義手持ち少年はグレースさんのスキンシップに耐えられない。 作:純情な感情
その日……新エリー都のとあるビデオ屋にガルムは訪れていた。料理の教材になりそうなビデオを探しにきていたのだ。
ガルムはビデオを難なく借りれると、ビデオ屋の近くのあるコーヒーショップの近くを通る……すると、そこには見知った顔が居た。
少し小柄な体格に、赤い髪……間違いない。白祇重工の現社長であり、ガルムの義姉。クレタ・ベロボーグだ。
ガルムは咄嗟にクレタへと声を掛ける。
「あ、大姉御。」
「お、ガルムか……あと今はオフだろ、大姉御はやめろ。」
「……わかったよ。クレタの姉御。」
ガルムが少し小っ恥ずかしそうにそう呟くと、クレタは満足そうに頷く。年齢的にはガルムはクレタと同年代――なんならガルムのほうが若干年上――なのだが、一応クレタが姉……と言うことになっている。
まぁ、ガルムもそれに異論はない。態々そこに反論するのも妙な話だ、事実ガルムは年下であっても白祇重工をここまでのし上がらせたクレタを姉御と慕っている。
すると、クレタは近くのコーヒーショップを見て指を差しながら呟く。
「応、お前暇か?折角なら茶でもどうだ?」
「いいな、付き合うよ。」
ガルムがそう言えば、クレタは満足そうに頷いてそのコーヒーショップへと急ぐのだった。
コーヒーショップの中で、2人は落ち着いた時間を過ごす……焼けるパンの香ばしい匂いが辺りを包む。それは、二人の空腹感を刺激するには十分なものだった。
2人は我慢できずにコーヒー都共にケーキを注文してしまい、2人は待つ間に珈琲を嗜みながら過ごす。すると、ガルムが気になっていたことを問いかける。
「にしても、クレタ。こんな所に何の様なんだ?それにどういう風の吹き回しだ?俺をお茶に誘うなんて。」
「いや、ここにきてお前とあったのは偶然だ。お前を誘ったのは……ほら、最近仕事が忙してあんまり話せなかったろ?家もお前は寮の方に行っちまったしな。」
「あぁ……まぁ、な。」
確かにグレースとは義手の点検で度々会うが、クレタとはあっても仕事の話ばかりでこういったプライベートの話はほとんど出来てなかった気がする。
「ま、それ抜きにしてもたまにゃ社員と腹割って話すのも必要だろ?……んで、姉貴とはどうだ?」
「クレタもそれかよ……」
ガルムはそう言って肩をすぼめる。
「この前はアンドー兄貴にも同じ事を聞かれたよ。ベンさんは気を使ってあんまり聞いてこないけど……」
『ま、そんだけみんな気にしてんだろ?』
「そういうこった!」
そう言ってガドヴェドの言葉を肯定したクレタが、ギザ歯を見せて口角を上げて笑みを浮かべると、ケーキがテーブルに届く。
二人はケーキを受けとると、互いに同じタイミングで同じところをフォークで切り出して頬張り、その甘味に魅了される。
「うめぇなこのケーキ!」
「うん、いける。」
2人はそんなふうなことを呟きながら食べる……やはり、ケーキは甘く無くては。脳が幸せに満ちていくのを感じながら、2人は会話を続ける。
「ま、その様子だと進展は無し……か?」
「あぁ……まぁ、な。」
そう言ってガルムは肩を窄める……すると、クレタはへこむガルムの肩を叩いて励ます。
「そんなに落ち込むなって!」
「あぁ、ありがとう。だけどなぁ、男として明らかに意識されてないって言うのはキツイ……」
「姉貴は機械にべったりなのは知ってんだろ?」
「それはそうだけど……」
すると、ガドヴェドも口を挟んでくる。
『大体お前のアプローチが足りねぇんだよ。こういう時だけ初心になりやがって!このオセンチ野郎が!』
「うるせぇよ!?それに、俺だって考えはあるんだからな……」
「おっ?」
クレタが興味深そうにしているのを見て、ガルムは少し溜息をつきながら、手にしたバックから今日借りた料理のビデオを取り出す。
「……少し、料理の勉強をしようかなって。」
「いいじゃあねぇか、お前の料理のレパートリー昔っから酷かったからな。」
「べ、別に食えないものは出してねぇだろ!」
ガルムは思い出す……昔、まだガルムがクレタやグレース達と共に住んでいた頃。
飯の当番が回ってくると毎度同じ様な……焼肉のたれで肉を焼いただけのメニューを出して渋い顔をされた事を。
クレタも今になって思えば良い思い出だが、当時はコイツこの先大丈夫かと若干不安になっていた。事実、料理のレパートリーはあの頃から一切増えていないのだから、その不安は正解だったとも言える。
『んで、その増やしたレパートリーを使ってグレースへ弁当を差し入れしようって魂胆だ。』
「いいんじゃねぇか?応援するぜ、あたしは!」
そう言ってクレタはガルムの肩をまたバシバシと叩く。ガルムは目の細めながらうざったそうにする……
「もぉ、応援してくれのは有り難いけどさぁ。と言うか、ここまで重工内で噂になってんのになんで当人気づかないんだよぉ……」
「さっきも言ったろ!機械にべったりだって!文句言うなら、自分からアプローチすんだよっ!」
「いってぇ!」
クレタはガルムの肩を思いっきり叩くと、ガルムはジンとくる痛みに顔をしかめる。クレタはあ、悪いと一声かけると、二人はまた同じタイミングでケーキを掬って食べる。
「でも……そうだよな。文句言うよりも言葉にするのが先だよな。」
『だから俺は何時もそう言ってんだろ?相棒?』
「お前の案は極端すぎるんだよ、押し倒せとか言ってきやがって……」
「押し倒――!」
クレタは顔を真っ赤にしながら声を荒げる。
「駄目だぞ!テメェそう言うのは!」
「しないよ!?ガドヴェドが勝手に言ってるだけ!」
「マジだな!?マジだよな!?」
押し倒すと聞いて、いろいろな想像が真っ先に来てしまったクレタに、それをたしなめるガルム……それを見て笑うガドヴェド。
そなんやかんやありながらも、二人は久しぶりの姉弟としての時間を過ごすのだった。