Q.一般探索者が黄色い触手を見た場合の反応を述べよ   作:お前の母ちゃんシュブ=ニグラス~!

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長めです。作者の趣味度もかなり高めです、ご注意下さい。
生存報告用のtwitterアカウントを作りました。


球技大会の時間

 ──────ぽつりと。落下した汗が、荒んだ色の大地に消える。

 

 扇の形に作られた闘技場と、それを囲む人の波。

 揺らめく陽炎。固唾を飲んだ観衆、緊張の視線は、声の無いエール。

 射る構えをとる守り手と、それを打ち払わんとする攻め手。

 零コンマ数秒の沈黙────それを打ち破ったのは、金属質な快音だった。

 飛行機雲のように伸びていく白球と、割れんばかりの歓声が響く。

 …………それを、無機質な瞳で眺めた、十余名の視線。

 

 椚ヶ丘学園クラス対抗球技大会、本戦。

 トーナメント形式で行われた性能比較は、A組の勝利で幕を下ろした。

 当然と言えば当然の結末。見るべきものは無かったと、視線を逸らす。

 野球であれ、なんであれ。あの浅野学秀を擁する集団に、敗北は有り得ない。

 …………その点で言って、彼が前面に出なかった事は、少しだけ珍しかったが。

 だが、それだけ。既に興味を失ったと、その場を後にする。

 

 あれから、実に一週間もの日数が経過していた。

 

 弛まぬ修練の日々の終わり、球技大会は遂に当日へと辿り着いた。

 本戦であるトーナメント大会が終了した、昼過ぎである現在。

 青い空と、白い雲、貫かれた月の下。

 爽やかな決着を終えたばかりのそこは、荒廃した処刑場へと姿を変えた。

 …………エンドのE組を迎える球場を埋め尽くす、下卑た視線の雨が降る。

 

 ──────これより、エキシビジョンマッチを開催します。

 

 割れた音質で響いた声は、真実歪んでいた。

 滲む感情は、この先の未来で起きる惨劇への期待に他ならない。

 ジリジリと空を灼く太陽光は、それこそ待ち焦がれるようでさえあり。

 およそ十秒の後。…………砂塵で象られた地平に整列する、二列の人影が生まれていた。

 際立って体格の良い少年が、自尊心に任せて口を開く。

 

「学力と体力を兼ね備えたエリートだけが、選ばれた者として人の上に立てる」

 

 言い聞かせるような声は、かつての仲間にか、注目を止めない観客達へか。

 "エンドのE組"は、そのどちらも持ち得なかった選ばれざる者だと嘲り。

 純朴な野球少年とは道を違えるように、背を向けて歩き去っていった。

 見送った杉野に、返す言葉は無かった。けれど、それは何も劣等感から来る物ではなく。

 

 ────不言実行を胸に。殺る気に満ち満ちた瞳が、決意を告げている。

 

 疎らに散っていく荒野の残影。直に始まるのは、闘争か、蹂躙か。

 どうあれ。白色の戦闘服へと袖を通した彼らに、驕りこそあれ、油断は無く。

 こちらにまで届いた野太い掛け声は、高い士気を感じさせた。

 ダグアウトまでの戻りしな、杉野へと問い掛けてみる事が一つ。

 

「…………なぁ。なんで連中、あんなに気合入ってるんだ?」

「あー、野球部的にも全校生徒に良い所見せるチャンスだしな」

 

 まして、相手はE組。三回の内に十点差を着ける、コールド勝利が大前提。

 最低でも圧勝が義務であり、精神にかかる圧力は並の試合以上。

 そもそも、強者による弱者の一方的な殺戮。即ち力の誇示は、この学校の臨むところ。

 ────必然として、彼らは慢心こそすれど。情け容赦の類を一切捨て、闘争に走る。

 

「それに。夏前の調整も兼ねてるんだ、この試合」

「…………あぁ、そういう」

 

 考えてもみなかったが、なるほど。先週観戦した陸上大会と似たような主旨だろう。

 曲がりなりにも試合形式。E組に対する勝利は絶対であり、その重圧は練習の何倍か。

 劣等生の晒し上げと、野球部員達の仕上げ。万全に行われる学校運営。

 これらを同時に実行して見せる辺りに、あの理事長らしさが滲み出ている。

 極まった合理性の発露、思い描いた理事長の表情に、深い溜息が出る。

 

 オレの行動を、杉野はどう受け取ったのか。

 気が付けば、今度はこちらが心配される側に立っていた。

 

「それよりも秋野。お前、身体の方は大丈夫なのかよ?」

「ん? まぁ、問題無いだろ。作戦が上手く行けば、打席数は二度で済むワケだし」

 

 それは、強がりを含まない現実的な判断に基づいた言葉だった。

 数ある球技の中にあっても、野球は比較的機械的な運動に近い、"静"のスポーツだ。

 打者に限っては、決められた打順、決められた場所、決められた動きに全霊を尽くす。

 それ故に、例え延長戦までもつれ込んだとしても。打席数は高が知れている。

 明日は知らないが、今日身体を動かす分には無茶も通せる範疇だ。

 

「むしろ、大変なのはお前の方だろ…………っと。準備するわ」

 

 いつの間にか、伸ばした足はダグアウトまで辿り着いていた。

 杉野と別れ、打者としての準備に取り掛かる。

 取り付けたバッターグローブ。鈍くなった指先に伝わった、硬質な感触。

 死球から身を守るための鉄帽と、確かな重みを孕んだ金属バットを手に取った。

 …………緊張なんて柄じゃないし、事実そんなモノは抱いていない。

 

「──────、」

 

 祈るように胸へと抱いた事柄は、僅かな感傷。

 …………けれど、思い返せば。自分に祈るような神様はいなかったか、と。

 空笑いをして振り返る。気流に煽られ、刻々と姿を変え続ける入道雲が目に入った。

 それを呆然と見つめた、意味の無い数秒間。遠く、聞こえて来たモノは──────

 

『殺す気で勝て』

 

 聞き慣れないサイレンの音──────それは、球技大会の開始を告げる合図。

 

 ◇◇◇

 

 E組対野球部、エキシビションマッチを騙る蹂躙劇。その、一回表。

 これもハンデの一環か、或いは、"見せかけの平等"の一端か。

 どうあれ、先んじて攻撃の機会を得たのはE組の方だった。

 嘲る視線の中。生贄の如く差し出された首、先方打者の名前は────

 

『一番/三塁手(サード)…………秋野』

 

 約一・七平方メートルの空間、白線によって象られたバッターボックス。

 大気を震わせるような嘲りの視線が、方々から注がれる。

 隠す努力さえ失われた、直接的な負の感情が僅かに血流を押し留める。

 息を吐く事さえせず、握り込んだ金属塊の質量を確かめれば、既に構えは出来上がっている。

 肩幅に開いた足、螺子を思わせるような、半ばまで回された身体の軸。

 

 ──────正面を向く目線。オレは、相対する個人の姿を認めた。

 

