Q.一般探索者が黄色い触手を見た場合の反応を述べよ   作:お前の母ちゃんシュブ=ニグラス~!

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問題児の時間

 あれから一週間が過ぎた。

 あの日起きた事は夢などではなく、目下暗殺は進行中。

 最初の頃は、暗殺対象が側にいる生活なんて慣れるわけがないと誰もが考えていたが、これが意外にも早く馴染んでいた。

 それは多分、タコ型生命体──殺せんせーと名付けられた──が、普通に先生していた事に起因するのだろう。

 

 わかりやすい授業と、柔らかな物腰。

 共感できる嗜好と、どこか間抜けな弱点。

 超越的な生物の中身は、意外と人間味に溢れていたのだ。

 だから皆、殺せんせーに物怖じせず教室にいられるんだと思う。

 それどころか、勉学面で言えばテストの点が上がったと感謝する者さえいる位で。

 

 来年地球を破壊する神話生物という点を除けば、結構好ましい先生像が、そこにはあった。

 無論、皆とて地球を破壊されてはたまらない為、同時進行で暗殺活動にも励んでいる……が。

 この一週間、オレを含めた誰一人、殺せんせーに手傷を負わせる事は終ぞできなかった。

 一斉射撃とか、自爆未遂とか、ハンディキャップ暗殺大会とか。

 割と試せる事は全て試しているし、実際惜しい所までいった暗殺もあったと思う。……自爆未遂に関しては、殺せんせーに怒られていたが。

 

 まあ、とにかく。かすり傷ひとつ与える事ができなかったオレたちにとって、今目の前で起きた事は、あまりにも衝撃的だったのだ。

 

 ────殺せんせーの腕が破壊された。

 

 ナイフで斬りかかられた訳でも、銃弾を喰らった訳でもない。

 ただ“握手”した。たったそれだけで、破裂する様に細胞が崩壊したのだ。

 

「──────ッ!」

 

 殺せんせーが動揺した隙に、下手人は間髪入れずに第二撃を放つ。……が、超速による回避によって、当たる事なく空振った。

 しかし、それを行った赤い髪の少年は、大して悔しそうな顔をしておらず、寧ろ余裕の表情を見せていた。

 周囲の空気が、一瞬にして静まり返る。

 

「へぇ〜…………。ホントに速いし、ホントに効くんだ。このナイフ。細かく切って貼っつけてみたんだけど────」

 

 よく見てみれば、彼の掌には幾らかのナイフの破片。

 

「…………なるほどな。握手した瞬間にアレが触れて、か」

 

 小さく一人言が溢れる。

 殺せんせーは刃ではなく、それを構成する対先生物質によってのみダメージを負う。故に、刃の形をしていなくても、触れさえすれば負傷する。

 考えてみれば単純だが、奇襲としてはこれ以上なく効果的な"手"だった。

 

 ────赤羽カルマ。

 二年生の頃、何度も暴力沙汰を起こし停学した椚ヶ丘きっての問題児。あの寺坂ですら外部との揉め事は起こさなかったのだから、その凶暴性は推して知るべしだろう。

 オレ個人としては、聞き及んだ事はあれど避けていた人物でもある。

 なにせ進んで関わり合いたいと思う手合いじゃなかったからだ。

 

 ────だが。

 

「殺せないから“殺せんせー”って聞いてたけど────あれぇ?先生ひょっとしてチョロい人?」

「………………!」

 

 カルマに煽られ、顔を怒りに染める殺せんせー。

 今理解した。────彼は、このE組における優等生だ。

 この瞬間に見抜いたのか、或いは元から情報を仕入れていたか。

 政府との契約は別にして、“殺せんせーは生徒に危害を加えられない”。それを彼は理解していた。

 何せそれは、教師としての信用に関わる行為。

 どうやら殺せんせーの目指す先生像は暴力を良しとしていないらしく、故にこうして、いくら神経を逆撫でするような事を言われても、その場を動く事ができない。

 

 赤羽カルマは、それをわかっていてこの行動に出ている。

 

「──────こっ…………わ」

 

 校庭から去っていく彼の後ろ姿を眺めながら、そう思わずにはいられなかった。

 

◇◇◇

 

 ────目を覚ますと、教室の空気が死んでいた。

 

 ………………いや、なんで??

