【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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あまりにも一話が長い……前後編にするのも考えます。
次の投稿は一週間後の予定。

感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【95】 諜報員にすぐ懐いちゃうようなおバカ

 先程までのオドオドとした雰囲気は霧散し、縛り付けられた彼女は不満を隠しもせず無愛想にむくれている。

 化けの皮が剥がれたようだが、しかしさっきよりも今の方がずっと自然に見えた。

 いや凄いもんだね、まるで別人のようにガラリと変わるもんなんだ。

 まさしく憑き物が落ちたようとでも言おうかな。

 

 

「まぁ、もちろん簀巻にしてきた相手と即座におしゃべり……なんて気にはなんないですよね。だからとりあえずは、僕らに最近起こってる事をちょっと聞いてくださいよ」

 

 そんな僕の語りかけに、彼女は反応しようとしない。

 その口は真一文字に閉ざされ、チャンスを逃さぬように虎視眈々と機を狙っている。

 

 そらそうよね。

 いくら本心では知られる事を望んでいようと、そうそう簡単に彼女が口を割るハズもない。

 願望は胸の深い所で常に声をあげているけれど、大人ってのは理性でそれを無視して毎日生きている。

 近所の兄ちゃんも「焼肉とラーメンと万札が無限に出てくる箱が付いた部屋で働かずに生きたいお……」って言ってたが、ちゃんとバイトをしつつ大学生として生活してたかんな。

 敵陣に潜り込み重要機密を掠め取る任にあたっている人なら、なおさらだよなぁ。

 

 きっと彼女はこのまま、解放の時まで黙秘を続けるに違いない──

 

「そもそも僕らはもう今年中は、こんなに遠出するつもり無かったんです。冬支度として防寒着も注文したくらいでして。だってのにバルツァンから帰って間もなく、ギルマスからお呼びがかかったんだから……正直押し付けられたような気すらしてました」

「……ふぅん。けど冒険者としてギルドマスターからお呼びがかかるなんて、名誉な事でもあるんじゃない?」

 

 けれど、そんな一般論とは裏腹に……むしろ諜報員であるが故に、彼女はまるで続きを促すかのように相槌を打ってくれる。

 縄から上の図を切り取れば、まるで単なる世間話みたいに、意志の疎通は滞りなく行われた。

 

 プロフェッショナルとして己の腕一本で生きてきた職業人が、自身の隠された本能に従い破滅を選ぶ事はまずもってない。

 だからこそ、まずは理性(そちら)に寄り添わなきゃならないよね。

 つまり『合理的判断を下した結果として僕とお話すべき状況』ならいいんでしょ?

 

 調査のターゲットとなったパーティのメンバーが、自分から近況を語ろうってんだ。

 それはつまり、さっき彼女がしようとしてた事に他ならない。

 聞き出したかった事を調査対象がご機嫌で話してくれるなら、工作員はそれを饒舌にする為に相槌を打たずにはいられんだろう。

 んで話の枕がちょっと前のこと過ぎて要らない内容だったらば、続きを促さざるを得ないでしょ?

 彼女は職分としてそれに慣れ、培った経験故に最適解を導き出す。

 

 

 そしてそうなると、いつの間にか僕と彼女が目指すゴールは同一になってしまう。

 

 貴方は僕等の抱えた案件の情報を知りたい、だから聞き出す。

 僕は貴女という人のことを知りたい、だから話したい。

 

 まるで敵対していたかのような出会いだったけれど、しかし今の僕らは利害が一致した協力者となった。

 相互理解という同じ目標に向かって二人手を取り合って歩を進めるなら、それはどちらもが損のない素晴らしいコミュニケーションだ。

 

 さっきと違って偽りの誰かを作り上げる必要はない。

 等身大の僕らが揃った高さの視座で話せば、きっと互いに得られるものがあるハズさ。

 

 

 それに、なに、気にしなくていい。

 もし貴女が僕の予想通りの立場なら、僕に貴女が知られたところで貴女はけして破滅しないのだから。

 欲望の枷の外れたジャックポットの楽しさを味わうだけ味わったら、また気を引き締めて諜報員の仕事に戻ればいい。

 バンジージャンプみたいなもんさ。破滅願望を適度に満たしたら、普通に日常へと回帰できる。

 お手軽だし費用もかからん良い娯楽だと我ながら思うよ。

 

