【書籍化進行中】異世界で職業:ヒモとしてみんなにバフを撒いてたら完全に逃げられなくなっていた話   作:スーパー巨大特濃葛根湯

108 / 143
次の投稿は一週間後の予定。

感想、ここすき、お気に入り、全部とても励みになります。
ぜひどんどこお願いいたします。
特にここすきと感想は何度も見返して、みんながどんな話を求めてるかの参考にもしています。


【102】 真なるエルフの不在証明

 あの後、先生にぶん殴られて気絶した『雪兎』の処遇をどうするかみんなで話し合った結果。

 とりあえずエルフさんたちから隠せる場所に軟禁しようという話になった。

 なった、で済ませていい話じゃない気もするが、知名君も含めてみんなが一様にエルフへの引き渡しに難色を示したのは確かだ。

 

 ……なんか軟禁とか言うとついに来るとこまで来ちゃった感じあんね。異世界来たからってそんな事まで経験させて貰わなくてもええんですけど。

 まさかされる前にする側に回るとは、奇異な巡りあわせもあったものだ。

 いやなんで軟禁される前提でいるんだよ僕は。とっくに正気の沙汰じゃなかった。

 ヒモはまだ捕まんないからいいけど、拉致監禁までいくと神様と同じ土俵に立っちまうからなぁ。その表現だと名誉な事に聞こえちまうぞ、バグか?

 

 

 それはともかく、なんせ彼は今回の件に深く関わっている……っつーかもう完全に実行犯の一人であり、様々な事情を知っているのは間違いないのだ。

 そんな人をこのままエルフさん達に引き渡した日にゃ、僕らが知るべきじゃない長命種の叡智を結集したとんでもねぇ拷問にかけられる試算がハチャメチャに高い。

 禁じられた呪文とかも多分マジで容赦なく使うぞあの人たち。

 それだけの事にこの人は加担しているし、ハーフの地位の低さを差し引いても正直こんな世界じゃそうされて当然な気はしないでもないが……それを僕らが肯定的に捉えられるかは話が別だ。

 

 僕らがこの人の身の安全についてそこまで考える必要は無いっちゃ無いが、しかしほば無傷(顎部を強打し昏倒しているのを傷に含めなくて良いのかは議論が別れそうだが)のまま捕縛した捕虜を、明らかに戦時国際法の概念が一切無い人々に引き渡すのは躊躇われるんだわ。

 いくら気の良い叔父さんたち相手でもねぇ。

 むしろ親戚だからこそ知りたくないこと、知られたくないことはあらぁな。

 例えば学校の友達との会話とかね。友達が居なかった奴が言うとこんなに空虚なことねーや。ド鬱。

 つーか叔父さんが手にかけると分かった上で引き渡すとか、それこそ未必の故意じゃん。

 犯罪者にゃなりたくないよ〜(なお拉致監禁はする模様)。

 

 

 何もこれは進んだ人権意識からなる綺麗事を抜かしたいワケじゃあなく、単に全員のメンタルが傷つくのを恐れての話である。

 

 今のとこ幸いにも、この異世界に来てから誰も心に取り返しのつかない傷を負っていない。

 ……まぁ、誰にも知られぬ様に胸に秘めた物までは、僕なんかじゃ気付けないかもだけど、表面上は問題が無い状態だ。

 そんな中で、例えそれが世界樹を救う一助になるとしても一つの命を間接的に消してしまえば……たぶん僕らはこれから、今までどおりの旅を続けられなくなる。

 甘っちょろいだろ? あたりめぇだよ、数ヶ月前まで現代日本の高校生なんだから。

 帰ってからの事を思えば、そんなとこシビアになんかならない方が良いに決まってる。

 

 無意識の間にならともかく、明確に誰かの命を奪うという行為に、僕らは恐らく耐えられない。

 

 そらギギルガム領で捕まえた野盗なんかは今頃叫喚地獄あたりで刑期を全うしてるだろうが、しかし彼らはさんざっぱら強盗だの殺人だのを犯しまくった極悪犯罪者だ。

 それらを捕縛して引き渡すのはまぁ、実際僕らが手にかけたというよりも司法が裁いたって認識の方がしっくりくる。

 それに僕らがあの場に介在せずとも、遠からず商会から尻尾切りでもされて捕まり、刑場の露と消えただろう。

 

 その点、彼はどうだ?

