【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

102 / 142
次の投稿は一週間後の予定。

感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【97】 遠征前の下見

 目の前に広がる森の木々が、自我を持った生き物のようにうごめいて形を変え、弦が伸びて枝がしなり……そして最後には、植物でできたトンネルができあがる。 

 

 なにがしかの創作物で絶対見た事のある古典的な演出に、僕らは思わずゲーム発表会でテンションの上がった海外のオタクミームの如く喝采をあげた。

 とはいえ別にそれを意識してたのは僕だけなんだろうな……という醜いぽたく君である自覚が一瞬心を苛むも、肩にポンと手を置かれ、振り返ればそこには深く頷く目黒さんの姿が!

 

 め、目黒さん……!

 何もかもを理解しているといった感じの彼女の素振りを見て、目黒さんへの信頼度が更に跳ね上がってゆく。もはや信頼ゲージはレイドボスHPのように7本くらいあるが、こんなんなんぼあってもええですからね。

 この高身長おてて大きめモデル体型な彼女は、間違いなく僕と同じインターネット経歴をしてきた同士なのだ。

 

 やっぱ目黒さんはズッ友(ずっとオタク話をする友達が欲しかったぼっちオタク陰キャの目の前に、綺羅星の如く現れたはちゃめちゃに話が合うしついつい意識しちゃう気になる異性)や……!

 読み取った僕のそんな思考を前にして、彼女は顎をトントンと叩きつつなにがしか思案して……何かに気づいたように慌てて僕を指し次に彼女を指してを繰り返した。お、正解。そして理解。

 どうやら、そんな風に思っていたのは彼女もだったようで……今のズッ友の注釈の矢印が僕に向けてか、彼女に向けてなのか図りかねたらしい。

 へへへ、照れちゃうねぇ。

 

 

「さぁ、こちらへ」

 

 案内を買って出てくれた緩ウェーブセミロング猫目スレンダーエルフお姉さん、ベルフィエッテさんはそんな風に僕ら二人の信頼度ゲージがぐーんとあがってる事など露知らず、僕らを先導しトンネルへと入ってゆく。

 

 彼女に導かれ、そのあまりにも幻想的なトンネルを抜けた先には。

 

 

 はたして視界を埋め尽くす「壁」があった。

 

 

 壁、としか形容ができない程に巨大な“面“。

 その壁を伝ってどんどん上へと視線を上げてゆくが、どこまでいっても途切れる事なく、その壁は続いていて。

 ほとんど真上を見上げる形になってようやく、その壁から幾本も巨大な枝が生えている事がわかる。

 しかしその枝すらもが一般的な木の一本と同じくらいのサイズ感をしており、蜃気楼を見ているかのように遠近感が狂いクラクラとしてきた。いやこれは単に真上を見過ぎてるだけか。

 

 間近に迫ったワーム殲滅行の下見として、世界樹のたもとへ僕らはやって来ていた。

 

 どれくらいの気温・湿度か、そもそもどういう環境なのか、足場はどんなだ、件のワームのサイズ感はいかばかりか……。

 実際にダンジョンへ潜る前に知っておかなければ準備できない事は山ほどある。

 これが一度踏み入れれば帰れないような魔境であればともかく、エルフの先遣隊が帰還済みであるという前例もあるし、まずは一回見に行ってみるのが良かろう、と話し合いで決まったのだ。

 

 

 はぇ〜、しかしデッカい……。

 近くまで来たら、よりその大きさに圧倒されちまうな。

 しかしその枝についた、凄まじい大きさに見合うテニスコートサイズの葉っぱを見るに、たしかにすこし萎れているというか、幾分元気が無いようにも思える。

 枯れ葉とまではいかないが、青々とした健康的な葉ではなさそうだ。

 

 栄養が足りてないだけなら、根本にプスッと委員長印の農薬刺すだけでなんとかなるんだがね。

 悪王寺先輩に乞われて萎びた一輪挿しに試したら、葉っぱで羽ばたいて飛ぶくらい元気になったと本人が言ってたし。パックンフラワー作ってる?

