我はぐれ者、神社に住まう   作:神輿と櫓

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きっかけがあれば、なんでも見返すタイプ


第38話

いったい何があるのか。藍に言われてスキマの中に入る。旦那様はいるのか。彼は。…失望、落胆。周りを見ての反応で言えばそれ。藍に対してこのような感情を抱くのはかなり久しぶり。目の前にいるのは霊夢。しかし霊夢もわかっているでしょう。私を殺せば彼も死ぬ。2度と会うことはない。その為に彼女の前で話させたのだから。

 

「紫か」

 

「まぁ、来てくれたの?藍に言われて?それとも、藍に言って?」

 

「後者」

 

喜び。私は彼がどうしようもなく欲しい。種族としての寿命の差を取り払うための依代。共に死ぬための、全ては貴方のための。これからどう言われようとも、貴方にどのような目で見られても。貴方と確かに繋がり、貴方とともに死ぬことを夢見て。妖怪を食べる貴方は豪快だった。先代を見、そしてその死体を見た貴方は繊細だった。霊夢を見ている貴方は、正に保護者として相応しいほどに朗らかで、おおらかで、守護者だった。

 

「じゃあ、生きていく傍に私を置きたくなったの?」

 

霊夢が見なくてもわかるほどの殺意を出している。彼は教育者としては下の上、と言えるのが精一杯なほどだ。出来れば、彼女と彼の繋がりも消したかったが、それでは、彼が何をするかわからない。

 

「…勝負だ。俺とお前の。」

 

「勝てば何がもらえるの?」

 

「相手を好きにできる権利」

 

「あら、私にも貴方にも必要のない権利。そんなもの、貴方に必要?私に必要?」

 

「俺には必要だ」

 

彼からの純粋な要求。そんなものを景品にせずとも、私は貴方に尽くすし、貴方が求めるならなんだってする。でも、確かに。私と貴方が本気でぶつかるなんてなかった。楽しみ。

 

「じゃあ、始めるか」

 

「質問、良い?」

 

「なんだ?」

 

「…あの二人は、無しよね?」

 

「無─」

 

彼が視線を二人に逸らした瞬間をスキマ越しに逃さず殴る。出した手を引き、スキマで姿を消す。彼を見るために何度もやった。その結果、彼は私の存在を見つけられるようになった。嬉しかった、その瞬間、私と言う存在が彼に刻み込まれたのだから。

 

「そこ!」

 

「残念」

 

「チッ」

 

彼が誰かと出会う度に、私と言う刻み込まれた線が、段々と新しい線に上書きされて行く。つい最近では、とうとう気づかれなくなった。

 

「貴方らしくないわ」

 

「それも、俺らしさだ」

 

首を掴まれ、握り潰される。直ぐにスキマを開き、彼の視界を私から離す。そこから鳥を突っ込ませて、手を放させる。首を直し、彼のお腹を蹴り飛ばす。

 

「おっと」

 

「能力の多用は、禁止じゃないでしょ?」

 

「だからってこれはないだろ」

 

廃棄された道路標識の雨。それさえも彼は片手をかざすだけ。実際それで彼に傷はない。おそらく彼は頭にぶつかることだけを警戒している。そこへ更に、廃棄された電車。単純な質量攻撃だが、単純な彼にはこれが有効打のはず。

 

「俺が力だけで生きてるの、忘れたな?」

 

「速度がないからね」

 

彼の後ろから、走っている電車をぶつける。人は入っておらず、車庫に入る予定の電車。

 

「おっとぉ…!」

 

それさえも彼は両手で抑える程度で止める。その後ろ姿に見惚れず、落ちてる標識で背中を叩く。叩く。叩く。何回も叩いた後に、頭目掛けて標識を降る。

 

「それはダメだ」

 

「っ…!」

 

標識を掴まれる。スキマに逃げようとする私を掴み、彼は私を標識の山へと投げ飛ばした。痛い。彼に傷をつけられるのは、いつぶりだろうか。傷口から悦びが入って、脳に刺激を伝え、思わず身体が震える。やはり彼が、好きなのだ。

 

「そう、そのまま、私を」

 

「いつまで震えてんだ!」

 

蹴り飛ばされる。スキマに壁はなく、そのおかげでどこまででも飛んで行ける。転がり、ある程度進んで、止まる。正直言って舐めていた。ここまで一撃が桁外れとは思わなかった。

 

「でも、それが貴方だもの、ね」

 

「上だ」

 

一撃が決まれば、ほとんど彼の独壇場。彼の一撃を軽く流せる程の妖怪も神も人も存在しないから。

 

「っ!」

 

「流石、紫」

 

気合いで避ければ彼から褒められる。

 

「だが」

 

距離を詰められる。

 

「そっちは方向が悪い」

 

眼前に、足が迫る。そのまま、私は意識を失う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目が覚めれば、何もなかった。あったのは、二人。私の周りを囲む、藍と霊夢。起き上がろうにも起き上がれず、何も出来ない。そんなに重症だったのか。やはり彼は強い。やはり、彼の隣で私は朽ちたい。彼と共に、貴方と…

 

「今から」

 

彼の声

 

「お前を俺の式にする」

 

「…」

 

嬉しい。喜ばしいこと。私を強制的に側においてくれる。嬉しいことで、涙が出てきてしまうほどに。やった。私が、私だけが貴方の式に。こうなれば藍との式なんて関係はない。

 

「その為に聞きたいことがある」

 

「…何かしら」

 

喜びがバレないように、慎重に答える

 

「なんで、霊夢の記憶だけ変わっていない?」

 

「ふふっ」

 

聞いた途端、馬鹿らしい質問で笑ってしまった。彼の表情から見てかなり深刻な話なのだが、やはり笑ってしまう。やはり彼は、霊夢が第一なのだろうか。私とて、恋する乙女の気持ちなのだ。その為に動くのは当然。

 

「…百年の恋が冷める時なんて、意外な一面を見た時でしょう?霊夢が一番見たことのない、霊夢からすれば無縁な顔を貴方にさせれば、霊夢は貴方を遠ざけると思ったから」

 

なんの返事もない、呆れたような目で見られる、何も言わずに、藍からもらった私を式にする為の物を私に向ける。貴方に必要とされ、貴方に仕える。私と貴方が対等なんて思ってない。寧ろ、対等に立つことを夢見ることすら、私には無理だ。それほどに恋焦がれて、貴方を欲して。

 

「お前が式になった時、藍はどうなる?」

 

「そのまま、私と藍の主従は変わらないわ」

 

「そうか。それじゃ、お前を式にする。お前から俺への好意は消え、俺と主従関係が結ばれているだけの状態にする」

 

「え」

 

わたしから、貴方に対する好意が消える?

 

「更に、自ら命は捨てれなくなる。じゃ、やるぞ」

 

「待って、私、私は、貴方の側にいるだけで良いの!だから、お願い、私から、気持ちを─」

 

私の頭から、何かが抜け落ちていく。その様を藍は。憑き物が落ちたような顔をして、霊夢は何やら安心したような顔をしている。私から抜け落ちていく何かは、何が起きても蘇ることはない。でも、それでも、失ってはいけないもの。

 

「すまん、なんて言わねえからな」




慧音先生は人里で呼ばれた時に一回殴られているので許されてます。
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