「ウォォォォォン──」
アリウス自治区にて、謎の雄叫びが響き渡る。
アリウススクワッドがそれを確認し、各々の感想を述べる。
「か、確認しました……あれが、例の……」
「「戦術兵器」か……ただの化け物だな」
「(スッ、ススッ……)」
「「太古の教義」をもとに作られた、失敗作……?あの人形、失敗したってこと?」
「(ふるふる。スッ、ススッ、スーッ、ススッ……)」
アツコが手話を用いてあの「化け物」の説明をする。
「難しいことはよく分からないけど……失敗作ではありつつも、「戦術兵器」であることに違いは無い?なら良いけど……そろそろバレる頃合いじゃないの?「ユスティナ聖徒会」にせよ、この「戦術兵器」にせよ、それから私たちの次の目標にせよ」
「……どのみち、もう手遅れだ。待機中の部隊に連絡を。これより、トリニティへの進撃を開始する」
サオリの言葉を皮切りに、待機中の部隊へ連絡を飛ばす。すると、複数のトリニティ自治区に「ユスティナ聖徒会」、その
「よし、では命令を──」
出せ。そう言おうとした瞬間、何かを感じ取ったのか沈黙するサオリに他のアリウススクワッドが声を掛ける。
「リーダー?」
「ど、どうかされましたか?」
「……私たちがここを空けていたのは、どれくらいだ?」
サオリの言葉にヒヨリが答える。
「3時間くらい、ですかね……」
「……あいつがいる」
「あいつ?」
ミサキが質問すると、アツコがそれに答える。
「(スッ、ススッ……)」
「あ、アズサちゃん、ですか?」
ドォォォォォン!!!
「ひっ、ひいいいぃぃっ!?」
急に足元が爆発し、思わず悲鳴を上げてしまうヒヨリ。
「ブービートラップ、いつの間に……!?」
「あ、こっ、こっちにも!?」
「……!!!」
「動くなっ!!!」
アズサを探そうと思ったのか、はたまたここに居ては危険と判断したのかはわからないが、アツコがこの場から動こうとしたのをサオリが叫び止める。
サオリの叫びに、他のアリウススクワッドは驚きながら動きを止め話を聞く。
「この狙いは私たちの動揺だ。私たちの隙を突くためのもの。相変わらず、そういう手法だけは上手い。しかし逆に冷静に対処すれば……」
ドゴォォォォォン!!!
そこまで言うとまた更に爆発が起き、辺りに砂埃が舞う。
「いえこの感じ、恐らくまだ周囲にもありますよ!?早く出ないと……!」
「ヒヨリ!」
ヒヨリはそういうと出口に向かって走っていく。
サオリは叫んでヒヨリを止めるが、ヒヨリはそれを聞かずに走る。
ドカァァァン!
「くっ……!」
「く、苦しいですね、痛いですね……どうして人生は、こんなに……」
そう言い残してヒヨリはバタリと床に倒れる。
アリウススクワッドに沈黙が流れる。
「明らかにヒヨリから狙った。狙撃手から処理したってことは……」
「……接近戦に持ち込む気か?」
ガチャッ、と何かが開く音が響き渡る。
「!!!」
「上っ、手榴弾!」
ドカァン!
小規模な爆発が起きてまたしても場に砂埃が舞い視界が悪くなる。
「白洲アズサっ!!!」
「……言っておくが、ただ一番処理が簡単な奴を処理しただけだ」
少しだけ姿を現しそう言い残すと、何処かへと走り去る。
「逃がすか!!!」
「リーダー、追いかけたら、それこそ思う壺の……」
ミサキは駆け出すサオリを引き止めるが、感情的になっているのか無視して追いかける。
「……まあ、仕方ないか。姫、ヒヨリの状態は?」
「(スッ、ススッ、スーッ……)」
「そっか」
「(ススッ、スッ……)」
「……長期戦になる?まあ、アズサが本気になったら確かに……」
バァンバァンバァン!
遠くの方から特徴的な銃声が聞こえてくる。
「……リーダーの銃声。追いついたかな」
ドゴォン!
その後に爆発音も聞こえてくる。どうやら激しい戦闘になっているようだ。
「仕方ない。私たちも行こう、姫」
─────────────────────
「そっちか!!!」
ダダダダッ!と銃弾が飛んでくるのを躱して遮蔽物に隠れる。
少し挑発しただけでここまで感情的になるとは、色々言ってはいるがやはり経験不足だな。
「判断は悪くないな、アズサ!お前では正面から私に勝てない!」
その通りだ。
銃の性能、体格の差……いくら技術がこちらの方が上とはいえ、サオリとの体格差にはやはり敵わない。この二つの要素で負けている以上、正面から戦って勝てる要素はない。
最も、今手持ちにかつてのナイフがあれば楽勝だったのだが……あれを持つには覚悟が足りなかった。
出来れば殺したくはないんだ。でも……それしか、方法が無いのだと思うから──
「そうやって逃げて……」
ドカァァァン!