 やっぱ僕が委員長の部屋行った時に見た、逆立ちして葉っぱで歩いてる植木鉢って幻覚じゃなかったんだ。

 ほんとだもん、ほんとに歩いてたんだもん、嘘じゃないもん。

 

 

「ふーむ、便利な物ですねぇ。これ一つあれば物流業界で覇権取れますよ。私達でAozonやりません? 貴族位どころか小国なら実効支配もできそうです」

「よくわからないけれど、エルフといえどもこんな芸当ができるのはこの神森の中だけよ。世界樹の魔力が定着し、数え切れない妖精が住まう聖なる森だからこそ、こんな風に世界の摂理を捻じ曲げられるの」

 

 コンコンとゲートの礎となった木を指先で叩きつつ、脳内で電卓も叩いて何もかもを商売に変え金貨で国を作り上げようとする山算金へ、ベルフィエッテさんが呆れたようにそう言った。

 国は要らないからね、ホントに。遠慮とかではなく。

 

「むぅ、センパイは本当に女心がわかりませ……いや、他人の心なんて物、私たち二人がわかってないハズありませんから、この場合はイケズですねぇと言うべきですか」

 

 口を尖らせた山算金の瞳に、何を思いついたのか嗜虐的な光が宿った。お、イタズラする気だ。かわい。

 彼女はみんなの目がこちらを向いていない事を確認すると、僕の耳元へ口を近づけ。

 

「商人という生き物は一度心底ヤラレちゃうと、この世のなにもかもをあげたくなっちゃうんですよぉ……? 無償で施される愛には、金額のつけようがないのですから」

 

 心地よく響く甘い声で囁くように殺し文句を唄いあげる。

 ひょぇ……背筋ぞくぞくした。こんなんイタズラ感覚でされてたら大変な事になりますよ。

 

 世界のあらゆる財貨よりも、山算金と過ごす時間が欲しいけれど……でも、気持ちはわかるなぁ。

 僕なんかにゃこの世のなにもかもは無理だけど、僕の持ってるものならなんだってあげたくなるもんね。

 愛する人へ手渡すならば、己そのものとていったい何が惜しかろうか……あ。

 

 そんな考えが伝わったのか、むしろ彼女の方が照れてしまった。

 顔を真っ赤にした山算金に二の腕がつねられる。いでで、ごめんごめん。

 

 今回はどうやら僕の勝ちらしい。ま、愛情表現ってのは一方通行じゃないのでね。

 たまにはやり返さないと、彼女だってふとした時に不安に思う時がきちまう。

 それに反撃がある相手の方が、やりこめる時に燃えるもんでしょ?

 ギャップや落差ってのは駆け引きにおける大事なファクターだ。

 マンネリ回避には余念が無いぜ。

 なんせヒモなんでねぇ。

 好きでいてもらう努力くらい、欠かさないようにしなきゃな。

 

 

 

「見えるかしら、あそこ……樹皮に開けられた、黒い丸。あれが今回の騒動の始まり」

 

 ベルフィエッテさんが指差す先へ目を凝らすと……凝ら……凝らしたが、全然わからなかった。

 いや樹皮ボコボコだし判別つかないって。

 スカイツリーの展望台に居る人が持ってるランドルト環の穴の向きを、地上から見るようなもんじゃんね。

 

「あー……? あ! アレかぁ、うわたしかに。なんか穴空いてらァ」

「あらホント。かなり大きいわ。……え、あの大きさの虫が出てくるワケじゃないわよね? その、私、普通の虫ならそこまでだけど、ちょっと流石にあのサイズの芋虫は……」

「いや、あれは流石に食い荒らしたら結果的に穴が大きくなっただけじゃ……え、あ、え? そ、え……? そ、そうじゃん……! 今からボクらって、人間サイズのスーパーはちゃめちゃバカでか芋虫の相手する事になるの!?!? みんなワームって言うから、なんかチュルンとしたホースみたいなのかと思って、そういうイモムシっぽい質感とか全く想像してなかったんだけど……!」

「うげ、マジかぁ。俺も男だし普通の虫ならともかく、その大きさのは勘弁して欲しいな」

「でもウチのベッソーの裏の山でもスゲーおっきいイモムシ見っけた事あるんでダイジョーブっスよ!」

「そ、そうであるか……? であれば、大丈夫……大丈夫なのか……?」

 クソデカイモムシ君がもし本当にマジ芋虫のディティールを持ってたら、僕らお手上げかも知れませんね。祈りましょう。

 

 

 どうやら衝撃の事実に今更気付いたパーティメンバーの面々であるが、彼女らにはしっかり穴が視認できているらしい。

 これ日本に帰ったらみんな視力検査でも無双できるぞ。

 異世界にまで行って帰ってきてする無双がそれでいいのかははておき。

 

 ま、まぁ僕だけ基礎ステゲロ低コモンキャラである事をまた証明してしまったが、べつに見えずとも問題は無いのだ。

 見えないのならば、見える位置に行けばいいだけの話。

 僕らはその為に、こうやって事前準備の一環としてわざわざ世界樹まで赴いているのだから。

 

 

 