「僕らだって大仕事が終わった直後くらい、羽休めの休養期間を取るつもり満々だったってのに。おっと、いやいや別にこれはギルド批判じゃあないっすよ? へへへ、僕ら冒険者はギルド様の忠実な犬ですとも。お手もしちゃお……え? 『バルツァンではえらく長逗留してたでしょ』って? おやおや、バレちゃしょうがないっすねぇ!」

 

 早くもあちら側から情報を握っている事を匂わせてきたことに、僕は内心で疑問符を抱く。

 それはいささか性急というか、拙速な発言に感じられたからだ。

 もっとうまい誘導だっていくらでも考えつくし、そもそもすっとぼけて話させるだけ話させても良さそうなもんだが……。

 情報をただ引き出しにかかったのなら、こういったヘマはしないだろう。

 かといって捕まったし破れかぶれになるってのには、あまりに早過ぎるしちょいと遅過ぎる。

 

 となると……精神的動揺を狙っての事だろうか?

 恐らくだが、僕に揺さぶりをかけたいのだ。

 つまりメンタル面で上を取れば、彼女の能力が効きやすくなるのだと推察できる。精神系の能力者にゃありがちな話だからな。

 今からでも逆転を狙う強かさには頭が下がるけれど、僕だってなにも手のひらの上で転がされるつもりはないぜ。

 能力バトルのセオリーはジャンプとサンデーで山ほど学んできたんでねぇ。

 アツい伏線回収だろ。これまでネカフェで現実逃避してきた時間のすべてが、今僕の力になっている……!

 

 

 ま、それはそれとして、僕は嬉しくて思わずニコニコしてしまった。

 仲良くなりたい相手が僕と会話してくれてるんだ。

 どんな内容であれ、話してくれたのが喜ばしい。

 もっと聞かせてよ、あなたの話を、あなたの言葉を。

 

 もちろん僕は聞きたがりのお相手には一方的にペラペラ話す軽薄さを持つが、けれどお話してくれるならそれも嬉しいのは当たり前の事。

 なんせ僕も聞きたがりなんでね。

 近所の店で買った不良品の愚痴から今晩の献立の相談まで、なんだって僕に語っておくれ。

 

 

「仰る通り長めのお休みは頂きましたよ。でもそれだって、あのバルツァンに行ったなら誰だって望むことでしょう。お姉さんは行かれた事は……? あ、流石は情報通。もちろん行かれてましたか。実は泊まっちゃったんですよね、"黄金の湯殿"」

「え、あ、あの!?」

 

 今の『え、あ、あの!?』ってのは素の反応だ。

 食いつきが良いな、趣味が合いそうだ、奇遇っすねぇ。

 実は次フーゼニスティア行きたいんですけど、今度良いとこ教えてもらえません?

 

「いやー、そうなんっすよ。僕もまさかそんなとこに泊まっていいんですか!? って感じでしたもん。しかも経費として費用は依頼主様持ちときた。そりゃ二週間だって居着いちゃうでしょ? いやまさに天国っつーか、夢みたいな時間を送らせてもらっちゃいまして」

「な、なんてセコい……! 冒険者ってのはそういうもんじゃないでしょうが……!」

「それはそうなのでグゥの音も出ないんすけど……。ただウチのパーティにゃ、そういったとこで抜け目ない人が居ましてね。今回も辣腕振るって僕らに恩恵を授けてくれたってワケです」

「仕事をなんだと思ってんだか……あーぁ、これだから若くして評価されてるヤツは……ロクな大人になんないわよ」

 

 不貞腐れてブツクサと文句を漏らすその表情から読み取れる、本物の不満。

 怒りのポイントの縁をツツ……と撫でる事ができたらしい。

 キチンとプライドを持った仕事が出来る人間は、時間が無くて満足にエンジョイできてない趣味と、他人の不真面目にも取れる仕事への姿勢が地雷になりやすい。

 ま、万人が万人そうじゃないが、少なくとも目の前の人はそうだったみたい。

 

 羨望も、苛立ちも、憤懣も、軽度の物ならそれは他者への興味の誘引剤にもなる。

 弱い毒が薬になるようなもんだ。

 なんも思ってない相手よりも、ちょっと嫌な奴の方が人は中身を知りたくなるでしょ?

