【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

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長くなり過ぎたので半分くらいで切った。
次の投稿は一週間後の予定。

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ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【100】 臆病者の提言

「おー、けっこうデッケぇ……つってもアドラグスネーク程じゃないか。蛇よりはワームのが危険度低いよな? いやでも、こういう特殊な個体だと話は違うか」

「うぇ〜!! ムリムリムリムリ!!! い、い、い、イモムシですらないじゃん!!! ボクこーいうの絶対ムリだから!!」

「うーん、私もちょっと苦手ねぇ。実家近くで飽きる程見てたから蛾とかセミは大丈夫なんだけど、日本に居ない虫はまだ慣れてないから」

 こんなん日本に居たら人間の方が滅んでたでしょうねぇ。

 

 打ち付けられたワームを遠巻きに眺めながら、みんなが感想を漏らす。

 

 闇無君は大きさに面食らいつつも平気そうで、聖先生も苦手とは言いながら比較的耐性はありそうだ。

 けど悪王寺先輩なんて自分を抱きしめゾゾゾと震え上がっており、山算金は「私は見ません」とでも言いたげに両手で目を覆っている。

 苦手な人はとことん苦手なタイプのエネミーだろうし、そこんとこも考えてフォーメーション組まないとだな。

 最低限徐々に慣れていく馴致期間を設けておきたい。

 

 好き嫌いなんて生存競争を生きていく中じゃ甘えと思われそうだけど、しかし生理的な感情というのは極限の場面で致命的な硬直に繋がったりもする。

 僕らはその事をあの地下墓地で嫌というほど学んだからな。

 本当に苦手なモノを相手にする場合、慣れるまである程度は距離を離したりしてレスポンスの遅れが大局に影響しないようにする配慮は、けっきょく自分たちを助ける事に繋がるんだ。

 事前にわかって良かったぜ、やっぱ予習は大切やね。

 小学生の頃にこんな旅を経験してりゃ、今頃優等生になってたか草葉の陰だったろうに。九分九厘後者です。賭けにしても分が悪過ぎる。スパルタ教育の極地はやめろ。

 

 

「んっ、んー……流石にオレも直はヤだな。アオミ、ナイフ貸してくれや」

 

 目の前にどかりとヤンキー座りで腰を下ろし、しげしげとワームを見ていた明星先輩は、視線を外す事なく手のひらをこちらに差し出してくる。

 ハイハイ、どうぞ。

 

 へへへ、カッコいい小刀でしょ。

 クジラの報酬を使い新調した、ヒダル鍛冶店謹製『焔鋼』ですよ。

 いや前からお店行く度に実は欲しくて眺めてたんですけど、大きな収入があったからついに買っちゃったんッスよね〜。

 持ち手にはコープスワイバーンの骨にゴーレムの魔核をあしらい、実用的なだけでなく装飾にもこだわった名匠の逸品。

 ちなみに名匠である張本人はその後『この儲けを5000倍にしたら領地を買える』と言い捨てて、店ほっぽらかして競魔場へ駆けていきましたけど。

 

 「あァ? そんな良いのじゃなくて適当な剥ぎ取り用でいいって」

 

 え、いやいや道具は使う為に買ってるんですから。

 僕が買ったのがみんなの役に立つのが嬉しいんじゃないっすか。

 てか多分、剥ぎ取り用の方じゃ折れちゃいますよ。

 切れ味も良いし頑丈だし魔力込めるとちょっと燃えるらしいんで、ぜひお試しを。

 

「そうなんか……? んじゃ、まぁ借りるわ。あんがとな」

 

 先輩は受け取ったナイフで暴れ狂うワームをいなしつつツンツンと突くが、さっき悪王寺先輩が壁面をナイフで叩いた時のような硬質な音が返ってくるばかりで、一向に突き刺さりそうにない。

 刃物が触れる程度じゃ傷一つ付きそうにないと見るや、先輩は逆手に持ち替え思いっきり突き刺した。

 ナイフの尖先とその表皮がぶつかり合うと、意外にも肉を切る音ではなく破壊的な金属音が響き、ワームから力が抜けてマキビシにぶら下がるままとなる。

 

 て、手慣れてるな~……いや慣れてはないハズなんだが。

 『相手が獲物持つ分には良いが、自分で道具持ったら喧嘩になんないからツマラン』つってたので、扱い自体はこっち来てからが初めてっぽいのだが……。

 その動きは元衛兵に教えを請うている僕よりも、どうしてかよっぽど鋭いんだもんな。

 これはたぶん彼女が積んできた戦闘経験の表れというか、言わば格闘センスの差だ。

 良いセンスしてますねぇ、大切になすってください。

 