「先遣隊はみなあそこに入って、なにもできず撤退を余儀なくされた……けれど、風の方率いるあなた達ならば、なんとかしてくれると信じているわ」

 

 そう言ってベルフィエッテさんが自身の首元へ指をやると、ほわほわとした光が掻きあげた髪の間から溢れだす。

 

 僕みたいな精霊に愛されない人間ですら視認できるほどの、極めて高い密度の精霊。

 彼女らは身の内の精霊だけではなく、その場に居るものや植物・地面に宿ったものからすらも、己の魔法行使の為に力を借りることができるのだそうだ。

 

 それらは彼女の指の動きに沿って飛び回り、最後に指差したオニバスみてーなデカさの葉っぱへと飛んでゆく。

 精霊が葉に着弾し、ふわ……と広がったかと思えば、元からパース狂ってんのかってくらいデカかったソレが、内側からもりもりと肥大化し、瞬く間に体育マットもかくやと言わんばかりのサイズへと変貌した。

 

 

 エルフさんお得意の精霊魔法だ!

 ……そ、それってキャベツとかに使えば無限に食えるんじゃないスか!?

 

「食べる物にはあまり使わないわ。過度に魔力を含んでいるから、食べ過ぎると身体に害があるもの」

 

 そっかぁ、残念……。

 それだけでも覚えて帰れればめちゃめちゃ家計の助けになると思ったんだけどなぁ。

 世の中そううまくはいかないのだろう。

 

「ご心配無く。私の作った薬であれば理論上、一玉で翔葉高校の校舎と同質量のキャベツを作る事が可能です」

 

 『取らぬキャベツの捨てる部分活用レシピ』に肩を落としていると、心配ご無用とばかりに委員長がそう言ってくれる。

 

 そうなんだ、流石は正道だね!

 でも僕らだけじゃそんなには食べられないから、もうちょっと小さめがいいかな?

 

「……確かに。ご近所に配る場合、半径2キロ圏内一円に配給しても無くならない計算になりました。考慮の余地があります」

 

 が、しかしまがりなりにも頂点捕食者の人間である僕は、生物としての本能から委員長による巨大不明生物2号の作成に待ったをかけた。家庭菜園で育てた野菜に僕が食われちゃ困るよ。

 なんならホイコーローにして食べた僕が、生物濃縮の果てにとんでもない怪獣になる可能性も考えられるぞ。

 けどこれは「食べる物を作る」という目的設定の話をする際に、「食べてはいけない物を作ってはいけない」という禁則事項を設けていなかった僕の落ち度やね。潔く巨大化して街を荒らし回ろう。

 

 

 

 先程の魔法を見ればわかる通り、ベルフィエッテさんたちエルフは精霊魔法の中でも土と風を得意としている。

 ドワーフが金と火、エルフが土と風、ウンディーネは水。

 他の種族より精霊に近いとされるいくつかの種族は、それぞれ得意とする属性が異なる。

 あのおもしろ賭けクズバクチ大負けおじさんであるヒダルさんも、鍛冶の際には金と火の精霊魔法を使用しているのだ。

 「どうせ暇だろちょと見てけ」と鍛冶を見せてくれた事あるけど、普段からは考えられない程に真剣な表情で槌を振るい炉を操る様は、改めて尊敬し直すだけの凄みがあったね。マジでカッコよかった。

 以前封じたハズのドワーフオヤジルートにちょっと心が傾いちゃうくらいにはイカしてたもんな。

 

 

「さ、乗って頂戴」

 

 巨大化した葉っぱに、ぴょこんと飛び乗ったベルフィエッテさんに続き、僕らもおそるおそる足を乗せる。

 お、おぉ……肉厚……婆ちゃん家でたべた美味いピーマンを想起させるぜ……。

 しかし近所の農家さんから貰った採れたてピーマンと違い、僕ら全員の体重を受けながらも葉は圧し潰されることは無く、どっしりしっかりとした安定感が足裏から伝わってくる。これ齧ったらめちゃめちゃおいしいんじゃないか?

 ダメだ、生来の貧乏性から可食部の話ばかり考えてしまう。

 

 なんとも不思議な踏み心地をしていて、ついつい爪先できゅっきゅっと押したりしてしまうが、へこみつつも強い弾力で押し返されるので、強度として不安はなさそうだ。

 嬉し気に上下に弾むDJ鹿野ちゃんによって、ボインボインとトランポリンに乗ってるみたいに全員が縦揺れもした。

 陽気なパーリナイトは解決後にしようね。

 

 ジト……と半目でこちらをねめつけるベルフィエッテさんへ小さく頭を下げておく。すいませんねぇ、うちの子が。

 しょうがないわねぇとでも言いたげに大きく鼻から息を吐いて、彼女は手のひらをくいっと上へ曲げる。地球来た時のナッパかな?

