【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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【9】 祈り

 委員長がバケモノ大トカゲを、見る影も無いウィキリークス映え著しい骨肉アシッドシェイクに変えてしまったのを目撃。

 自首を促すか、一緒に山に埋めるか、というエモ二択の心理的葛藤を済ませた僕は、一段落ついたとばかりにみんなへ話を向ける事にした。

 ちなみに僕はもちろん一緒に山に埋める。そうしなきゃ、簡単に骨まで溶かす液体を持った女の子との関係値が悪化する事になるからな。明日の朝まで固体でいられるかどうかの瀬戸際に立ちゃみんな同じ選択をするだろう。

 

 

「さて……とりあえず、これでみんなの課題は達成されたって事でいいんだよね?」

 

 我ながら屈託のない笑顔でみなに語りかけるが、もちろんこれは真っ赤な嘘。ブラフである。

 倒したトカゲは三匹、昨日黒井さんが言っていた言葉は「三匹ずつ」。

 つまるところ合計6匹が要るのでもうワンセットの反復が必要なのは、小学生の時分に掛け算の授業をサボっていなければ自明の事だ。掛け算の順序も間違えるなよ。つかなにがもうワンセットだ、筋トレじゃねぇんだぞ。

 

 

 至極簡単なひっかけだが、これくらいのブラフは見抜いてくれなければ、彼女たちはここで容赦なく切り捨てていくしかないだろう。この先のデスゲームで足を引っ張られるだけだからな。

 思わず『序盤はライバルで味方になってからも油断ならない態度を取ってるのに、最期には仲間を庇って谷底へ落ちていくキャラ』になってしまった。

 YouTubeshort動画で「本当は仲間思いだったキャラ五選」に挙げられて再生数を稼がれてしまいそうなので控えよう。まぁ実際掛け算ができない仲間をデスゲームに引き連れていくのは気が引けるのは間違いない。

 

 

 与太話はさて置いて、別に巨大な黄色い両手両足三節棍トカゲを見たショックで、僕が昨日の記憶を無くしているワケでは無く。

 もう完全に嫌んなっちゃったから後で数え間違いっつーことで謝る形にして、ほうほうの体でとっとと帰宅したいだけである。

 『生活費の計算ができないように見せかけて、この金が無くなっても誰から借りればいいかわかってるだけ』バリの計算高さが今のヒモたる僕には備わっているので、こんな簡単な算数を間違えるハズがねンだけどなァ!?

 この世で一番欲しくないオプションを標準装備させられた時も、消費者庁に電話すれば対応してもらえるのか? 謎は深まるばかりだ……

 

 

「いえ、まだ薬草が後二束ほど足りていません」

 

 しかしそんな僕の命乞いにも似たブラフを一切看破する事なく、委員長がまったくの自己都合から待ったをかけた。

 そっかぁ……じゃあ探さなきゃねぇ……。

 僕は命を助けられた相手の都合を無視できる程面の皮が厚くないので、今後彼女の言うことには「ハイ」と答える他無くなってしまったのだ。

 マズいな、このままだと全員の言うことを聞くロボットになってしまう。

 この義理堅さはヒモに向いてなくないか?

 

「あとトカゲも三匹足りてないわね、一人につき三匹でしょ?」

「えっ……あ、はい……」

 

 聖先生からもキチンと僕だけを殺す訂正を受け、確認された黒井さんもしっかりと頷く。かわいい。

 うんうんそうだね、騙されなかったね。みんな現役高校生と教師だけあってしっかりと数が数えられてえらい。Vtuberを相手してる時くらいなんでも褒めるモードになった僕の横で、鹿伏さんがしきりに指を立てたり畳んだりを繰り返して頭から煙を出しているのは見えなかったことにした。

 

 ハイハイわかりましたぁー! やりますぅー! やればいいんでしょやれば!

 そんなにみんなが言うならやってやらぁ! なぁ委員長!

 コイツラに目にモノ見せてやろうぜ! 単なるトカゲ殺しじゃねぇ、ド級のトカゲ殺しをもう一度見せてやってくださいよォ!

 

 このまま帰宅し、不足トカゲ分はギルドの受付嬢さんを食事にでも誘ってお酒の力も借りつつ言いくるめなぁなぁで済ませようという、グラブジャムンくらい甘い目論見をブチ壊されたので不貞腐れながらトカゲ狩り続行を決断する。

 臨機応変に場当たり的対処ができるのもリーダーとヒモの資質だ。社会の両極にあたる存在にも共通点があるんだね!

 

 無論僕単体では何もできないので、内輪差を用いて委員長も巻き込んでおくのを忘れない。

 

 っしゃア! 行くぞ!

 

 

 

 そんなわけで僕らはまた屈んで草むしりを始めた。

 あ、違うよー鹿伏さん、草、今いるのは草。そのデジモンしか産まれなそうな水玉模様の卵は置いといて。

 

 

 

 

 

「さて、薬草集めも終わりましたのでまずはミーティングです。青海君、先程私にかけたバフについて私から考察があります」

 

 自分に課せられたタスクが完遂された為、目的以外の物も眼中に戻ってきた委員長がみんなを集めて仕切り始めた。

 

「あなたのバフはこれまでに2回発動していますが、そのシチュエーションには共通点があります。それは『青海君を助けた事』ですね。先生はあの恐ろしい化物から、私はトビキイロフシオオトカゲから、あなたを結果的に庇っています」

 

 なるほど、僕が足手まといだと言いたいワケだな?