 確かに民族のシンボルマークを穢し、世界そのものの循環を乱そうとしたし、なんかまぁほっとけばエルフさんたちに殺戮の限りを尽くしたのかも知れない。

 けれど、今僕らの中で死に値する極悪人には……正直なとこ、なってなかった。

 死が身近にあればあるほど、命はその重みを虚空へと希釈させる。

 その点、現代日本人は世界一平和ボケしてっからさぁ、そんくらいじゃ死んでもいっかとはなんねぇんだよね。

 

 

 だからえっと、まぁ、なんつーの?

 この調査において僕らは「誰も捕まえてない」って事で。

 

 

 元来日本人は郷に入っては郷に従えっつータイプだけど、僕らの胸三寸で内々に決めてしまえるなら都合良く処理してバレないように素知らぬ顔を決め込むのも、またお仕事する上で必要な技能だろう。

 後々露呈したら怒られるのはわかりつつも、勝手な判断で処理を端折ったりするのはバイトあるあるじゃんね?

 そうでもない場合は僕の社会性が終わってるだけです。終わってなきゃヒモなんかやってない。

 

 めちゃめちゃな事をやってる自覚は各々持ってるだろうけれど、しかしここらへんのバランスを見失っちゃダメだ。

 異世界での生活に慣れる事と、自分たちが培ってきた精神の根底にある価値観を捻じ曲げる事は、全く別個の話なのだから。

 僕らは神により派遣された異世界人であり、けして神の尖兵ではない。

 自分を殺すと碌な事になんねぇぜ。欲望はもっともエネルギー効率の良い燃料だ。

 動力源の無い物体は、慣性の法則を超えて走れない。

 望むことをやる為に、僕らは祝福されて産まれてきたんだ。

 

 そういう意味で言うと、僕にとって何より優先されるのはパーティのみんななワケよ。

 それだけはずっと変わんねぇ。

 世界樹が例え枯れてしまおうと、どこかの街が滅んでしまおうと、秤の傾きが入れ替わるこたぁないだろうな。

 だからこそウチのクランで、殺しは自分の命が危うくない限り御法度の方向に持っていく。

 ……まぁそうしなくても誰も進んでやろうとはしないだろうけど、それでも風潮や気風ってのは醸成しておいて無駄にならない。

 “当たり前“が人を規定する。常識とは僕らの共通ルールの別名であり、また各々の好悪や価値観の表れでもある。そういう世界にいると、気が緩んで手が滑る日も来ないとは言い切れない。

 殺す事そのものの禁忌性だの遵法精神だのに拘泥しているワケじゃなく、他者を殺めてしまえば心優しいパーティメンバーたちが明らかに戦力として精彩を欠く事になるのは想像に容易い。

 そして精神的動揺を見せれば、僕らが逆に殺されてしまうだろう。

 

 つまり僕らはこの異世界で、死なない為に相手を殺さないでいなくてはならない。

 とてもワガママで強欲な話だが、生きるって事は誰かを押しのけるという事でもある。

 殺し合いをしたい奴らを押し退けて、僕らが生き残ってやろうじゃねぇか。

 へへへ、腕が鳴るね。結局メタギアだってレアな称号取るにゃたいてい不殺が条件だからな。

 全てが終わった時に人生のリザルト画面を見るのが楽しみだぜ。スコアがマイナス表記になってなきゃいいいが。

 

 

 

 

 ……さて、こんくらい言い訳しとけばいいか?

