「俺はな!お父さんって呼ばれたいんだよ!」 作:フウカの父
☆10 ラケットさん
☆9 ひゅうがなつさん GP-03-Dendrobium-さん E-STさん tuiさん 石沢蒼一楼さん
☆8 ガトリンゴさん
今更ながらで恐縮ですが、ありがとうございました。
励みになります。
人がごった返す駅のホームはまさにおしくらまんじゅうの様で押され、押し合う。
少し飲まれそうになるも人波はすぐに終わり、駅を出る。
白いマフラーを揺らしながら歩く。
凍える片手はポケットに突っ込み、右手を揺らしながら歩く。
自らの吐く息が煙の様に風に靡く。
寒く感じ白くなった手に息を吹きかけようと思うも、
既にかじかんでいる手を出そうとは思わなかった。
銀世界はまさに白だらけである。
季節は晩冬。
人の流れに逆行していると、まるで某逆走爺になった様に思う今日この頃
通勤通学の人々とすれ違いながらも大衆の動きに反する様に歩き続けるのには少し勇気が要る様に思う人もいるのだろうが、案外人は人に興味が無いものだ。
気にせず進むにつれてどんどん人が少なくなっていく。
人の波を越えると閑静な町が続いた。
進み続ける…
建物も少なくなり、人気を感じなくなった頃に見えてくる。
ゲヘナの隅にある墓地。
「久しぶり。愛清さん…」
小さなお墓の前にしゃがみ込む。
見ると、もうお酒が供えられていた。
いかにも高そうで、美食に合いそうな…
それを供えたであろう白い肌に銀髪の女性が頭に浮かぶ。
…そういえば、あの二人は仲が良かったな…。
親から子へ..
不思議な縁だな…きっとあの娘たち…フウカとハルナはこの世界でも交流するのだろう…
「君が居ればなぁ…」
台所に二人が立っている想像をする。
フウカとの神懸かった連携を見せくれただろうか。
墓に水を掛けながら普段言えない事を吐露し続ける。
「…じゃあ、また来るよ。」
自分が父親だと…そんな大事な事なのにいまだ言えていない。
墓の前でしか、本音で話せない…
どんなに仲が良くても、家族でも…何かを隠し続けるというのは疲れるという事を改めて思う。
でも、大切だから…言いたくないんだろうな…。
もう雪が少なくなってきた道を進む。
歩いているとピンク色の物が視界に入る。
「ぁ…梅だ。」
また春が訪れようとしている。
そんな日常の些細な変化を楽しみながら、歩き続ける。
見慣れた景色。
普段使う道のデコボコ。
芽を出した植物。
桜もすぐに咲いてくるだろう。
「ただいまー。」
・・・返事が無い。まだ帰ってきていない様だ。
「暇だ…」
一人縁側に座り空を眺める。
う~む…尻が痛くなってきたな…
…硬いものに座ると体が痛む。
何か…クッションが..