 

 皆、それぞれ机を見つめる様に俯いていた。

 誰も言葉を発することはないし、教卓には殺せんせーの姿がない。

 困惑しながらも机の上を見れば、白紙の小テストが一枚。

 教科は数学。名前も書いていない。

 受けた覚えがないが、そう言えば六時間目は小テストだった。

 

 ひょっとして、この重たい空気はコレが原因なのかとも考えたが、ざっと問題に目を通した所、難しすぎると言うこともない。

 相応に応用問題もありそうだが、言ってしまえばそれだけだ。

 少なくとも教室の空気が沈んでしまう様な難易度では決してないとわかる。

 ふと、足元に対先生用BB弾が転がっているのが見えた。

 

 現在テスト中であろう事はわかっていたが、不意の好奇心に勝てず。興味本位で背後に視線を向けてみると────そこには無言の超生物が佇んでいた。

 

「──────」

 

 驚愕の声を噛み殺し、恐々とその背中を見つめる。

 顔は見えない。その触手の中には、一枚のテスト用紙。

 声を発するでも、身じろぎするでもなく沈黙を貫く殺せんせー。

 …………な、なんだコレ。

 余りにも状況が読めなかった為、困惑のまま隣の席の速水さんに小さく声を掛けた。

 

「あの、速水さん速水さん。これは一体、どういう…………?」

「…………テスト中よ、今。カンニングって思われたらどうするの」

 

 驚く程真っ当な返事が返ってきた。これで状況ごと真っ当ならどれほど良かったか。

 

「オレのテスト真っ白だし、その辺りは大丈夫じゃないか?」

「そういう問題でもないのだけど、というか、それはそれで問題じゃないかしら」

 

 速水さんの冷たい目線が痛い。

 整った顔も相まって、中々どうしてオレの心を削ってくる。

 

「んん゛っ。そ、そこは一旦隅にでも置いておいてだな…………」

「いや、置いておいちゃダメでしょ」

「い、今は状況把握の方が先って話」

「テストが終わってからでも遅くない気がするけど」

「いやいやいや、こんな状況下じゃ、テストだって集中出来ないって」

「そうじゃなくても寝てたでしょ、貴方」

「うぐっ………………はい。その通りです」

 

 ぐうの音も出ない正論だった。

 そもそもオレが起きていれば良かっただけの話である。

 速水さんとしては、そんな奴のためにカンニング容疑のリスクを背負ってまで説明してやる義理はない。

 当然と言えば当然の帰結。当たり前の結果だった。

 …………となれば仕方がない。オレが席を立とうとした、その瞬間、

 

「ちょ、ちょっと」

 

 何しようとしてるの、と速水さんに手を掴まれた。

 

「いや、もう面倒だし殺せんせーに話を聞こうかと」

「何考えてるの!?」

 

 小声で怒鳴られた。器用な事をするもんである。

 

「だって速水さん話してくれないから」

「だからって当人に聞くのはどうかと思うわ…………」

 

 軽く頭を抱えてため息を吐く速水さん。

 気苦労が絶え無さそうな人だなぁ、なんて考えていると、速水さんは「まぁ、彼の自己責任だし」と呟いて、こちらを正面に捉えた。

 どうやら、自分から話した方が穏当だと考えたらしい。

 …………ここ一週間で感じていた事だが、やはり彼女は面倒見が良い人だと思う。

 頼まれたら断われない質というか、コレで意外と委員長タイプ。

 愛想こそ乏しいが、人並み以上の優しさを秘めいている。

 

 何が言いたいってつまり、速水さんはツンデ────

 

「今なにか失礼な事考えなかった?」

「いえ何も。一切。全く」

 

 当然のようにオレの心を見抜かないで欲しい。

 

