「俺はな!お父さんって呼ばれたいんだよ!」   作:フウカの父

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冬の終わり・春の始まり

 

「もう冬も終わりだな」

梅の花を見て思う。

 

そして、春の始まりだ。

 

桜が待ち遠しい今日頃ごろ。

 

路地を通り家への近道をする。

 

細い壁の上に横たわる猫を見つめるが、奴らはすっかり人間に慣れているのでこちらを一瞥するとすぐにそっぽを向く。

 

猫か…昔を思い出すなぁ。

 

こういう路地も日本を思い出させる。

 

「懐かしいなぁ。」

 

望郷の念が出てくる。

 

昔はあんなにも帰りたかったのに…

 

結局のところそれが叶いそうに無い事に気づいてしまってからはそんな気持ちも湧かなくなっていた。

 

それでも、この地域に住んでいるから…

そういう気持ちは無くなってはいないのだろう。

 

 

先程の猫が顔をあらう仕草をし始めた。

 

そういえば、今日は雨が降るのだったか。

 

「急いで帰ろう…」

 

走り出した。

 

 

家に到着してすぐに雨がぱらついてくる。

 

 

 

 

そういえば…フウカは傘を持っていただろうか?

 

傘立てを見るとフウカの傘が置いてあった。

 

「しょうがないなぁ…」

 

2つの傘を持ち家を出た。

 

偶に通るバスの水しぶきを警戒しながら土手を歩く。

 

途中のトタン屋根のバス停が見えてくる。

 

錆びているせいで逆に元から赤い色の物だった様に見えるのが不思議な感じだ。

 

そのバス停からぴょこんと飛び出ている黒髪が見えた。

 

近くまで来ると、それが雨空を見ているフウカだと分かった。

 

「おっ。いたいた。」

 

駆け足で近づいていく。

 

「おーーい。」

 

手を振りながら、近づいていく。

 

声に反応したフウカがこちらを見る。

 

「あっ、タケオさん..」

 

買い物袋を持ったフウカがこちらに歩いてくる。

 

「どうしましたか?..こんな雨の日に」

 

不思議そうな顔をされる。..傘持って来ただけなんだけどな。

 

「ほら。フウカ傘持ってないだろう?」

 

フウカの傘を広げようとする。

 

バキィッ!

 

・・・・ん?何だこの音。

 

なかなか開かない。

 

「こっこのぉ..」

 

さらに力を加える。

 

「あっ、それ壊れてますよ。」

 

ダニィ!?それじゃあ、これを持ってきたのも徒労だったのか..。

 

「あー、無駄な事したな。こういうのも無駄だから嫌いなんだ..」

 

そして、残ったのは大きな傘一本だけ。

・・・・そういえばフウカが傘を忘れるなんて事をするのだろうか。

 

「もしかして折りたたみ傘とか持ってる?」

 

そう聞くとフウカはポケットに手を入れる動作をした後に少し緊張した様な顔をした。

 

「…その…持っていないです。」

 

顔をかきながら言う。

 

…まじか。珍しい事もあるものだ。

 

「なので..傘に入れてくれませんか?」

 

少し恥ずかしそうにフウカは言う。

 

「当たり前だよなぁ?もとよりその気だ。」

 

フウカを雨で濡らす訳にはいかない。

ちょうど僕の傘は大きいサイズだから二人入ってもも大丈夫だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

二人隣り合って歩く。雨は未だ降り続いている。

 

「もう暖かくなってきたな」

 

冬の厳しい寒さも終わり、少しずつ春の息吹が髪を揺らす。

 

「そういえば、何で壊れた傘を置いていたんだ?」

 

肩の当たる様な距離のせいかフウカからの感情が伝わる。

 

…呆れの感情が..。

 

「…一応言いましたよ。」

 

そうだっだのか..これは失礼。

 

「いつも忘れてます…」

 

 

一言や二言を忘れるくらいオセアニアじゃ常識なんだよ

 

いつもの様に誠意の入っていない謝罪を言う。ここでフウカが溜息をつくまでがお決まりのパターンだ。

 

「…オセアニアってどこですか?」

 

意外!それはオセアニアッ!