 瞑目し、深い呼吸を繰り返す、中学生離れした体躯の少年。

 椚ヶ丘学園中等部、三年B組…………進藤一考。

 対峙してみて分かったが、なるほど。これは確かに"スーパースター"だろう。

 一見して肥満的な身体の輪郭。けれどそれは違う、アレは恐らく、内筋が酷く発達している。

 所謂インナーマッスルの肥大化。それは、野球選手に多く見られる体格に他ならない。

 圧倒的と呼ぶに相応しい肉体の威容。内に秘めた体幹系の完成度は、異常でさえある。

 目蓋を持ち上げ、こちらを射抜く視線。その口元は、浅く歪んでいる。

 

 狩る側と、狩られる側。その境界は、明白に。

 

「────プレイボール!」

 

 背後の球審が、試合開始を高らかに宣言した。

 間髪入れずに投球の構えを取り始める進藤。その動作に、一切の淀みは見受けられない。

 軽く引き上げられる右脚、腰から指先にかけての躍動は十全に魂を燃やす。

 距離にして僅か、十八・四四メートルを駆け抜ける投球。

 体重を乗せた右脚が落ちると同時────直線を辿った白球、零・四七秒間の飛翔。

 

「ストライク!」

 

 乾き切ったミット音と、球審の宣言。完膚なき、直線的な剛速球。

 撃ち放った表情に疲労の色は無く、それは、肉体が"完成"している事を意味した。

 凄まじいのは、肩と上腕。投球に必要な関節を支えるように、筋線維が発達している。

 本来、中学生離れした剛球は、選手生命を著しく損なう危険性を孕む物だ。

 …………だが。その点で言って、彼はソレを克服している。

 驚くべきことに。弱冠十四歳にして、投手としての在り方が、完成の域に達していた。

 

「────ストライク!!」

 

 今一度響く快音。浅黄のランプに、二つ目の明かりが灯る。

 真っ当な方法での攻略は不可能だろう、という実感が走った。

 観衆の期待が煽られる。熱を上げるべく、実況席にも火が点き始めていた。

 

『おーっと! E組秋野、棒立ちだァ! バットも振れない程委縮したかァー!?』

「…………うっせ」

 

 ………………荒木め。私怨入ってるだろ、この実況。

 だが生憎と、オレは投球を見送っていた訳じゃなく、見極めていただけだ。

 目線の先を切り替える。投手ではなく、正面から逸れて、より奥に。

 転がった白球の内。一つの色が、意図を以って変化するのを見た。

 

 ────"ライト線(赤色)" "五メートル(紫色)" "ドラッグ(桃色)" 。

 

「雑魚が…………!」

 

 吠えた狩人と、その言葉に違わない超速の弾丸が走る。

 再度、直線の軌跡をなぞる白球。凡そ捉える事の叶わない速度。

 中学生が出しているとは思い難い剛速球。…………けれど、所詮は人間業だ。

 少なくとも、野球の概念を破壊する程の威力は、持ち合わせていないらしい。

 

 カコン、と。あまりにも軽い音がした。

 

『ドラッグバント…………!?』

 

 掠るとさえ想像していなかったのだろう、守備の行動は、思考に一手遅れていた。

 浮かび上がる困惑と逡巡、誰が捕球するのかと迷った一秒間の空白。

 瞬きに消える僅かな時間…………されど、一瞬にして。跳ねる心臓と共に一塁へと走駆する。

 致命的な意識の緩み。生じた時間は、九十フィートの距離を走り抜けるまでに、充分過ぎる時間だった。

 

『せ、セーフ…………E組、ノーアウト一塁、です』

 

 拡声器の向こう側を覗くことは出来ない。思い浮かぶのは、記憶の中の面影のみ。

 けれど、苦虫を嚙み潰したような声色は、その表情を想像させるのに容易かった。

 オレが控えの生徒に鉄帽を渡せば、無意味に一塁へと送られた球が、投手の元へと帰還する。

 次なる打者は、投手とは打って変わっての小柄な少年だった。

 

『二番/正捕手(キャッチャー)、潮田君』

 

 或いは女子とも見紛うような、華奢な体躯。

 オレと同様。時速百四十キロの投球に、真っ当な形では対処できない。

 けれど、その瞳に諦念の色は無く。向かう先は、遠く転がった白球モドキに。

 "レフト線(黄色)" "八メートル(緑色)" "プッシュ(白色)"。

 その合図は、誰にも知られる事無く。またも進藤は、球を射る。

 

 ──────コン、と。今度は一層軽い音が響いた。

 

『あーっと、プッシュバントだ! 前に出た三塁手が脇を抜かれた!』

 

 内野守備の捕球は失敗し、投手がその穴埋めを行おうとする…………が、遅い。

 打者は既に一塁へと辿り着き。当然に、オレも二塁へと進軍を済ませている。

 ノーアウト、出塁走者(ランナー)一塁/二塁。一回表から、想定外の展開だろう。

 投手の背中や、隣に立つ二塁手(セカンド)、果ては球場全体が、妙な緊張感を漂わせ始めた。

 

 必然と言えば、必然であるが。あの神格とした修練は、決して野球ではない。

 常識的な話、野球選手は時速三百キロの球を投げないし、単独で守備を完結させない。

 ならばアレは、野球のカタチをしただけの、より"高次のナニカ"に他ならない。

 それ故に、暗殺教室であるオレ達(E組)の行為は、彼の者を殺すための手段でしかなく。

 これは────野球のルールに則っただけの"暗殺"なのだ。

 

『さ、三番磯貝も、セーフ。の、ノーアウト満塁…………!?』

 

 響き渡る実況。進行した三塁から、進藤の横顔を盗み見る。

 焦燥と当惑…………流石、野球と向き合ってきた年月の差だろうか。

 コレが野球でない事。事態の異常性に、誰よりも早く気づきかけているらしい。

 例年より幾何か早く訪れた炎天下。浅くなる呼吸は、何もそのせいだけではあるまい。

 

『四番/先発投手(ピッチャー)、杉野君』

「──────杉、野」

 

 畏れと憤怒が綯交ぜになった声。動揺と激情が、彼の肩を震わせる。

 試合再開。最早隠す気はないと、E組のエースはバントの構えを取った。

 ソレは挑発だ。バントとはつまり、奇襲に他ならない。

 既に三度、同じ手を通し続けている。守備陣も十分に警戒を強めている。

 ────それでも尚、このやり方を張り続けると言うのなら。

 

 "右中間(水色)" "最大飛離(蛍光)" "強振(黒色)"。

 

「………………、っ!」

 

 焦りに任せた投球。既に、オレと対峙した際の余裕は見る影もなく。

 内角高め、時速百二十キロのストレート。バントを見越したソレは、しかし悪手だ。

 溜息すら出ないような失投が走る。瞬きの間に、スラッガーは形を変えた。

 指先は滑るように、グリップへと。バスターバント。オレ達の狙いは、端からこの一点のみ。

 

 瞬間。静まり返った場内に似つかわしい、爽快な音が鳴った。

 

 守備が半ばバントシフトへと変更された瞬間の、深々とした長打。

 当然に捕球出来る事は無く、オレは悠々とホームに帰還する。

 二塁走者、三塁走者も続き。内野に送球される頃には、打者は三塁へ。

 致命的なスリーベースヒット。電光掲示板に浮かぶ数字が、その証明だった。

 

「ふぃー…………ただいま、取り敢えず戻ってこれたな」

 