 僕は誰かに対して嫌なヤツなんて思った事が無いから実感として分かってるわけじゃないけど、理論や理屈として心の動きは理解できた。

 少女漫画でヒロインが「やなヤツ……!」って言う相手は、大抵恋愛対象なのと同じ理屈だ。他人の心を漫画で演繹するな。

 

 とはいえわざわざ不快に思われるなんて、普段はやりたくないんだけどさ。

 今回はまぁ、時間あんまかけてらんないだろうし。

 それになにより、今の彼女からは愚痴や不満を言いたいという思いが見て取れる。

 人にはストレスの捌け口が必要な時もあるからね。

 わざと言い出しやすいタイミングを作ってあげれば、むこうも罪悪感無く発散できるってもんだろう。

 

 

 趣味の傾向に関しちゃ、金に余裕がある職種の大人なのでハイクラスなものに目聡く、なにより仕事で世界を回っている彼女は業務内容はともかく旅行そのものは好いているというあっさい勘繰りだった。

 とはいえ案外的外れでもなかったようだがね。

 安直に見えるかもしんないが、しかし娯楽に溢れた現代でもない限り、人間の趣味なんてのは限られる。

 江戸時代の人間がたいていお伊勢参りを人生の目標や夢にしていたように、有名な景勝地への行脚は古来からわかりやすく人を惹き付けた。

 

 情報を手にする手段が限られる庶民ならば"ソコ"止まりだろうが、彼女は職業柄更に多くの情報を手にする機会に恵まれている。

 だからこそ旅行情報誌のある現代でなくとも、有名宿の名前なんかも知っていたんですね。

 下手に知っているだけに、話は具体性を帯び、想像を掻き立てられた脳内が活発に躍動する。

 まぁ拙い語りで悪いけれど、彼女にはぜひ僕らの旅情を追体験してもらうとしよう。

 

 

 

 ………20 Hours Later

 

 

 

「……っていう経緯がありましてね、バルツァンに行くのもまずそんな厄介な理由があったんですよ。いやしかし、"黄金の湯殿"は凄かったっすねぇ。鬼族の女将さんは随分若く見えましたけど、流石は老舗の宿の店主だけあって何をするにしても行き届いた気配りで、まったくダメ人間になるかと思っちゃいましたもん。けどシーツから食事まで全てを人にやってもらえるってのは……なんだかちよっと座りが悪い気すらしちゃうんですから、なんとも小市民というか根っからの貧乏性は抜けなくて」

「あら、国家間の問題にすら介在できる金級冒険者ともあろう者の発言とは思えないわね。彼らの歓待は素直に受け入れてるようだけれど?」

「いやいや、生まれ持ったものは変わりませんよ。いくら成長しようと、大玉雛は怪鳥にはなれない」

 

 ふんふんと旅行エッセイでも読んでるみたいに相槌を打っている彼女だが、それでもなお時々意図を隠した鋭い質問や誘導を挟んでくる。

 僕の要らない話から、必要な情報を取捨選択していることだろう。

 本質的には"暴く"側の人間なので、たとえスキルが効かずとも自分の隠したい情報は最低限に留め、相手の腹を割り開く手法に長けているのだ。

 

 であれば、僕は隠したい情報へは踏み込まない。

 僕が知るのは、貴女が明かしてくれる情報だけでいい。

 痛い腹を探られれば人は警戒する。

 誰にだって隠したい自分はある、そんな所をわざわざ手探りでまさぐるのはマナー違反だろ?

 あ、もちろん僕は別に探られても良いけどね。お腹ん中に触られて文句言うほどのモンは臓器以外持ってないし。

 僕は事前の約束通り、貴女とお話しがしたいだけなんだ。

 固くなられちゃ会話もできん、リラックスして茶でもしばいておくれ。なんなら茶菓子も出すぞ。まだ僕が持ってきた乾き菓子は残ってるからな。みんなの分があるのであんまり数は無いけれどね。

 

 ……まぁ、それに。

 もちろんわざわざ言及するつもりはないが、実際のところ。

 見せてくれる情報から浮き彫りになる、飾らない貴女の影絵の中には。

 そんな隠したい秘事すらも、内包されてしまっているものなのだから。

 

 隠す事は簡単だが、隠したいという意識すら隠匿する事は人にはあまりにも難しい。

 木を森に隠すということは、何かを知られたくないのですという告白のようなものだ。

 

