現代異能バトルに、クソデカハンマーを振り回して殴り込みをかけるTS幼女 作:デカハン
これまで何度か話をしたが、
精神性が異能として発現するのは、創作の上ではよくある話。
この世界の場合は、それが
そしてだからこそ、強い信念を持っていないとこの世界の人間は異能を発現しない。
信念を強くするためには、その信念が強固であり、一本筋通ったものである必要がある。
ブレたり、複数あっては強固な信念たり得ない。
故に、この世界の異能者の異能は、絶対に一人につき一つ。
これまでの宿滅者との短い付き合いでも、それはなんとなく伝わってきていたのだが。
『ミア、どう考えても複数の異能使い分けてるね』
『ワシ知っているぞ、――だがここに例外が存在する。ってやつだろう』
名作だよね。
ともあれ、ミアはどう考えても複数の異能を使い分けていた。
私とミョルニルさんが眺める先で、彼女は獅子奮迅の活躍を見せていたのである。
結界に入ったことで、戦闘用の衣装を身にまとったのだろう。
なんか、一瞬で着替えるアイテムがあるらしい。
露出の多いソシャゲみたいなデザインの巫女服。
うーん、胸がでかい。
ちなみに私も服は着替えているぞ、こっちはアイテムボックスに装備を変更する機能があるので一瞬だ。
デザインがソシャゲっぽいのは変わらない。
胸は小さい。
「はあああ!」
相手をしているのは、無数の餓鬼とアレは――河童だ。
基本的に妖魔は、御当地の妖怪や悪魔をモチーフにしていることが多い。
それこそ北欧の方なら、北欧神話にちなんだ妖魔が登場するそうな。
河童は創作のイメージ通り、水棲の妖怪。
炎の通りが悪く、電気の通りがいい。
そんな河童に、ミアは稲妻をほとばしらせて攻撃している。
周囲の餓鬼を消し炭にして放ったそれは、痛烈に河童を追い詰めていた。
「面妖! 面妖! 餓鬼相手に使ってイタ、炎はドウシタ!?」
「教えないわよ!」
妖魔にとっても、宿滅者が一人一能力であることは周知の事実。
複数の異能を使い分けるという時点で、困惑するのも無理はない話だ。
ミアもその利点はよくわかっているのか、稲妻を河童に飛ばしつつ餓鬼には炎で強襲していた。
とはいえ、同時に河童も感じているだろう。
――この稲妻、少し出力が弱い、と。
「意気揚々と俺様の結界に乗り込んでキタ割ニハ、大した宿滅者ではナイナ!」
「どうかしら。多少威力が弱くても、アンタを倒すには十分よ!」
その様子から察するに、ミアは複数の異能を使い分けられる代わりに、一つ一つの異能の出力が弱いのだろう。
オールラウンダーが器用貧乏ってのは、よくある話だ。
河童もそれがわかってきたからか、冷静さを取り戻してミアへ接近しつつある。
『このまま近づかれると不味いかも』
『もしもの時は、お前さんが助けに入ればいい――あの時のようにな』
「――あの時?」
そこで私は思わぬことを言われて、つい口から声が漏れてしまった。
無論、隠密を使っているのでバレることはないが、少し迂闊である。
このあたりは、単純に異世界にいた時はそもそもミョルニルさんとずっと二人だったから、念話で話をするのに慣れていないだけだ。
精進、精進。
『なんだ、気づいていないのか。ミアは以前、お前さんが救った一般人姉妹の姉のほうだろう』
『ええそれどれの話……えっと、