 ダグアウトへと足を踏み入れる。白日の下から一転、暗順応していく瞳。

 既にそれなりの疲労を湛えた身体を、色褪せたベンチに預ける。

 深く息を吐き出すと共に、クラスメイト達とハイタッチなどをした。いぇい。

 涼しい風が頬を攫って行く。日照りに熱を帯びた身体が、正常を取り戻し始める。

 眺めた先に居たのは、狼狽した様子のエースピッチャー。

 

「一先ず作戦は成功、かな」

 

 最低限行うべき一連の流れが完了した事に、僅かながら安堵する。 

 …………フェンスを直撃した、不意打ち気味の魔の一撃。

 アレによって、今後野球部の守備は、常に一定の長打警戒を強いられる。

 野球部からすれば、"杉野以外は打てる筈が無い"なんて甘えた思考は捨て去るべきで。

 例えそれが真実であろうと、必然。バントへの警戒は薄くなり、得点は加速する。

 一回表。野球試合の前提を崩し、体制が整う前に十点を奪い決着をつける。

 

 それが、殺監督の考えた暗殺野球の作戦概要だった。

 

「…………しっかし、このまま上手く行くかねぇ?」

 

 すぐ傍で、菅谷からの懸念の声が飛ぶ。…………実際、この作戦にも穴はある。

 この作戦は、肉体ではなく精神を崩す"暗殺"である事が前提条件となっている。

 必然に、心が平静を取り戻してしまえば、ソレは闘争に変わり、蹂躙に成る。

 これは常に、相手の心の隙を突かなければならない綱渡りでもある。

 

 …………尤も、殺監督が打球の指示を出す以上、選手の方は問題無い筈だ。

 化け物である事の本能か、アレは人の弱みを抉るのが抜群に上手い。

 問題となるのは、試合に接触可能な第三者────つまり敵方の監督だ。

 が、こちらも大した障害には成り得ないと思われる。

 なにせ、手塩に掛けた教え子がE組などに負ける様は、控えめに言って悪夢だろう。

 とてもじゃないが、タイムなんて冷静な最善手を打てる状態じゃない。

 仮にその手に思い至るとしても、事態の趨勢が決してからの筈だ。

 

『おっと? 野球部、ここでタイムを取るようです…………えーっと、何々』

 

 そう。だから、警戒するべき第三者とは、つまり。

 

「────手が早いな、あの人も」

 

 敵方のベンチにて。蒼白の表情を浮かべ、担架で運ばれていく野球部顧問。

 深紅よりも深い朱色が、球場に足を踏み入れる。男の姿は、あまりに鮮烈過ぎた。

 脳裏を巡ったのは、このエキシビションマッチの意義について。

 秀でるべき精鋭が勝利し、下を向くべき者が敗北する為の舞台。

 ならば、その逆転現象は決して許されない────少なくとも、彼の教育では。

 

「さて。教育を始めようか」

 

 椚ヶ丘学園理事長、浅野學峯。

 それが、この場所に介入できる権力(ちから)を持った、冷静な第三者の名前だった。

 現在は未だ一回の表。想定していたよりも素早い介入に、小さく歯噛みをする。

 彼がタイムを取ると同時、可笑しな放送が球場全体へと散布された。

 

『い、今入った情報によりますと────』

 

 野球部顧問の寺井清は、試合前から重病、部員達はそれを心配。

 力を十全に出せない彼らを見兼ね、理事長が監督代理に入った、という筋書き。

 勿論、全ては真っ赤な嘘だ。或いは、寺井だけなら半ば本当なのだろうが。

 どちらにせよ、観客にはそれを確かめる術がない故。…………虚構は真実に変わる。

 会場を覆っていた異常な空気感が消えた。澄んだ思考が導く答えなら、決まっている。

 

『試合再開…………こ、これはなんだ!? 全員内野守備ッ!』

 

 あの理事長は、生徒の事をよく見ている教育の名手だ。

 誰に何が出来て、誰に何が出来ないのか。それを、或いは当人ら以上に把握している。

 野球部が知る由もないE組の内情を用いた、ブラフと揺さぶりが作戦の肝なら。

 …………あの理事長が出てきた時点で、全ては破綻する。

 現時刻を以って、オレ達は唯一の攻撃手段を叩き折られていた。

 

「殺監督の指示は犠牲フライ。…………真っ当だが、これは」

 

 最早、この試合におけるE組の勝ち筋は、一回表で稼いだ点数で逃げ切る事。

 これ以上の出塁が見込めない以上、得点優位の維持が肝要となる。

 ならば、杉野が三塁にいる現在。何に代えても、彼にはホームへ帰還して貰いたい。

 だが、打者の集中を乱す守備位置と、復調した進藤の投球を捉えられる者は無く。

 

「…………スリーアウト! チェンジ!!」

 

 乾いたミット音。犠牲フライさえ許されない、三者凡退。

 不意打ちの小細工を見破られ。一回表は、僅か三点獲得で幕を閉じた。

 完全試合(コールド)も視野に入れていた身としては、軽く眩暈さえする惨状。

 延長戦は突入した時点で敗北と同義であるため、猶予得点は事実上二点のみ。

 精鋭集団である野球部を相手にすることを考えれば、冗談にせよ笑えない。

 

『さぁ、一回裏。野球部の攻撃です!』

 

 攻守交替、ピッチャーマウンドに上がる杉野を、ベンチから眺める。

 実際、こと最初の防御に限って言えば、杉野による完封は可能だろう。

 杉野友人と言う少年もまた、進藤にも負けず劣らずの超中学級投手だ。

 あれだけの変化量を有する選手は、プロリーグにもそうは居るまい。

 

 …………だが、当然に。打たれない投手など、存在しない。

 白球がストライクゾーンを通過する以上、理論上はあらゆる球を打つことが出来る。

 まして相手は、夏を控えた選抜選手。二回裏からは打たれることも増えるだろう。

 

 ──────なんであれ、第一の作戦は失敗に終わった。

 

 ◇◇◇

 

 青空のような体操着が、汗ばんだ肌に吸い付く白昼の事。

 カコン、と。プルタブが開かれる、涼やかな音が鼓膜を叩いた。

 学園の敷地内を埋め尽くす熱を帯びた歓声の中で、弾けた炭酸。

 目を醒ますような錯覚。胃に流れ落ちる冷気を感じながら、彼女は喉を鳴らす。

 …………瑠璃色の瞳。速水凛香は、飛行機雲のように伸びた白球を目にした。

 

「──────」 

 

 かつての戦場に背を向ける。体育館の熱狂は、一応の終息を見せていた。

 椚ヶ丘学園、クラス対抗球技大会。女子の部の競技は、バスケットボールだった。

 それは、男子が行う野球とは打って変わっての、"動"のスポーツ。

 敏捷性と心肺機能、何より身長がモノを言う残酷な世界。

 三クォーター。休憩時間を除いた、計三十分間の闘争劇に思いを馳せる。

 

 彼女達が対峙したのは女子バスケットボール部の、所謂ところの一軍選手。

 文武両道を謳う学園の部活動。彼女らもまた、昨今稀に見る精鋭揃いであった。

 昨年の夏。野球部と同様に、全国大会へと指を掛けていた猛者達。

 青春時代の貴重な時間を修練に費やした少女達の力は、並大抵のものではない。

 

