短編集   作:かみつ

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こういう恋愛も、たまにはいいよね


複雑な想い

冬の冷たい風が街を吹き抜けている。

私、香澄は今は亡き彼氏の賢人から送られてきた一通の手紙を手にしっかりと握りしめ、賢人のお墓の前に立っていた。

 

賢人とは大学2年のころに知り合った。図書館でたまたま隣の席に座ったのがきっかけだった。

それからは一緒に食事をしたり、たまに旅行にもいくような仲になった。

そうして賢人と一緒に過ごしていくうちにお互いがお互いを想うようになっていった。

もはや付き合うのは時間の問題だった。

 

大学3年になったとき、私から賢人に告白した。

返事は……NOだった。

その日、私がどんな気持ちだったのかはわからない。いろいろな気持ちが複雑に絡み合っていたと思う。たくさん泣いたし、たくさん怒った。

 

告白を断られた日から、私と彼は疎遠になった。お互いが避けるようになったというより、私が一方的に彼のことを避けるようになったのだ。

彼のことはもう考えないようにしていたが、心のどこかでは断られた理由を懸命に探していた。

私がここで勇気をもって、彼に理由を聞くことができていたら、こんなことにはならなかったのかもしれない。

 

告白を断られてから3か月たったある日、彼からメールが来た。

「話すことがあるから、会いに来てほしい」という旨の内容だった。

私はこれを無視した。本当は行きたかったのに、話したかったのに、無視した。

気まずい空気が流れるのが嫌だという理由をつけて、心の奥底にある彼を好きな気持ちを否定したかった。いわゆる逆張りってやつだ。

 

その日から、3日に1回は彼からメールが来るようになった。もちろん、内容は最初とほとんど変わらない。

私は彼からのメールをすべて返信しなかった。既読だけつけて、無視した。

ブロックすれば彼からのメールは来ない。でもきっと心のどこかで彼からくるメールを楽しみにしている自分がいたのだと思う。

 

メールが来るようになってから1か月半以上経っただろうか、今度は電話がかかってきた。

もちろん1度目は出なかった。でも、2回、3回とかかってくるうちに、根負けして電話に出てしまった。

「もしもし?」

紛れまない、彼の声だった。胸がキュッと締め付けられる。

「なに?」

できるだけ冷たい声色で返事をする。

「話したいことがあるんだ。1回でいいから来てくれないか? 頼む」

「分かった。あなたの家に行けばいいの?」

「いや、県北病院に来てほしいんだ」

病院?なぜ病院なのだろう。今までのメールにはそんなこと……

私は今まで送られてきたメールを見返して背筋が凍った。

私は勝手に彼の自宅に呼ばれているのだと思っていたが、よく見ると、メールには場所の指定がなかった。ただ、会いに来てほしいと書いてあるだけ。まさか……

 

私が病院につくとすぐ、彼の病室を看護師に尋ねた。

306号室、3階だ。

階段を駆け上がり、息を切らして彼の病室へ向かった。

コンコンコンと3回ドアをノックして病室へ入る。喚起のために窓が開いているのだろうか、冬の風が入ってきて寒い。

そこにいた彼は、私の知っている彼ではなかった。やせ細り、生気がまるで感じられない。

「香澄。ごめんね、急に呼び出しちゃって」

急なんかじゃない。前からずっと私のことを呼んでたじゃないか。

「賢人、それ、どうしたの……? わた、私は……」

緊張と驚きから、うまく声が出ない。

「ごめんね。驚かせちゃって、こんな姿あんまり見せたくなかったんだけど。どうしても伝えなきゃいけないことがあって」

寒気がした。窓は締まっているから、風のせいじゃない。

「俺さ、実は白血病なんだ。大学1年の時に発覚して、余命は持って2年半らしい」

持って2年半、白血病。理解が追い付かなかった。1年の時に2年半と診断されたということは、

「あと、2週間……?」

「うーん、どうなんだろうね。まあ余命宣告を受けてからだったらあと1週間もないかな?」

吐き気がした。賢人が、あと1週間しか生きられない?

「なんで、もっと早く言わなかったの……?」

「言おうとはしてたんだけどね」

はっとした。そうだ、賢人はずっと私に伝えようと……

「で、でも、もっと早くに言えたでしょ? なんで今なの?」

「勇気がなかったんだ。真実を知ったら、香澄に嫌われるんじゃないかって、不安だった」

そんなことない、私は、どんな賢人でも好きだ。

「告白の件も、ごめんね。本当は断りたくなかったんだ。でも、病気があるし、付き合ってからいうのも、告白されたときに言うのも、怖かった。だから断った」

「別に私は気にしないよ? 病気だろうと何だろうと、私は賢人が好き」

「だからさ、賢人、もう一回、考え直してほしいの。私と付き合ってください。いや、私と付き合って」

とっさに口から出ていた。今までため込んできた賢人への想い。すべてをこの一言に詰め込んだ。

「分かった。でも、いったん考えさせて。明日必ず答えるから、また明日もここに来てほしい」

「うん。絶対だよ?」

「もちろん」

 

その日、病院から帰ってきた私の心はぐちゃぐちゃだった。賢人の本心を聞けた嬉しさ、賢人が死んでしまうという事実に対する驚き、哀傷、これが、複雑な想いというやつなのだろうか。

 

 

賢人が死んだのは翌日だった。

私が病院へ行くと、すでに彼は亡くなったと伝えられた。

看護師さん曰く、深夜に突然心臓が止まったのだそう。

私は人目を気にせず病院の窓口で泣き崩れていた。

病院を去る際に、看護師さんから手紙を貰った。賢人が死ぬ前に書いた手紙だそう。遺族の方から預かっていたらしい。

私はショックで手紙を開けることができなかった。開けることができたのは、それから2週間後だった。

 

 

冬の冷たい風が街を吹き抜けている。

私、香澄は今は亡き彼氏の賢人から送られてきた一通の手紙を手にしっかりと握りしめ、賢人のお墓の前に立っていた。

賢人の手紙には短く、こう綴られていた。

 

 

直接伝えられず、手紙でごめん。

本当は香澄と付き合いたかったんだ。こうしていうのも恥ずかしいけど、俺は本当に香澄のことを愛してたよ。

告白は、オッケーで。

 

 

 

 

 

「ばか……」

冬の冷たい風が再び吹き抜けたが、私の心の中には、かすかな温もりが残っていた。それは、賢人の遺した愛の証だろう。私はその手紙を胸に抱きしめ、これからも賢人のことを忘れずに生きていこうと誓った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香澄は空を見上げ、白い息を吐き出した。その息は冷たい空気に溶け、やがて見えなくなった。しかし、彼女の心の中にある想いは、決して消えることはなかった。それは、永遠に続く冬の光と影のように、彼女と共にあり続けるだろう。




切ないですね
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