「とは言っても、大した説明はできないわ。 ただ単に、赤羽君が殺せんせーを暗殺しようとしただけ」

「赤羽が暗殺か…………それって具体的には、どんな?」

「確か、先生からジェラートを盗って動揺させての不意打ちね。

 足元に転がってるBB弾があるでしょ?先に撒いておいて自分から踏むように仕向けたの」

 

 確かに、よく見れば破壊された足の破片があった。

 その大きさから鑑みるに、恐らく傷自体は大したものではなかった筈。だが負傷させたのなら追撃を入れない理由はない、のだが。

 

「…………その当人の姿がさっきから見当たらないんだが、それは?」

「煽るだけ煽って帰ったの、彼」

「………………マジかよ、だから先生固まってるのか」

「多分ね」

 

 ────思い返せば、であるが。

 先刻の体育の後、殺せんせーが悔しがっていたのは感じ取れた。

 その中での二度目の騙し討ち。

 恐らく殺せんせーの中では激情が渦巻いている筈だ。

 それを表に出さないのは教師としてのプライドか。

 だがどうあれ、感情の抑制には大きくリソースを割いているのだろう。そうでなければ、たとえ小声でもテスト中の会話なんて見逃すはずがない。

 

 もしかして、赤羽は──────

 

 そこまで思考が至った所で、不意に。

 

 ───キーンコーンカーンコーン───。

 

 チャイムと同時に、凄まじい突風が教室に吹いた。

 視界に入れていた筈の殺せんせーの姿は消え、皆のテストは回収されていた。

 教室には既に超生物の姿はなく、小テストは終わりを告げていた。緊張の糸が切れた様に、クラスは少しずつ活気を取り戻して行く。

 そんな中で、冷や汗をかく男が一人。

 

「────やべ、何も解けなかった」

 

 当然の如くオレである。

 横から速水さんの失意の目線が突き刺さる。

 何故だろう。この数分で速水さんからの株が大幅に下落した気がしてならない。

 

「あー、所で速水さん。もう一ついい?」

「早めに済ませて」

「塩対応に磨きがかかってる!?」

「茶化さないで。それで、なに」

「渚君の席ってどこだっけ」

 

 E組に来て一週間、顔と名前は殆ど一致する様になった。

 が、しかし。席順までは覚え切れていないのが現状である。

 と言うのも、この教室、出席番号で席が決まっていないのだ。

 赤羽が一番後ろの席だったり、吉田の後に植松がいたり。

 変則的な席順が、三年E組のデフォルトだった。

 というか、そうで無ければ“秋野”と“速水”が隣り合う事もない。

 …………まぁ、兎に角そう言った訳で、席の位置に関しては人に聞くようにしている。

 

「確かそこの辺りだったと思うけれど…………いない」

「んー、どこかに行って────」

 

「──────あれ、僕の事呼んだ?」

 

 瞬間、背後から響く中性的な声。

 脳が働くより早く席を立って、声の方向に体を向ける。

 視線の先にいたのは、無害そうな顔の男子生徒。

 先程から目で探していた、潮田渚その人だった。

 

「────、ッ!」

 

 今、彼が接近した事に、オレは気づけていなかった。

 意思も、気配も、足音も。何一つとして感知できなかった。

 背中にじっとりと冷や汗が流れる。

 もし、彼が、オレを──────

 

「あ…………ご、ごめん。そんなに驚くと思ってなくて」

 

 そんな声に、ハッとなって我に帰る。

 声も出せないオレの様子を見かねてか、渚が謝罪していた。

 隣を見れば、速水さんまで心配そうにこちらを見ている。

 

「あ、あぁ。いや、大丈夫だ。こっちこそ大袈裟な反応して悪かった」

 

 乱れた感情を取り繕って、何でもない様に振る舞って見せる。

 それから小さく咳払いをして、

 

「それで、渚君。少し話したい事があるんだが、今時間いいか?」

「時間は大丈夫だけど、話したいこと?」

「聞きたい事、の方が正しいか。ちょっと廊下まで来てくれ。 あ、速水さん。さっきはありがと。超助かった」

 

