脳破壊なんてされない最強のナギサ様   作:shaf

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筆乗る乗る!
まじで今調子絶好調です!
誤字脱字の報告感謝!
感想も励みになってます!


「人殺し」になる覚悟

──10年前

 

「……ん、んん……」

「お、起きたか。えーと今は……7時か。意外と早かったな」

 

 朝になった気がして目を覚ます。身体が怠いと思い唸り声を出すと、何処かからそんな声が聞こえてきた。

 

「んぅ……誰だ……?」

「俺だ俺。思い出したか?」

「……さんだぅなー」

 

 薄らと目を開けると、近くにサンダウナーの顔があった。寝起きの舌足らずな声で名前を言うと、サンダウナーが「ははっ」と笑いを溢す。

 

「よく眠れたか?大体の奴はここに来て疲れてるか、そこそこ良い環境だから寝過ごすかのどっちかなんだがな」

「……そぅなのか」

「ああ。今日やる事は、覚えているな?」

 

 未だに怠い身体を起こして伸ばしながら答える。

 

「ん、ううん……確か入隊試験、だったか?」

「ああ、朝飯食ったら入隊試験だ。てことで飯食い行くぞ。俺は入り口で待ってるから、早く服を着替えな」

 

 そういうと奴は立ち上がり外に出ていく。着替えを見られないように配慮したのだろうか?

 言われた通り、素早く支給された隊服に着替えて部屋を出る。

 

「……ん、着替えたか。じゃあ行くぞ」

 

 そう言って食堂まで歩いて行くサンダウナーの後ろを付いていく。

 食堂まで辿り着くと、多くの生徒が食事を摂っていた。一人で食べているものもいれば、大勢で集まって食べている者たちもいる。

 

「あれ?部隊長」

「ん?ああ、カッチャか」

 

 食堂を眺めていると突然声をかけられ驚いていると、サンダウナーが声を返す。

 サンダウナーのことを「部隊長」と呼んでいたということは、恐らく同じ部隊の生徒だろう。

 

「珍しいね。こんな時間にここ来るなんて」

「ああ。まあ、今日は新入りが居るんでな」

「新入り?」

 

 トレイを持っている水色の髪をしたカッチャと呼ばれた同い年程度の生徒が私のことを見る。

 

「……その子が新入り?」

「……ジャック、とサンダウナーには名付けられた」

「自己紹介ありがとう。私のことはカッチャと呼んで。「狩り」って意味……らしいわ」

「わかった。覚えておく」

「ところで……この子にも、いつもの()()()()受けさせるの?」

「ああ、この後受けさせる」

「そう……」

 

 カッチャがサンダウナーに対しそういうと、複雑な表情で私を見てくる。

 その表情には、憐れみや悲しみ、期待が含まれているように見えた。

 そんなことを思っていると、カッチャが私に対し話しかけてくる。

 

「……一緒に部隊になれるかはわからないけれど、まあ……嫌なら、嫌って正直に言うのよ?」

「?……わかった」

 

 私がそう返すと、カッチャは苦笑しながら席に向かう。

 カッチャの言葉に疑問を持ち見つめていると、サンダウナーが声をかけてくる。

 

「おーい、何カッチャのこと見つめてんだ。もしかして……惚れた?」

「?……そういうわけじゃない。ただ、カッチャの言っていた意味を考えてただけだ」

「でしょうね。んなことより早く飯食うぞ。腹減って仕方ないんだわ」

 

 そう言って配給口に向かうサンダウナー。私はカッチャの言っていた言葉の意味を考えながら、後ろに着いていく。

 配給された食事を見て思わず驚く。衛生面が保たれているパンに、色とりどりのサラダ。温かいスープに、これは……私は見たことないが、ベーコン()、だろう。

 目を輝かせている私の反応を見て、サンダウナーは笑いながら言う。

 

「ここに来る奴の大半は、最初そういう反応を示すんだよな。アリウスが荒れてるとはいえ、ある程度まともなとこにはまともな(もん)がある。今まで文字通りゴミ同然のものを食い漁ってた奴等には、刺激が強いよなあ」

「これを……本当に食べて良いのか?」

「ああ、いいぞ。とはいえここは最前線だからな。その分働いてもらうという話で──ってもう食っとる……ふっ、まあいいか。さてと……いただきやーす」

 

 いい、の後はよく聞かずに、ガツガツと食べ進める。

 美味しい……!

 生まれてきてこれほどの食事にありつけたことは殆どなかった。

 黙々と食べ進めていると、ふとトレイに乗っていたものが無くなっていた。

 ……もう無いのか?