 事実として、彼女らのバスケ選手としての完成度は非常に高かった。

 パス連携の精度、対面時の視野の広さ、レイアップの成功率。

 細やかな指先の技術や、身体捌き。どれを取ったとして、一切の不足は無く。

 画一の行動を繰り返した果て。人間らしさを失った身体の躍動は、惚れ惚れする程に。

 客観的な評価として、なるほど。歴代最高のチームと叫ばれるのにも、納得出来た。

 

『それでは、E組対女子バスケ部のエキシビションマッチを行いま~す!』

 

 蹂躙に他ならない筈の試合は、しかし。誰も予想しない様相を呈した。

 

「…………ふふっ。あんな顔を見せてもらえるとは、ね」

 

 空になったアルミ缶。外気に当てられ、人肌に変わったそれをゴミ箱へ。 

 眼前には、体感温度を三割増しにする応援を挙げた、観衆達。

 飲み物を買いたいから、と級友に別れを告げて五分程が経過した現在。

 いい頃合いだろう、と。眩暈さえするような人混みの中へと、彼女は歩を進めだす。

 …………その中には、先程の試合で驚愕の表情を浮かべていた生徒もいた。

 

 これは、至極当然の帰結であるが。

 隔離校舎に籍を置くE組生徒が、本校舎の事情に対して疎くなっていくのと同様に。

 本校舎の生徒達もまた、文明から断絶された山門異界の内情を知り得なかったのだ。

 或いは、想像すらしなかったのだろう────彼女らが、普段成している事を。

 

 バスケ部員には知る由も無い話だが、椚ヶ丘学園三年E組は暗殺教室。

 超音速の怪物を殺す為の刃を研ぐ生活。前年に比べ、飛躍的に上昇した身体能力。

 思い返せば、彼女らの瞳は侮りの色に満ちていた。取るに足らない弱者である、と。

 対峙したのは、油断しきった熟達者と、一刺必殺を掲げた暗殺者。

 風穴を開けたスリーポイントシュート。舞い上がった悲鳴は、誰のモノだったか。

 

『し、試合終了! 勝者は────』

 

 …………これもまた、必然だが。彼女らの勝利は、万に一つも無かったのだ。

 如何に暗殺生活で力を磨いたとして、如何に強者が油断していたとしても。

 あの体育館で、あの競技に対して、消費してきた時間の桁が違う。

 四十九対四十一、僅か八点差の決着。されど、それは何よりも深い断絶。

 彼女らは負けるべくして負け、バスケ部は勝つべくして勝った。これは、それだけの話。

 

「まぁ、負けたとも思ってないけど」

 

 けれど彼女は、この結果を大して悲観していなかった。

 なにせ、強者には強者の"勝ち方"があり、弱者には弱者の"負け方"がある。

 二年以上を燃やし続けた優等生達と、一週間を焚べただけの劣等生。

 如何にハンデ制度があったとは言えど、その差は僅か八点のみ。

 意気消沈した体育館の様子。その点で言って、彼女たちは決して"負けて"などいなかった。

 

「っと、危ない…………人が多すぎるわね、ここ…………」

 

 視界の悪い中、正面に現れた人影との衝突を、半身を逸らして躱す。

 炎天の下。青空が覗く場所は、見た事も無いような人口密度の野球場。

 比喩表現を抜きに、学園の全生徒がこの場にいる事を彼女は直感する。

 凄まじい人口密度。クラスメイト達を探す視線は、これと言った成果を挙げられないでいた。

 着実に体力を奪っていく熱気の中で、彼女は尚も歩みを進める。

 

 …………不意に脳裏を過ったのは、とある黒髪の少年について。

 聞いた話では、彼もいつかに東京駅で人混みに呑まれたのだと言う。

 顔色を悪くしながら人の波に流される姿が容易に想像できて、つい笑ってしまいそうになる。

 辟易とした表情で事を語った彼。もう遠い昔のような、つい先月の修学旅行での話だ。

 あの時は笑い話にしていたモノだが、自分事になってみると、中々笑えない。

 

 喉を潤した冷気も、今はどこかへ。クラスメイト達の見当たらない白昼。

 

「今度は私が迷子になる番、なんて────きゃっ!?」

 

 彼女の身体が大きく体勢を崩す。少女を巻き込んだのは、一際大きい波のうねり。

 声も上げられないような息苦しさ。姿勢を整える暇も無く、人の流れに攫われる。

 右往左往する感触は、方位感覚を狂わせる。ヒト、ひと、人。どこを見ても生徒ばかり。

 嫌気がさして空を見上げれば、ぽっかりと浮かんだ白色の恒星だけがあった。

 いつかに少年が見た地下の景色とは、まるで違うモノ。遠い空は、けれど何処か窮屈で。

 彼女自身、何を思ったかさえ、知ることは無く────。

 

「…………っ。こ、ここは…………?」

 

 直感的に、彼女は呼吸が出来ると予感した方向へと身体を捻っていた。

 突如として眼前に現れたのは、緑青色の錆びたフェンスと、その向こうの見知った顔ぶれ。

 いつの間にか、彼女は球場のすぐ傍まで足を踏み入れていたらしい。

 恐らくはほんの偶然、人ひとり分の空白に、彼女は入り込んだのだろう。

 欠乏気味の酸素を取り込む深呼吸。視界が明瞭になっていくのを、肌で感じる。

 

 見れば、左舷前方。凡そ数十メートルの方向に、彼女の探し人達は居た。

 普段なら気兼ねなく歩いて行ける距離だが、今日ばかりはそうもいかない。

 この気温、この人口密度下での行軍距離は、遥かな宇宙の果てよりも長い。

 数瞬前と変わる事無く、彼女は戦場の外で孤立していた。

 …………だが、その代わりとばかりに、橙色の髪を持った少年が傍に居た。

 

 見覚えのある顔立ちだった。彼女の記憶が確かなら、現生徒会長、だったか。

 この学園におけるE組差別の筆頭のような人物だったが、彼女に気が付くことはなく。

 少年────浅野学秀から注がれる視線の先は、淡いフェンスの向こう側へ。

 彼の所作に、小さな違和感を覚えると同時。誘われるように、彼女も瑠璃色の瞳を向けた。

 

「………………」

 

 E組対野球部、エキシビジョンマッチ。現在得点数は三対零で、二回表。

 点数でこそE組はリードしているが、状況がそれ程芳しくないのは、すぐに分かった。

 凡そ尋常な試合では有り得ない前衛守備。既にE組の攻撃手段は割れていた。

 敵方のベンチを見やれば、壮年期にも見えるほど若々しい男性の姿。

 一度、入学案内に目を通した際に見かけたことがある────アレは理事長だ。

 なるほど。先日の中間考査の一件に続き、ここでもE組の動きを妨害したいらしい。

 

 ともすれば、その手腕は見事なモノと称するより他に無いだろう。

 E組唯一の攻撃手段であるバントが潰され、これ以上得点の目は無い。

 事実上、彼らには逃げ切る以上の勝ち目は無く、だが、その猶予も僅か二点のみ。

 半ば恐怖を覚えるような球威と、流れるような三者三振。切り替わる攻守状況。

 客観的に、彼らが残り二回分の攻撃を凌げる見込みは、薄いと言わざる負えない。

 …………けれど、不思議な事に。

 