事前に仕掛けていたトラップである程度耳を壊し砂埃で視界を悪くさせる。内戦時代にあいつから教わった物だ。
「私の隙を狙うしかないだろうっ!!!」
今はまだやる時ではない。一先ず逃げて、次の場所に向かう。
──角を曲がって次……!
次の目的地に移動している途中で──
「っ!?」
ダダダダッ!
私の前にアリウススクワッドの一人、アツコが立ち塞がり銃を乱射してくる。
バッタリと出会ってしまった為回避できずにもろに受けてしまう。
「ぐぅ……!アツコ……」
「(スッ、ススッ……)」
良い加減手話じゃなくて言葉を使って欲しい。自分は手話出来るんだぞ凄いでしょとでも褒めて欲しいのか?絶対違うのだろうが。
もうこの際だから正直に言おう。
「アツコ……すまない。手話はさっぱりなんだ!」
ドカァァァン!!!
「……!?」
言うと同時に事前に仕掛けていた爆弾を起動させその隙に逃げる。
マスクを付けていて見えないが、間違いなく「えっ!?」と言っているのがなんとなく分かった。
「アズサっ!!!」
「待って、リーダー。このままじゃキリがない。ユスティナ聖徒会を呼んだら?」
「……」
「(ふるふる)」
「聖徒会は、トリニティとゲヘナの紛争にしか介入しない……それにアズサは、トリニティの生徒ではないと解釈される可能性もある」
どうやら追ってこないで作戦会議をしているらしい。少し聞こえづらいが、遠くからサオリ達の会話を聞き情報を得る。
解釈……よくわからないが覚えておこう。
「……ふうん、結構面倒な構造だね」
「(こくこく)」
「それどころか、アズサが「アリウススクワッドだ」と解釈されたら……」
そんなことは絶対ないと思うから安心して欲しいが、とりあえずあのエグい角度のハイレグ集団は来なさそうなので安心する。
「……まあ、戒律も結局は解釈次第ってことだね。確かに元々そうやって手に入れた力だし、制約やらペナルティがあるのも当然かもしれない」
……確か、「奪った」というようなことを言っていた気がするから、無理矢理得たもの故に好き勝手に出来るわけではない、ということか?
「ああ、だからこそ、こうするしかない。あいつの戦い方、考え方……それらは全て基本的に、私が教えたものだ。私じゃないと倒せない」
酷い勘違いだ。思わず鳥肌が立つ。
とはいえ、考え方はともかく戦い方は確かに奴から嫌々教わった。私じゃないと倒せないとか言ってるのはちょっと自意識過剰すぎるんじゃないか大丈夫か?と言いたいところだが。
「追うぞ」
!こちらに向かってくるか!
「……じゃあ、私は反対の方から。姫は他の道からよろしく」
分かれて行動するのか……なら。
懐にある起爆スイッチを押す。すると──
ゴゴゴゴゴゴゴ……
「何これ、地震……?いや、まさか……このフロア、全体に……?」
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
建物全体が揺れる。よし、上手くいったみたいだな。
「くっ、いつの間にこんな……!まずい、上の階が崩れる。走って!」
残念だが、間に合わない。
ドカアアアアアァァァァァン!!!
一際激しい爆発音が私の耳の感覚を狂わせるが、恐らく作戦は上手くいっている。
「げほっ、げほっ……あー……動けないな、これ……」
「アズサあああぁぁっ!!!」
っ!なんだと!?
あの状況で、無事!?さらに動けるなんて……!!!
こちらに勢いよく走ってくるサオリに対し銃を構え迎撃し、サオリもそれに銃弾で応えてくる。
「ぐっ、うう!」
サオリの銃弾が体に当たり、痛みを感じる。
やはり銃じゃあ勝てないか……!
そう思っていると、サオリが私に接近してくる。
──ああくそっ!
粗雑な攻撃で首を掴もうとする腕を後ろに少し飛んで回避しその流れで前に思い切り飛んで回し蹴りを顔面に喰らわせる。
「っぐ!」
流石に防がれるが、良い具合に後退させる事ができ、距離を離せた。
だが、かなり博打の技だった。距離を離せたからよかったものの、少しでも結果が違えば今ので私の負けが確定していた。
体格の差で考えればある程度は仕方ないとはいえ、奴に競り勝ち続けるには博打を常に打たなければならないのは状況として不味い。
──やはりナイフを持ってきていれば……!