 そう思っていると、隣から声が聞こえた。

 

「……っん、ご馳走様、っと……どうした?もっと食べたいか?」

「……ああ」

 

 ニヤニヤしながらサンダウナーが話しかけてくるので、私が素直にそう言う。

 

「お代わりは出来んぞ。良いものが食えるとは言え、限られてるからな。これで満足できるようになれ」

「……そうか」

 

 サンダウナーの言葉に、思わず残念そうな顔を浮かべてしまう。すると、サンダウナーは苦笑しながら話す。

 

「まあ安心しろ。昼も夜もこのくらいの物が食える」

「本当か!?」

「おおう……ああ、本当だ。……意外と表情豊かなんだな」

「そうか……!」

 

 昼も夜も、あれほどの物が……!

 次の食事に期待を寄せていると、「いよぅし」という声が聞こえた。

 

「腹ごしらえは済ませたな。じゃあ、早速入隊試験だ。着いてこい」

「!……わかった」

 

 サンダウナーの言葉を聞き、意識を切り替える。

 ──これから私は、戦場に出るための訓練を受けることになるのだろう。

 食堂から出て、サンダウナーの後ろを着いていく……が、何処かおかしい。

 

「……?サンダウナー、こっちは──」

「時にジャック。お前は何故ここに来た?」

 

 昨日紹介された訓練室の方向ではない。そう言おうとした矢先、歩きながらサンダウナーにそんなことを聞かれた。

 話を被せて来たのには少しイラッときたがとりあえず今は奴の方が立場は上なので質問に答える。

 

「……私は、戦争に巻き込まれて、家族を失ったからここに来た」

「ほーん、結構あるあるな理由だな」

「……その質問にどんな意味があるんだ?それよりこっちは──」

「ジャック、お前はこれから先、何をするかわかるか?」

 

 先程と同じことを言おうとすると、またしても話を被せてきた。

 不機嫌になりながらも質問に答える。

 

「…………戦場に出る為に訓練をするんだろう?」

「戦場に出て、何をする?」

「?……それは……」

「戦場に出て、()()()()

「っ!」

 

 あまりにもあっさりと言ったその言葉に驚く。

 ……人を殺す?それは──

 

「……そんなことをしていいはずがない」

「そうだな。人を殺すなんてやっていいこととは言えん」

「なら──」

「だが事実として俺たちは殺し合いをする。誰かを殺して生きる。それが俺たちのやることだ」

 

 階段を降りながらそう話すサンダウナー。前にいるため表情が読み取れない。

 ?……ここは、何処だ?

 周りを見回せば、見知らぬ場所に居た。周りには鉄格子があり、その先には最低限生活出来るスペースがある場所が複数あった。恐らくここは牢屋だ。

 昨日紹介された施設は全て覚えているが、ここには見覚えがない。だが牢屋に来てまで何を?

 

「おい!私達は一体どこに──」

「ジャック、よく聞け。俺たちは常に何かを犠牲にして何かを得ている。動物の命を犠牲に栄養を得る。時間を犠牲に睡眠を得る。他人の幸福を犠牲に自身の幸福を得る。これはどの世界でもそうだ。生き物が生き物である限りこれは変わらん」

「何の話だ!それよりもここは一体──」

「まあ落ち着け。話を聞けよ」

 

 訳の分からない話をし始め、流石の私も我慢が効かず怒りながら問いただすが、それらを飄々とした態度で受け流すサンダウナー。

 

「良いか?俺たちがするのは殺し合いだ。誰かの命を奪う。それが俺たちのやることだ。だがぶっつけ本番──マジの戦場でいきなり人を殺せってのは俺ぁ酷なもんだと思うんだよそ、こ、で、だ──よぉ。来たぜ」

 

 目的地に着いたのか、はたまた目的の人物にあったのか。奴は話の途中で私への語りを辞めて誰かに話しかける。

 奴が話しかけたのは私たちよりも年齢が上の生徒で、私達とは色違いの軍服を着ていた。恐らく、牢の監視役だろう。

 

「……お前か。後ろのは……」

「新入りだ」

「……はぁ、今回もやるのか?」

「当たり前だ!俺の部隊はみぃ〜んな通る道だからな」

 

 サンダウナーがそういうと、監視は更にため息を付くと、「そいつが不合格になることを願う」といい牢屋の鍵を渡して去る。

 …‥何故、私が不合格になることを?