 浅野学秀の瞳には、これ以上ない焦燥と惜別の感情が浮かんでいた。

 

「…………秋野の奴。一体何をしてるんだ」

「秋野?」

 

 それが、予想外と言えば予想外な言葉で、つい声を上げていた。

 驚愕を孕んだ紫紺の視線が、彼女を射抜く。杉野の投球が高く飛ぶ、一秒間の沈黙。

 その短い時間の内に、浅野学秀の頭脳は目の前の少女と、記憶の照合を終えた。

 理事長の掲げる学園機構を想えば、彼女がこの場に単独で居るのは好ましくない。

 何故E組の居る場所から孤立しているのか、何故彼の傍に立っていたのか。

 疑問は尽きないが、彼は一旦それを呑み込んだ。…………なにせ、それ以上に問いたいことが一つ。

 

「────なんだ。僕は何か可笑しなことでも言ったか?」

「それは…………そうじゃないかしら。だって、今の貴方の口振りは────」

 

 ────まるで、E組の勝利を願っているようにも取れたから。

 浅野からの言葉は無い。それは、実力主義を謳う学園にあって、異質な願望だった。

 強者は在るべくして勝利し、弱者は在るべくして踏み躙られる。

 それを是とするのがこの学園の基本理念であり、彼自身、その筆頭であるのに。

 今しがた少年の発した言葉は、その思想に真っ向から逆行している。

 

「言っておくが。僕は別に、君たちの勝利なんか微塵も望んじゃいない」

「…………それなら、どうして? あんな事を言うだけの理由は何?」

「別に────僕はただ。秋野が無様な結果を残すのが、許せないだけだ」

「? どうしてそこで彼の名前が出てくるのか、分からないんだけど…………」

 

 彼女の困惑は、更に深い所まで落ちていく。

 執着の先はE組にではなく、秋野空という少年についてだと、彼は言った。

 けれど彼女には、その理由というモノに対して一切の共感が及ばない。

 彼の元居たクラスの繋がり、程度の理由ではない事は簡単に想像がついた。

 僅かな会話だったが、この少年がそんな人間らしい物を尊ぶ存在には思えない。

 

「いや、だから。こと運動において、アイツほど"使える"人間はいないだろう」

「彼、体育は苦手だった筈だけど…………?」 

 

 考えれば、考えるほどに。或いは、理不尽とさえ思える言葉でもあった。

 なにしろ秋野空を名乗るあの少年は、自他共に認める虚弱体質の身の上。

 朝夕の登下校は言うに及ばず、普段の体育でさえ運動量は最低限に抑えている。

 それでも休息が足りないのか。最近は居眠り姿を見る事も増してきていた。

 残酷な話ではあるが。人間には、決定的に向き不向きが存在する。

 ────彼は間違いなく、ヒトとして、身体を動かす事に向いていない存在だ。

 

 そんな、彼女の思考を見透かしたのか。浅野は小さく嗤いを噛み殺した。

 

「ははっ、なるほどな。そう言う事か…………()()()()()()()()()()()()

 

 話の食い違いに合点がいったと言う風に。微かな優越感を滲ませて。

 

 気が付けば、淡いフェンスの向こう側で、またも攻守交代が起きている。

 三回表。点差を突き放す事は叶わず、最後の攻撃機会を喪失したE組。

 点差は僅か一点のみ、同点が敗北と同義である以上、最早彼らに猶予はない。

 決着は三回裏。異常を極めた球技大会は、遂に佳境へと足を踏み入れる。

 

「瞬間的な肉体の躍動において────アイツに敵う生物なんて存在しない」

 

 響く、ピッチャーの名は。

 

 ◇◇◇

 

『一番/抑え投手(ピッチャー)、秋野君』

 

 遠く聞こえたその名前に、浅野學峯は静かに瞠目した。

 

 日射の届かない球場右翼、ダグアウトの、色褪せたベンチの上。

 野球部による一方的な制圧作業が開始されてより暫く、現在三回の裏。

 E組は一点でも奪われれば敗北し、反対に、彼らは一点を得れば勝利する。

 最終回の極限下。どうやら絶望的な賭けに出たらしい、と彼らの判断を把握する。

 …………同時に、決断があと一歩遅かったと。嘲りを含んだ感情で哂う。

 

 ──────カコン、なんて。あまりに軽い音がした。

 

 セーフティバント。碌に練習をしなかったのだろう、守備はソレを捉えられない。

 本来、野球部が素人相手にバントなど、通常なら観客も納得しない。

 …………だが、既に。E組は野球部に大義名分を与えている。"手本を見せてやる"と。

 そして、この打法の最大の特徴は、如何な球種であったとして、必ず打てる所にある。

 どのような策を弄していようと、バントを全て抜き去れる選手は歴史上存在しない。

 

 勝負を決めたくば、二回裏にでもするべきだった。()()()()()()()()()()()()

 

『あっという間にノーアウト満塁! ここで迎えるバッターは────』

 

 この状況は、既にE組の敗北を物語っている。バント一つで、趨勢は決する。

 だが、それでは意味が無い。既にこの戦いは、"どのように勝利するか"の蹂躙に変貌している。

 …………浅野學峯の見出した、最も効果的と見出した結論は、即ち一つ。

 処刑劇の最後を飾るのは小技(バント)ではなく────主役たる勝者の一振り(スイング)

 

「それじゃあ、行ってきなさい、進藤君」

 

 中学生離れした体躯が、枯れた荒野に足跡(そくせき)を刻む。

 約一・七平方メートルの空間、白線によって象られたバッターボックス。

 対峙した黒髪の少年に、一回表の記憶が再生される。食い違うのは、互いの位置のみ。

 敗北を目前にしている筈の彼に恐怖の色は無い…………或いは、状況を理解していないのか。

 無感動な瞳で少年を射抜く。どうあれ、彼の目的はこんな素人などではない。

 

「何を企んだか知らないが、お前じゃ話にならん。杉野を出せ」

 

 ベンチから観察していたが、眼前の少年の投球に、見るべき部分は無い。

 遅い球。球威は無く、変化量も碌にない。内野の送球に似た、緩やかな放物線を描く白球。

 ストライクゾーンへの狙いは悪くないが、所詮はその程度の投球でしかない。

 実戦での運用に耐えられる強度はなく。バントの指示が無ければ、既に決着がついている。

 進藤が目指すのは、完膚なきまでの勝利。その為に必要な道具は彼でなく、杉野だった。

 …………だが。

 

「そう邪険にするなよ、スーパースター。前菜代わりに遊んでいけ」

 

 対話の意思は無く、彼は構えを取る。それと同時、進藤は即座に精神を切り替えた。

 変わる気が無いと言うのなら、それでも構わない。既に警告はした、と口角を上げる。

 言葉が通じないのなら、力づくで。杉野友人を引き出すために、眼前の木っ端を狩り取ろう。

 既に投球の精度は見切っている。理事長の教育により、集中力も類を見ない程飛躍した。

 浮かぶ選択は、必然…………第一球をピッチャー返しすればいい。

 幸いにして、これは軟式野球。余程当たり所が悪くなければ、死にはしない。

 

