義手持ち少年はグレースさんのスキンシップに耐えられない。 作:純情な感情
ここは新エリー都。ホロウ災害と言うかつての旧都を壊滅に追いやるような災害と隣合わせでありながらも、奇跡の発展を遂げた街。
そんな街で最近急成長を遂げている企業。その名も白祇重工。
そんな白祇重工のとある開発用施設。その一室……様々な小型の開発用機器がラックに掛けられるその部屋で、一人の少年と女性が会話をしていた。
少年は方は下ろした赤い髪が特徴的で、キリッとした目が特徴的だ、パット見はチンピラにも見えるが、その瞳の奥はどこか優しさを感じられる。
女性の方は、いかにも技術者といったような装いで、頭につけたゴーグルが特徴的だ……下世話だが、その胸は整った形をしており、少年は少々目のやり場に困っていた。
少年は、目の前の女性……グレース・ハワードに問いかける。
「姉御、俺の腕どうですかね?」
「うん、このくらいなら駆動系に汚れが溜まってるだけだ。直ぐに良くなるよ。」
少年は、右腕が機械的な腕――義手になっており、目の前の女性――グレース・ハワードに差し出し、グレースは少年の義手のメンテナンスに勤しんでいた。
少年曰く、義手の動きが少しのろくなったとのことだが……駆動系に埃が溜まり干渉しているだけだ。グレースの手にかかればすぐに直せる。
暫くグレースは、少年の義手を弄ると……額の汗を拭って、少年の義手へと声を掛ける。
「ふぅ、ガドヴェド、調子はどうだい?」
『問題ない!歯に挟まってた何がのが取れた気分だぜ!』
そう言って喋りだすのは少年――ではなく、少年の義手の方だ。少年の義手にはグレースの作り出したサポートAIが内包されており、ガドヴェドと言うのはそのAIの名前だ。
「少年は?」
「えぇっと……」
少年は、その義手をゆっくりと動かして握りこぶしを作ると、少し頷くと笑顔になり声を掛ける。
「問題ありません、姉御ありがとうございます!」
そう言って少年――名をガルム・グロウは、グレースへと深々と頭を下げる。グレースは笑いながら言う。
「いいのさ、君も白祇重工の仲間だし知らぬ仲じゃない。それに、私の作った義手を私が点検するのは当たり前だろう?それよりも……」
グレースは次の瞬間、獣のような目をガルム……の義手へと向けて、その義手をガルムの腕ごと思いっきり抱きしめられ、義手が胸に押し付けられた。
「くぅ!さすが私の最高傑作の一つだ!相変わらず抱き心地が良い!」
『おーい。グレース』
「温度はちょうど人肌、駆動の音がまた心地よい……!」
『グレース!……相棒の方を見てくれ。』
「むっ?少年の?」
グレースは、ガドヴェドに呼びかけられて疑問符を浮かべながらガルムの方を見る……すると、そこには、義手とは言えグレースに腕を抱きしめられて、顔を真赤にするガルムが居た。
グレースはそれに気づくと、大慌てでガルムの義手から腕を離し、申し訳無さそうに声を掛ける。
「す、すまない!少年、君の腕があまりに抱き心地が良くて……!」
「いやっ!大丈夫っすよ、義手の事だもんな!義手の抱き心地が良いって話だもんね!」
思わずガルムは普段の敬語を忘れながら、顔を真赤にして声を掛ける。グレースは心の底から申し訳無さそうに声を掛ける。
「すまない……嫌だったろう?こんな女に腕を抱きしめられて……」
「いや、嫌じゃないっつーか、むしろよかったつっーか……いや!なんでも無くてですね……」
ガルムはひたすらに顔を真赤にしてうつむく……そんなガルムに対して、グレースはその額に手を押し当てると彼はまた目を見開いて声を上げる。
「うわっ!?あ、姉御!?」
「うむ、体温は少し高いが……熱はなさそうだな。顔を真っ赤にしているから心配でね。」
『グレース……お前なぁ。』
ガドヴェドは、グレーに対して呆れの言葉を投げかける。グレースはそっと首を傾ける……一体何が理由で、ガルムは顔を真っ赤にしているのかわからない様子だ。
ガルムとガドヴェドはグレースとは長い付き合い……具体的には、白祇重工が今の社長に変わる前……前社長の代からの付き合いだ。
ガドヴェドとしては慣れたものだが、ガルムは一向にこのグレースの距離感には慣れない。
しびれを切らしたガルムは、顔を真っ赤にしながら立ち上がりまた大きく頭を下げる。
「も、もう大丈夫です!あ、ありがとうございました!」
そう言ってガルムはそそくさと、途中で机に身体をぶつけたりしながらも外へと出る。パタンとドアが閉められた後、グレースはその場で手に顎を乗せた。
「あの慌てよう……何かしてしまったのだろうか?……だとすれば申し訳ないことをした、今度謝りに行こう。」
グレースは恋愛経験ゼロのド素人である。それがゆえか……ガルムの想いに気づかないままでいた。
ガルムが、かつてグレースと始めて出会った時から淡い恋心を実らせて、それなりの年数が経過した今でも未だにそんな思いを引きずっていることを。
そして、ガルムの持つその淡い恋心がすでに白祇重工の全体まで浸透し、今やガルムとグレースをくっつけさせようと言う謎の動きまで有ることも。
そして、グレース自身もそんなガルムについて、いずれ恋心へと開花するようなそんな気持ちを胸の奥に芽生えさせていることさえも。
なにもかもグレースは知らないでいるのだった。
「ガドヴェド……俺やっぱり姉御に男として見られてねぇよなぁ。」
『間違いねぇな。つぅか、やっぱ押し倒せよ、漢の見せどころだろ!』
「無理に決まってんだろ!?好きでもない男に押し倒される姉御の気持ち考えろよ!?」
廊下をスタスタと歩きながら言葉を掛け合うガルムとガドヴェド。ガルムはまた、グレースの事でいっぱいになりそうな頭を振るって、仕事モードへと切り替える。