 フイ、と顔を背ける速水さん。

 それを横目に、渚君を連れて廊下へと向かう。

 ぴょこぴょこと後ろをついてくる渚君は、体格も相まってか、さながら小動物のようにも見える。

 これで男と言うのだから、世の中どっか歪んでると思う。

 

 …………当人はそれを気にしていそうだが。

 

 そう時間はかけずに、オレ達は廊下へと辿り着いた。

 人のいない廊下は、意外にも陽光に照らされて暖かだ。

 壁一つ隔てた先の喧騒が、少しばかり遠くに思える。

 先に切り出したのは渚君だった。

 

「それで、聞きたい事があるんだっけ」

「あぁ。さっき体育の時にチラッと聞こえたんだが、赤羽と同じクラスだったって本当か?」

「あ、うん。そうだよ、一、二年が同じクラスだったんだ」

「…………良ければ、赤羽について教えてくれないか?」

「え、カルマ君の事を?」

 

 赤羽について知っておく必要がある。

 もしもオレの予想が正しいのならば、赤羽のやろうとしている事は────世界の寿命を著しく損なう行為だ。

 

「あぁ。渚君も見た通り、赤羽は多分、この暗殺教室の優等生だ。 多分、これからオレ達は、アイツを目標にして行くんだと思う」

「…………確かに、そうかも。カルマ君、この手の事は天才的だし」

「だろ?だから赤羽について知っておくのがいいんじゃないかと思ってな。…………思ったん、だが」

 

 昇降口の方へと軽く目線を向ける。

 当然ながら、赤い髪の少年はいない。

 

「あー、その当人が帰っちゃったから…………」

「そう言う事だな。それで、体育の時の事を思い出してな」

「あはは…………なるほど。でも、そう言う事なら…………うん。僕の知ってる事で良ければ、教えるよ」

 

 大した事は知らないけどね、と苦笑いする渚君。

 一先ず説得成功と見ていいだろう。

 後は、オレの考えを否定するか肯定するかの情報を引き出すだけだ。

 

「それじゃあ質問なんだが、赤羽のあの態度って素なのか?」

 

 それとも意図して、相手の神経を逆撫でているのだろうか。

 

「い、いきなりだね…………でも、うーん。そこは半々って所じゃないかな」

「半々、っていうのは?」

「うん。カルマ君自身、あの手の事を楽しんでる節はあるけど、それにしては少し理性的というか。 僕は喧嘩についてはよく知らないけど、多分実利も兼ねているんじゃないかな」

 

 …………確かに、その手の煽りは上手く嵌れば戦闘を優位に進められる。

 行動に対して、生来の気質が嚙み合った、といった所か。

 つまり、脅し、揺さぶりの類は身体に染み込んでいると見た方がいいだろう。

 中学生として健全とは言い難いが、この教室においては、やはり優等だ。

 

「てことは、やっぱりアレか。濡れ衣とかじゃなく、暴力事件云々もマジなのか」

「そう、なるかな。僕と関わるよりも前から、内外問わずに色々起こしてたみたい」

 

 曰く、赤羽業は大変暴力的な生徒である、と。

 直接の関わりがなかったオレが赤羽の名前を知っているのは、この風評によるところが大きい。

 

「内外問わず、って所がミソだな」

 

 実際のところ、学校内部で起きた事件であれば、その隠蔽は容易なのだ。

 関係者に圧力をかけ、情報統制を敷くだけ。それだけで片がつく。

 ただし、外部となれば話は別。

 隠蔽に際する事態の規模が、比喩抜きに倍は膨れ上がる。

 そうなれば、生徒を守ることよりも、事を収めるコストの方が目立ち始める。

 なので、大抵の生徒ならトカゲのしっぽ切りよろしく、停学或いは退学処分を言い渡される。

 

「それでも今まで大きな問題にならなかったのは…………」

「多分、カルマ君が凄く優秀だったから、だろうね。凄く身勝手だけど、その分何でも出来るから。頭の回転が早くて、本質を見通す目と、それを使いこなす器用さを持ってる」

「べた褒めだな、渚君」

「実際すごい事だしね。…………でも、だからこそ、それを人とぶつかる為に使っちゃうのは、ちょっと勿体無いと思うけど」

 