 

 思考の海から浮上した瞬間、彼は─────作り変えられる肉体の、変形していく悲鳴(おと)を聞いた。

 

 

 ◇◇◇

 

 …………瞑目し、耳を澄ませば、今尚歪んだ歓声が再生される。

 球場を確かに満たした声。込められた感情は、勝ち目を持たないE組への、負の期待。

 事実、秋野と相対した進藤一考の表情は、脳漿を焦がす悦びに裂けていた。

 夏の大会を前にした前哨戦。闘争の前に行われる、一方的な屠殺にも似た狩猟。

 気炎を上げた狩人と、委縮して然るべき野生動物。

 

 殺す者と、殺される者。二つの立場は、決定的だった筈なのに。

 

 ────キャッチャーミートを貫かんとする快音が響いた。

 電光掲示板に黄色い明かりが灯った後、球場はそれきり静寂で満たされた。

 固唾を飲む以上の行動が取れない。体の芯から痺れるような衝撃が走る。

 再生される記憶は、黒髪を携えた少年の、地を這うようなアンダースロー。

 音が世界から忘れ去られた球場で、忍び笑いを抱えたのは一人だけ。

 

「────ククッ。そうだ、それでいい、秋野…………!」

 

 灼けるような髪が揺れる。支配者然とした瞳に、愉悦の色が乗るのが見えた。

 反応する者はいない。観客は皆、全身が麻痺したように身動き一つとれない。

 時間の概念が失われた世界。一連の出来事を呑み込めるのは、きっと彼女だけ。

 淡いフェンスの向こう側、暑苦しいジャージ姿の少年を見やる。

 …………思いを馳せたのは、数瞬前の不可思議な事。

 

「──────今のは、何」

 

 知らず。誰に掛けるでもない言葉が、彼女の口元から零れた。

 脳裏に焼き付いた数秒前の光景が、視界の端で転がっている。

 声も上げることが出来ないような、脳の故障を疑ってしまう投球が描かれた瞬間の事。

 あの細い腕から放たれた白球は、それまでの無様など無に帰すが如く。

 外角を刺すような零・四三秒の空中旅行、浮き上がるような直線軌道。

 見間違いでなければ、あの球は──────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 けれど、それは有り得ないと、彼女の理性が否定する。

 

 野球において門外漢である彼女だが、進藤一考が紛れも無い天才である事は理解できた。

 常人が持たない素質と精神を兼ね備えた、傑物と呼ぶに相応しい才覚。

 その彼が、十全な修練の下で出せる球速の限界が、時速百四十キロなのだ。

 ────それは事実上、十五歳の人類における限界到達点に他ならない。

 或いはこの先の選手生命を犠牲にするのなら、それ以上の速度も出せるかもしれないが。

 少なくとも、先程の球速は、それで説明のつくような次元には収まっていない。

 

 …………なにせ、進藤一考と秋野空では、投法の前提条件が違う。

 関節と筋肉、発射角まで。それら総てを十全に伝えるオーバースローの彼とは違う。

 少年が使用したのは、アンダースロー投法。地這うような腕、大袈裟に行われる全身の運動。

 低い角度から射出される白球は、必然に。角度や腕の振りの威力が制限されてしまう。

 関節による加速の減衰(ロス)。それは、球速と言う観点で見ればあまりにも致命的な在り方。

 

 ──────それが、進藤一考以上の球速を刻んだとでも言うつもりか。

 

「…………ねぇ。貴方は、秋野がした事の理屈が分かるの?」

 

 才能、なんて生温い言葉では通らない道理が、そこにはあった。

 恐らく、この球場で彼の行動を十全に汲めているのは、隣に立った生徒会長のみ。

 逆説的に言えば、彼の行動は人間の理解が及ぶ範疇のモノである筈。

 種も仕掛けもある手品。恐らくは小細工の類、何らかの絡繰りが存在する。

 …………彼女の思考を見透かしたように、彼は視線で言葉の続きを促す。

 

 痺れの抜けない脳漿で、彼女は必死に理論を組み立てる。

 断片的な真実を繋ぎ合わせ、足りない欠片(ピース)を補完する…………察するに、こうだ。

 どうして今まで隠していたのかは知らないが、秋野は野球経験者だった。

 その上で、投手として一定の経験と実力があったのだろう。

 理事長すら把握していなかった、少年の技術。即ち、情報戦での優位。

 遅球の杉野と、先程までの気の抜けた投球。それらの落差が見せた、不意打ち気味の一撃。

 

「────つまり、騙し討ち。それがさっきの投球の正体…………違う?」

「へぇ、悪くない理論の組み立て方じゃないか。確かにそれでも筋は通る」

 

 浅野は視線を元に戻す。フェンスの向こうの光景は、白球の焼き付いた荒野。

 自我を取り戻したらしい正捕手の返球。受け取る仕草は、どうにも不慣れに見える。

 …………まるで、野球など微塵もやった事が無いとでも言いたげな動作。

 眩暈のするような違和感。一挙手一投足が矛盾を孕んでいるような錯覚が走る。

 数秒前に組み立てた自身の推測が、音を立てて崩れていくような気さえして。

 

 混乱の渦へと落下していく彼女を嘲るように、浅野学秀が口を開く。

 

「だが違う。そんな生温い理由じゃない──────ただ、アイツは」

 

 彼が真実を語るのと、続く第二球が放たれたのは、同時の事だった。

 

 ◇◇◇

 

 ──────今のは、なんだ。

 

 進藤一考という少年は、自身が天賦の才を持つ人間である事を自覚している。

 恵まれた体躯も然り、投球に必要なだけの関節の可動域だってそう。

 或いは、これらを形作った家庭環境さえ、先天的なモノと言う意味では才能だ。

 野球と言うスポーツは、これで存外に金銭が嵩む在り方をしている。

 バット、グローブ、ボール。全ては消耗品で、上達を望めば望む程に擦り減っていく。

 それらを潤沢に使い潰せる世界で。弛むことなく己の才能を磨いて来た。

 

 無論。才能とは何も、進藤一考にのみ与えられた特権ではない。

 彼に勝るとも劣らない才人は、確かに存在した。それどころか、彼以上の人間も。

 ────だが、彼はそれら全ての戦いに対し、完膚なきまでに勝利して来た。

 有象無象は才覚で薙ぎ払い、己以上の才覚は努力を以って捻じ伏せた。

 常人を遥かに上回る英気と幸運を手にし、尚も怠ける事を知らない鉄人。

 

 そんな彼にとって、人生とは理想の自分を現実に近付けていく作業に過ぎない。

 だからこそ、彼は知っている。人間と言う生物が捨て去れる機能の限界を。

 理想と現実のを隔てる境界。人類が人類である為の一線、越えられないデッドライン。

 才能と努力では覆す事の出来ない、謂わば種としての壁を、彼は知っている。

 …………それ故に、理解が及ばない。ソイツの口元だけが三日月に歪んでいた。

 

 ──────放物線を描く筈の、安い球を狩り取ろうとした時の事だった。

 

 空間が裂けるような錯覚がした。

 螺子が廻るような体軸の回転。大地を掠った右脚と、それすらも攫うような腕の躍動。

 次々に加速していった五つの関節は、人間性を燃やし尽くした機械構造に変わり。

 放たれた白球は、それこそ弾丸のように────即ち、模範的なアンダースロー投球。

 …………否。それ自体に、可笑しな部分は無い。疑問こそ湧くが、大したものではない。

 弾丸のような球速さえどうでもいい。注視すべきは"結果(球速)"ではなく、その"過程(動作)"。

 

 あの動きは。あの、骨と筋肉の躍動は、凡そ人間に許される動きではない。

 呼吸の乱れ、意識の淀み、指先の震えに至るまでの、本来あって然るべき人間らしさ。

 それら一切を掃いて捨てた、現代スポーツの()()()。即ち、人体の機械化。

 あらゆるスポーツマンが目指す、人体操作の極致。越えられない種の壁の向こう。

 ──────目の前の男は、そんな芸当をして見せたとでも?