 

「それもあります。あなたの職業の名称が『ヒモ』であるのもあわせ鑑みるに、恐らくですが私達はあなたを庇護下に置いた、という事なのではないでしょうか?」

「オイオイオイオイオイ、待ってくれよ委員長。じゃあ何か? 委員長は僕がヒモであり、扶養もしくは庇護してくれた対象にバフをかける能力があるって言いたいのかい?」

「そうです。まぁ扶養に関しては未検証なので断言できませんが」

 

 殺してくれんか?

 

「いいえ、きっと扶養も対象にとれるわ。むしろそちらの方がメインと考えてもいいわね。なんといってもヒモなのだから。この探索が終わったら一度試してみましょう」

 

 至極真面目な顔をした先生が、訳知り顔でジャッジとしてインスタントタイミングでインターセプトしてきた。カードゲームの大会じゃねぇんだぞ。

 というか妙にヒモに詳しいというか、自信満々にヒモ論を語ってくるな……もちろんそんなハズは無いのだが、まるで先生がヒモ有識者みたいだぜ……

 

 僕は人として最低限の情けを保有している為、心に産まれた一抹の闇を見て見ぬフリした。

 

「そ、そうなんですか? まぁ聖生先生がおっしゃるなら間違いないのでしょう。とりあえず次に見つけたオオフシキイロトビトカゲで庇護の条件を探りましょう。毎回命の危機を救わねばならないならとんだ産廃ですが、青海君を背にし守る事を意識すれば発動するならとても役立ちます。ただ怪我はしないように、それでいいですね?」

 

 わかったよ委員長! っしゃア! みんな行くぞ!

 こうして僕が産廃になるかバッファーになるかの大勝負が幕を開けたのだった。

 

 彼女の心に、人として最低限の情けなど存在しない。

 

 

 

 

 仕事→完了→かけ声→出発というほぼ全く同じ流れが2度も続いたせいでタイムリープしてんのかと思ったわ。

 しかし幸いにもこの世界には電子レンジとガラケーとバナナが存在しなかった為、時計は前にしか進まないのであった。

 

 

「んむむー! そっちの方向、けっこー先! さっきのなんかの気配があるっす!」

 

 鹿伏さんがレンジャー職らしく索敵能力を発揮しながら、ちょこまかうろちょろと僕らの周囲を衛星のごとく奔走してくれている。婆ちゃん家のペコを思い出しおもわず目頭が熱くなった。

 かわいい仔で僕が家に行く度にズボンの上で漏らしに来るのだ。それを女子高生と同一視したのはマズかったかもしれんな。本人には知られないようにしよう。

 

 索敵の報告内容に関してはマジで曖昧なので半ば推測するしかないが、およその方向と距離だけでも何一つできない僕と違いめちゃめちゃ有能じゃんね。

 自分を下げて相手を上げる話法なのに、自分が低過ぎて意味が無いのは初めての経験だ。何事も経験であるがこんなことは経験しなくて良い。

 

 

 さて、今度は奇襲されるワケではないのでしっかりと準備をしていく。

 まずは先生が近接職として先頭、その後ろに遊撃として黒井さん、その後に鹿伏さん、委員長、僕の順番だ。

 本来なら射撃特化かつ周囲を索敵でき、後ろを取られる危険性の低い鹿伏さんを最後尾に据えるのが良いのだろうけれど、今回は僕の発動条件を調べる為全員の後ろにいる陣形だ。

 インペリアルクロスもしくはデッドリーピアスっつーこと。

 僕もこの戦いでなにがしかの技を閃きたいところだ。

 しかしパチンコから街金を閃いたりしたらもう終わりだぞ。そんな即死コンボがあっていいのか……?

 

 

 そうして各々所定のフォーメーションに着いたところで、ちょうど相手の姿も見え始めた。

 バタバタと足を振り回しながら、本日二度目のバケモノトカゲのエントリーだ!

 書類選考で落としたいモンだが、下手すると彼らの今後の活躍でなく僕らの死後の安寧をお祈りしなきゃいけなくなるだろう。

 

「来たわよ! みんな、油断しないように! 背後の青海君を守るように意識して!」

「「「「はい!」」」」

 

 みんなは僕を守る為に、僕は『みんなに庇護されてるな〜! 護られとる〜!』と強く意識する為に、気合いを入れて声出しをする。

 

 情けなくて涙が出らぁな!

 

 しかし涙で目の前がボヤケてバフを外したら本当に終わりなので、しっかりと目頭を拭いながら現実を直視する。

 ヒモは毎日こんなに辛い気持ちでいるのか……?

 信じられない……働けば良いのに……

 

 

 目の前には、みんなの背中が見える。

 つい一昨日までは普通の女子高生と現国教師だった女の子たちだ。

 そんな彼女らが自分の意志とは関係無く異世界に飛ばされて、命懸けの戦いを強要されている。

 しかも唯一の男子の僕は、守られる事しかできない無能。

 最悪の気分だ。

 

 

 命懸けで戦わずに済んだ事に、心のどこかでホッとしているのが……一番最悪だった。

 

 

 だから、願う。

 僕なんかを護ってくれている彼女たちに。

 僕にできるかぎりの何かをしてあげられるように。

 僕になにかができるなら、命を懸けてそれをしよう。

 

 嫌がる臆病な自分を抑えつけ、表面だけでも繕って、彼女たちの為に命を捧げると誓おう。

 

 

 ですから神様、どうかお願いします。

 彼女たちを、護ってあげてください。

 

 

 祈りとともに僕の突き出された両手から、黄金色のなにかが放たれた。

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