 疑問に思っていると、サンダウナーがニヤニヤとしながら、部屋を開けつつ話し始める。

 

「さぁて、入隊試験の内容を説明する」

「……」

「入隊試験の内容は簡単」

 

 カチャン、という鍵が開いた音が聞こえ、次に扉を開く音が聞こえた。そして、奴が部屋の中にいる両手足を拘束され目が虚ろになっている生徒を眺めながら言う。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()。これが入隊試験の内容だ」

「っ!?」

 

 捕虜を……殺す!?それはつまり──

 

「無抵抗の人を殺せと!?」

「そうだ。それが入隊する条件だ」

 

 馬鹿な……!そんなの間違っている!

 

「……私はその拘束されている生徒に、怨みは無い!殺す理由がない!」

「……ジャック」

 

 真剣な表情をしながらサンダウナーが私に近づき、思わず身構える。奴は私の肩に手を置き、目線を合わせて話し始める。

 

「俺たちがやっているのは「戦い」じゃない。「戦争」だ」

「……」

「いいか?お前は戦場に立つことを選んだ。だがそれは……人を殺すということだ。怨み辛みなんていう理由は要らない」

 

 私は自身の身体を震わせながら、奴の話を聞く。

 

「これから先、お前は数多くの人を殺すだろう。殺した奴らは誰もが生きたいと願っているだろう。殺した奴らにも家族が居るだろう。俺たちはそれを奪う。これは……お前の覚悟を問う試験だ」

「私の……覚悟」

 

 奴は後ろの腰に手を回すと、ある物を取り出した。

 それは、全長30cm程のナイフだった。

 

「ジャック。お前に問う。自分が生きるために、誰かの人生を壊せるか?自分が生きるために、誰かを不幸に出来るか?自分が生きるために──誰かを殺せるか?」

 

 サンダウナーが真剣な眼差しで私を見つめてくる。

 自分が…‥生きるために?

 奴の言っていることの大半は、よくわからない……でも、私がこれから先多くの人を殺すことは分かった。

 考えて、考えて、考えて。

 どれ程の時間が経ったかはわからない。今も奴はじっと私を見つめている。でも、ようやく結論が出た。

 

「…………私は人を殺すことが、良いこととは思わない。それも、無抵抗の人を殺すなんてことは」

「……」

 

 私の話を、奴は変わらずじっと見つめながら黙って聞く。

 

「でも、それが生きるために必要なことだというのなら」

 

 私は話しながら奴の持つナイフに手を伸ばし、奴の目を見つめる。

 

「──やってみせる」

「…………本当に、いいんだな?」

 

 サンダウナーが私に更に問う。恐らく最終確認だろう。

 

「人を殺せば()()()は出来ない。生活の質は落ちるが、戦場に立つことのない部隊に行くことも出来るんだぞ?」

「……だとしても」

 

 一度目を瞑り、考える。だがもう覚悟は決めている。

 何を言われようとも、答えは変わらない。

 

「私は──生きたい」

 

 家族が目の前で死んだ。親しくしていた奴が目の前で死んでいった。それを見て、私は嫌だと思ったから。

 そう言うと、奴は真剣な表情から一転し、笑みを浮かべて私にナイフを手渡し、腕を牢屋の方に広げ道を示す。

 

「──良いね。恐らく、お前はまだ戦う理由も曖昧で、人を殺すことがどういうことかもわかってないだろう。だが、その返事は良い」

 

 私は牢屋の中に入り、拘束されている生徒を見やる。

 ……私は、今から人を殺すのか。

 そう思うと、手が震えてくる。その震えを抑えて、深呼吸をし、ナイフを構える。

 

「殺し方は自由だ。死に顔が見たくないなら後ろから殺ればいい」

 

 腕を組んで壁に体を預けて見守るサンダウナー。

 ……でも、これが初めての()()()になる。なら──

 

「──ぅ、あぅぐ……!」

「……」

 

 捕虜の首を掴み、顔が見えるようにする。そして──

 

 

ぐちゃり……

 

 

「──っあ!?ぐぅあっ……!?」

「……」

 

 ズブり、とナイフを心臓目掛けて刺した。血がどぼどぼと零れ落ちて、手が血で塗れていく。暖かい。肉の抉れる音が、良く聞こえた。

 捕虜は暫く暴れていたが、徐々に力が弱まり、目からも光が失われ、ヘイローが点滅していき、欠けていく。

 そしてヘイローが砕け散り、捕虜から力が抜ける。

 ──本当に、殺したんだな……。

 人を殺したという実感を得ていると、後ろから声が掛かる。

 

