【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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書けたので投稿される番外編です。

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特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【番外編 3】 老人と青海、あと孫

 ある日の昼下がり。

 クジラ討伐で転がり込んだ大金に浮き足立ち、ヒダルさんとこでずっと欲しかった逸品をまんまと購入した僕は、煤灰通りを抜けて道なりに並んだ商店を見て歩いていた。

 よく通る場所ではあるのだが、しかし懐が真夏のアスファルトくらいアチアチな今見ていると、普段見落としていた雑多な物がなんだかんだと立ち上がってくる。僕の懐で目玉焼きが焼けちまうなァ〜!

 

 お、簡単携帯鍋置き? 欲しい。(空鍋は載るが、鍋に水を張ると壊れる耐久性 ☓)

 へー、スライム革の防水靴下! すげー良いじゃん。(水は防ぐがめちゃめちゃに蒸れた、臭くなりそうで怖い △)

 ひっくり返すと別の顔になるお面!? 買います!!(近所の子どもとメイちゃんに大変ウケた ◎)

 出先で料理出す時に、木のボウルはいくつあってもいいからな。冒険で何枚か割れてるし、予備買い増ししとくか。(軽く丈夫で匂いも無い、良い買い物だった ○ マルキス木工店は買い物先リストに追加)

 

 そうしてはたと気付けば、僕の両手にはどっさりと買い込んだ商品が積み上がっていた。

 

 ……今までこういう機会が無かったから知らなかったけれど、もしかすると僕ってお金あればあるだけ使っちゃうタイプだったのか?

 思い返せば、お小遣いを貰っていた幼少期の頃、支給されたその日に使い切った記憶がいくつかボンヤリと浮かび上がってくる。

 芋づる式に再生される過去の記憶の中で、お母さんが「蒼はお金にしっかりしてる人か、首に縄かけて引っ張ってくれる人を見つけて、その人と幸せになるのよ」と言っていた意味が、今になって理解できた。

 

 拝啓、お母様。

 あなたの言うとおり、今僕はお金にしっかりしている人と、僕の首にリード嵌めて散歩させたいという願望を胸に秘めている人を見つけ、幸せになっています。

 

 宿帰ったら山算金に習って家計簿つけるか……。

 

 

 

 己に備わっていたヒモの資質にまた一つ気付かされ意気消沈していると、視界の端に見知った顔が飛び込んでくる。

 件の相手は、道に面したテラス席……っつーか雑に小さい机と椅子代わりの木箱放り出した席で、頬杖をつきながらジョッキを眺めていた。

 

 お、なんだべスピムさんじゃん。

 どしたのこんなとこでため息なんかついて、なんかあったの?

 

「あぁ、アオミかぁ。いやー、それがな……いやはや、どうしたもんか……」

 

 その声には普段肩を組んで歌う時のような張りが無く、まるで打つ手無しといった感じで、もごもごほにゃほにゃと口ごもっている。

 見ればいつ注文したのかもわからないバーガルはすっかり気泡が消えており、ほぼ手付かずなようだ。

 

 およ、なんか結構深刻そうっすね。

 この人がこんな調子になるのは珍しい、っつーか僕は見たことがねぇもん。

 

 これはよっぽどの事があったに違いないとあたりをつけた僕は、隣のテーブルから木箱を引っ張ってきて向かい側に座った。

 あ、マーニーさん、ども。僕もバーガル頂戴。うん、あとなんかナッツとかで。

 

 店員さんによってすぐに運ばれてきたお酒に口をつけつつ、豆の皿をべスピムさんの方へ軽く押す。

 下げた視線の先へ割り込んできたメルヒル豆を、彼は手なりで摘み口へと放り込んだ。

 

 

 少しの間、ただテーブルに置かれた物を飲み食いするだけの時間が訪れる。

 

 

 これは単純な経験則だが、何かを食べながらの方が口は軽くなる。

 そもそもが悩みってのは、なんにも動かず悩めば悩む程に袋小路に行き詰まってしまうものさ。

 塞ぎ込んで口を閉ざしていると、強張ってドンドン話し始め難くなっちまう。

 そういう時は、なにがしかの契機を外から与えてやんなきゃいけない。

 なにか軽いツマミでも食べて飲み物で流し込めば、言葉の詰まりも一気に解消……とまではいかずとも、少なくとも口は動かしやすくなる。

 それがお酒ならなお良いのは、言うまでもないことだろう。

 そういう時のお酒の力は偉大だよ、お酒様々つってね。

 

 もっと馴れ馴れしく肩を小突いたりとかの方がいいヤツもいれば、気遣って言葉をかけてくれる事を求めてる人もいるけれど、べスピムさんはどちらのタイプとも違う老成した思慮深い人間だ。

 この場合は酒とツマミとゆっくり待ってくれる友人が処方箋です。

 話しやすい距離にただ居るだけで、彼ならポツポツと話し出すだろう。

 なにより相談ってのは聞き出すものじゃなく、されるのを待つものだからな。

 