『そうだ』
なんと。
あの姉妹のお姉さんがミアだっていうのか。
いかん、他人の顔なんて覚えてないから、当時の記憶と今のミアが一致しない。
『人の顔を覚えるのが苦手だな、お前さんは』
『もともと人付き合いしないコミュ障な上に、異世界だとミョルニルさんに合う前は人間不信だったからなぁ』
ジンルイ……ニクイ……状態だったのも相まって、人の顔を覚えるのは苦手だ。
ともかく、ミョルニルさんが言うならそうなんだろう。
今更言ったのは……まぁ、ミョルニルさんも忘れてただけだと思うけど。
『つまりミアは、この年まで宿滅者じゃなかった……と』
『そうなると話は簡単だ。あの女には、宿滅者になるほど確固たる信念がない』
良く言えば、柔軟なのだろう。
故に複数の信念をその場に応じて”使い分ける”ことができる。
そう考えれば、彼女の複数の異能を使う理由も納得がいく。
『そうなると今度は、そもそもどうして宿滅者になったのか、ってところが疑問になるわけだけど』
なんかこう、私は外部の人間だから、メタ的にこう考えてしまう。
そこには別の理由があって、それが彼女を特別たらしてめているのだ……と。
『なんだか、あの子が物語の主人公みたいだね』
『宿滅者は因果なものらしいから、あながち間違いではないかも知れないな』
なんて話をしていると、河童が動いた。
電撃をかいくぐり、接近。
そして一気に飛びかかったのである。
「――女、クウ!」
「犯さないだけ、紳士的ってわけ!?」
どうやら、河童の野郎は食欲に特化した本能を持っているらしい。
下位の妖魔は雑多な本能に支配されているが、中位の妖魔は一つの本能に特化していることが多い。
大抵は食欲か殺人欲、もしくは性欲である。
「クウ! クウ! ケケケケケ――――!」
「……っ!」
そして、本能に忠実になった瞬間、爆発的に中位の妖魔は出力を増す。
それをどう対処するかが、宿滅者の腕の見せ所。
こうなっては、出力の劣るミアでは電撃だけじゃ河童を止められないだろう。
さて、どうするか。
アイテムボックスの中でミョルニルさんを手にして、趨勢を見守る。
すると――
「い、や……! やめて!」
眼を見張るべきことが起きた。
ミアは拳を突き出すと、その腕に稲妻をまとわせた。
それで迫りくる河童を殴りつけたのである。
一瞬のことだった。
それまで、ちょっと威力不足だったミアの異能が一転、一気に威力を増していた。
稲妻をまとってこそいるが、拳一つで河童をふっ飛ばしたのである。
――これは、
『身体強化と併用している?』
『窮地に陥った瞬間、爆発的に出力を上げてもいたな』
興味深い現象だった。
とはいえ、これでミアの方は状況が決定的になっただろう。
河童は今の一撃をまともに受けて悶え苦しんでいる。
そこにトドメをさせば、戦闘は終わりだ。
だから――
「――――チチッ!」
――その瞬間、飛来するナイフを私はアイテムボックスから取り出したミョルニルさんで弾いた。
同時に、ミア達から距離を取る。
隠密をしているから気取られることはないが、それでも念を入れて……だ。
「んじゃ、後はこいつを倒して結界を崩すぞ」
『――応とも』
言葉とともに、私はミョルニルさんを構え直す。
相対するのは――人型鼠。
もしかしてアレか、ねずみ男ってやつか。
可愛くないなぁ!