「うっへぇ、めーちゃくちゃかてーや。手が痺れるかと思ったぜ。投擲でこれブチ抜くのは、流石姐御って感じ」

 

 先輩は手の中でナイフをくるりと回すと、僕の方へ柄を向けて返してくれる。

 安全へ配慮をしてくれる気遣いが嬉しいやな。

 こういう細かい部分に優しさって出るもんね。

 

 さて、ではちょいと失礼して。

 気を失ったと思しきワームを、受け取ったナイフを使い見分していく。

 ……ふむふむ、表皮には傷無し……次は大きく口を開けて……舌出して『あ~』って言ってください……はいはいなるほどね、もう結構ですよ。

 うん、喉の扁桃腺が腫れてます。風邪かな?

 あと硬い物でブン殴られたせいか気絶もしてますね。そっちが主訴だろ。

 表面はダンジョンの壁と同様にガチガチに硬いけれど、衝撃が伝わって脳震盪でも引き起こしたんじゃないかなぁ。

 

 

 

「ふーん、じゃあ次は俺が試してみよっかな」

 

 くて……っと力無く垂れ下がっているワームにむけ、闇無君が簡素な造りの剣を抜く。

 

 それは彼が天より賜った神授の"武器"。

 一見普通の青銅の剣にしか見えないソレも、天職『剣士』の彼が持てば如何なる刀鍛冶が打った名刀も色褪せて見える切れ味を誇る。

 刀はヒダルさんとこのが一番、と僕も言いたいとこだが……ご本人すら神が打ったと賞賛するのが、僕らに授けられた武器(チート)なのだ。なお僕。パチの筐体くらい持たせてくれて良かったんちゃう?

 

 抜いた剣がシンプルな切り上げで振るわれると、そこには先程までなかった傷跡がハッキリと浮かび上がる。

 

「おっわ……! こりゃ硬いな〜! まぁ本気でやったらなんとでもなりそうだけど、普段通りってワケにはいかなそうだ」

 

 明星先輩がマンキンじゃないとはいえ力を込めた一撃で傷一つ付かなかった事を思えば、それは流石神様により齎された天職と武器と言えるだろう。

 つっても彼の剣を受けて真っ二つになんないとは、このワームの硬さも相当なもんだな。

 なんてったって、エルフの里に来るまでに見た彼の剣術は、オーガやトロールを児戯のように両断する離れ業を容易く行っていたのだから。

 

 一応言っとくとオーガやトロールを安定して狩れれば、放置した場合の被害の大きさを考慮して金級になれるくらいなので、これはマジで充分ヤバいです。

 そりゃ僕らパーティだってそれくらいは朝飯前にやってのける強者揃いだけど、彼はバフ無しでそれだからねぇ。

 彼本人は「わりとやってみるとなんだかんだできるんだよね」と笑っていたが、とんだ万能人っぷりにハズレくじ引かされた人間としちゃもはや笑うしかねぇや。

 

 そんな彼が浅い傷しか付けれないってのは、やはりちょっと異常な防御種族値をしてるっつー話になる。

 

 うーん、ダンジョンとボスエネミーに共通した特性としては……「頑強」とか「強堅」とか、なのか?

 いやでもなーんか、しっくりこないんだよなぁ。

 もっと相応しい言葉があるような気が、なんとなくするんだけど。

 

 

 

「ふむ……識別名:パラサイト」

 

 知名君が懐に手を入れつつ、逆の手でワームに杖を向けそう呟くと、僕の胸元にポンと赤い点が灯る。

 

「……バカ者、なぜお前が対象に取られている。識別名:パラサイトワーム」

 

 彼がより詳細に定義し直すと、今度こそ僕ではなくワームに赤い点が灯った。

 どうも『パラサイト』の検索クエリだと、ワームより僕の方が検索結果として上位に出るらしい。らしいじゃねーよ。SEOどうなってんだ。

 その魔導検索エンジンがアカシックレコード参照した上でこの結果叩き出してるなら、僕とてこの世界へ直談判する用意があります。訴状もいっぱい書くぞ。

 

 

 憤る(アホ)をよそに、知名君が懐より取り出したのは、スーパーボールサイズの無骨な鉄の塊だった。

 特に何かの形に成形されてはいない、デコボコの鉄塊。

 それを適当に頭上へ放り投げると、同時に杖の先に青く光る魔法陣が二重に浮かび上がった。

 

「『空圧(コンプレス)』・『付与"尖魔"』」

 