 彼が言い淀んでしまうという事は、愚痴や文句が言いたいワケじゃない。

 思わず口が重くなってしまうような、自分の中でとても比重の大きい何かについての悩みがあるんだろう。

 だからこそ、ゆっくりと考える時間が必要になってくる。

 悩む時間ではなく、考える時間が。

 

 彼のような聡明な人は、胸にわだかまる思いを抱えていたとしても、それを突然現れた相手にパッと言葉にするのは難しい。

 なぜなら「目の前の相手にどのように、どこまで伝えるべきか」を、まず考えてしまうからだ。

 胸の思いを選別して、言葉を頭の中で形にして、初めて誰かに向けて口にできる。

 けれども、ただ沈黙だけが横たわる空気ん中じゃあ、そっちが気になってなかなか思考をまとめらんないでしょ?

 だからこそこうやって、過ぎる時間を無為でない物にするために、お酒と豆の小皿が僕らの間には置かれている。

 

 ま、のんびりとこっちもやってるからさ、満足いくまで考えまとめてくださいよ。

 考える彼を邪魔しないように僕は、顔の横で傾けたジョッキから流れるバーガルを空中で一回転させ口へ流し込みつつ、ピンピンとその流れに豆を投入し最強タイパ酒飲み術で時を潰し始めた。

 店内のバカな酒飲みどもから、やんややんやの歓声とともにおひねり代わりの追加豆が飛んできた。こちとら鳩じゃねんだぞ。へへへ、あんがとね。冒険者出来なくなったらコレで食ってくか。

 

 

 錬金術師ギルドに勤めるべスピムさんは、この街の政治的な部分にも詳しい情報通である。

 そんな人がこうやって頭を抱える程の問題となれば、同じ街に住む者として、その地域の冒険者として、なにより彼の友人として、放っておくわけにはいかないでしょ。

 いや、たまたま通りがかって良かったよ。

 僕なんかになんとかできる内容かはわからないけれど、それでも少しは力になれるかもしれない。

 

 だから、まぁ気が向いたらでいいんで、教えてもらえるとありがたいかな。

 あなたの心に重くのしかかる、その悩みの種を。

 

 

 

「実はな……」

 

 宴会芸で早々に1杯空けたので、2杯目は流石にちびちびとやっていたところ、十数分くらい黙りこくっていた彼がようやく口を開いた。

 

 うんうん、いったい何があったんです?

 

 この世の終わりのように絶望的な表情をしたべスピムさんは、それでもなお少しの間逡巡した後、意を決したように僕へ悩みを打ち明かしてくれた。

 

 

「孫に……おじいちゃん、怖いから嫌いって……言われちまってさぁ……」

 

 

 あーー、なるほど……そりゃ一大事だね。

 よし、わかった。僕も無い頭捻るからさ、元気出してよ。

 

「おぉ……! そうかぁ、悪いなぁアオミぃ……!」

 

 

 ここでズコーッとコケたり、チャンチャンなんてSEが入ったりはもちろんしねぇ。

 誰かが本気で悩んでる相談に乗るのなら、僕はきちんと相手と同じだけその重みを受け止めるべきだからだ。

 そもそもが悩みなんて身の丈にあった日常生活の中で、多分に直面するものじゃねぇか。

 となればだいたいが等身大で、僕らの人生にストレートに降りかかる他人から見れば一見どうでもよさそうな問題こそが、その人にとって最重要課題となるもんだ。

 

 そうでなくとも、目に入れても痛くない孫からお祖父ちゃん嫌いなんて言われるのは、僕で言えば鹿野ちゃんに嫌いと言われるようなもんだろう。

 アカン、ショックで寝込んでまう……!

 だ、ダメだったとこ教えてよ! どんなとこでも直すからさぁ! お願い捨てないでぇ! は、働く! 働きますからぁ!

 おっと、仮定の話だってのに完全にBAD入って、妄想の彼女の足下に縋りついちまった。なんで妄想ん中でも働いてねぇんだよ。まず養われるのをやめろ。

 勘弁してよ、曇る側としても曇らせは得意じゃないんだってぇ……。

 いやしかしだからこそ、その懊悩、察するに余りあるぜ。

 

 

 で、なにがきっかけでそんなこと言われたの? なんか叱ったりした後で、とか?

 

「馬鹿野郎! ヒモと違って品行方正なあの子を叱る理由があるかい! ……いや、それがな、なにか特別な事があったワケじゃあなく、どうも普段から怒ってるみたいで、怖いって……」

 

 あーね、子供ってムスッとしてるように見える人は怖がっちゃうかならぁ。

 べスピムさん別にいつも不機嫌とか怒りっぽいとかじゃないけど、あんまり笑うタイプでもないもんねぇ。

 酔ったら別人くらい陽気なのに。酒乱ならぬ酒明だ。服脱ぐのはやめなよ、ホントに。

 

「そう、そうなんだよ! いーっこも怒ってねぇ、むしろニマニマしちまうのを抑えてるくらいなんだぞ!? 孫に威厳のある祖父のカッコいい姿を見せる為に!!」

 

 それでこんな感想抱かれちゃ元も子もない話だけど……そういうのはわかるよ。

 誰にだって「この人にはこう見て欲しい」っつー願望があるもんだもん。

 ギルド勤めの仕事ができるカッコいいお祖父ちゃん、なんてもう少し経てば間違いなく自慢の祖父だろうからね。

 

 ま、だから一応言っとくと、今から孫馬鹿デレデレ爺さんに鞍替えってのが一番早いけど、それはそれで心理的なハードルが高いし、選択肢としてはナシでしょ?