 

 そして隠したい物がある時、それ以外の情報についての意識は無意識の内に希釈されてしまう。

 もはやそれは、自身の全てを隠したい事と隠さなくていい事にわざわざ二分しているに等しい。

 

 尽くされる事への羨み、休暇そのものを求める疲労、贅沢に時を使いたいというフラストレーション。

 最近仕事に忙殺されて心身に疲れが貯まっていらっしゃる。

 いけませんな、たまには羽を休めないと身体に毒ですぞ。

 

 なるほどね、だからバルツァンでの休暇について思わず言及したのか。

 アレはゆさぶりっつーよりも、十分休んでんだろうがと嫌味の一つでも言いたくなったってのもありそうだね。

 そしてそれだけ忙しいということは、彼女が雇い主にとって換えの効かない人材であると同時に、世がおおいに乱れているという事の証左でもある。

 

 世界は思っていたよりも、黄昏へ傾いている。

 暮れた夜陰のむこうに蠢く魔の手が、僕の心の臓にヒタリと触れたような気がした。

 

 まったく、人の臓器に勝手に触れるのはやめてほしいね。マナー違反だと言ったばかりだぜ?

 せめてアポイントメントを取ってからにしてくれ。

 

 

 

 ………200 Days Later

 

 

 

「……それがまた、ご飯なんか僕みたいな庶民にゃ見た事もない豪勢なものが並びまして、実際名前なんか今も覚えてないっすからねぇ。いや到着した当初はそりゃ状況が状況なんで素材は控えめだったんですが、それでも一見平凡なチーズからパンに至るまで全て絶品だったなぁ。上手く焼かれたパンってあんなに柔らかなんすねぇ、もしかしたら小麦がボゥギフトとは違うのかな。でも僕道中よく出た中まで茶色い酸っぱめのパンも好きなんすけどね」

「ふぅん……私はあんまねぇ。ま、食べて気の晴れるもんじゃないでしょ」

 

 なるほどね、そうなんですか。

 表現には哲学が出る。

 いや、ちと言葉が堅いか? 主義ってのも違うな、見解というべきか。

 今まで生きてきた人生の中で、ソレをどう捉えてきたかが表れるとでも言えばいいか。

 言葉一つにも、口に上がるだけの理由があって、隠しきれぬ思いの切れ端が動作には滲みでる。

 

 食べ物を指して気の晴れる物じゃないと言う時に、その目が寂しさと嫌悪と喪失に揺れるなら、いくつか考えられる事はある。

 

 ま、今はどうでもいい話だ。

 僕としても出自で相手をどう見るか変える事はあんま無いので、そんなのは一旦さておきっすね。

 

 

 ご飯系は反応はしてもクリティカルって感じじゃないな、美食はそんなにかな?

 いや、そもそも普段から良いもん食べ慣れてるのかな。

 金はあるが時間はないタイプなら、国元では発散がてら浪費もしてる事だろう。

 まぁこれは僕の食レポの下手さもあるかね。

 

 

 

 ………2000 Years Later

 

 

 

「じゃあなに? そもそも泉質そのものが違うってこと?」

「あ、そう、仰る通りそこがね! そこが違うとこで! やはりバルツァンは温泉が名物というだけあって、名前の通り湯殿はまさしく黄金の価値がありましたよ! いやね、僕は良い湯だなっつってのんびりカポーンと大の字で浮かぶくらいの大雑把なモンですけど、ウチのパーティはご覧の通り女所帯ですから。彼女らが言うには、入る前と後じゃあ肌の調子がまったく違うらしくて、そう言われるとなんとなく僕も風呂上がりは水を弾くような感覚があったようななかったような」

「馬鹿馬鹿しい……」

 

 おっと、今までにない強い反応だ。

 これは本気の嫌気の差し方だな。

 勘気に触れるような内容ではないと思うが、怒られたらしょんぼりしちゃうな。

 な、なんかお気に障る事言っちゃいました……?

