現代異能バトルに、クソデカハンマーを振り回して殴り込みをかけるTS幼女 作:デカハン
異世界に転移した俺は、気がつけば
しかもどこからどう見てもただの幼女である。
顔こそべらぼうによかったが、それ以外は特に特徴もないクソ雑魚幼女である。
おかげさまで、色々と異世界では大変な目にあった。
貞操以外の尊厳は、全部捨ててしまったと断言できるくらいには。
その貞操も、あと少し見た目が大人びていたら一瞬でなくなっていただろう。
もしくは
しかし、そんな生活もミョルニルさんとの出会いで変貌する。
ミョルニルさんは、インテリジェンスなマジックアイテムだ。
使用者と”契約”することで使用者に大いなる力を与える。
異世界に転移した私のチートは、この美貌とミョルニルさんとの契約適性だったのだろう。
かくして、私はそれまでの鬱憤を晴らすべく無双した。
これまでさんざん苦渋を飲まされてきたのだ。
その借りを返さなければ、納得できるものも納得できないのである。
ただまぁそうしていると、はっきり言って私が異世界でできることはなくなっていた。
そもそも私は異世界で信頼できる相手がミョルニルさんしかいなかったし、異世界に対する愛着もない。
なので、ミョルニルさんがこういった時――
『なぁ、お前さんの元いた世界に帰ってみないか? お前さんの世界の娯楽に興味があるのだ、ワシは』
――それを否定する理由は、どこにもなかったのだ。
◯
ふいに、気配がして目を覚ます。
少し、昔のことを思い出していた。
この世界からすると数週間前のことだが、私からすると数年ほど前のことである。
正直言って、あまり気持ちの良い夢ではない。
ここは、起こしてくれたことに感謝するべきだな。
「――イツキ、イツキ、ここにいたのね」
「……転校生か、どうしたの?」
「もー、ミアって呼んでって言ったじゃない!」
今、私がいるのは学校の屋上だ。
昼休みに、昼食を食べた後ここでウトウトしていたのである。
他にも目的はあるが、そちらは今は関係ないので割愛。
「むしろイツキこそ、なんで屋上にいるの? 暑くない?」
「別に。暑くないよ」
屋上に人気はない。
もともと、今の時期暑すぎて人気のないスポットなのだ。
お陰でこうして、私は昔の漫画みたいに屋上でのんびり過ごせているわけだけど。
私の場合は、暑さに耐性があるから気にならないのである。
「イツキはすごいわ、こんなに可愛いし、暑さにも強い!」
「抱きつかれると流石に暑い……」
ミア。
如月ミア。
数日前に私の学校にやってきた黒髪ポニテの美少女。
とにかく目を引く美少女で、背丈は百六十あるかないか。
積極的に他人と絡むコミュ力の持ち主で、転校して数日で私より学校に馴染んでしまった。
『……この子が宿滅者、ねぇ』
『全然そうは視えないな。宿滅者ってのは、一つのことにやたらと執念深いイメージしかないが』
ミョルニルさんと、心のなかで会話する。
いわゆる念話というやつだ。
宿滅者とは、ラノベによくある異能者の集まり。
例えば「曲がったことが大嫌い」な信念を持つ者は、「絶対に曲がらない剣」を生み出すことができる。
みたいな。
つまり、誰も彼もが一本芯の通った頑固者。
はっきり言って、ミアとは正反対の存在である。
いや、悪い意味ではなくてね?
「それで、転校生はどうしてここに?」
「転校生じゃなくって……じゃない。次の授業の教室が変更になったのよ。イツキはその場にいなかったから伝えようとおもって」
「それは……ありがとう」
基本的には太陽のような人物。
私みたいなぼっちにも、分け隔てなく声をかけてくれるオタクに優しいギャル。
まぁギャルというほどギャルじゃないけど。
そんな彼女だが、どういうわけか転校してきてからずいぶんと私にたいしてご執心だ。
なんで私を? と正直思うが、聞けば可愛いとか、プリティとか、愛らしいとか。
そんな答えしか帰ってこない。
どれも同じだ。
「イツキはこんなに可愛いんだから、もっと色んな人に知られてもいいと思うのよ」
「いやぁ……私はいいかな。一人でいるほうが気楽だし」
もともと男だった頃から他人と距離を置く性格だったのが、異世界生活で更に壁を作りがちになった結果だ。
まぁ、自分の顔がいいことは認めるよ? 嫌いじゃないよ? むしろ好きだよ?