だけど、仮に持ってきていたとして、本当にいいのか?
本当に、私はまた「人を殺す」のか?
そんな雑念が、私の脳内で走っていると、いつの間にかサオリが目の前にいた。
「っ!?」
「ふっ!」
「──あぐぁ!?」
首を掴まれそのまま力任せに地面へと叩き投げられる。
すぐさま体勢を立て直す。だが──
「(カチャリ)チェックメイトだ、アズサ」
「……チッ」
私の頭に銃を構えているサオリ。こちらの銃はリロードが必要で、接近戦は体格差で勝てる要素がない。奴の言う通り、チェックメイトだった。
「……お前にしては良くやった。それでも無駄だ。お前の考え方、思考、それらは最初からお見通し……」
何言ってんだ怖。
「最初から、無駄な抵抗だったんだよ」
「いつから……?」
「?」
それよりも、現状どう足掻いても打開は不可能。可能な限り情報を聞くべきだと思い矢継ぎ早に質問をする。
「いつからアリウスは、巡航ミサイルなんて物を……?それにいつの間に、あんな不思議な力を操れるようになったんだ……?「ヘイローを壊す爆弾」も」
「……アズサ、どうしてお前が勝てないのか分かるか?」
……嫌な予感がしてきたぞ。
「弱いからだ」
「……」
質問に答えてほしいんだが。
どうして私が出会うやつの大半は素直に質問に答えず思想を垂れ流そうとするんだ?
「何が人を「人殺し」にすると思う」
覚悟だ。人を殺すという覚悟。
でも、こんなことを言っても経験上無視されるし聞いてくれないので言わない。こういう時は大人しく聞いておくのが吉だと奴から学んだのだ。
「それは「殺意」の有無」
──殺意の有無、か……。
「そういうことなんだよ、アズサ。意思さえあれば、道具は関係ない。重要なのはそこに込められた「意志」だけ。ミサイルを含め、それ以外の手段や何やらは、私たちの恨みを証明する道具でしかない……それ以上でも、それ以下でも無いのさ」
「サオリ……」
なんか講釈を垂れているが、あまり響かない。
何故か?簡単だ。サオリは本当に「人殺し」なのか?
私はサオリが内戦にいたのを見たことがないし、そもそも内戦の話も聞かないから恐らく内戦に巻き込まれていない奴らだと思う。
だから、ただただ誰かが言っていた事をそのまま述べているようにしか思えない。そこに実体験や自分の今までの人生で培ってきた「何か」がない。
これがサンダウナーが言っていることだったら、かなり響いていたのだろうと思うんだが。それとも単に奴に毒されすぎたのか……。
だが、それよりも聞かなければならない。
「もう一度聞く、「いつから」だ?」
「……!?」
サオリはさっき恨みと言ったが、それは本当にサオリが持っているものか?
「その恨み、私はあの時ただあそこで「聞いた」だけだ……その恨みは、本当にお前──」
「虚しい」
バァン!
その言葉と同時に私の頭に銃弾が撃ち込まれる。
頼む。私の質問に答えて欲しい。切実に。
「弱いな、白洲アズサ。その弱さはお前を縛り付けているんだ」
わかったから。もう本当にお願いだから私の質問に答えてくれないか?なんだが泣きそうだ。
「そう、こんな状況でも離そうとしないその人形のように」
「!!!」
気づかれたか!?
「初めてお友達がくれたプレゼント、か?」
「虚しいな」
その言葉を皮切りに、私に向けてサオリは何度も何度も銃弾を私に浴びせてくる。
「虚しい、虚しい、虚しい、虚しい──」
本当に壊れてしまったようだ。
……アリウススクワッドのみんなを悪く思ったことはない。寧ろ、不貞腐れていた私に対して優しくしてくれたから、良くは思っている。
だけど、彼女たちの言っていること全てに、「重み」が無い。
サンダウナーのように、自分の経験で得た知見で何かを考え導く事はなく、誰かにそう教えられたからそうなんだで終わり。
その先を考えずに思考を停止している彼女たちに、私は辟易しているのを自覚している。
「虚しい、虚しい、虚しい、虚しい──」
未だにそう言い続けながら私に銃弾を浴びせてくる。
──私は、彼女たちとは明確に違う点がある。それは──サンダウナーに、育てられたことだ。
私は価値観を、考え方を、この世界の見方を、奴から教わった。
奴は言っていた、何事も捉え方次第だと。
自分がそう思えばそれで良いのだと。美味しいと自分が感じたならそれは美味しいし、不味いと自分が思えばそれは不味い。
単なる自分の感想。自分の考え。それに文句を付ける奴にこそ文句を言えと。
そんな感じのことを言っていた。それの意味が、今ならよく分かる。
虚しい?抗うことは意味がない?
