我はぐれ者、神社に住まう 作:神輿と櫓
「いやぁ、すまん」
「医者に見てもらいなさいよ。治ったら私のところに来て。そうすれば取ってあげるから」
「ありがとな」
風見幽香に礼を言ってから神社に戻る。全く、厄介な相手だった。そう呟きながら帰ると、なんか縛り上げられた鬼が部屋の中でぼんやりとしていた。何が起こっているのか、霊夢に説明を求めようとすると、霊夢が台所から出てきた。針を持って。妖怪退治の道具だったかなと思い成り行きを見ると、鬼の顔面に一本一本丁寧に刺して行った。うわ、えぐ。
「止めないの?」
「止めるわけねえだろ。あんなキレてる霊夢なんか初めて見た」
「…え、貴方のせいでキレてるのよ?」
「んなわけねぇだろ。霊夢、紫が入れないように結界貼ってないのか?」
「そんな結界をホイホイ作れるわけないでしょ。維持もめんどくさいし」
「ほら」
「ふーん。ま、良いけどさ。そんで?紫の用事は?」
「…いや、その…」
「じゃあ俺から用事あるから良いか?」
「えっ」
「俺の目の前から鬼逃しやがって。許さん」
「さ、さよなら!」
…後で藍にお願いして叱ってもらうか。それは良しとして、慧音先生からの手紙に対する返しを考えてなかった。とは言え、今日の出来事を丸っとそのまま伝えさせれば良いか。霊夢に。それ以外で言えば…何もねえな。やることなし。よっしゃ寝よ。
「寝るの?」
「今日は動いたからな。風見幽香からも安静にしろとか言われたし。腕くっつけるためにな」
「ああ、そう。晩御飯は?」
「その時になったら起こしてくれ。じゃーのー!」
「…それで、なんで腕を切り取ったの?」
「いや、あれは仕方ないから。やんなかったら私死んでたし」
「そ。」
瞼を針で縫い付けていく。瞬きの出来ないように。退魔の力が込められた糸で縫っていく。外れることはないし、同じ糸で編んだ縄が無理やり千切られていないことからもそれは明らか。これで準備は出来たし、一通りの道具は揃ってるし。
「よし…じゃ、今から謝罪するまで手を止めないから」
「え?」
「まずは目ね」
丁寧に目の外側から針を刺して行く。形だけ、言葉だけの謝罪はいらない。仮にも鬼で、紫から聞いた限りだとその中での頂点。なら、どれだけ刺しても死にはしないだろう。失明はするかもしれないけど。お父さんの腕を切り取ったように、私が知ったことではない。
「…中々しぶといわね」
「ぁ…っ…!」
「じゃ、次」
退魔の力は妖怪にとっては激痛らしい。これも紫伝なので詳しくは知らないけど。足の爪を全部剥がして、私の力を込めたお札を爪のない肉に直接当て、爪を戻す。これを、十回。呻き声を上げるだけでまだ謝罪の声は聞こえない。最後までやり切るのかもしれない。そうなったら晩御飯は遅くなってしまう…それだけは避けたい。
「どう?」
「わ、悪かった…謝るし、紫に話をつけて治せるように手配してもらう。」
「腕はもう治ってるわよ。見てなかったの?」
まだまだ足。足の所々に切り目を入れて、そこに爪に挟んだものと同じお札を詰めて行く。なかなか煩い。起きちゃったらどうするのか。
「ぁ」
「?…あー、気絶してるじゃない」
これは、起きるまで晩御飯の用意かな。
「起きて」
「ん」
もう晩御飯か。そんなに寝た記憶はないのに。まあ寝てる時の記憶はないのは当たり前だが。さっさと起きて、食事をしている部屋に行く。道中、鬼がいた部屋を見たのだが、中々。部屋全体がどんよりと薄暗く、壁一面をお札が覆っているので鬼は外に出れないらしい。怖。
「さ、食べましょ」
「はいよー」
ウチのご飯事情としては。最初は俺が食いやすくて腹が膨れる美味い飯を作っていたつもりなのだが、霊夢から『栄養が足りない!』と言われた日から紫に頼んで料理本を譲ってもらい、それを交互に作っている生活が続いている。あれは地味に傷ついた。その上まずいと言われる。本当に傷つく。
「ね、お父さん」
「なんだ?」
「お父さんはさ、どうやって鍛えてたの?」
「あー、それか。よく聞かれるなぁ…でも、一切鍛えとらん。妖怪殴って、人殴ってしてたらこんなふうになった」
「嘘でしょ」
「本当なんだな、これが。慧音先生とかなら分かるだろ」
「あー…そうだ、明日買い出しだから、返し考えた?」
「『腕取れたけどなんとかくっついたし元気にやってる』って言っとけ」
「写真は?」
「八雲紫か天狗くらいのものだろ」
晩御飯を食べ、明日は久しぶりに俺流の晩御飯出してみるかなんて考えていると。夜中にも関わらず何やら足音が。霊夢はこんなに落ち着きのない足音じゃないし、鬼でもない…いや、華扇か。華扇が何をしに来たんだ?
「お、鬼が一匹捕まったと聞いて!」
「…その鬼に片腕とられたんだがな、さっき」
「へぇ。それで、鬼は?」
「今は霊夢が折檻中。つーか、ほぼ幽閉されてる」
「…巫女としての仕事は果たしているから大丈夫、でしょうか」
「少なくともお前が決めることじゃないな」
「なっ!?一応貴方が世話になった先代は私も育ててたんですよ!?」
無視。少なくともこいつみたいな性格はしてなかったはずだ。そう言って布団を敷きに行く。その間も華扇は閻魔様かと思うほどの早口で俺を責め立てる。霊夢を呼んでどっちに眠るかを聞く。俺がボロい方で、霊夢は紫が最近持ってきた布団で眠る。その間も華扇はあーだこーだと言ってきていた。風呂に入るから黙っていてくれ、と言うと何か言いたげな顔をして帰って行った。
「ご飯用意してる間に入ってきたから」
「そうか。じゃ、さっさと入って来る」
慧音「それから?あー、度々見に行ってたよ。でも、最後に見に行ったのは…先代の巫女が死んだ時だな。雄大と霊夢の二人で生きていけるのか心配でな。そしたら…雄大が台所に立ってたんだ。あいつの家庭環境は知らないが、少なくとも雄大が台所に立つような環境じゃなかったはずなんだ。なのに、ちゃんとしたご飯を作って、霊夢に食べさせてたんだ。それを見てた雄大も笑顔で食べてるんだ。私は…それから行くのが怖くて見に行けてない。今見たら、多分…目の前で泣き出すんじゃないかな」