義手持ち少年はグレースさんのスキンシップに耐えられない。 作:純情な感情
白祇重工は、毎日が現場で鉄のコンクリートと向き合う仕事だ。ガルム・グロウも、そんな白祇重工の一員であるからには、その定めからは逃れられない。
ガルムはその日もとある工事現場の作業をしており、昼休み時に入った彼は外の屯場に腰を下ろして、一人飯を食べていた。
弁当の中身は彩りの少ない茶色一色の弁当……焼肉のたれで焼いた肉とおかかのふりかけの掛けられた白米のみ、この弁当を見るたびにガルムは目を細める。
主に自分の料理のレパートリーの少なさに腹が立ってくるからだ。
そんなガルムをからかうように、彼の義手の中にいるサポートAI、ガドヴェドが声を掛ける。
『相棒、何時も思ってんだが、流石にこの弁当はねぇぞ。』
「んだよ……ガドヴェド。いや、俺だってねぇとは思うけどよ。」
そんな言葉をつぶやきながら、ガルムは弁当を口の中へと入れる。味は……悪くはないが、大雑把な味付けだ。
毎日しっかりと弁当を作り続けているだけライト、ガルムは自分に言い聞かせてみるが……そろそろこの味にも飽きてきた。
しかし、料理の勉強と言うのもなかなか時間がないし気が乗らない。
ガルムがそんなふうに悩んでいると……一人の男がガルムへ近づいてくる。ヤマアラシの様に逆だった髪の毛に、赤いメッシュがはいっている人物だ。
彼は自慢の動力ハンマードリルのついた片腕を上げながら言葉をかける。
「よぉ、兄弟!」
「っ!アンドーの兄貴!お疲れ様です!」
『よぉ、アンドー!』
そう言ってガルムは頭を下げる。アンドーは腕を振りながら言葉をかける。
「応!ガルムもガドヴェドもお疲れ様!おら、今は現場じゃねぇんだ兄弟として接しようぜ!隣空いてるか?」
「うっす!空いてますよ。兄貴!」
そう言ってガルムは少し横にズレて、アンドーが座れるスペースを作るのだった。
アンドー・イワノフ。白祇重工の現場監督であり、幼い頃に前社長ホルスに拾われたガルムに、現場での仕事を叩き込んでくれた……ガルムに取って先輩であり先生である人だ。
ガルムは親愛と尊敬、そして兄弟と呼んでくれるアンドーへの感謝を込めて兄貴と呼んでいる。
アンドーは、コンビニで買ってきた弁当を開けて、ガルムと共に昼食へと洒落込んだ。
二人は談笑を交わしながら、時間に間に合わせるようにご飯を口へと運んでいた……すると、アンドーが不意に一つの疑問をガルムへと投げつけた。
「んで、お前どうだグレースとは……うまく行ってんのか?」
「げほっ!ごほ!」
唐突なグレースへの言及に、ガルムは飯を喉に詰まらせる。アンドーは慌ててお茶をガルムへと差し渡す。
「大丈夫か?ほれ!」
「あ、あんがとございます。兄貴。」
ガルムはお茶をごくごくとのんで詰まった飯を胃へと流し込む……ガルムが一息つくと、アンドーの兄弟――動力ハンマードリルが独特の重低音を上げた。
すると、アンドーはその重低音の意味を理解して言葉をかける。
「んあっ?そうか……あんま人の色恋沙汰に首突っ込むのは漢らしくねぇな……すまねぇ、兄弟!」
「いや、俺は全然いいんスけど……」
そう言いながらは、顔を烈火のように赤くしながらガルムは弁当を食べる。
「……アンマリ上手くは……俺、多分男として見られてないと思うんで。」
「あぁ、まぁお前はグレースや社長とは家族同然で育てられたんだもんな。やっぱ弟として見られてんのか?」
そう、ガルムはホロウ災害で両親と自身の右腕を無くして路頭に迷っていた所を、白祇重工前社長ホルスに拾われたのだ。
ホルス曰く――ガルムの親父とは良く同じ釜の飯を食ったから、との事だ。
そこから、グレースと現社長のクレタと共に、ガルムは家族同然で育てられた。そんな事情も相まってグレースはガルムを家族としてみているフシが強くなっている。
すると、ガドヴェドが言葉を挟む。
『だがよぉ、相棒にも困ったもんだぜ。さっさとコクっちまえば良いのによ。』
「ガドヴェド、黙れ。」
「ま、兄弟はそう言う所はオクテだからな!」
「兄貴ィ!勘弁してくださいよ!」
次々と誂うガドヴェドとアンドーに対して、ガルムは目を細めながら抗議する。アンドーは「ワリィワリィ」と謝罪する。
だが、ガルムも一つ溜息をつけると静かに呟く。
「まぁ、確かに。俺のアプローチが足りないってのは分かるよ……なんかいい方法ねぇですかね?」
『押し倒せよだからよぉ!』
「ガドヴェド、マジで黙れ。」
ガルムにそんな風な相談を受けるアンドー。しかし、アンドーも余りその辺は得意とは言い難い……手を顎を乗っけて考えてみると、今朝テレビで見た番組を思い出した。
「そういやよ、今朝ニュースでやってたんだが……近頃は彼氏に弁当持ってきてもらうってのが良いらしい。お前も弁当とかグレースへ作ってやったらどうだ?あいつきっと喜ぶぜ。」
「弁当……か。」
そう言って、ガルムは食べ終えた弁当をみて自分の肉とふりかけの掛かったご飯だけの弁当を思い出す……こんな弁当をグレース出しては、もはや一周回って小馬鹿にしてるとも捉えかけられない。
「……料理かぁ。ちょっと頑張ってみるか。」
「おっ、その行きだぜ兄弟!」
「アンドー兄ィ。色々相談乗ってくれて助かりました。」
「良いってことよ、また俺にできることがあったら手ぇ貸すぜ!」
「ありがとうございます!そんじゃ、俺はそろそろ現場戻りますね!」
「おう!気張っていけよ!」
ガルムは深々と頭を下げると、その場から立ち去る……アンドーはそんなガルムの後ろ姿を見て、静かにつぶやいた。
「頑張れよ兄弟!お前の恋路を、
アンドーがそう言うと、彼のドリルがまた独特な重低音と振動を響かせた。
「おぉ!兄弟なんだ?ガルムに嫉妬してんのか?へへっ、まぁ許してくれよ。ああいう年頃の奴の恋路は応援したくなるのが兄貴ってもんなのよ!だから拗ねんなっての!」
アンドーはそう言って、重低音を響かせる動力ハンマードリルを、ひたすらにたしなめるのだった。