でもそれを他人に評価されたいとは思わない。
私は自分――とミョルニルさん――が、私の美貌に気づいていればそれでいいのだ。
「まぁ、イツキはそう言うだろうし、無理に……とは言わないけどね」
「転校生の距離感は嫌いじゃないよ。このくらいなら、まぁ拒絶はしない」
「だったら転校生、じゃなくてミアって呼んでほしいわ!」
そこはほら、なんかこう……その方がキャラ立つじゃないっすか。
別にミアのことは嫌いではない。
彼女には悪意がないからだ。
異世界で私に声をかけてくるやつは、悪意を持ってるヤツしかいなかったし。
ミアのような、純粋な善意は眩しいし……嫌いじゃない。
むしろ好ましいと思う。
「とにかく、用件は伝えたから、遅れないようにね!」
「うん、じゃあまた」
変更になった教室のこともきちんと聞いて、ミアとは分かれた。
こういうところで、無理に一緒に行こうとしないのがこちらの求める距離感をわかっている人間の行動だ。
ありがたい。
「――それで」
『なんだ?』
誰もいなくなった屋上で、一応私は周囲に人がいないのをスキルで確認してからミョルニルさんに声を掛ける。
「ミアは、私の正体に気づいてると思う?」
『気づいていないだろう。アレは隠し事ができる性格じゃないぞ』
「宿滅者であることは隠せてるけどね」
『そこはまた、本人の中で意識が違うのだろう』
まぁ、ミョルニルさんの言いたいことは解る。
宿滅者のことと人間関係のことは、ミアにとって全く別のカテゴリなんだろう。
とにかく。
「そういうことなら、こうして私のことを気にかけてるのは、完全に素ってことだね」
『むしろ、気にかけないクラスメイトの方が不自然だがな』
「そこは……多分、私が無理に帰ってきた弊害だろうねぇ」
私は女としてこの世界に帰ってきて、この世界は私が女であることを前提に進んでいる。
男だった頃の世界とは、微妙に世界線が違うのだ。
だってのに、私はクラスでは男の頃と変わらない注目度である。
その矛盾を埋めるために、ちょっとした認識阻害が起きているのではないかというのが私とミョルニルさんの仮説。
異能とか普通にある世界だしね、
「そういうことなら……まぁ、いっか」
『正体も、ずっと隠せるものではないだろうしな』
――現在、私は自分の正体を隠している。
顔も隠してないし、写真だってこの世界の異能者の間で出回っているだろうが、私の正体がバレることはないだろう。
そういうスキルを使っているからだ。
ただ、これがずっと隠しきれるものではないはずだ。
そういう時のために、ミアといい関係を築いておくことはお互いにとってメリットがあるからね。
私と彼らは、現在敵対はしないまでも警戒される立場にある。
いずれは協力関係を築きたいとは思っているものの、今は距離を置いておきたいのだ。
何せ、そもそも私がこうして元の世界に帰ってきたってのに、それでも厄介事に首を突っ込むのは――
「――お、やっと引っかかった」
『では行くか』
そこで、私のスキルにようやく”獲物”が引っかかる。
屋上に私がいたのは、探知スキルを使って街に妖魔が入り込んできた場合にそれを察知するためだ。
妖魔は外界と呼ばれる場所からやってくる。
外界からこっちの世界には「界道」と呼ばれる場所を通る必要があり。
昨夜それを一度潰したばかりだというのに、今朝にはもう別の界道が街にできていたのだ。
正確には、出来つつあった。
なのでこうして、そろそろ完成しそうな昼休みの時間帯をつかって網を張っていたわけなのだが。
結果は当たり。
私はそれを、殲滅しようというわけである。
「ミョルニルさん」
『応とも』
私が呼びかけると、アイテムボックスからミョルニルさんを取り出す。