 

「まぁ、そうだな。無論孫の為ならいくらでも泥は被るが……今度は長年連れ添った家族の目が変わっちまいかねん」

 

 となると……残された道は一つだ。

 なに、これは一番つっても良いくらいの名案だぜ。

 

 この僕、青海がお孫さんの……あ、へー! 可愛いお名前だ! アンジェリカちゃんと仲良くなって、僕からお祖父ちゃんの凄さを教えてあげればいいんだよ。

 

 実はこう見えて子どものお世話って大好きなタチでさぁ。

 これに関しちゃ孤児院の子ら全員からお墨付きの太鼓判を貰えるだろうぜ。

 

 それと、そうだな。

 良ければほんの一時間遊ばせてもらった後に、錬金術師ギルドに僕の用事の付き添いとしてお孫さんを連れて行かせてくんない?

 職場で働くお祖父ちゃんを見れば、きっと彼女の見る目も変わるハズさ。

 単に深く知らないから怖く見えちゃうだけ。

 お祖父ちゃんの事をよく知れば、きっとそれだけで万事解決だよ。

 

 なんてったってべスピムさんは、こんなに良い人なんだから。

 

 ま、大船に乗ったつもりで任せてよ。得意分野だ。

 ベスピムさんの普段の様子をお話しして、自慢のおじいちゃんなんだなって本当の事を知ってもらうだけ。

 

「いや、しかしアオミにそんな事頼んじまうのはよぉ」

 

 なーんだよ水臭いなぁ。

 僕とパーティメンバーがいつもお世話になってんだから、その分のお返しを少しでもさせて欲しいくらいだ。

 

「だってお前みたいな教育に悪いのを近づけて、孫が将来ダメ男好きになっちまったらと思うと……」

 

 お、言ってくれるねぇ。任せてよ、それも得意分野だ。

 息苦しくなる先の無い将来の話をしてヒモのネガキャンさせたら、僕の右に出る者はねぇ。

 きっとその日一日が終わる頃には、その子はおじいちゃん大好きっ子かつヒモを嫌悪する立派なレディになってる事だろうさ。むしろ教育に良いまであるね。

 いや、これって教育に良いって言うんすかね?

 ヒモが言ってると思うとなんでもその場しのぎに聞こえるのはデバフが過ぎるだろ。やっぱこのジョブ初心者向けじゃなさすぎる。

 

「……うーむ、そうだな。わかった。面倒事で悪いが、どうか一つ頼めるか? 時間や日付はそちらの都合で構わん」

 

 あいよ、任された。

 なぁに、面倒なんて一つも思っちゃいないよ。

 なんてったって僕は、賢い良い子と遊ばせてもらうだけなんだから。

 むしろ良い休日の過ごし方をさせてもらえる、僕の方がお礼を言いたくらいさ。

 

 使い道不明のゴミと☆1レビュー商品の狭間の物体を山程抱えながら、僕はキメ顔でそう言うのだった。

 

 

 

 結果的に僕の計画は大成功を収め、アンジェリカちゃんはすっかりおじいちゃんに懐いて、休日はべったりのおじいちゃん子となったそうだ。

 なんでもほとんど毎日夜は錬金術のお話をせがみ、そのまま膝の上で寝てしまうのだと、ベスピムさんがもう完全に緩み切った表情で語っていた。

 その事について息子さんのベルニッヒさんや、その奥さんのカレンさんには、感謝半分と「自分たちとの時間がとられちゃった」という苦言半分といった言葉を頂いたが、まぁそこはご家族で調整して、一家のお姫様とみんなでかけがえのない時間を過ごしてくださいと返しておく。

 

 いやー、アンジェリカちゃんはかわいらしいし賢いし、そりゃベスピムさんが溺愛するのも頷ける話だぜ。

 僕がこんな年の頃なんて、テンションぶっ壊れて走り回った挙句すっころんでケツにイガグリ刺さって泣き喚いてたぞ。いくらなんでもアホガキすぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 その後、ご飯に誘われたりと家族ぐるみの付き合いが続くこととなりかけたが、二度目にお邪魔した際アンジェリカちゃんの放った「アオミはいつわたしとけっこんするの?」という一言が引き金となり、無事ベスピムさんにより出禁を言い渡されるのであった。

 

 4歳の子のそういう言葉を真面目に受け取るんじゃないよ、孫馬鹿ジジイがよぉ~~~~~!

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