「一つ聞きたい」

「……なんだ」

「何故顔を見ながら殺した?大半の奴は死に顔が見たく無いという奴が多いし、なんなら死ぬ時の声も聞きたくないってんで口を押さえるやつもいるが」

「……こいつは、私が初めて殺す人だ。だから、顔を覚えておこうと思った。……死に顔も含めて」

 

 自分が漠然と思ったことを口にすると、サンダウナーは目を一瞬点にする。

 

「……ふっ、はっはははははは!!!」

 

 だが、それも本当に一瞬で、次の瞬間には大声で笑っていた。

 

「あーそうかそうか!んっふふふ……いいじゃないか!お前には素質がある!!!」

 

 未だに笑いながら、私に指を指しながら語る。

 

「合格だ!歓迎しよう!!!今日からお前は俺の部隊、「デストラクション」の一員だ!!!」

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

──7年前

 

 アリウス過激派自治区、第4補給基地。

 森の中に隠されているこの小さい校舎──基地を制圧、占領することが、今回私たちに課せられた任務だ。

 ガサガサと、草木を掻き分ける音が聞こえた。そちらの方を見れば、部隊員の一人で偵察兵の役割の「オッキオ」が姿を現す。

 

「戻ったぞ」

「お疲れさん。基地の様子は?」

 

 木に身体を預けながら部隊長であるサンダウナーが報告を促す。

 

「事前情報通り、かなり手薄だ。前回の侵略で主要拠点の一つを落としたからか、警備がかなり少ない。攻め込むなら正に今だろう」

「了解。お前ら!仕事の時間だ、準備しろ」

 

 木に預けていた身体を起こし、声を張り上げ部隊の面々に作戦準備を促すサンダウナー。

 

「作戦を伝える。今回はジャックと俺が先行して暴れる。お前らは俺たちが取りこぼした奴らの処理を頼む。──それと、殺せる奴は殺せ。今は捕虜に出来る余裕もないからな。今死なせてやるのが奴らの為になるだろう」

 

 サンダウナーの言葉を聞き、皆身構える。出撃する準備は完了し、いつでも出撃出来る。

 

「比較的簡単な任務になる。だが気を抜くな──では、作戦開始」

 

 私はその言葉を皮切りに、敵の基地に走り出す。

 

「──ん?……っ!て、てきし──」

 

 監視が言葉を吐く前に首を切り落とす。パキン、とヘイローが壊れる音が鳴った。

 ──さあ、楽しくなってきた。

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

 そこからは呆気なかった。元々練度も低く、人数も少ない基地であったため、制圧するのに時間は掛からなかった。

 あちこちに倒れている死体を眺めながら、つまらないと思いつつ壁に体を預けて目を瞑り休もうとすると、物音が聞こえ、雑な殺気を感じた。

 

「っぐぁ!?」

 

 隙を窺っていたのか、物陰からナイフを持った小柄な生徒が突撃してきた。だがそれは技術も何もなく、拙い攻撃だった。

 私はそれを容易く往なし転がす。そして自身の獲物を構え、ゆっくりと歩き殺しに向かう。

 

「っ……くそっ!バケモノが!!!」

 

 そういいながら私にハンドガンを向けて何発も発砲してくるが、その程度怯むような訓練は受けていない。そもそも当たってすらいないが。

 つまらなさを感じながら近づく。殺そうと思い自身のナイフを振りかぶると、小柄な生徒が目を瞑る。

 

「──っ!?」

「…………えっ?」

 

 思わず目を見開く。

 何故か?それは、私が殺そうと思った者の上に、突如何者かが覆い被さって来たからだ。

 私はナイフを引き抜き大きくバックステップを踏み距離を取る。

 

「──っぁ……よかっ……た……」

「……ねぇ、さん?」

 

 一度距離を取り様子を見ていると、二人がそんな会話をし始める。

 ──姉妹なのか。

 放っておいても姉の方は死ぬ。妹も容易く殺せる。ならば、別れくらいはさせてやろうと思い、その場であの姉妹を見守ることにする。

 

「──あ、ぁああ!姉さん!?なんで!?」

「……ゎたし、もぅ、死ぬ、から……」

「そんなこと言わないでよ!嫌だ!姉さん!」

「……い、きて……お、ねがぃ……」

 

 感動的だと思った。あいつならこれを見てどう思うだろうか?

