「俺はな!お父さんって呼ばれたいんだよ!」 作:フウカの父
全てを知っているのに、助けられるのはほんのわずかだと気づかされた。
ブルーアーカイブ本編において梔子ユメは生存していない。回想では出てくるがどのみち死んでいる。
でも、その悲劇を止めたい。生かしたい。生きてみんなで一緒に笑っていてほしい。
だが、男は知っている。未来にて生徒たちが幸せになる世界があることを。
男は理解している。過去改変によってそれが変わりうる可能性を。
最近、悪夢を見る。
大きな天秤の夢だ。
それに、物が乗っていく。最初、僕は重い方を取る。そうして、何度かそれを繰り返した時いつも同じ状況になる。
片方に数えきれないほどの人、そしてもう片方には・・・・ユメ。
これが、意味することは分かっている。
つまり・・これは・・・
「夢か・・・・」
フウカはすでに出かけたようだ。...こちらも、支度しないとな。
久しぶりのアビドスだ・・・始まりの町。アビドス高校へ歩み始めた。
目当ての人物は既に生徒会室にいた。
「お父さん久しぶりだね!」
久しぶり...ユメ。元気にしてた?
「うん。順調。かわいい後輩もできたから」
そう。
「でも、珍しいね。今日は、特に何の用事も無いのに。」
…まあ、偶には、会いたいさ。
「へー。まあ、今日はありがとうね!」
・・・あぁ。
生徒会室を出て廊下を歩く。途中ピンク髪の女子生徒とすれ違う。あれが小鳥遊ホシノか・・・。着々とタイムリミットが迫ってきているな。
大勢の人を救うか、一人の大事な人を選ぶか。...僕は、勿論ユメを助けたい。だが、大勢の中に大切な人がいるのも事実。
いくら言葉を重ねても言葉にならない焦燥が、頭の中でぎりぎりと軋みまわる。
自分は両方助けたい。...そうだ、両方助けられれば...。いや、僕はそこまで器用な人間ではない。
どこかでズレが生じる。‘先生’が来なくなるかもしれない。それだけは避けたい。
どうすればどうすればどうすればどうすればどうすれば
最近、ずっとそれを考えている。
考えて考えて、必死になるフリをして時間が過ぎるのを待って、「間に合わなかったからしょうがない」なんて言い訳を自分では奥底では望んでいるような気がする。
嫌な考えばかりが浮かんでは消える。自分はこんな人間だっただろうか?
もっと考えない無鉄砲な人間だった様な...。
見えないものに常に監視されているような圧迫感。自分の選択が全世界にLIVE配信されている様な緊張感が胃をキリキリさせる。
ガタが来ている自分では肉体的に支援が難しい。
・・・・・僕では、ユメを、助けられない。
最後に出した結論に自然と反抗する気は失せていた。
もちろん、やれることはやった。お金の支援もしたし、砂漠にはいかない方が良いと遠まわしに伝えた。
だが、先日水着で砂漠の中に何かを探しに行ったらしい。なにか、見えない力を感じる様だ。
例え、アビドスから離れても死んでしまうのではないか。
根拠のない…直感的な考えだが、なんだか自然と信じてしまっていた。
そして、彼女は行方不明になった。他の人はまだ希望を持って捜索していたが、僕はもう諦めていた。
結局のところ自分は何も出来なかった。死亡したと聞いてもあまり動じなかった。
それに小鳥遊ホシノが怒り出した。聞く気力もない自分にとっては言葉を拾うことさえしなかった。
ただ、
「本当は大切に思ってないんじゃないのか!この人でなし!」
この言葉だけははっきりと聞こえた。
大切という単語にか、人でなしと言われたことにか。
あるいは両方か。
心が嵐のように荒れる。
すぐにでも、ここから離れたかった。当たり障りのない会話をして逃げた。
「はぁ…はぁぁはぁ」心臓を締め付けられるような息苦しさで息が詰まり、うまく呼吸ができない。
片手を肩に回し、震える自分の体を押さえ続ける。思わずトイレに駆け込む。
すると、目の前に突然見知らぬ男性が出てきて驚いた。…しかし、それはどこか見たことがある様な…
いや、これは鏡に映った自分だ。
急に歳をとってしまったかのように、顔色がひどく濁る自分の顔に驚いた。
気味悪いものにでも出会ったように後ずさりする。
顔を帽子で隠すようにし、しばらく壁にもたれかかった。
帰る頃にはすっかり暗くなっていた。昼の暴力的な暑さと違い、夜は酷く寒い。
しかし、その寒さがとても心地よく感じた。
…何だか、疲れたなぁ。
「あっ」
小さな石につまずく。立ち上がろうとするも、力が出ない。
それどころか眠気も出てきた。
「もうこのままでいいや...。」目を閉じた。
誰かに体を揺さぶられる。
目覚めたとき、頭上に見えたのは満天の星空ではなく木目の見える天井が目に入った。
「・・・ここは?」
「俺の家だ。」
犬顔の老人が答えた。
どうやら、倒れた自分を家に上げてくれたようだ。
「あなたは?」
誰だろうか?