私はそれを――
「――スキル、”隠密”、”暗殺術”」
複数のスキルを重ねて、
「”遠投”!」
ぶん投げた。
ぐるんぐるんぐるん、遠心力をつけて投擲した。
隠密スキル等によって監視カメラとかにも映らなくなったクソデカハンマーが空を行く。
北欧神話のミョルニルには、投げると戻って来る性質がある。
ミョルニルさんには同様の性質があり、私はそれを利用して――妖魔を狙撃しているのだ。
ずがぁあああ! とスキルがいい感じの手応えを私に伝える。
しばらくするとミョルニルさんが戻ってきて、成果を教えてくれるだろう。
「成功、かな?」
なんとなく手応えでそう判断し、満足げに頷く。
「よしよし、これでまた。私の周りに平穏が戻ったぞ」
――私がこの世界で厄介事に首を突っ込む理由。
それは私の日常が崩れ去らないよう、事前に敵を叩いてしまおうという理由だった。
平穏を守るために、使える力を行使する。
私のやっていることは、ただそれだけのことだった。
◯
――外界は荒れていた。
予てより、外界の妖魔達は大霊地である樟葉市――イツキが暮らす街だ――を襲撃していた。
あの地を手に入れ「境界」をより大きな物にできれば、人類との争いを優位に進めることができるだろう。
本能だけの怪物である妖魔でも、上位の妖魔は知恵にすぐれ、そういった算段ができる。
そうして立てられた算段を元に襲撃は進められていたわけだが、ここ最近はそれが大きく滞っていた。
「ソレモこれも、あのハンマー女ノセイダ……!」
中位妖魔、鴉天狗のヅロは忌々しげに「界道」を眺めていた。
「界道」の先には、件のハンマー女が拠点としている樟葉市がある。
そこを今から、鴉天狗のヅロは攻め込もうというのだ。
「ダガ……我が踏み込みサエすれば……!」
今までは、妖魔内の序列のせいで鴉天狗のヅロが攻め込むことはできなかった。
基本的に妖魔は弱肉強食、中位といえど戦闘力の劣るヅロは上位者を先置いて地上に攻め込むことができなかった。
だがそれも、ハンマー女が邪魔な上位者を排除してくれたおかげでようやく攻め込めるようになったのである。
そうと決まれば、鴉天狗のヅロは居ても立ってもいられなくなっていた。
「アノ女を、ただの女に変えてクレル!」
ヅロの本能は、性欲だ。
故にヅロは非常に高い催淫能力を有している。
女の眼の前に立てば、即座に女が発情してしまうのである。
戦闘力という面では他者に劣るが、対女性であれば宿滅者相手でも優位に立ち回れる能力だ。
少なくとも地上でヅロに匹敵する催淫能力を持った妖魔はここ数年、確認されていない。
警戒が緩んでいるということだ。
こういった、戦闘は苦手だが厄介な妖魔は、ただ戦闘が強い妖魔よりも地上に対する被害が大きくなる傾向にあった。
「”グシザキ”は止めてオケとイウガ、アイツの言う事等誰が聞くモノカ!」
――本来なら、ヅロは地上に大きな被害を出していただろう。
本能に従う妖魔の中では比較的狡猾で、男との戦闘を避けるくらいの知恵がある。
単純に人死が出るタイプの妖魔でないというのも厄介だろう。
界道を通り抜ける瞬間さえ察知されなければ、人間社会に潜伏することも容易な特性をしている。
そう、その瞬間を察知されなければ――
まぁ、残念ながら。
――――ずがあああああ!
結果は、界道を抜けた瞬間に頭部を潰されるという結果に終わるのだが。
なお、余談だがイツキには催淫耐性のスキルがあり、そういったスキルは完全遮断できたりする。
が、そのことが判明するのは、今ではないのだった。
このモグラ叩きは被害者が即死するため、今のところ妖魔側に何が起きたのかはバレていません。
怖いですね。