を構えて」

「ええ!? 私の装備明らかに近距離戦用じゃないんですけど、ちょっと待ってくださいフード被らないとまともに撃てないんです」

「ん、実戦はそんな泣き言言っていられない。先手必勝、問答無用がアビドスの掟」

 

 焦ってフードを被ったテウスちゃんに向けてシロコちゃんがライフルを構え、数発放つ。弾丸はテウスちゃんの肩辺りに命中して……キョトンとした顔で首を傾げた。その様子にこちらも首を傾げる。

 もう何発か放たれた弾も無防備に受け止め、撃ち終わった後にフードを外して不思議そうに尋ねてきた。

 

「えっと……エアガンか何かですか? 全然痛くないんですけど」

「……実弾。ゴム弾とかでもない、本物の弾。本当に痛くないの?」

「風に巻き上げられた砂が当たったかなあ程度ですね」

「……ちょっと意味が分からない」

 

 全くの同意見である。5.56x45mm弾を近距離で受けて砂が当たった程度とか言うのは信じられないと言わざるを得ない。

 

「……とりあえず戦闘訓練を続ける。好きに撃ってみて」

「えーっと……まだ弾薬の補給を受けれてないので訓練に使える弾が……」

「ん……そうだった。仕方ないからユメの拳銃を借りて」

「りょうかーい。使い方はわかるよね?」

「ユメ先輩が教えてくれましたし」

 

 テウスちゃんが使う銃の12.7x99mm弾はまだ補給されていない。他の補給品は今日の朝一に空輸で届いたらしいが、追加の品は午後になるようだ。それでも早いと思うけど。連邦生徒会ってちゃんと要請受け入れてくれるんだなぁ……

 私の拳銃とマガジンを手渡しておく。一応使い方自体は教えてある。その内近距離用のサブアームとして一丁渡そうと思っていたし。

 

 そうして仕切りなおして模擬戦が再開された。テウスちゃんは私のHG、シロコちゃんは自前のAR。

 テウスちゃんがいくら一流のアスリートだったとしても、銃での戦闘はド素人。模擬戦は終始シロコちゃんが圧倒している。事実、テウスちゃんが撃った弾は一発も当たらないのに、シロコちゃんが撃った弾は面白いように当たる。

 銃での戦闘、その位置取り、射撃のタイミング。その悉くが素人のそれで、歴戦のシロコちゃんの相手になるわけがない。なるわけがないのだが……

 

「うわっ、頭は反則、反則です! 顔面セーフですよ顔面セーフ! それにしても当たりませんね……なら突撃しかないですかね!」

「なんでヘッドショットされてぴんぴんしてるの……! 近寄らせたら危ないかも。射撃はへたっぴだけど」

 

 たとえ頭に当たってもノーダメージ。何発当たろうと0は0なので意味がない。それがわかったのか、テウスちゃんがシロコちゃんに向けて真っ直ぐ突撃した。

 牽制しようとARを撃ち込むが、一切怯まず突進。シロコちゃんも流石に歴戦で掴まれることは避けているが、スタミナが尽きて掴まれたら一巻の終わり。

 

「……! くっ……これならっ!」

「おっと……うん、効きませんよ! そして、捕まえました!」

 

 それを証明するかのように、30分ほど後、手持ちのマガジンもすべて撃ち尽くし、切り札の手榴弾とドローンミサイルもノーダメージで凌がれたシロコちゃんが爆煙から飛び出してきたテウスちゃんについに捕まった。首を片手で鷲掴みにされてそのままなるべく丁寧に地面に寝かされる。シロコちゃんが抵抗しようとしてもびくともしない。そのうち諦めたように大の字になった。

 

「くぅっ……降参、私の負け。流石にその耐久力は反則過ぎる」

「相手にどれだけ当てたかを競う戦いなら私の完敗でしたね。シロコ先輩が使う銃がもっと高い威力だったらどうなっていたか……」

「これくらいの近距離なら5.56も7.62もそれほど威力は変わらない。遠距離狙撃だとどうなるかはわからないけど、近距離ならそうそうダメージは受けない。最高のタンクになれる。ただ、動きながらの射撃が雑。下手に撃つくらいなら楯持ってそれで殴った方が強い。棍棒もオススメ」

「でもタンクならホシノさんやユメ先輩が居ますし……あとこの銃弾飛び交うキヴォトスで棍棒は流石に」

「ホシノ先輩は一人で突っ込んだ方が強いから、抜けた穴を埋めてくれればいい。それか後ろから狙撃してくれてもいい。アビドスに狙撃手は居ないから、そこも穴。こないだのスナイプは見事だったし、テウスの足ならポイント移動も速い。とりあえず戦い方は後でホシノ先輩にもアドバイスしてもらう。一番前で機関銃連射とかも面白そうだけど」

 

 一番前でタンクをするか、一番後ろでスナイパーをするか。両極端な適正だなぁ。

 ただ、最前列で機関銃連射はどうなんだろう? 出来そうで怖いけど。まあホシノちゃんに任せればいっか! 戦闘面なら私よりホシノちゃんの方が詳しいし。

 

「おはようございます~☆ 戦闘訓練してたんですか~? そうだ、そういえば機関銃の扱い方を教える約束をしてましたね~。テウスちゃんが使う弾が届いたら効果的な撃ち方を教えますね~☆」

「おはようございます。後方支援を担当されるなら簡単なドローンの使い方を覚えるのも良いかもしれませんね。私も助かりますし」

 

 いつの間にか見学していたらしいノノミちゃんとアヤネちゃんが駆け寄ってくる。それぞれ各々が扱う武装の扱いを覚えさせたいらしく、テウスちゃんを取り囲んでいる。新しく出来た後輩に構いたいのかな? うんうん、その気持ちよくわかるよ~。

 

「ん、せっかくだしアサルトライフルと手榴弾の扱いも覚えてもらう。使えて損はしない」

「そんなに一度に教えられても覚えられませんよぉ!? た、助けてくださいユメせんぱぁい!」

 

 シロコちゃんも加わり、三人に囲まれて少し涙目になっている。せっかくだし私も加わろうかなぁ?

 

「じゃあ私はハンドガンの使い方教えてあげるねぇ。ホシノちゃんの方が上手いだろうけど~」

「裏切られた!?」

 

 私が囲みに参加するとショックを受けたようにテウスちゃんがさらに涙目になった。ちょっと可愛い。

 

 そのままホシノちゃんが来るまで四人で取り囲んでテウスちゃんをいじり倒して遊ぶのだった。

 

 

 




いくら鋼鉄だろうといきなり誰も居ない、連絡もつかないようなところに飛ばされたら不安定になるよねっていうお話を入れたらちょっと長くなってしまった……

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