 重力に従い落下を始めた鉄の塊が、二つの魔法陣の間へと差し掛かった瞬間。

 破裂音が炸裂し、目にも止まらぬ速度で青く輝く鉄の礫が発射される。

 項垂れたワームに着弾したそれは、まるで鐘楼を鳴らしたかの如き金属音を響かせてあらぬ方向へ弾かれて、コココココンとエアホッケーじみた跳弾をしつつも、最終的に再び彼の手の中へ戻っていた。それできたらホンジャマカにも勝てるぞ。

 

 

 いや〜、魔法だなぁ〜……エンチャントまでしてる……すご。

 現代人らしくジジイの宴会芸以外の魔法に慣れていない僕は、彼のやる事なす事に新鮮な驚きを感じていた。

 てか最後に球が手の中へ戻ったのは、魔法とかの話じゃなくない? 学生技巧(がくせいスキル)使った?

 

 

「なるほど。単に硬いだけでなく、魔力にも耐性があるのか。『害炎』」

 

 再度彼が呪文を唱えると、ワームの足下(足無くて顔無い)の魔法陣から黒い炎が吹き上がり、その細長い体躯を包み込む。

 ジュウ……と、しっかりとした火力によるちょい強火での火入れが行われ、目を覚ましたワームが肉汁を閉じ込めるような焼き目をこんがりと付けられながら、キィキィと苦しそうな鳴き声を上げた。

 

 おー、効いとる効いとる。

 ようやくダメージらしいダメージが入った様子を見て、あまりの硬さにどうなることやらとこれからの展望が不安になっていた僕もホッと一息ついた。

 いよいよキングダムの面々に、僕すら納得していないヒモの理屈のプレゼンテーションを行わなければならないところだったからな。

 

 

「『害炎』は魔法によって世界を書き換えて実際の燃焼を起こすのに加え、高温がもたらす生体への悪影響を高める呪詛を"炎"そのものへかけた混合魔術だ。いささかイカサマじみた手だが、これに関しては対象の魔力耐性があろうとなかろうと関係が無い。マグマの中で生存可能な生物でもない限り、この炎の中で生きていられる道理はない」

 

 な、なるほど……! なんか大変高等な事をしているって事はわかるぜ……!

 もはや解説役すらも当の本人に任せた話盛り上げモブとして、わからないながらも彼を賞賛する。

 もうパラサイトたる僕に他にできることねーよ。やっぱアカシックレコードの認識は間違いじゃないかも。僕はおとなしく上告を取り下げた。

 

 とりあえず知名君がダメージソースになってくれるなら、こっちのパーティも現段階で気絶までは持ってけたし、ウチのパーティにバフを山盛りかければこのダンジョンにおいてもDPS自体は問題はなさそうだ。

 コットンガード積んだエルフーンを前に手も足も出ない、みたいな事にはならんだろう。

 

 ホッとしたからか小腹空いてきたな。

 てかなんか良い匂いしない?

 清々しい樹木にピーナッツ混ぜた匂いで……と、そこまで考えて()()()()()()()()()()()()()()に気が付き、いや僕これ全然イケちゃいますねという衝撃の事実が判明してしまった。

 ……しかしもしコレを食べちゃった場合、不可逆的にみんなとの関係が変化っつーか、恐るべき壊滅が訪れてしまう気がするぞ。

 

 

 

「まぁ、これならたいして問題にならんだろう。数が出てきても対抗する手段はまだまだ用意がある。先に進むぞ」

 

 上手に焼けましたを遥かに通り越し、すっかりコゲ肉となってしまったワームを観察対象から除外した知名君は、立ち上がってダンジョンの更に奥へと歩を進めようとする。

 件のワームがまだ一匹しか出てきていない現状、集団戦の想定もしている彼にしてみれば、群れに遭遇するまで進みたいのは当たり前の事だろう。

 

「あー、ごめん。今日はここまでにするべきだと思う」

 

 が、僕はそれに待ったをかけた。

 同時に目黒さんと悪王寺先輩へハンドサインを送り、緞帳と暗闇の合わせ技で僕らの声が通路の先へ漏れぬよう遮ってもらう。

 

 無論そんな便利な技がタダでできるわけが無く従量課金制なので、僕の手の中には銀貨がしっかりと3枚ずつ握らされていた。

 なんで発注側に料金が支払われるんだよ。逆貨幣制度? もしもボックスを使った覚えは無いんですけど?