「チチチッ! 俺の不意打ちにキヅクとハナ!」
「そっちこそ。私の隠密をよく見抜いたね」
「チチチチチチッ! 俺からしてみれば、そんな稚拙な隠密で誰から姿を隠すんだって話だぜ!」
間違いなく、中位。
口ぶりからして、不意打ちや隠密のような卑劣な手を得意とするタイプ。
私の隠密スキルは、隠密に長ける相手なら見抜けないほどではない。
本来ならそこに、忍び足スキルなどの別のスキルを重ねて効果を高めるのが普通。
今回は、結界に入った当初から隠密オンリーの私に気づいているような気配が私の探知スキルに引っかかっていたから、あえて隙を晒していただけである。
「さしずめ、アンタの本能は――他人を陥れることへの快感か!」
「チチチッ! 誰がわざわざ答えるかよ!」
言いながら、ねずみ男は姿を消した。
見た目通り、卑怯なことを得意とするタイプの妖魔らしい。
こういうタイプは直接戦闘が弱いことが多く、強さの割に妖魔の内部で序列が低いと見受けられる。
だから私の先ほどの推測――妖魔の質が落ちているというのは正しいが間違っているわけだ。
今回の場合は、おそらくミアが相手している河童をこのねずみ男がおだてて、隠れ蓑とする形で展開した結界だ。
河童はカタログスペック通り弱いが、ねずみ男はむしろカタログスペックで測れない強さをしているだろう。
ただ――
『如何せん、お前さんと相性が悪いな。イツキ』
「そうだなぁ」
私には、かなりの精度を誇る探知スキルが有る。
他人に対して悪意のある存在を探知できるというものだ。
その精度がどれほどのものかと言えば、一言で言えば
樟葉市は人口十万人を越える地方都市。
その規模は、当然ながら結構なもんである。
なんでそんな探知スキルの精度が高いかと言えば、私がミョルニルさんと契約した際に真っ先に使えるようにしたスキルだからである。
私は異世界に転移した後、ミョルニルさんと契約するまで異世界特有の能力だったスキルが使えなかった。
その際に、それはもうひどい目にあったもんだから、怪しいやつが近づいてくるのは是が非でも避けたかったのである。
「チチチッ! 行くぞぉ!」
ねずみ男の声が、どこかから響く。
声の方向と、ねずみ男の潜伏している場所が一致しない。
間違いなく陽動だろう。
そして、直後。
私に対して無数のナイフが放たれた。
それらを――
「ど……っせい!」
私はハンマー一つで吹き飛ばす。
妖魔の顔を吹っ飛ばせるハンマーが、ナイフ程度に負けるものかよ。
「見た目通り、馬鹿力だなぁ! チチチッ!」
「私のどこをみて、馬鹿力と言い張るのやら」
そりゃあミョルニルさんを振るってはいるけど、別に馬鹿力ではないぞ。
契約するとミョルニルさんの重さを感じなくなるだけだ。
それを除けば、私の見た目なんて明らかに力のなさそうな幼女そのものだろうに。
――その後も、しばらくナイフが私を襲った。
『ミョルニルさん、コレ……』
『ああ、そうだな』
どう考えても時間稼ぎである。
気がつけば、遠くでミアが河童にトドメを刺していて。
そして私の探知スキルは、あるものを捉えていた。
故に、ある反応を私は見せる。
「――う、ぐ」
突如として、その場に膝をついたのだ。
口から血――自分の唇を噛みちぎってわざと出したものだ――を吐き出して。
明らかに、それは。
「チチチ、毒にかかったなぁ!」
ねずみ男の狙いは、時間を稼いで私を毒で弱らせることだったのだ。
まぁ――
「なんてね」
――正確にスキルで居場所を探知していたねずみ男が、背後から強襲を仕掛けてきた瞬間。
私は何事もなく振り返り、それをミョルニルさんで叩き潰していた。
「ぐ、え!?」
そのまま壁に叩きつけられて。
ねずみ男は困惑している。
「な、ンデ――」
「生憎と……持ってるんだよね。毒耐性」
私がミョルニルさんと契約してから手に入れた二番目のスキル。
毒耐性。
だって持ってないと、毒盛られてお持ち帰りされたりするんだもの。
必要に駆られての取得であった。
いやほんと、なんで私未だに処女なのか自分でもわからない人生送ってるな。
「卑怯……モノ」
「卑怯、違うね」
何にせよ、私達の勝利だ。
発生源の妖魔が消えたことで、結界が消えていく。
結界が消えると、結界内で起きた破壊は無かったことになる。
まぁ、今回は大して物損はなかったけど。
……いや、ミアのほうが大変なことになってるな。
あってよかった破壊保証。
ともあれ――
「生きるためには、手段なんて選んでられないんだよ」
私は、消えゆく妖魔にそう吐き捨てるのだった。
基本的にはイツキの精神面の掘り下げをちょっとずつやっています。