 そうぼんやりと思っていると、パリン、とヘイローが壊れる音が聞こえた。

 私は妹も殺そうと思いナイフをクルクルと回して遊びながら近づく。

 

「……さない」

「?」

 

 妹が何かを喋っている。小さくてよく聞こえなかったが、遺言くらいは聞いて──

 

お前だけは!絶対に許さない!!!

 

 顔が涙ぐちゃぐちゃになりながら、そう叫ぶ妹に、思わず動きを止めてしまう。

 

「うあああぁぁぁぁっ!!!」

 

 叫びながらナイフを持って近づいて来るが、私は唖然としてしまいただ突っ立っているだけだ。

 

「──ぅっふっ、あがぁ!?」

 

 このままでは刺される、と思ったが、その直前で突然後ろに引っ張られ口から血を吐く妹。

 何が起きた?と思いぼんやりしていた意識を覚醒させると、小柄な生徒を自身の獲物である刀で腹部を突き刺していたサンダウナーが居た。

 

「あっ……!?ぐぅ、ぁ……!」

「……安心しろ。愛しのお姉さんに、すぐに会えるだろうさ」

 

 そう言いながらサンダウナーは笑顔で刀を引き抜き妹を姉の死体のところに放り投げる。

 

「っあ!?……あ……ねぇ、さん……」

 

 既に死体となっている姉に手を伸ばしながらそう言い、妹のヘイローが割れた。

 

「……どうした、ジャック」

 

 突然そんな声をかけられる。

 

「……なんだ」

「酷い顔だな。あの姉妹に何か思うところでもあったか」

 

 死体を眺めながら聞いてくる。

 私は、自分が今感じていることを素直に話す。

 

「……サンダウナー。私たちは何のために戦っているんだ」

「それは自分で考えることだ。俺が人殺しを楽しむ為と言えばお前は「その通り」と納得するのか?」

 

 私の質問にすぐさまそう返された。

 ……なら。

 

「……なら、この戦争に、意味はあるのか?」

「何故急にそんなことを問う?この姉妹にお前は何を感じた?」

 

 死体に向けていた視線を、真剣な表情を私の方に向けてくる。

 

「……お前は、入隊試験の時にこう言っていたな。「殺した相手にも、家族が居て、それを私達は奪うのだ」と」

「ああ、言ったな」

「……それを、今実感した。私達が殺してきたものには大切な家族が居て、私たちはそれを奪って……それで、私たちは何を得られるんだ?」

「……」

 

 サンダウナーは答えず、ただ黙って私を見据える。まだ、何か言ってほしいのだろう。

 

「……あれほどの怨みをぶつけられたのは、初めてで……この生徒は、私に怒りをぶつけてきた。大切なものを奪われた、怒りを」

「……」

「サンダウナー。殺し合って、私たちは何を得るんだ。この戦争には、どんな意味があるんだ?」

 

 私がそう聞けば、サンダウナーは未だ口を開かず、物悲しい顔で言葉を選んでいるように見えた。

 少し経って、ようやく奴が口を開いた。

 

「……戦争に、意味があるなんて思ったことはない」

「……えっ」

「戦いというのは自己満足だ。金、力、権力、プライド…‥何かを求めて、何かを満たすために、戦いってのはやるものだ。だが……戦争には、意味は無い」

 

 ……戦争には、意味がない?

 

「勿論これは俺の自論でしかない。だが……戦争をして、大勢がただ不幸になって……極一部の人間がほくそ笑む様なものに、意味があるとは思えない。──俺達は、戦争というのは、ただ良い思いをしたい奴らに利用されて、大勢の命が失われて……大勢の人が不幸になるものだ」

 

 ……なら、なら!

 

「それなら、私達は何のために戦うんだ!?」

「……」

「答えてくれ!サンダウナー!」

 

 私は奴に近づき胸ぐらを掴み怒鳴るように言う。

 

「私たちは、こんな……幸せになれたはずの者たちの命を奪って!何を得るんだ!?どんな意味があるんだ!?」

「…………それは、俺が言えることじゃない」

「なんだと……!?」

「俺には俺なりの価値観があって、この戦争に意味を見出し、戦場に立っている。お前も、自分の物差しで、この戦争に意味を見出すべきだ。俺が何かを答えたところで、それはお前なりに考えて見出した「意味」じゃない。俺に出来るのは精々……ちょっとしたアドバイスくらいなものだ」

 

 私は身体から力が抜けてしまい、地面に座り込んでしまう。

 自分で、この戦争に、意味を……?そんなの……

 

「……思いつくわけがない。この戦争に、意味なんて……」

「……とりあえず、帰るぞ」

 