 

「有り得ない。そんな、馬鹿な話が…………!」

「現実逃避なんてみっともないぜ、スーパースター?」

 

 炎天下。嗤いかける少年の様は、先程とはまるで別人に見えた。

 いや、事実として変貌していた。腰から肩、右腕にかけての筋肉量が、数秒前の比ではない。

 浮き上がった血管は、明らかに巡る血液の量を倍以上に押し上げている事を示している。

 指先の関節は、それこそ何千/何万球も投げたように、厚く太く変形していた。

 素人のソレだった肉体は既にどこにもなく。あるのは、全盛を迎えたプロ野球選手のような肢体のみ。

 余りにも劇的な変化。例え薬物を使用したとしても、これほどの変化は有り得ない。

 

 ────どうなっている。どうなっている。どうなっている。

 

 血管の中が感情で満たされる感触を、進藤一考は初めて知った。

 目の前にいるヒトガタは、果たして本当に人間なのだろうか、なんて疑問さえ湧いて出る。

 青ざめた空の下、寒さなんて微塵も感じない世界で、進藤は白く染まった息を吐く。

 呼吸を浅くする不明な感情。陽炎に歪む黒髪が、投球姿勢へと移る。

 …………引き絞られた弓のような姿。それは、貫かれた三日月にも似て。

 怪物は、先刻と寸分違わない動作で、白球に炎を宿した。

 

 ──────ボール。

 

 遠く。電光掲示板に、緑色の灯火が宿る。鞣された革製のミットが、痛烈な声を上げた。

 ストライクゾーンを僅かに逸れた、残像以外残らない、五オンス九インチの凶器。

 槍を穿つような直線軌道。推定される球速は、時速百五十キロメートル近い。 

 不動の四番たる進藤をして、反応すら許されない球威など、まるで悪夢。

 けれど、二度目の剛速球を目の当たりにした彼は、これを紛れも無い現実と認めた。

 …………同時に、果ての無い絶望が彼の魂を満たしていく。

 

 理事長は言った。小技(バント)ではなく、一振り(スイング)で仕留めろ、と。

 

 ────これは、一定以上の練度を持った打者に共通する認識であるが。

 投手の腕から白球が離れた時点で、選球は完了していなければならないのだ。

 十八・四四メートルを駆ける一秒未満。その猶予は、打球の誤差修正にのみ費やされる。

 そうでなければ間に合わない。血液すら置き去りにする、全霊を燃やし尽くす円運動。

 元来、打球において思考が介在する余地は殆ど無い。真っ当な投球ですらソレなのだ。

 

 進藤一考以上の球速を維持し、上昇することでミートを外す魔球。

 如何に超中学級と言えど、未だ発展途上の身。まして、彼の才能は投球に寄っている。

 メジャーリーグの四番打者ならいざ知らず、反応速度すら不足する現状で。

 …………時速百五十キロメートルを刻む、浮かび上がる球を捉えろ、なんて。

 

「──────は。冗談じゃ、ない」 

 

 咄嗟の出来事。認識する間もなく、突風が目の前を突き抜けた。

 ツーボール。遠く、緑に染まったカウントが進行する。現実に遅れて、戦慄が走った。

 …………今の投球は、彼を揺さぶる為のモノでも無ければ、嬲る為のモノでも無い。

 狩り取る為の球。外角高め、抉るような一撃は、確かにストライクゾーンの際を貫いていた。

 ならば何故、今も進藤の首が繋がっているのかと言えば、球審が()()()()である事が原因だ。

 

 なにせそれは、微妙なラインでの出来事。ストライクゾーンの左上隅、を突いた白球。

 それこそ進藤程の至近距離でなければ分からないような、針の穴を通すような所業。

 人間離れした精度のソレにかこつけて、曖昧な判定を下しているだけ。

 眩暈がするような感情に揺れる。球審の慈悲は、しかし無為な時間稼ぎに過ぎない。

 ────そして、それも終わりだと。眼前の少年が嗤う。

 

 冷や汗が頬を伝う。落下していく雫、瞬きの間に、予備動作は終了している。

 軽く持ち上げられた左脚は、体重を載せて緩やかに前へと踏み込んでいく。

 グラブを付けた左腕は、照星が如く。狙いは直線、キャッチャーミットへと。

 水平に沈み込む全身。大地と一体化した肉体が放つ、滑らかな爆発。

 骨/関節/筋肉の躍動、余分を知らぬ人体合理────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ──────ストライク。

 

 球審にこの判定を間違える事は出来ない。遠目からでも分かる、完膚なきストライク。

 掻き乱される脳漿。胃から何かがせり上がってくる感触を、必死で飲み下す。

 背中に焼き付く赤い熱は、恒星によるものではなく、きっと焦燥から来るもの。

 先程から一歩と動かいていない筈なのに、呼吸は千々に乱れて止まない。

 

「ツーストライク、だな」

 

 三日月のように裂けた口元。…………現実逃避気味に、思い出したことがあった。

 曰く。椚ヶ丘には、姿の見えない超人が在籍しているらしい、と、そんな噂の事。

 ────椚ヶ丘学園中等部では、二種類の特待生制度を採用している。

 一つは学力によって定められるモノ。偏差値六十六を刻む学園の上澄み、その最上位。

 通称五英傑。浅野学秀を初めとした、入試/考査成績によって定められる五名分の王座。

 

 対となるもう一つは、スポーツ特待生。規定人数だけで言えば、こちらは更に厳しい。

 各学年、その代で最も優秀な成績を修めたアスリートにのみ贈られる、唯一の王冠。

 過去選ばれてきたのは、いずれも圧倒的なスポーツマン達。或いは、進藤以上の才さえ居た。

 だが、彼らの世代。二〇〇九年度入学生の中で、スポーツ特待生の名前が聞こえる事は無かった。

 存在しない、という事はないだろう。具体的な名前を避ける一方で、噂だけが流れていた。

 

 絶え間なく流れていた噂話。それによれば、確か、そう。陸上部の人間だ。

 短距離走を主とした、長距離走を除くほぼ総ての競技で、全国大会まで上り詰めたと言う。

 有り得る筈の無い与太話。当然だ。こと陸上において言えば、必要となるのは各競技に特化した肉体。

 専用のプログラムを組み、可能な限りの余分を切り捨て、人間の限界に挑戦する事が陸上競技なれば。

 全ての競技に特化した肉体など、有る筈が無い。そんなモノは悪趣味な冗談で、最悪の矛盾だ。

 …………だが、確かに。それを目撃した人間はいるらしく。

 