「・・・覚えてないか?『どしたん?』」
『どしたん?』とは僕の昔のあだ名だ。由来は言うまでもない。
【絶対に避妊をしない怪物】や【奴と目を合わせただけで孕まされる】
という逸話があった(事実)。後に、アビドスではナンパが逮捕案件になった。
「いや、全然覚えてない…」
老人は少し残念そうに見えた。
「...昔、花を買いに来ていただろう。子供と一緒に」
...思い出した。確かに買いに来ていた。…老けたなぁ。
「何かあったのか?」
全てを話した。自分の苦悩も。
「・・・・・・・・・」
老人は黙ったままだった。
...少し楽になった。気づけば空は明るくなっていた。
「・・待て。これを持っていけ」
アビドスの地図が渡される。
「店の位置が変わったんだ。
・・葬式の時に来い。あの嬢ちゃんが好きだった物...用意しとくよ。」
あぁ、ありがとう…。
翌日、僕はまたアビドスに来ていた。
ユメの葬式の前、僕は花屋に行くことにした。
「地図によれば・・」地図にひいてある赤い線を辿っていくとお花屋さんがあった。
着くとすぐ店長は花を渡してくれた。
「ほら、ガーベラ。」ガーベラか………………好きだったよなぁ。あの子。
店の奥に種が見えた。
「…店主さん。もう一ついいかな?」
埋葬を終え。葬式は完了した。
立ち尽くしているホシノに声をかけた。
「これは?」
「花の種だよ。
...花が好きだったから。ここでは四季が分からないから。花で季節を感じられるように」
花があれば人は集まる。きっと寂しくないだろう。
「さよなら、先輩...」
ホシノが寂しそうにつぶやく。
「さよならじゃないよ。」
思わずつぶやく。
「え・・・・・」
「さよならじゃない。会えなくなっても 記憶の中では今も生きている ずっとずっと」
「…」
「だから、いつまでも。覚えていてほしいんだ」
それならきっと、君は寂しくなくなるから。僕は知っている。この先の事を、でも何も出来やしないだろう。
だから、せめて。これくらいの事はしても良いよな。
「お前さん。これからどうするんだ?」
気難しく見える店長の優しさを垣間見る。
「実は、家で娘と二人で暮らしているんです。
まあ、父親だと告げていませんが。」
「そうか…」
「もうこれ以上。家族を増やすのはごめんですよ」
「他人として生きていくのか?」
店長は悲しそうな声で言った。
「…今のところは。」
…もう誰も大切には出来ないだろう。
「…きっと、また誰かを大切に出来るさ。」
「…無理ですよ。優しくないし、誰かを幸せにすることは。」
「では、何故。今も、娘と暮らしているんだ?利がないのに何故そうするのか」
「・・・・・・・・・それは。」
分からない。正直言ってあれはとっさの行動だった。
「それはな、情が移ったからさ。お前さんはまた人に優しくできるよ」
店長が言う言葉を否定しようとした。
「……………」
でも、言葉は出ず。僕は急に走り出した。
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花を持った嬢ちゃんが見えなくなるまで見送った。
…あの男の娘と名乗った嬢ちゃんに花をやった。
あの嬢ちゃんはアイツを「お父さん」と呼んだ。
…過程を見ずとも分かる。お前さんはきっと笑顔で死ねたのだろう。
「良かったな..」
モブA「何だか、アコさんって給食部のフウカさんに似てるよね!」
モブB「それだったら、ヒナ委員長も似てるね」
フウカ「ハハハハハ…(乾いた笑い)」