 サンダウナーの言葉に、従う気力が湧かず、へたり込んだままでいると、サンダウナーが私の側に座り、肩に手を置き声をかけてきた。

 

「……10分くらいなら待つ。一先ず、今だけでも良いから心に整理を付けろ」

 

 それから時間が経って、私は気持ちを落ち着かせ、なんとか寮まで戻ってきた。

 部屋に着けば、サンダウナーは私の頭を撫でながらベッドに私を寝かせた。

 

「そんな状態じゃあ飯食っても戻すかもしれん。今日はもう寝な」

 

 顔は私の方を向いてないから表情は読み取れない。でも、優しい声だった。

 ぼんやりとそう思いながら、私は眠りについた。

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

「ジャック。異動命令だ」

「──は?」

 

 朝。目覚めると開口一番サンダウナーからそう言われた。

 

「…‥何を、言っている?」

「お前は今日から別の基地に行ってもらう。「第5補給基地」。戦場から最も遠い基地にお前は異動する」

「ま、待ってくれ!」

 

 朝起きたばかりというのと、急な話で頭が追いつかない。

 私が、異動?

 

「何故異動する事になったんだ!?私は何か──」

「昨日のお前を見て、お前を戦場に出すわけには行かんと考えた」

「っ!」

 

 ……確かに、昨日から私はずっと考えている。人を殺す意味を。戦う意味を。

 

「今のお前が戦場に出ても人を殺せるとは思えん。足手纏いだ。今のお前では俺の部隊に迷惑をかけるだけだ」

 

 淡々とそう告げられる。

 私は歯噛みするが、実際その通りだと、私も思う。

 ──何せ今の私は、「人殺し」である自分に恐怖を抱いている。

 幸福を得られたかもしれない人たちを、なんとなくで殺してきた自分を。

 人を殺したくないと思っている自分を、私は確かに感じている。

 

「……わかった」

「……朝食は食えるか?」

「……ああ、食べれる」

「なら朝飯食ったら異動になる。具体的な活動は着いたら知らされるはずだ」

 

 それから食堂で朝食を摂った後、自室で少ない荷物を纏めて「第5補給基地」に車を使いサンダウナーと共に向かう。

 その最中に、サンダウナーの横顔を見る。

 ……こいつは、どんな理由で、殺し合いをしてるんだ?

 ふと気になって、聞いてみる。

 

「……サンダウナー」

「なんだ」

「…‥お前は、何故戦う……いや、戦えるんだ?」

「ん?ああ……まあ、面倒くさいからだな」

「は?面倒くさい?」

 

 思わずノータイムで返してしまう?

 面倒くさい?どういうことだ?

 

「俺は勉強というのが酷く面倒だと感じてる。だから勉強はしたくない。いやまあ昔は嫌々やってたんだが……それは置いといて、やらなくていいならやりたくない。だから大した勉強なんざしなくても生きていける仕事がしたいと昔っから思ってたんだよな。その仕事内容が兵士……人を殺すことだったってわけだ」

 

 奴の言葉に、私は理解ができなかった。

 勉強が、面倒くさい。それだけで、誰かの幸せを、命を奪えるのか……。

 

「狂っている……」

 

 思わずそう言葉を溢してしまう。

 

「そうだな。俺は狂ってるんだろうよ」

 

 無感情な声でそういう奴の表情は、窓の景色を見ていて見えなかった。

 

「……着いたな」

 

 その言葉を聞き周りを見てみると、昨日襲撃したような場所に私たちは居た。

 

「……ここは」

「安心しろ。昨日とは違う場所だ。かなり似てはいるがな」

 

 車から降りながら話すサンダウナー。私もそれに続き車から降りる。

 

「今日からここがお前の仕事場だ」

 

 ……私は、本当に戦場から離れるのか。

 私は小さい校舎に向かう。その最中に、後ろから声がかかった。

 

「ジャック」

 

 足を止め、車に身体を預け腕を組んでいるサンダウナーを見る。

 

「ナイフは預けておく。……これから先、お前は数多くの苦悩を抱えることになるだろう。だがそれをお前が解決できるとは思えん……故に、だ」

 

 一拍置いて、私の目を真っ直ぐと見据える。

 

「──いつかまた、お前に会いに行こう。いつになるかはわからんが、次お前に会う時……お前への教育を完了することにしよう。じゃあな」

 

 背を向けて手をぶらぶらと振りながら車に乗って去っていく。

 

「……お前に出会えば、私は人殺しに戻ることになるんじゃないのか?」

 