 

何というか..。説明に困るな。

 

「その・・何というか。

キヴォトスの外には大きい海があってな。その一部の島々をそう言うんだ。」

 

キヴォトスの外の話をするとフウカは興味深そうに聞き入っていた。

 

もう見る事のできない物達を想いながら話を続ける。

 

大事なもの、好きな物、家族の事を話し続ける。

 

 

 

 

「当時は何も思わなかったけれど、今になってこう思うなんてね…。

自分の大切なものくらいもっと早くに分かっていればなぁ..。」

 

後悔はある。いや、後悔しかないか…。

 

「…それって。」

 

フウカが何かを言おうとした。それを遮るように言葉を続ける。

 

「ほら、もう家に着いたぞ。」

 

今日は色々思い出して、もう疲れてしまった。

 

 

 

雨はもう止み、薄っすらと虹が掛かっている。

 

 

 

 

 

願わくは君の人生が僕と違ってあの虹の様に色鮮やかであらんことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

季節の移り変わりは早いものでもう桜が咲くような時期になってきた。

 

また毛虫まみれになってしまうのだろうな…と思いながら朝食を食べているとフウカがこんな事を言った。

 

「桜を一緒に見に行きませんか?」

 

つまりお誘いである。

 

僕はもちろん即答した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、断る

 

 

なんて事はもちろん言わずに承諾した。

 

 

 

二人で満開の桜の下を歩く。視界はまさに桜色。この優しい色が僕は大好きだった。

 

二人歩いているとフウカが口を開いた。

 

 

 

「そういえば..タケオさんはキヴォトスの外から来たんですよね?」

 

フウカの質問に思わず動きを止める。前の話の続きだろうか?

 

「…あぁ。そうだね。」

 

「家族もそこにいるんですよね?」

 

…家族や友人たちは幸せに暮らしているだろうか…そんな思考が頭をよぎった。

 

「居るよ。もう..帰れないけどね。」

 

望郷の目をしていたのだろうか…

 

僕の顔を見た後のフウカは少し気まずそうな顔をしていた。

 

「帰りたいんですか?」

 

後悔はある、それでも。

 

「でも、帰りたい訳では無いんだ。」

 

君と居れたら僕はもっと..。

 

「生きていく場所は人それぞれだからさ…僕は此処で頑張っていくんだ」

 

大切な自分の居場所

 

・・・それを見つけることが幸せなのかもしれない。

 

「そうですか。」

 

少し嬉しそうなフウカ。

 

「ほら、上を見てごらん」

 

僕が指を指した方向には一本の桜が咲いていた。

 

最近、桜に限らず生き物には使命がある様に思える。

 

「フウカは料理かな。」

 

「何か言いましたか?」

 

「いや、フウカの料理は美味しいな…ってね」

 

 

この日々に僕という木が根を張り…

 

「そう言ってもらえると嬉しいです!」

 

君の笑顔が花になる。

 

 

それが僕という桜だ。

 

「だから、僕はずっと君のそばにいるさ。」

 

 

君はどんな花を咲かすのだろうね。どんなに綺麗な花になるだろうか?

 

 

「…はい。」

 

 

 

 

人が人を言葉で理解するのは難しい。

 

 

「フウカ。」

 

だから人は

 

「手を繋がないか?」

 

つながりを求めるのだろうか。

 

 

 

 

 

いつからか握らなくなっていた手を久方ぶりに繋ぎ、歩いていく。

 

 

 

僕があの世界の話をすると楽しそうな顔と同時に、何かに怯えていた彼女の心に寄り添う事ができただろうか。

 

 

「僕はもう、この世界に生きて死ぬ。僕の人生が終わるまでずっと君と居るよ。」

 

 

「何ですかそれ…まだまだ先の話じゃないですか。」

 

笑いながら握る手の力を無意識に強めるフウカ。

 

「いつもそばに居てくれて。ありがとう。」

 

「こちらこそありがとうございます」

 

 

甘くて暖かい匂い春の匂いがした。




ストックが切れたのでまたしばらくの間アリーヴェデルチ!(さよならだ)





スピードワゴンはクールに去るぜ...


次に会うのは…11月くらいと考えています。
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