現代異能バトルに、クソデカハンマーを振り回して殴り込みをかけるTS幼女 作:デカハン
最近、笹木野イツキの様子が変だとクラスメイトのキョウコは感じていた。
笹木野イツキといえば、クラスの誰しもが知らないよくわからん地味な少女である。
他人とそこまで絡むわけでもなければ、いじめの標的にするほどの存在感もない。
そんな、クラスでは本当に誰も注目していないような、どこにでもいる普通の女……だったはずだ。
しかしそれがどうだろう。
――最近の笹木野、顔よすぎね?
キョウコはそう感じていたのだ。
無理もない、実際イツキは顔がいい。
というかべらぼうにいい。
さほど美醜に興味のない本人ですら、そこそこ自分の顔の良さを気に入っているくらいには顔がいい。
気付けないのは単純に、イツキの世界線移動による認識阻害が原因なので、キョウコに責はないのだが。
ともかく、キョウコを始めとしてイツキのクラスメイトは、イツキの顔の良さに気づき始めていた。
原因は――
――やっぱ、ミアちが笹木野を構い始めたから?
如月ミア。
少し前にキョウコたちのクラスに転校してきた少女である。
黒髪ポニテの、イツキに負けず劣らず顔のいい女である。
何と言っても胸がでかい。
それはもうやたらでかい。
それでいて腕とかはすごく細い。
マブいグンバツのチャンネーであった。
そんなミアは非常に社交的で、キョウコともすぐに仲良くなった。
もはやソウルメイトなんじゃねとキョウコが思うくらい、ミアは他人との距離感が近い。
そしてそれは、イツキに対しても同様だった。
基本人を遠ざける気質のイツキであっても、ミアは構わずその懐に入り込む。
気がつけば、クラスで最もイツキに声をかけるのはミアになっていた。
そりゃあミアが話しかける以前のイツキは、ほとんど誰からもクラスメイトから認識されていないボッチだったのだから。
とはいえ、実際のイツキはそれはもう顔が良くて、なんで気付かなかったんだと思うほかないくらい派手派手だったのだが。
だって金髪じゃん? あれ地毛っしょ? 染めてないよね? マジパネェ。
しかしまぁ、だからこそキョウコは気になってしまうのだ。
――笹木野、普段なぁにしてんだろ。
雰囲気的には、オタク寄りの趣味をしていてもおかしくはない。
暇な時はずっとスマホ弄ってるし、多分リアルよりネットに軸足を置いているタイプ。
だけど、あんだけ顔がいいのにお洒落もしないってのもキョウコ的には違和感がある。
自分の顔が嫌いとかでもなければ、ちょっとくらいは着飾ってみたりするっしょ? って話だ。
だからまぁ、案外街を歩いてたら、私服姿のイツキを見つけたりするかも知れないとキョウコは思っていた。
何せ、アレだけ顔がいいのだから。
見ればすぐに気付くはずなのだ。
とはいえ、
まさか、明らかに子供っぽい、それでいて薄着でへそ出しなんていうコーデをイツキが着ているとは思わなかったが。
キョウコは、町中でイツキを見つけたのだ。
人混みにまぎれていてわかりにくいが、あれは間違いなくイツキである。
そんなイツキが明らかに、小学生くらいの女児が着るような衣服を着ていた。
やたら派手で、薄着。
キョウコはオタク文化に詳しくないが、それはオタクの間では端的に表現できるコーデだった。
すなわち
――え? なんで? 何アレ? マジで笹木野? 嘘っしょ?
キョウコの頭にはてなマークが浮かぶ。
何だあれは、一体全体どうなっているというのだ。
いくら笹木野が顔がいいからって、あんな
いや、服の感じからしてどう考えても着慣れていない。
下ろしたて――もしくは、一回着てそのままになっているような代物だ。
キョウコの見立ては正確である。
今のイツキのコーデは、簡単に言えばせっかく美少女にTSして現代に帰ってきたんだから、着飾って遊ぼう――とミョルニルとともに盛り上がり。
勢いのまま購入し、自撮りまでしたところでイツキが飽きてタンスに眠っていた代物である。
ミョルニルは惜しんでいたが、イツキからしてみれば流石にこれを外で着るのはちょっと、となるような代物である。
じゃあなんでそれを着てるのか、というとそれは一旦置いておいて。
――あんな派手派手な衣装で、笹木野みたいな子が何すんの?
キョウコの脳細胞がフル回転する。
やがてキョウコの思考の中で、一つの答えが産まれた。
すなわち。
――まさか、パパか
その時だった。
一瞬、意識が思考の海に沈んだその時。
眼の前にいたはずのイツキが――消えたのだ。
跡形もなく、眼の前から。
見失ったのか?