そういえば…アレを出そうかな…
蔵を漁り…
という程奥には無かった。
「見つけた…」
何の変哲もない木の椅子。
座枠にはピンクのクッションがはまっている。
それを置き一息つく。
「ふぅ~~」
縁側に置いた椅子にもたれかかる。
…ちょっと、眠たくなってきたな…
「起きてください!」
何だよ…ファッ⁉
もう外は真っ暗だった。
「悪い悪い…」
体を伸ばす。
伸びている僕を見ている時にフウカは椅子に気づいた様だ。
「あれ?この椅子..。」
フウカが椅子をまじまじと見つめる。
そうしている内に思い出した様だった。
「まだ、あったんですね..」
「…懐かしい?」
その椅子はあの家…"フウカと………が暮らしていた家"にあった物だ。
_________
数年前
「…ここか。」
どうやら二人はこの住宅に住んでいたらしい。
かなり古そうな物件だった。
鍵を差し扉を開ける。
中は埃一つ落ちていなかった。
「・・・・・・」
選別しながら物をゴミ袋に詰めていく。
服、小道具達。・・・アルバム
どれも捨てたくはないが、それでは一向に減らない。
…だからしょうがない。
ゴミ袋はどんどん重くなっていく。
「これ…懐かしいな」
見覚えのある髪飾りが…着物と一緒に出てきた。
綺麗な花の髪飾り…
昨日の事の様に覚えている。
まだ、持っていてくれていたのか…
壊さない様にそっとポケットに入れた。
・・・・今、思い返せばこの家の家具はどこか見覚えのある物ばかりだ。
食器棚の左から2番目のティーカップも…
傷のあるテーブルも…
在りし日の記憶を思い出す。
「幸せだったな..。」
ゴミ袋に入れる度に記憶が蘇ってくる。
昔を懐かしむとついつい手が止まってしまう。
粗大ごみも終えた頃にはもう夕焼けの赤い太陽が部屋に差し込んでいた。
最後に残った木の椅子…
…片膝立てで椅子を眺める。
記憶の動きをトレースする。何もない空間を撫でる。
「赤ちゃん…」そう呟いていた君のお腹を撫でた記憶
「あれ…なにこれ?」
何も出来なかった過去の自分
頭では"それが”何かくらいは分かっていたのに言葉に出てこない。
「っ……、ぅ……」
目からこぼれ続ける。
あの頃の鮮明な映像を…笑顔を思い出すたびに…
頬を噛みしめる
床にうずくまる。
...持っていた写真を破り捨てた。
何時の間にか寝てしまっていた様で携帯のバイブレーションで目を覚ます。
「…はい。」
「…タケオさん。今日は…帰ってこないんですか?」
…フウカからの電話だった。
時計を見ると、思っていたよりも時間が経っていた。
「…いや、すぐ帰るよ。ごめんね。今日は連絡をしていなくて」
電話を切り急いで帰り支度を済ます。
家に着いた頃にはもう夜中になっていた。
あの娘…フウカはもう寝てしまっていた。
フウカの寝顔を眺めていると、自分と…彼女の面影を感じる。
いや、むしろ自分が似たのだろうか。
そうなるとまるで運命で決まっていた様に思える。
彼女は..幸せだったろうか。今となっては分からない。
僕に出来る事…
それはこの子の面倒を見る事だろう。
だから…より頑張っていこうと思った。
僕がこの娘の父になる運命だったというのならその運命に従おう・・・そう思った。
_________
…懐かしい記憶だ。
ふと、ある物が脳裏に浮かんだ。
あの日破いた写真。
僕と……の写真は何処にしまったのだろうか?
探しても見つからない..
そのことを何故か残念に思った。
僕が思い出している間にもフウカはこの椅子を眺めていたが、
椅子を懐かしそうな顔をした後に少し残念そうにフウカが言う。
「でも、私はもうお母さんの事をあまり覚えていないので…」
「…そうか。」
それは何だか…寂しいなぁ。
その事が引っかかり続ける。
夕食を食べている間もそれがしこりとなって残っていた。
そういえば…あれは捨てていなかった。
「フウカ。ちょっと良いか?」
お風呂上がりで髪の毛が濡れているフウカに声を掛ける。
「はい?どうしましたか?」
厚い冊子をフウカに渡す。
「…?・・・え、これ!」
…冊子をめくり驚くフウカ。
「もう..これしか写真が無くてさ。」
二人でアルバムをめくっていく。
「でも、思い出せるかな?」
昔を思い出す。
アルバムの最後は半分が破れた写真が張り付けてあった。
「すごく…懐かしいです。あの…これ貰っても?」
アルバムを抱きしめながらお願いをされる。
「もちろんだ。」
「そういえばあの家。まだ残っているらしいよ」
ついでに墓にも寄ろう。
「今度一緒に行かない?」
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主の居なくなった書斎の机の上。
破れて二枚になった男女の写真…
別れて何年も経つ写真が再び一つとなる。
片方には嬉しそうな女性が、もう片方には少し仏頂面の…でも、少し嬉しそうに見える男性の写真。
机の上…太陽に照らされた二人は随分明るく見えた。