「ぐっ、あぁぁっ!?」
痛みを叫びで誤魔化す。
「虚しいな、アズサ。友情か……ならばその無駄で虚しいものから壊して──」
「──さい……!」
「っ!?」
私はサオリが何か言う前に言葉を被せる。
私の態度に驚いたのか、一歩後ろに下がるサオリ。
──さっきから黙って聞いていれば……!
「虚しい虚しいうるさい!!!」
「っ!アズサ!?貴様なにを──!?」
「私は!この世界に!!!」
大切な友人が、ヒフミがくれたぬいぐるみを思いっきりサオリにぶん投げる。
「虚しいものがあるなんて、一度たりとも思ったことはない!!!」
そして、すぐさま窓から外に身を投げ出し、
ドカアアアァァァァァン!!!!!
─────────────────────
「はあっ……っ、はあっ……!」
ボロボロの体に鞭を打ってどうにか逃げた。
……あれが本当にヘイロー破壊爆弾なんだとしたら、間違いなく殺せている…‥と思う。
「はあっ、はぁ……!」
ここがどこかはわからないが、一先ず壁に身体を預けて休む。
……確証はない。でも……本当に、また、私は。
「……は、ははは……」
思わず乾いた笑いが出てしまう。
──もう、戻れない。
薄らと、自覚している。
「……ごめん、ヒフミ。やっぱり、私は……」
人を殺すのが、楽しいと感じてしまうような、最低の人間なんだ。
「よぉ」
縮こまって俯き、雨に濡れながら罪の意識を感じていると、突然声を掛けられる。
「久しぶりだな?」
「──っ!?」
そこまで聞いて、まさかと思った。
思い切り顔をあげ、声をかけてきたやつの顔を見る。
──なんで……?
「ジャック」
長い黒髪を棚引かせながら、私に近づいてくる、生徒。
「──サン、ダウナー……」
私の親とも言える存在であり、私がこの世で最も恐れている人物であり、5年前アリウスから逃亡した者──サンダウナーが、私の前に現れた。
─────────────────────
「正義実現委員会のツルギ委員長が重症!ハスミ副委員長の方は重体とのこと!」
トリニティの古書館にて、数多くの生徒が慌ただしくし、声を張り上げ状況を報告し合っている。
「サクラコ様も重体です!救護騎士団の救護室は現在満床とのことで、古書館の寝室の方へ搬送中!」
「あ、ああ……サクラコ様……」
「……ナギサさんは?」
「彼女については、まだ捜索中とのこと!」
「……」
「……っ!一部の過激派が、もうすぐゲヘナに宣戦布告するとの情報が!!!」
「はいっ!?」
あり得ないとも言える情報に、マリーが大きく驚きの声を上げる。
「ダメです、今ここでそんなことをしては……!」
「正義実現委員会が、大聖堂に進入を試みているとの情報あり!これを阻もうとするシスターたちと、中央ホールで衝突が発生しました!」
「なっ……!?」
「混乱があちこちで……」
ハナコの呟きの通り、トリニティは現在混乱、いや混沌と化していた。
「早く戦闘を中止させて、救助の方に専念しないと……!」
現状、ここを纏めているのはハナコである。
だが、生徒一人一人の統制が取れず、身内で争うだけの状況と化してしまっているのが現状である。
「(変数が多すぎる上にこの状況、私はいったいどうすれば……セイアちゃん……先生……)」
いかに優秀なハナコといえど、この状況をどうにか出来る能力は無かった。
この混乱を止めるにはどうすれば良いのか、ハナコには皆目見当が付かなかった。
──そんな時である。
「皆さん、何をしているのでしょうか?」
「──っ!?その声は!?」
古書館に、声が響き渡る。
先程まで慌ただしくなっていた古書館が、しん……と嘘のように静まる。
この場に居るとは誰もが考えていない、正にイレギュラーとも言える人物の声が聞こえたのである。
「ナギサ、さん……!?」
「……」
服はボロボロで、身体のあちこちに傷が出来ておりなんとも痛々しい装いになっている
「……状況は概ね把握しております。故に──今すぐ、トリニティの生徒を可能な限り集めてください。もちろん、死ぬ気で」
続きは未定ですが早めに出せそうです。