いや、それにしてはあまりにも一瞬の出来事。
でも、だからといってどこかに隠れられる場所はない。
そもそも、隠れる理由もないだろう。
いくらイツキが人見知りするからといって、クラスメイトから逃げる必要はないはずだ。
……ないよね。
ともかく、キョウコはイツキがいなくなっただろう場所まで歩いたが、見つからず。
周囲を見渡して、首を傾げてからその場を立ち去るしかなかった。
そんなキョウコが立ち去ったその場所は、人気のない――誰もいない路地裏につながっていて。
しかしだからといって、人の気配がない以上。
キョウコがそこに意識を向けることはないのであった。
◯
無数の手が、私の身体を這っている。
太ももを、腰のあたりを、手の存在を意識させるようにうごめいている。
生暖かい感触が、それはもう気持ち悪い。
こういう感覚は、何度やっても慣れない。
とはいえ、異世界で暴漢に襲われた回数など両手で数え切れないほどである。
それだけの数襲われてもなお、貞操を守り抜いてきた私の技術を舐めてはいけない。
大事な部分に触らせないなんてことはお手の物だ。
『それはそれとして、やっぱり気持ち悪い!』
『だから言ったではないか、囮などやめて正面から捕獲しろ、と』
現在、私は路地裏に連れ込まれていた。
なんだって
ここ最近、妖魔の質が低下している。
それは単純に、妖魔達の拠点である「外界」とこちらの世界をつなぐ「境界」に屯している妖魔の数が減っているということ。
「境界」というのは文字通り現世と外界の境目、端的に言えば妖魔たちが地上へ攻め込むための橋頭堡である。
妖魔は外界から「境界」を建設し、地上に攻め込んでくる。
この境界からしか妖魔は地上に出ることが出来ず、人類は境界までしか攻め込むことができない。
言ってしまえば、対妖魔戦線の最前線なのだが、その場所は秘匿されて人間が見つけることは不可能だ。
探し出す方法は二つ。
一つは妖魔を根こそぎ駆逐すること。
境界に屯している妖魔がいなくなれば、そもそも境界の意味がなくなるからだ。
しかし今回の場合その方法は使えない。
単純に、妖魔がずっと戦力の逐次投入をしているからだ。
戦争においては下策とされるそれだが、妖魔は基本協調性など皆無なので指揮する立場の妖魔がいないとこうなる。
大抵の場合、指揮官は上級以上の妖魔だそうだ。
以前、こっそり隠密スキルで入り込んだ宿滅者の拠点で読んだ本にそう書いてあった。
なので、今回はもう一つの方法を使う。
その方法は非常に単純。
――妖魔から、境界の場所を聞き出すのである。
「うわっ」
ぬるぬると這い回る手が絶妙に恥部へ届かないよう調整しながら思考していたら、突然壁に叩きつけられた。
そして眼の前には、私をここまで運び込んだ妖魔が待っている。
待っていたのは――
「――って、性欲妖魔じゃなくて、小袖かよこいつ」
「ニクイ――――美シイ女――――ニクイ」
小袖と呼ばれる、着物の袖から手を伸ばす妖魔がそこにいた。
女の着物である、よく見れば手も女のそれだ。
気持ち悪すぎて気付かなかった。
小袖は遊女の妖怪、小袖の手に似た妖魔だ。
だからその本能は性欲ではなく――容姿に対する嫉妬。
私は連中に嫉妬されたからここに連れてこられたらしい。
事の起こりは一時間ほど前、私は探知スキルで結界を通さない界道を通って、妖魔が一匹現世に現れようとしているのを察知した。
私はこれを利用しようとしたのである。
いつものように狙撃を行わず、あえてこちらの世界におびき寄せようとして――少し失敗した。
出現した妖魔を見失ったのである。
単純に、こっちに来た途端に息をひそめて潜伏されてしまったんだよね。
私の探知スキルは強力だが、悪意を持って周囲を害する敵対存在に対して効果を発揮するものだ。
悪意を隠して、じっと息を潜める相手とは相性が悪いのである。
そこで、そういう相手は本能が性欲に特化していると見て、わざわざメスガキコーデで相手をおびき寄せようとしたのだが。
まさか、嫉妬の本能に支配されたタイプの妖魔だったとは。
「――まぁ」
『やることは、大して変わらんのだが』
ミョルニルさんの言葉に頷いて、力を込める。
私の身体を這いずり回る手、それに対して私は――
力のかぎり、それを引っ張って着物の袖から引き裂いた。
「ギ――――」
「――行くよ、ミョルニルさん」
『応とも』
「――――アアアアアアアアアアアアアアアア!!」
小袖が断末魔を上げる。
文字通り四肢をもがれたかのような痛みに、身悶えているのだろう。
それを横目に、私はミョルニルさんを取り出して――振り上げた。
「さて、小袖。今から私がミョルニルさんを君に振り下ろすわけだが――少し、手加減をしよう」
「ガ、ア、グ――――ナニ、を」
「絶対に死ねないように。最大限の手加減でもって」
「ヒッ――」
そして――振り下ろす。
「君が境界の場所を教えるまで、それを続ける。ひとおもいに死にたいなら――さっさと場所を吐くことだ」
「ガ、アアアアアアアア!」
死ねない程度の痛みを何度も、何度も浴びせられて。
しばらくすれば妖魔は折れるだろう。
連中は、本能だけの存在。
我慢なんてできるはずもないからな。
とはいえ。
「貴様モ――貴様モ、男に食い物にサレル、女のクセニ――!」
そう言って、小袖はなんとか私に手を伸ばそうとするのだが。
「いや、そも」
ごす、ごす、とハンマーを振り下ろしてその手をすりつぶす。
「君に肉体はないんだから、君だって私と同じ処女じゃないか。何被害者ぶってるんだよ」
「ア、ガ」
「――白々しい」
端的に私は、小袖の嫉妬を切って捨てた。
妖魔は人間じゃない。
その感情は、妖魔として産まれたときに植え付けられた本能に過ぎない。
性欲妖魔じゃない分、多少は嫌悪感もマシになるかと思ったけど。
まさか性欲妖魔より不快な気分にさせられるとは思わなかったぞ。
仮にも、この美貌だ。
直接貞操を狙われることこそ少なかったが、成長を見込まれて娼館に売られそうになったことは何度もある。
実際に、娼館の小姓としてお世話になったこともある。
その度に私に向けられた嫉妬は――こんなものではなかった。
妖魔は所詮、人の本能だけでできた怪物にすぎないのだ。
もっと、もっと、醜く――生き汚い。
妖魔には、そういう感情が何も無い。
見せかけの、うわべだけの感情に対する怒りが、ふつふつと湧いてくる。
怒りを込めて、私はミョルニルさんを振り下ろした。