 

 

「……なんだと? 何を馬鹿な、まだ消耗一つして……いや、合理的な理由を述べろ」

 

 これを合理と取れるかはわからないけれど、もちろん答案は提出させてもらうよ。

 

 まず僕らはこの世界樹を救う為、跳梁跋扈し先遣隊に襲いかかったワーム退治へと訪れていて、今はその前段階として下見に来ている。

 これは前提として間違いはないでしょ。

 で、さんざ歩き回って今ようやく一匹目のワームを見つけて、その逃げ足に驚きつつもなんとか捕縛、幾度かの試行の末に知名君が対処法を発見した。

 じゃあ次は、話に聞いてたどこからともなく湧き出るようなワームの群れを早く探し出さないと……と、そう思うのもなるほど自然な話だ。

 

 でも、まずもってワームがあれだけ長時間見つからなかったのは、自然な事なのかな?

 一時間以上歩き回ってようやくワームを見つけたのが、よりにもよって今までで一番グネグネと曲がりくねった最悪の道なのもたまたま?

 まるで引きつけるかのように僕らの視界の端ギリギリをキープして逃げ回ったのは、はたして彼らの持つ自然な習性か?

 

「……何が言いたい」

 

 この大自然の神秘たる世界樹の中で起こっている事が、そもそも自然か不自然かの話さ。

 

「それを調べに、我々はここに来ているのだろうが。わからない内からおめおめと帰っていては、何時まで経ってもこの依頼は終わらない」

 

 そうだね。

 ただ尋常ならざる事態にみまわれた場合は、一度引いて準備を整え再突入するのも悪くない話でしょ?

 

 確かに僕らはこの場所を調べに来たのだし、ワームとの戦いを必要としている。

 けれど、それは絶対に今必ずやらなければならない事ではない。

 僕らは異変を解決しなきゃならないのであって、今日の工程を全て熟さなければならないワケじゃあないハズだよ。

 今回は何日も泊まりでアタックできる程の荷物を抱えてないし、エルフさん達による外部からの補給だって用意は未だできていないしさ。

 

「屁理屈だ、それも臆病者のな。……お前は何を恐れているんだ? 戦う力が無いからと、みなの足を引っ張るつもりか?」

「……うーん、いや、これは僕が良くなかったな」

 

 突然始まった僕のワガママと知名君の正論のディベートを、他のみんなはただ静かに見守ってくれている。

 本来こんな風に出しゃばって自分の意見を押し通すタイプじゃないから、結構こういうのって不慣れなんだけどさ。

 それでも、みんなの命がかかっている冒険において、空気を読んで黙ってるなんてできるハズが無かった。

 僕はここで絶対に折れるつもりは無い。

 みんなの為にも、知名君の為にも、僕の為にも。

 

 目的に魅入られてしまえば、足元に空いた深い穴を見落としてしまう。

 この道行きは決して覚悟を決めた片道切符の突貫ではなく、来たる本番に向けたお試しのクローズドベータテストである事をゆめゆめ忘れてはならないのだ。

 

 

「ふむ、間違いを認めたか? であれば、このまま探索は続行するが」

「ううん、そうじゃなくて。自分の考えを正直に話さないで相手に納得してもらおうなんて、ムシが良すぎたなって。可能性の段階でも、キチンと話すべきだった」

 

 確証が無いから持って回った言い回しをしてたけど、正直に言うね。

 僕は今の状況、罠だと思ってる。

 

「……続けろ」

 

 もちろん目の前で黒焦げになってるワームに罠をしかける脳があるとは思わないけれど、対人戦において戦術を以って優位に立とうとする存在が、今回の事件の関係者の中に一つ心当たりがあるからだよ。

 

 知名君たちにも調査前に共有したけれど、帝国に所属する行方の知れないハーフエルフたちの中には、ボーレタラスって名うての傭兵が居たハズだ。

 『雪兎』の二つ名を冠する、人間との戦闘に特化した戦争屋さんが。

 

 簡単な資料だったから、書かれてたのはハーフだけどエルフらしく弓を使うって事とか参加した紛争名くらいで、彼が取った兵法までは記載されてなかったけどさ。

 雪兎なんて異名を取る理由ってのは、そんなに多くはないんじゃない?

 

 真っ白な肌に白い服装と長い耳がまるで雪兎みたいだ、とかね。

 それこそ雪に紛れるような、真っ白な装備だ。

 

 知っての通り帝国は南方に位置するケルセデクとは違い、比較的寒さの厳しい国だよね。

 だからこそ年によっては雪のちらつく秋ではなく、雪解けを待った春に祭りを行うくらいだ。

 交通の要衝となっているボゥギフトにだって、それなりの積雪が見込まれている。

 そんな国を拠点とする、真っ白な装備を着込んだ弓使いの傭兵。

 遠距離攻撃手段を持った人物が雪に溶け込んでいたら……それは狙撃を狙っての事だと、想像に容易い。

 

 それらの情報から類推するに……『雪兎』ってのは、潜伏型のスナイパーなんじゃないか?