 自己の正当化をしようとすると、いついかなる時でも勝手に本腰へシフトチェンジしちゃうんで口が回ること回ること。

 あんまベルフィエッテさんを枝の上で待たしてても悪いし、さっさとやる事やっちゃおうか。

 

 言うて他に手が無いワケじゃあなく、例えば先生がそう言えば鶴の一声でボーレタラスさんを国賓の如く手厚く歓待してもらう事も可能だろう。

 そこまで極端な話じゃなくとも、『差別やめてね』と『彼に拷問しないでね』と言えば、きっとケルセデクは僕ら現代日本人の倫理観に則した素晴らしい人道的国家へと早変わりするハズだ。

 しかし、そうやって国の方針を大上段から好き勝手弄り回して、理解も納得もすっ飛ばして国家を自分の物にして……それで「じゃあお仕事は終わったので、お疲れ様でした」は通らんでしょ。

 説諭や教導による回心ならばともかく、命令による統治は"王"によるものだ。

 王城さんなら案外楽しんで上手くやるかもだが、先生は文字通り以外の投げっぱなしジャーマンは好まない。

 

 てかそもそもそうやってボーレタラスを穏便に里へと運び込めても、彼が怨敵に囲まれた上で尋問程度で情報を吐くとは到底思えないじゃんね。

 むしろコイツにだけは死んだってゲロるまいと、意固地になって黙秘を押し通すのが目に見えてる。

 もし事前に旅人の身内が熱中症で倒れていたら、太陽へのメタ構築は端から万全なものとなっていた事は想像に難くない。

 敵対も融和も、人の恨みの前では驚くほどに無力だ。憎しみで人は殺せないが、憎しみを持てばどんな手段でも人を殺せてしまう。

 罠を張って獲物を待ち構える狡猾な傭兵が、自供という形で次なる罠を用意しないと思う程楽観的に生きれたら、僕はもっと根明な陽キャで通ってたろうね。

 

 

 殺したくない、情報は効き出したい、それも偽報ではない真実を。

 禁止カードにされそうな程に強欲な僕は、独力ではもちろんそんな夢物語を成立させる力を持たない。

 

 けれど幸運な事に、出会う人間にだけは分不相応なまでに恵まれていた。

 

 

 僕はみんなへボーレタラスさんを安全に置いとけて、あとついでに情報も全部聞き出せるだろう一石二鳥のお得なプランを提案。

 サイレントマジョリティを味方につけている(議論を全部すっ飛ばして僕に賛成をするマジで心配なパーティメンバーを指す。怖くて目ぇ離せねぇよ(なお向こうも怖くて僕から目が離せないらしい、一緒ですね))事もあって、無事稟議が通り決行の手はずと相成った為、頭を掻きつつペコペコして悪王寺先輩と目黒さんへ片手を差し出すのであった。

 計画の途中でつどつど僕の尊厳を地に落とす必要があんのなんなんだよ。

 

「まっ、た、く……青海く、んは……しょう、が……ありません、ね……?」

「ホントにね。欲しがりな弟旦那様助手クンを持つと、姉奥さん名探偵は苦労のし通しだ」

 言ってみたかったセリフを言えてウキウキな目黒さんと、もはや意味不明な肩書きの過剰装飾でイメージプレイとしてもまとまりに欠け始めた悪王寺先輩。

 それらの言葉とは裏腹にまるで跳ねるような指使いで、二人は僕の手のひらに銀貨を10枚ずつ置いた。

 無論キングダムには背を向けてコソコソとやってるぞ。背徳感がいつもより増してる分、バフの強度も強い傾向にある。どんどん終わった性能を発揮するの勘弁してね。

 

 そろそろ僕が歩くとジャラジャラジャラジャラうるさくなってきた頃合いだぞ。

 冒険が長引くと毎回僕の足音がうるさくなんの、マジでバステなんだよな。タラちゃんより足音やかましい人間は史上初とされています。

 

 更に重ねがけされた僕と彼女らの関係値は、たやすくそれぞれの心に同調と共鳴を引き起こす。

 何ができるか、何ができそうにないか、何が嫌か、何をして欲しいか、あとついでに好きな音楽とかも。ケルト民謡!? 良いっすねぇ〜!

 つながりあった僕らは、互いの何もかもが手に取るようにわかった。

 ま、見て欲しくなさそうなトコは見ないけどね。親しき仲にも礼儀ありさ。

 

 あー、なるほどね。目黒さんも流石に()()()まで影を渡ることはできないか。

 え? 金貨を貢がせてくれればイケる?