 するとそれに連動して、僕らの足元の葉が風を受けて徐々に持ち上がり始めた。

 

 う、うわーーーー! いくらなんでも魔法過ぎる!!! 子供の夢じゃん!!!

 

「何を今更……あなたのパーティにだって魔法使いはいるじゃないの」

 あー、いや、へへへ、その、いろいろと事情がございやして……。

 

 僕が完全に痛い所を突かれている間にも上昇は続き、気づけば飛び降りたら「足首を挫きました」じゃすまない高度になっていた。

 

 ……これ、だいぶ怖くないか?

 いや町を高所から眺められる穴場のスポットとかはよく行くし、僕って高い所はけっこう大丈夫な方なんだけど。

 それでもこれはなんつーか、柵が無い葉っぱの上で高層ビルみたいな木の洞まで飛んでいくのは、完全に日本じゃ禁止されているっていうか……。

 下はできる限り見ないようにしよう。

 

 

 足を滑らせればそのまま地上へ真っ逆さまである事に気付いた僕は、咄嗟にこの場でもっとも危険そうな鹿野ちゃんの両脇に手を入れ持ち上げ、そのまま手元へ引き寄せる。

 

「んえ、なんスカ先輩! このままグルグルっすか!?」

 

 世界一怖い遊園地のアトラクションかな?

 いや、なに、ちょっと怖くてさ。

 もし良ければ、このまま抱きかかえさせてくれる?

 

 もしもこの子がツルッとなっちまったりしたら……と考えると、思わずブルっちまうんだからウソじゃあない。

 もうこのクランのメンツの誰かが居なくなるなんて事があれば、僕には到底耐えられそうになかった。

 

「モーーーチロンっすよ~! んへへ、怖がりな先輩はウチが護ってあげるッス! って、「うわわわ!!」」

 

 突如浮遊感を感じ、僕と鹿野ちゃんは言葉をシンクロさせる。

 背後を見れば、先生と目黒さんと明星先輩と悪王寺先輩がそれぞれ、鹿野ちゃんを抱きかかえる僕を抱きかかえていた。電源ハブのタコ足配線?

 

「ちょっと危ないから、良い子にしててね」

 

 はぇ、まぁ、ハイ……。

 そりゃそうか、よく考えれば身体能力上がってない僕が、一番危ないと思われるわな。

 鹿野ちゃんを心配した僕が、どうしてみんなのその気持ちを過保護だと責められようか。

 

 ちょっと感じる気恥ずかしさなんか無視して、身体をがんじがらめにするみんなの手の中で、僕はおとなしくされるがままになるのであった。

 

 

 

 そうしてみんなに抱き抱えられ足も葉に着かずふわふわと浮きながら、つい先程の話題について僕は考える。

 

 ワーム、ワームかぁ。

 ラナスティルさん曰く、牙があって身体をうねらせる悍ましい生き物。

 それがいたるところから無数に這い出てきた、と。

 それらは曲がりくねるダンジョン内部の構造と、魔法が使えない特殊な環境もあって、人間くんの超上位互換たるエルフさんたちは攻撃すらもできず逃げ帰ったそうだ。

 

 その点ウチはそもそも魔法は使わないし、知名君も精霊魔法以外の魔法をダンジョン内で試してみたいとの事で、唯一遠距離攻撃である鹿野ちゃんの砲撃も、マカロニウェスタンに出てくるガンマン並の早撃ちだから距離がそこまでなくても対処できる。

 思えば近距離物理攻撃にかなり特化したクランになっちゃってるが、だからこそ今回のワームなんかには噛み合わせが良さそうだし、今のところ話に聞く限りは問題無さそうである。

 

 

 ……その、聞く限りは、そうなんだけど……。

 

 ……これは完全な憶測だから、みんなにゃ「ボスの存在可能性」までしか言及してないが。

 こういうダンジョンってさぁ、なんつーか、たいていワーム系のエネミーが出たら……ボスエネミーとして、巨大なワームが出る気がしてるんだよな……。

 ほら、例えば、それこそクジラとかみたいに大きな……デッッッッッッな芋虫くんが……。

 いや、流石に創作と現実を混同するなと怒られそうだし、なによりエルフさんたちがそういう痕跡見つけてないっぽいから、杞憂だとは思うんだけど……。

 

 ……一応、後で万が一の可能性として、共有だけしとこっかな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。