 ──奴の言う通りにはならない。私は……自分で答えを見つけてみせる。

 奴に2度と会わないことを願いつつ、奴の面倒くさいからという理由で人を殺せる奴の感性に、恐怖を覚えた。

 

 

 

 

 

 

 

─────────────────────

 

 

 

 

 

──現代

 

 

「……っ」

 

 足音が聞こえ、眠っていた意識が覚醒する。

 ……昔の夢を見ていた。私が、初めて「人を殺した」時の夢。そして……私が、「殺意」を失った日を。

 今思えば、あいつは幼い私にあんな事を聞いていたのか……いや、他の隊員もあの入隊試験を受けたと言っていたし、他の幼い子供にもあんな事を……?いや、さらに考えれば、奴はあの歳であれ程小難しい事を考えていたのか……まあ、ずっとあんな調子だったし、違和感はないんだが。

 ……思えば、奴は「何かを犠牲に何かを得ている」ということを事あるごとに言っていた。恐らく、これが奴にとっての世界の()()だったのだろう。

 

「アズサちゃん……?」

 

 そんなことを考えていると、ふと声が聞こえた。

 

「アズサちゃん、私です。どこにいるんですか……?」

 

 優しい声。だけどもそれには不安や心配、恐怖も見える声色だった。

 

「アズサちゃん……答えてください、アズサちゃん……!」

 

 壁に預けていた身体を起こし、声の主の元に向かい、姿を現す。

 

「アズサ、ちゃん……?」

「……ヒフミ」

 

 私は声の主、ここに来て初めて出来た友達で、一番大切な人であるヒフミの前に立つ。

 

「アズサちゃん、今までどこに……学園は今、大騒ぎで……」

「……うん、知ってる」

「アズサちゃん……?」

 

 ヒフミは私の態度がおかしいと思ったのか、疑問符を付けながら私の名前を呼ぶ。

 

「……これを、誰かが止めなくちゃいけない」

『戦争というのは俺のような奴がやるべきことだ』

 

 私の頭の中で、奴とした会話がフラッシュバックする。

 ──ああ、確かにこんな話をした。

 そうだ。戦える人間が、戦うべきだろう。

 

「それは、どういう……どうして、そんな顔で……」

 

 ヒフミがそういうが、自分が今どんな顔をしてるのか、正直わからない。

 

「アズサちゃん……」

来るな

 

 

バァン!

 

 

「……!!!」

「……」

 

 ヒフミが私に近づこうとしたが、それを私は、言葉と銃弾で拒絶を表す。

 

「……ありがとう、ヒフミ」

 

 ヒフミに伝えなくてはならないことを伝える。その為に呼んだのだから。

 

「でもここまでだ。ここから先には来ちゃいけない。ここから先は……私の居場所」

『俺のように、殺し合いを楽しめる奴がな』

 

 そうだ。私も、かつては殺し合いを楽しんでいた。

 命が懸かっている状況を生き残る。その達成感と、人を殺すことで自分の方が強かったという本能的な喜びが、確かにそこにあった。

 そんな人間が、居るべき場所なんだ。

 

「ヒフミみたいな善良な人は、これ以上来ちゃいけないんだ」

「あ、アズサちゃん……?何の、何のお話ですか……?私じゃ、何がダメなんですか……?」

 

 困惑した顔で私に問いただしてくるヒフミに、私は答える。

 

「……平凡で優しいヒフミには、似合わない話だよ」

「アズサちゃん、私は……!」

「"人殺し"」

「……!」

 

 ヒフミが何かを言う前に、それを遮り伝える。私がどんな人間かを。

 

「……ヒフミ」

「……あ、アズサちゃん?」

「……私達は友達になんてならない方が良かったのだろう。「人殺し」である、私と」

 

 私がそう言えば、ヒフミは酷い顔をする。驚き、困惑、そして絶望のような表情が入り乱れているように見えた。

 

「……な、何を……だって、だってアズサちゃんはそんな……」

「私のせいだ」

 

 ──私なら、アリアススクワッドを止めれていた。

 

「私のせいで、みんなが傷ついて……先生が撃たれた」

 

 ──私が、アリウスから逃げなければ。

 

「正義実現委員会、ティーパーティー、シスターフッド、それにゲヘナの人たちも……」

 

 ──私が、「人殺し」に恐れを抱かなければ。

 

「セイアが昏睡状態になったのも、学園がここまで破壊されたのも……全部、私のせいだ」

 

 ──私が、奴から逃げなければ。

 

「ヒフミ、それにハナコとコハル。このままじゃみんなにも危険が及ぶ」

 

 ──私が、普通の幸せなんて求めなければ。

 

「そ、それは、アズサちゃんのせいではありません……それは……」

 

 ヒフミが私の言ったことを否定してくれる。でも──

 

「だ、大丈夫です。せ、先生は……先生もきっと、すぐに目が覚めるはず、ですし……ですから……!」

「ヒフミ」

 

 前に奴はこう言っていた。勘とかそういう曖昧な物でも良い。何か説得したいなら根拠を持ってこいと。

 ヒフミ、どんな根拠があって、大丈夫だと?どんな根拠があって、先生がすぐに目覚めると思ったんだ?