 

「アンタみたいな小僧なんてねぇ! 良い湯につかんなくても変わんないでしょうが! なぁにが水を弾くよ、コッチの苦労も知らないで!」

「へ? ……あ、まぁ、そらね、なんせ僕もまだ10代半ばですから、へへへ……」

 

 あ、そっちね。

 いやこれは申し訳ない、失言だったかな。

 背伸びしたい盛りのガキの戯れ言とでも思ってくださいよ。

 

「じゅ、じゅ、10代……!? まったく……で、黄金の湯殿以外はどっか行ったの? 言っとくけどあそこ巡ったら、ホントは二週間やそこらじゃまだまだ回りきれないくらい名所揃いなんだから」

「あ、やっぱりそうです? 正直二週間と言わずもっと伸ばしちゃえば良かったなと思ってたくらいでぇ」

「そーりゃそうよ。あ、ていうかアンタ貴族街側まだ行けなかったでしょ。そんなん魅力の半分も味わってないからね、もったいない……そんなアンタが行くくらいなら、代わりに私が行ければ良かったのに……世の中って理不尽だわ」

「はぇ〜、やっぱ貴族街の方が有名店なんかも多いんですか? 僕らは結局そっちはサッパリでしたから。一回だけギギルガム様のご厚意で、スゲー難しい名前の服飾店には行かせてもらったんですけど」

「は、え、なに? き、貴族街のドレスメーカーで服作ってもらったの!? ズ、ズルい! そんなん絶対に『皇帝の生絹(すずし)』でしょ! こ、このガキャぁ聞いてりゃ美味しい思いばかり……! ちょ、ちょっと旅程全部白状しなさい! 事細かにすべて!」

 

 

 

 

 と、いうワケで。

 僕とネリッサ・ヴェイル女史はみんなが見守る中、2000年間ほど賑やかにおしゃべりを楽しんだのだった。

 

 

 ま、冗談は抜きにして、実際おんなじ部屋ん中で手作りトランプ使って大富豪に興じてたみんなを、数時間くらい待たせちゃったのは悪いと思ってるよ。

 お詫びのしるしにマジックを披露しちゃおうかな。

 実は僕はババ抜きが妙に弱くて、JOKERを常に持ち続けられるという特技があってさぁ。

 

 

 

 

 

 

「……あのなぁ、あんまりそういうのは感心しないぜアオ。こうなるのは分かってたけどよ、だからってこっちにまでノコノコ乗り込んでくる必要はなかっただろうぜ」

「いや、まぁ、それはホントにそうなんですけど……彼女がどうしても話足りないって仰るもんですから……あそこで長々話し込んでたら、それこそお二人がエルフさんにバレちゃいますし……」

 

 艷やかなお髭を引っ張りながら「……だから下手に手を出さんでいいっつったのに」と呆れたように呟くのは、彩度の違う紅い装束に身を包む歩く炎のような猫獣人、コールダウさんである。

 話に聞いた限りだが、今回の件はとても彼向きの内容なので、来られてるんじゃないかとは思ってたが案の定だったらしい。

 

 

 彼女との邂逅から数時間後。

 今僕はネリッサさんたちのアジトを訪れていた。訪れていいのか? まぁお誘いを断る理由も無いわな。

 

 なんせバルツァンの話だけで日が暮れてしまったので、ケルセデク来てからの事を詳しく伝えるために場所を移したところ、あら偶然とばかりにコールダウさんがその場に居たのだ。

 流石に無防備に僕だけが来るわけにゃいかなかったから、隠れた悪王寺先輩と影に潜んだ目黒さんが同行してくれてるけど、ほぼ安全も確保されたようなもんだし彼女らには折を見てご帰宅頂こう。

 

 

 まぁ大方の予想通り、紫髪の彼女は我らが帝国の雇われであった。

 世間話の中でコールダウさんのくだりが出たあたりで、彼女から「アイツ来てるし後で会う?」というもはや自白にも近い発言が飛び出し、その事実が露呈したのである。

 つっても秘密を漏らしたっつーよりは、僕らと協力関係にあった方が今は都合が良いと判断してもらえたんだろね。

 そもそも同じ国の人間だし、変にいがみあって敵対する必要も無い。

 

 思えば僕らはヴェルナードさん一行がボゥギフトに来てから、返す刀で風精国へと出発していた。

 ほぼ同タイミングか少し早いかくらいでケルセデクへ潜り込み、情報を収集しようとしている人間が居たらそれは、お二人が大使として事前に寄っていた帝都の方から来た人くらいしかないわな。

 まったく別の国の人間が入り込むつーのは、ちょっとタイミング的に考え難い。

 