 流石にボス戦でもないのに300万貰っちゃったらインフレがこえーや。

 いざという時に土地の権利書とかでないとバフかからなくなったらマズいし、それはやめとこう。

 

 悪王寺先輩の緞帳は効きそうですか。それならまぁ隠して持って帰れるかな。

 魔車引っ張るデッケー犬を神様から隠して日本へ持ち帰る予行演習になってちょうどいい。

 まずはハーフエルフで試しましょう。なに、バレそうなら僕の服の中に突っ込んで隠します。見ないうちに一回り大きくなったねぇって体で誤魔化そう。

 うん、天幕で包めば更に目立ちにくいね。絵面は最悪で完全に誘拐犯のソレになりましたが。

 

 あ、王城さん背負ってくれるの? ありがとうね。

 細身とはいえ180以上あるボーレタラスさんを僕が背負うと、むしろ目立ってしゃーないからね。

 

 

 さ、お待たせしました。

 それじゃあ一旦逃げ帰って、エルフさん達にご報告へと上がりましょうか。

 

 

 

 

 

 

「なんと、ハーフエルフどもがあちら側についておるとは……!」

 

 事前調査から帰宅し、()()をそれぞれ所定の場所へ降ろした僕らを出迎えてくれたアラノスさんへ、今回の件についてハーフエルフを鹵獲したという事だけ抜いて報告する。

 寄せられた眉根に刻まれた皺は深く、その不快感の大きさを表している。

 

 ……えぇ、そうですね。少々気になる発言はありましたが、けれど断固たる意志で反旗を翻そうとしていました。

 ハーフエルフがそのように考える事は、許せませんか?

 

「無論、到底許せる話ではない! 聖森より逃奔した混じり物どもが、よりにもよって神樹を害そうなど……! 忘恩の輩にかける慈悲など無かろう!」

 

 机に拳を叩きつけて、ヴェルナードさんが吼える。

 腹の底からの激情が渦巻いて、彼の身体がまるで膨れがあったかのようにすら感じられた。

 

「忘恩……と、言いますと? ハーフエルフたちには、あなた方よりかけられた恩が存在するという事ですかぁ?」

 

 山算金が軽く目を見開いて、小さく開けた口に片手を添えるわざとらしいジェスチャーをしながら、意外そうに尋ねる。

 彼女の瞳には、エルフの傲慢さも尊大な態度も全てが愚かに映っている事だろう。

 契約相手の前で怒りや苛立ちなど、マイナスの感情を強く表に出すということそのものを、彼女は徹底的に馬鹿にしている。

 生き馬の目を抜く世界で生きた彼女にしてみれば、商人の前で付け入る隙を晒すなど仕事相手として出来損ないもいいところで。

 彼女がもしその気になれば、手玉に取りやすいようにと持ち手までついたこの種族は、冬を迎える前に国庫が底をつく最悪の結末を迎えかねない。

 

「当然だ! もはや純粋な精霊を感じ取る事もできなくなった彼奴らを、この里に置いてやっていただけでも特別な待遇であろう! そも他種族との間にハーフを儲けるなど……! 我らは風精の女王により、形の無い風を捏ねて作り上げられた形代である! そんな我らの本質その物を、まるで忘れ去ってしまったかのような所業だぞ!」

 

 

 あぁ……なるほどね、そういうことなのか。

 

 未だ腹の虫が収まらないとでも言いたげに、語気を荒げて手ひどくハーフエルフを非難する大好きな叔父さんの姿が、まるでカメラが遠景へと引く様にスゥと離れて見える。

 失望ではない、軽蔑ではない、幻滅ではない、悲哀では……あるのかも知れない。

 

 観察から導き出した推察の、そのあまりの報われなさに、僕は瞑目する。

 

 今までの彼らの態度の理由が腹にストンと落ちると同時に、僕はどうしようもなく泣きそうになった。

 誰かを憐れめるほどに出来た人間でないクセに、深い憐憫の情が僕の胸を満たす。

 

 僕は誰かを嫌いになれない。

 もしも僕が嫌うとすれば、それは自分勝手な感情で他者に同情する、自惚れた自分くらいのもので。

 それはどんな相手にだって、愛されるべきところや、斟酌されて然るべき事情があるからだ。

 そして彼らエルフは、そのどちらもを有していた。

 

 

 たいていの差別には理由がある。

 もちろんそれは虐められる側にも虐められる理由があるという嫌悪すべき言い回しと同様に、()()()()()()()にはならない。

 悪いところのない人間など存在しないのに、誰かの欠点をあげつらって揶揄できる道理がどこにある?