 ヒフミの言っていることは、全て希望的観測だ。

 

「そんなハッピーエンドは……この世界には無いんだ」

「……」

 

 ──先生が起きて、全ての問題が程なく解決する。そんな都合のいい状況になるまで待つわけには行かない。

 

「今から私はサオリのヘイローを「壊しに」行く。それ以外に、この事態を止める方法は無い」

「ま、待ってください!方法……方法なら、きっと……!」

「ヒフミ」

 

 ヒフミの名前を呼び、私の話を聞かせる。

 私は今、どんな顔をしているだろうか?優しい笑みを浮かべているつもりだけど、上手く出来ているだろうか?

 

「私は「人殺し」なんだ。ずっと前から……それが、当たり前だった」

「……あ、アズサ、ちゃん……?」

「それが、本当の私。こんな人間が、ヒフミと同じ世界になんて、いちゃいけないんだ」

「そ、そんなことは……!」

 

 私が、最も伝えたかったことを、今伝える。

 

「……ヒフミ、私を友達だと思ってくれてありがとう。「アズサちゃん」って呼んでくれてありがとう。可愛いぬいぐるみをくれてありがとう」

 

 友人と言えるものは皆「友」ではなく「仲間」だった。ジャックと呼ばれ続けた。贈り物は勲章だった。

 

「海に連れて行ってくれてありがとう。楽しい思い出をくれてありがとう。楽しいものが、綺麗なものが、知らないものがあるって教えてくれてありがとう」

 

 ずっと戦場に出ていた。仲間との楽しい思い出も、色褪せてしまっていた。本を読むようなこともなく、外を知る機会は無かった。

 

「補習授業部での毎日……あんなに素敵な日々が過ごせて、たくさんの事が学べて良かった」

 

 学ぶことと言えば、敵の情報と戦い方だった。

 

「学ぶことは本当に楽しいことだった……これまでの時間は死んでも忘れない。少しでも、補習授業部の生徒でいられて良かった……」

 

 そこまで言って、奴との──サンダウナーとの会話を思い出した。

 

『適当に生きてりゃ人生なんとかなるもんなんだよ。どっかで大切な物が見つかって、どっかで譲れない何かが出来て。そうやって人生ってのは出来てくもんだ』

 

 ──ああ、その通りだったよ。

 適当に、とりあえず生きた。そしたら、本当に大切な物が出来て、譲れない場所が出来た。

 

「ありがとう、ヒフミ。さよなら」

 

 ヒフミから背を向けて、サオリ達の元へと向かう。

 ──やっぱり、お前が真剣な顔でなにかを言っている時のことは、大体正しいみたいだ。

 

「アズサ、ちゃん……。ダメです、待って、待ってください……」

 

 後ろからヒフミの声が聞こえるけど、無視して歩く。もう、覚悟を決めたんだ。

 

「きっと、他に方法が……せ、先生が、みんなが……」

 

 ヒフミの言葉にふと思う。

 ──ああ、サンダウナーが居たら、「うるせえ!他人を頼るな!自分でどうにか出来るようになるんだよ!!!」って感じでブチギレてるんだろうな、と。

 

「だって……だって、まだ……「次はみんなで海に行こう」って約束したじゃないですか……まだ一緒に、ペロロ様の冒険アニメだって、見れてないじゃないですか……」

 

 もうほとんど声も聞こえてこない。

 ──ごめん、でもこれしか方法が思いつかないんだ。

 

「行かないでください……アズサちゃん……ダメです、行かないで……待ってくださいアズサちゃん……」

 

 

 

アズサちゃんっ!!!!!」




もう出さないと思っていたオリキャラ、まさかの再登場。
と言ってもアズサ、サンダウナー辺りの回想にしか出ない……予定!です。出ないほうが不自然かなと思ったので、許せ……。
ちなみにまじで調子良くて明日も投稿します。連続投稿です
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