「俺はな!お父さんって呼ばれたいんだよ!」 作:フウカの父
「う~む。どうだったかな・・・」
文字を打つ手が止まる。
いくら前世でのヒット作を書いているだけとはいえ、その量は膨大な訳で。
時々詰まることがある。
「・・・」
そんな時、僕はいつも散歩をする。
ある程度汗を流すことで、心機一転とまではいかないが
集中力を回復することが出来る。
慣れた手つきで、用意を済まし家を出た。
季節は秋。
田んぼでは収穫を終え、秋耕をしていた。
その上でアキアカネ達が飛び回るのどかな風景が続いている。
山の落葉樹林はすでに葉を落とし、まさに裸樹。
唐突だが裸・・・という単語を考えていると
『黙れば天才、喋ると変態、歩く姿は露出狂』
な自らの娘を思い出し何だか恥ずかしくなった。僕のせいか..?
いや、どうせ元からアレだったからなぁ・・・
でも、悪化している様な…
もっといい方向にエネルギーを使ってほしい物だ..。
しばらくの間、寝る前のグルグル思考が止まらない様にあの娘の事が離れてくれなかった。
もう矯正局にぶち込まれた娘も居るからなぁ…
まぁ知ってたから動揺しなかったせいで色々あったけれども…
だから米花町とキヴォトスには来たくなかったのに…
神は死んだ…
そんな事を考えながら、歩いていると。
ふいに強いにおいが鼻を突いた。
銀杏か・・・・
見ると、イチョウ並木の鮮やかな黄金色が続いていた。
「雄株なら、きれいなイチョウ並木だけが観られるのだがな…。」
いつまでたっても慣れない匂いだ…。
構わずに歩き続ける。
慣れないが、懐かしい。どことなく居心地の良さを感じていた。
並木を抜けると野原が広がっていた。
日が山々の間から顔を出すと、風に揺られる草たちが一層美しく見えた。
彼らは雑草という名前だが、踏みつけられてもしぶとく生きる生命力を僕は好いていた。
生命というものを感じさせてくれる、ひたむきに今日を頑張る彼らに勇気をもらっていた。
台地の原っぱから下を見下ろす。
野原から見下ろす町はとても小さく見えた。
でも、そこには一人一人の人生があるのだと思うと僕は世界の大きさを感じずにはいられなかった。
一人一人が街を作っている。
そこには、人間だけでない動物も含まれている。
生命の繋がり・・・
街を眺めていると、フウカの通っている学校の校舎を見つけた。
子供が少ないから、小中一貫校ではあるが、全校生徒の数は意外と多い。
校門から子供たちが出てくるのが見えてくる。
「もう、そんな時間か・・・」
フウカもそろそろ帰ってくるだろう。
「そろそろ帰るか・・」
帰り道、イチョウ並木を通っている時にふと思った。
「何か…久しぶりに食いたくなってきたな・・・」
普段からポケットに入れている袋を取り出した。
掴む物は無い…が大丈夫だろう。
…知らんけど
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「ただい…」
玄関を開けた瞬間に、思わず息を止めた。
「な、何この匂い・・・」
酷い異臭が家の中に充満していた。
「・・・・・・」
意を決して家の中に入っていく。
「え?」
台所にはビニール袋を持ったまま悶絶しているあの人が居た。
どうせまた、変な事をしたのだろうなぁ・・・。
「こ、今度は何ですか?」
「い、家の中で開けたら匂いが充満して」
袋から出されたにおいの元(銀杏)を見て思わずため息が出る。
「屋外でやればよかったのに…」
それを聞いたあの人はまさに目から鱗が落ちるような顔をした。
「後は、私がやります」
そう言うと心底嬉しそうに押し付けてきた。
「あーー、助かったよ。
『きっといいお嫁さんになる』ってFISH竹中さんが言ってたよ」
竹中って誰⁉⁉
突拍子の無い会話に思わず反応する。
最近こうした感情の起伏が人を幸せにするのだろうと思う。
…トラブルが少し多い家ではあるが、居心地のいい場であると再認識させてくれる。
まだ、数年しか住んでいないがもう離れたくない気持ちがここにある。
「ところで、さっきから何で手をこすってるんですか?」
「いやぁ、何かさ。痒くて…かぶれたかな?」
(눈_눈)
「はぁ~~」
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か、痒かった・・・
もう二度と触らない。そう誓った。
数日間のかゆみを乗り越えた自分を待っていたのは…
茶碗蒸し(IN銀杏)であった。
正直、何とも言えない気持ちになったが、フウカの前では気にしていない様に食べた。
...美味かった。
思わず
「びゃあ゛ぁ゛゛ぁうまひぃ゛ぃぃ゛」と言って寒い目で見られたが。
…また、採りに行こうかなと思える程に。
自分は単純だなぁ。と思う。
「...次は、ちゃんとした装備で行ってくださいね」
おっと、見透かされていた様だ。
「…まぁな。覚えてたら…」
その回答を聞いて、呆れるフウカ。
「…でも、僕が忘れていても。二人なら忘れないだろうなぁ…」
遠まわしなお誘い。紳士は何もかも遠まわしに言うものさ。
「…そうですか。なら明日にいきませんか?」
少し照れ臭そうに聞いてくる。
「行けたら行くわ!」
「えええええええええ!自分から誘っておいて!?」
「冗談、冗談。」
思ったよりもいい反応するなぁ…
「じゃあ、明日ね」
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後日
二人で採集していると後ろから声がした。
「おい!フウカ。おい見ろよッ! 事故だぜッ!」
貧乏人が、たまたまその現場を通りかかった様な声に振り返る。
それは正しく事故だった。
薄くなっていた靴に季節外れの栗が突き刺さる。
そんな事故であった…
「ははっ貫通してるよ…姦通だけにな…」
震える声で言っている。
しばらくの無言の時間が過ぎた後、あの人が叫んだ。
「と゛お゛し゛て゛た゛よ゛お゛お゛お゛!」
冬を知らせる風が吹いていた。
銀杏は匂いさえ無ければもっと好きだったかもしれないが、
匂いが無かったら、それはそれで寂しく思う自分が居る。
高評価してくれると嬉しいです。