 

 

 もしも僕の予想が当たっていれば、この先は開けた空間になっているハズだよ。

 逃げるワームを追いかけて飛び込んで来た獲物を、一人残さず狩る為の殺し間に。

 

 

 そしてもちろん、彼が一人きりで待っているという保証はない。

 むしろ名の売れてる傭兵ってのは、時に傭兵部隊を任される事も多いそうだし、陣頭指揮もお手の物じゃないかな。

 ルナリアみたいに明確に名を挙げられる程の有名人じゃなくても、ハーフエルフで弓が達者な人材なんていくらでも居るだろう。

 それにあの資料に書かれていたのは帝国に所属していて失踪したハーフエルフだけ。

 別の国から更なる有名人が堂々集結している可能性はおおいにある。

 飛んでくる矢の数が僕ら全員の頭数よりも多くても、少しも不思議じゃあない。

 

 

 逃げ場が確保された上で射線も通ってない今この場所が、おそらくは彼らの計略から逃れられる最終地点だ。

 情報を持ち帰られず確実に仕留めたい相手からすれば、一目散に駆け出されたら取り逃しかねない地点へ、向こうからアタックをかけてくることはないだろう。

 今はまだ、彼らに気づいたという事を、彼らに気づかれていない。

 引き返すなら、今この時がきっと最善だよ。

 

 ここは一旦引いて、生粋の狩人であるエルフさん達に矢での狙撃に対する対策をご教授頂き、本番の攻略に備えるのが得策だと思う。

 

 

 

 

 ……ってワケなんだけど、どうかな?

 

 僕は眉間に皺を寄せた知名君へ向けて、敵の思惑を看破しそれの対策も講じていると言ってのけた。

 白々しくも飄々と、さもすべてが真実かのように。

 

 

 辻褄はもちろん合っているが、正直なところ牽強付会なこじつけだと言われれば返す言葉を持たない、無理筋な論理である事は自分でも理解していた。

 ただ僕の中の"悪意"が警報を鳴らしたように、確率としては捨てきれない程度に現実味がある話ではあるのも事実だ。

 こうなったらもはやリスクを取るかリターンを取るかの話でしかなく、前進にも撤退にもそれ相応の危険と成果が考えられる。

 

 しかし臆病な僕は、壊滅的な罠が待っているかも知れない場所に、みんなを飛び込ませる勇気を持ち合わせていなかった。

 危険溢れる異世界で、笑っちゃうような骨なしチキン野郎だぜ。

 魔王にしちゃ食いやすくてしかたねぇだろうな。

 もしかしてだからみんなからも気軽に食べられているのか……?

 

 

 だからこそ僕は、そこかしこに穴の開いたロジックでも、至極堂々と彼へ解説する。

 他者を曖昧な理論で説得する時はあえて自信満々に、確実な根拠の元発案されたのだと錯覚させるのが肝要なのだ。

 良くない成功体験から得た、明日使えるけどカルマが貯まるんで来世に悪影響を及ぼすライフハックです。

 まぁどうせヒモなんかしてるんだから、その程度誤差だよ誤差。

 来世ダンゴムシかワラジムシかくらいの違いは甘んじて受け入れよう。ちなみに僕としてはダンゴムシなら全然良いんだけどね、かわいいじゃん。

 

 

 しかしそんな虚言と虚勢に塗れた僕を見る知名君の瞳は、まるで敵を見るが如き剣呑な光を放っていた。

 

「……全て貴様の憶測でしかない。確たる証拠もない、こうだったらどうしようと怯える理由を積み上げた愚者のジェンガだ」

 

 おっと、鋭い観察ですね! ハルシネーションがバレちゃったよ。

 どうやらちなくんには さぎタイプのわざはこうかが ないみたいだ……。

 流石賢い人は詐欺に強い。

 いや詐欺の自覚があるのはマズいな、せめて未必の故意でいたいぜ。

 なんせ僕の天職は詐欺師じゃあなくヒモなんだ。

 民事か刑事かではだいぶ話が変わってくるからねぇ。

 

 法に触れていない自信だけはまったく無い僕は、せめて執行猶予が付きますようにと願いながら、彼の説得を続ける為に再び口を開くのだった。

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