「いいじゃないの別に。どうせコールダウの知り合いなんでしょ」

「そら知り合いではあるがな。だが普通知り合いを他国に潜伏する隠れ家へは連れ込まんだろうが」

「しょうがないでしょ、本題に入る前に時間かかり過ぎちゃったんだから。それにどうせ全部聞く事になるなら、伝え聞くより本人連れて来た方が手っ取り早いもの。はーぁ、聞き出す為とはいえ演技は肩凝ったわ。アオミ、ちょっと揉んでくれない?」

 

 あいあい、しょーがないですねぇネリッサさんはぁ。

 僕がみんなのお墨付きであるマッサージを始めると、苦しゅうない苦しゅうないと嘯いて彼女は噛みタバコを咥える。

 すげーや、悪い女スパイのお手本みてーな人だ。

 なんでも元々冒険者をしていて、レベルアップによってこのスキルを獲得した際に、帝国にスカウトされたのだとか。

 

 多少彼女の態度が崩れてきても、敬語は意識的に外さない。

 ただのしがない町娘や、口うるさいギルドの経理職員や、冒険者パーティのオドオドとして抜けた小娘ではなく、彼女が凄腕の諜報員であることを知った上で親しく接するとは、そういう事だからだ。

 

 

 曰く彼女らは世界樹に何かがあった時のバックアップ要員として派遣されたらしい。

 どうも帝国のお偉方は「軍隊の要請まではしないとか言ってたが、エルフは気が長いから放っとくとエラい事になりかねん」と踏んでいたそうだ、ちょっと正解です。

 とはいえ内政にガッツリ干渉しちゃマズいし、要請されてないのに武力送り込むのもそもそもだいぶヤバいので、本当に取り返しつかなそうな時だけ助けて、世界樹を守りつつ恩を売り込もうという手筈なのだとか。

 

 

 もちろん、そんな内情まで言外に読み取る読心術が僕にあるハズも無い。

 これは彼女がこぼしてくれた愚痴から知ったお話です。そこまで聞かされちゃマズいっすね。

 なんか勢いに任せてバーンアフターリーディングみたいな紙も見せてくれた。あんま見せないでそういうの、後で僕ごと燃やされちゃうかもでしょ。

 ま、流石に見せていいものしか見せてないとは思うけれど。

 

「お、勘いいわね。あんなの誰が見ても大丈夫なカバーよ、カバー」

「お前ね……あんまコイツの口車に乗せられるなよ。アオは悪いヤツじゃあないが、ちょっと危険だ。口当たりが良い酒ほど死期を早めるもんだろ。先達たる俺達が線を引いてやんなきゃならん……内側に入れ過ぎれば、俺らもコイツも不幸にしちまう。篭絡されるな」

「……えらく高く買ってんのねぇ。別にこの子はそんなにたいしたもんじゃないわよ。私のスキルが効かなかったのは初めてだけど、他はたかだか話上手なだけの、単なるおこちゃま。心配しないでも深く入り込む余地なんて無いわ。いーいアオミ、あんな会話だけで人を分かった気になっちゃダメだからね? 情報を聞き出すってのは一朝一夕じゃない、相手が真に求めるものを把握してようやく達成できる職人芸なの」

 

 いやはや仰る通りでさぁ。

 この未熟な小童、ぜひともネリッサさんの教えを乞いたく存じますぜ。

 

「バカねぇ、好きに言ってなさい」

 

 さもおかしそうにそう言うと、彼女はペンペンと僕の頭をはたいた。

 

 

 

 そう、僕は籠絡なんかできていない。

 むしろ彼女に見抜かれたのだ。

 

 コイツはなんの脅威にも成り得ない、単なる賢しげなガキだ、と。

 同僚はパーティの要だとかなんとか言ってたが、戦闘力もなければ諜報員にすぐ懐いちゃうようなおバカでしかなく、警戒する必要など無いのだ、と。

 

 彼女の審美眼はまぎれもない僕の本質を見事に見抜いてみせたってワケ。

 

 いやはやまったく、こうも自分の浅さを看破されると赤面しちゃいますね。

 

 

 

「……やっぱお前の将来が怖いよ、俺は」

 

 彼女に言われるがままエルフの里名産薬草茶を淹れ始めた僕を見て、どうしてかコールダウさんはそう呟くのだった。

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