 少なくとも他人よりパラメーターの五角形の面積がちいせくて、64マリオのクッパ戦終盤の足場くらい歪な僕は、他人の悪口なんて言った日にゃ全部ブーメランとして刺さるのが目に見えてるようなもんだかんな。

 

 けれど、今の発言から推察できるエルフとハーフエルフの関係性は、なんというか……そういう理屈を超えた論理が存在しているらしい。

 

 

 僕がこれまで見てきた限り、徹頭徹尾エルフという種族は"風"に憧れていた。

 焦がれて、熱望して、羨んで、そして崇め跪いている。

 それは、ソレこそが一番初めの自分たちだったから。

 規定された己そのものであったからなのだ。

 

 しかし風より出でて地に落ちたその身は、代を重ねるごとに土に塗れ、いつしか苔生し蔦が絡み、二度と飛ぶことなど叶わなくなった。

 始祖のエルヴンたちが地上で生活を始め、交わって代を重ねる内に、その精神と身体に土とその眷属たる植物が混じってゆく。

 己を占める風が減り、土や草気が増してゆく事は種族そのものの自己否定となってしまう。

 

 彼らの存在理由(レーゾンデートル)は、産まれたその瞬間から摩耗し続けてきた。

 

 突然現れた先生を風の方と称して指導者に祀り上げようとする理由と、それと全く同じ熱量を以ってもはや"風"を感じなくなった血の薄い同胞を侮蔑する理由は……その根を同じくしている。

 極まった純血主義者であり、そして救われない不可逆の懐古主義者。

 時が戻らないのと同様に、彼らの身体が精霊と同一の透明性を保有する事は無い。

 なぜなら、彼らはもう血肉を持った生き物なのだから。

 

 愛を育み子を成して次代を育てる中で、元ある形を無くしていく事を、人は進歩と呼ぶハズなのに。

 ただそれだけのことが、目の前の種族にとっては解く事のできない呪いとなってしまった。

 

 自らをも否定して、自らよりも薄れた者をさらに否定する。

 行き過ぎた自他への厳しさと、己の中のか細い血筋を誇るその自家撞着。

 

 エルフとはもっとも精霊に愛された種族であると僕は考えていたけれど、しかし彼らからしてみればそれはまるで侮蔑にも等しい思い違いであった事だろう。

 他の種族なんかより精霊に近しくとも、自分たちはとんだ『紛い物』なのだから。

 

 

 ……もし本当に風精の女王なんて荘厳で偉大な白眉の存在が実在したのならば、彼女は我が子たちに一言かでも言っておくべきだったのだ。

 「あなたたちがどんな風に成長しても、それは素晴らしいことです」と。

 

 とはいえ、それは酷な話かもな。

 完璧な存在がこの世にありはしないのなら、風の精霊を統べる彼女もまた、例外ではないのだろうから。

 

 

 どうしようもなく、救いがない話だった。

 

 

 

「彼は、こう言っていました。『混じり者が、応報に舞い戻った。死出の支度をしておけ』……と。あなた方の間にどのような軋轢が存在するのかは、今は置いておきましょう。今の私たちになにより必要なのは、彼らと敵対した場合の対策だけです」

「おぉ、おぉ、左様ですな……ハーフとはいえエルフの血を引いておるのです、ある程度くらいは魔法や弓の腕もあるでしょう。急ぎ里の者に用意させます故、どうぞ風の方はしばしの間館にてお寛ぎ頂ければ……」

 

 無表情の先生が告げた言葉に、アラノスさんは先だってと変わらず長とは思えない腰の低さでへりくだる。

 そんな彼を見つめる彼女の眼は、どこか諦めたような、今まで見せた事のない色をしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。