 オレが思うに、学校の認識も渚君と同じ具合だった筈だ。

 その優秀さは、学校にコスト以上の見返りを期待させるものだったのだろう。

 だからこそ、つい最近まで彼は自由の最中にあった。

 ────だが、しかし。

 

「けれど結果として、赤羽は停学を食らって、ここまで来た」

「そうだね、確か、二年の終わりごろに…………」

「当時三年A組の先輩を殴って、か」

 

 二年の赤羽が、三年の誰彼を病院送りにした。

 碌に友人のいないオレでさえ聞いたことのある話。

 きっと、学校が愛想を尽かしたとするなら、ここだ。

 利益と被害の天秤が、そこで振り切れてしまったのだろう。

 風の噂によれば、その先輩は成績上位者だったそうだから、理解は────

 

「──────ううん。多分、少し違う」

 

 できる、と考えるより前に、渚君から否定の言葉が飛ぶ。

 

「…………俺の聞いた事件は、存在しなかったって事か?」

「いや、それ自体は事実、かな。確かにそれも一因だけど、もっと大きなことがったんだ」

「もっと、大きな…………」

「カルマ君────当時の担任まで殴ったんだ」

「────、なに」

 

 言葉に一切の嘘はない。

 だからこそ自然、眉根が寄る。

 

「理由はわからない。でも、あの日のカルマ君は、『先生』に対して絶望してた。まるで死んだも同然、みたいに。…………あの殺せんせーへの執拗な挑発と、騙し討ちからして、きっと」

 

 一拍を置いて、告げる。

 

「──────殺せんせーを、"先生"として殺そうとしてる」

 

 その言葉を聞いて、スーッと、自分の目が細まって行くのがわかった。カチリと歯車の噛み合う感触。

 それは、オレの予想が的中していた事を指していた。

 

「…………そうか」

 

 赤羽は、その行動が招く結果を理解しているのだろうか。

 いや、そこはさして重要ではない。

 赤羽の思惑がどうあれ、対策をとる必要がある。

 

「思うんだが、殺せんせーが先生として死んでも賞金って出るのかね」

「それは…………どうだろ。それで殺せんせーが地球爆破をやめてくれれば、出るんじゃないかな」

「意外と狙う価値有りなのか」

 

 神話生物を挑発とか、間違いなく狂人の行動だろうがな。

 

「おーい、渚!次の暗殺計画練ってるんだけど、お前も来いよ!」

 

 教室の方から響く声。

 見れば、杉野が顔だけこちらに出して、渚君を呼んでいた。

 目配せする様に渚君がオレの顔を見た。

 

「オレの方はもうこの位で大丈夫だ。後は赤羽本人にでも聞くよ」

「ありがとう。そうだ、秋野君も一緒にどう?」

「あー…………いや、今日はこのまま帰るよ」

「…………そっか、ごめんね」

「いいや。こっちこそ悪いな、懲りずにまた今度誘ってくれ。次は参加するから」

「うん、わかった。また明日ね、秋野君」

 

 そんな言葉に対し、オレはひらひらと手を振ってその場を後にする。未だ騒がしい校舎を抜ければ、欠けた白月が覗いた。

 ざくざくと、少しずつ帰路を辿っていく。

 

 考え事は、先程から思考を支配する、甚だ物騒な単語について。

 我ながら安直と言えばいいか。或いはそんな発想に絶望するべきか。人間としては後者であるべきと、オレは直感した。

 そんな絶望的な発想は、意図しない演算で肉付けされていく。

 諸般の準備を考えても、今日中に実行可能。

 それが、オレの脳内が弾き出した結論だった。

 感情はともかく、オレ自身は、それが適切と考えたわけだ。

 

「なら…………仕方ない」

 

 そう。仕方がない。仕方がないんだと何度か呟いて、少しばかり帰途につく足を早めた。

 

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