 ソイツの身体は──────()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「………………は、はは」

 

 乾いた笑いが零れ落ちる。彼はようやく、目の前の怪物の正体に思い至る事が出来た。

 だが、既に遅い。気付くべきだったと言うのなら、このマウンドに上がるよりも前の話。

 最早彼の退路は断たれ、眼前にあるのは断頭台へと架かる十三段の猶予だけ。

 そして、また一つ。死への階段がせり上がる。身体を絞る動作は、鋭さを増して。

 

 スリーボール。

 

「これでフルカウント。…………後が無くなったな、スーパースター」

 

 喉元を締め付ける絶対零度の殺気。白銀の鎌が、進藤の首元に掛かる。

 …………遅すぎるほど、今更に。彼は漸く、これが命を奪う行為だと理解した。

 眩暈で黒く染まる視界。血管を満たした不明な感情が、根源的な恐怖へと置換されていく。

 数秒後にに飛来するであろう絶死の投球を拒絶するように、頭蓋が軋む。

 

 打てる訳がない。撃てる訳がない。討てる訳がない。

 

 フルカウント。狙いは分かる、先刻のストライクコースに決まっている。

 だが。狙いが分かった程度でそれが打てる道理は無い。人間の身体は、そう単純な構造をしていないのだ。

 スラッガーにとって、選球の読みを当てるのは前提に過ぎず。本番はその先。

 尋常を超越した眼を以って、コンマの世界で、ミリ単位の調整を行う。即ち、これこそ打球。

 球が読めた所で、身体が追い付かなければ無意味。そして、凡百の打者の悩みは、そこに尽きる。

 

 死ぬ。殺される。二つの言葉。同じ感情が脳髄を張って視界を灼く。 

 理事長からの教育は。溢れていた筈の集中は、最早忘却の彼方へ。

 傍目から見ても、明白に。────最早、進藤一考の精神は、死んでいる。

 だから。

 

「ここでお望み通り、アイツを出そうか」

 

 鼓膜を通り抜ける嘲りの言葉。遠く聞こえたタイムの声。一度の瞬きの後。

 ────目の前の怪物は、いつの間にか見知った顔に変わっていた。

 

「杉…………野………………」

 

 絶望の声は、魂さえ朽ちさせる。或いは、先程までならば一矢報いる機会はあった。

 コースが分かっている以上、万に一つ。幸運の女神の微笑み次第で、勝利の可能性があったのに。

 フルカウントまで長引いた秋野空との一対一。慣れた筈の目は、とうに曇り切っている。

 今の状態で。初見に回帰した、今の状態で。果たして、目の前の少年の球を捉えられるだろうか。

 

「は、は、は──────」

 

 ……或いは、彼があと一歩冷静だったなら。

 ノーアウト満塁の現状を、正しく認識できていれば。結果は違ったのかもしれないが。

 金属質な、鈍い音が青い空に光る。浅く飛んだ白球と、へたり込んだ少年。

 ────声も出ないような三重殺。球技大会は、E組の勝利で幕を下ろした。

 

 ◇◇◇

 

 歓喜と、落胆と、友情の声がした。

 寝心地の悪い、プラスチック製の寝具。熱を帯びた世界に隠れた陰。

 摂氏四十度を記録する体温と、位置を変える内臓の感触に顔を顰める。

 悍ましい音と、千切れた筋線維が主張する苦痛。元の在り方を取り戻していく関節部。

 異常をきたした体内環境に抗う事を止め、無機質な天井を見つめる事に注力する。

 

 神経質に瞬く蛍光灯が、青みがかった日差しに照らされている。

 霞がかった視界が、脳へと送られる情報を制限する。普段通りの、現実逃避。

 四月から続く、忙しない悪夢のような日々。来年の三月には塵に変わる世界の端で想う。

 限られた時間を浪費するオレの趣味(現実逃避)は、思いの外贅沢な娯楽だったらしい。

 

「どうですか、秋野君。体の具合の方は」

 

 …………不意に、声を掛けられた。首だけを傾ければ、見慣れた白球モドキ。

 観衆や野球部も粗方去ったというのに、律儀なモノだと感心する。

 殺監督、改め殺せんせー。又の名を、近い将来に起こる地球滅亡の元凶である。

 こんな存在に心配などされる謂れは無いが、表面上はにこやかに対応して見せる。

 

「ご心配どうも。でも、あと小一時間もあれば動けるようになりますよ」

「…………そうですか。君も難儀な身体ですねぇ」

「いい加減に慣れましたよ、生まれつきなので」

 

 昔から、身体を作り替えた後は大抵こうなっている。よくある代償だろう。

 極度の疲労、身に余る行動の揺り戻し。程度に差はあれ、オレは置物に成り下がる。

 生存/戦闘において、ソレは致命的な弱点に他ならず、故に誰にも見せたくなかったのだが。

 …………現実として。オレはこうして、自分の切り札を、最悪の相手に明かしている。

 

「"もし一つ目の作戦が使い物にならなくなったら、オレを出せ"、なんて。

 まさか君からそんな言葉が聞けるとは思いませんでしたよ」

「────別に、大した理由はありませんからね」

 

 そう。これはほんの、偶然のような物だ。道端で小石に躓いた程度のきっかけ。

 ──────勝てる筈が無いと定めた相手に、勝ちたい、なんて言う物だから。

 それは、オレが諦めてしまったモノ。届かない天才(浅野学秀)然り、()()()()()()()然り。

 だからこれは、そんな下らない熱に当てられたというだけの話。

 

 …………届かなかった未練を焚べるように、青空を見やる。

 こんなモノ、何の慰めにもなるまいが。オレの後悔が届けばいいと、淡く願った。

 

 


 

 本編の説明じゃ足りない気がしたので補足です。読まなくても支障はありません。

 

《肉体の変貌》

「無価値な存在。オレに許された、たった一つ」

 クトゥルフ的に言えばハウスルール。暗殺教室的に表現するなら固有スキル。

 使用者の意図に応じ、都度"最適なカタチ"を取ることが可能となる。秋野の才能。

 秋野に技術の概念は無く、身体が望む形に動かす事が、彼にとっての運動。

 陸上競技や投球などの、機械的な動作を得意としているのはこの為である。

 虚弱体質に関しても、生まれつきのこの体質が七割原因。人間向いてない。

 

「カラの人生。全ては、あの瞬間の為にあったのに」

 CoCにおける具体的なゲーム処理は以下の通り。

 ・使用者は1/1d6のSAN値を減少。(この現象で一時的狂気は発症しない)

 ・███/███/███/███を1d3で決定した値を一時的に喪失。

 ・その後《POW*5》に成功する事で、一部の技能に対して確定で█████の結果を得る。

 ・尚、喪失した███/███/███/███の値が反映されるのはシーン/戦闘終了後。

 ・███/███/███/███の内、いずれかの値が0を割った際、当該PCは即██する。

 ・若しくは《POW*5》に失敗した場合も、"使い物にならなく"なる。

 

「オレの才能じゃ、あの子を救う事は出来なかった──────死ぬべきだったのは、きっと」

 

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